教室から社会を変える「ソーシャルチェンジ」〜自ら社会課題を見つけて、解決に取り組む~(「未来の先生展」教育と探求社)

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目次

1  はじめに

本記事では、教育と探求社が2017年度から始めた、社会の課題解決に焦点を置いたプログラム「ソーシャルチェンジ」を紹介します。

前半は、教育と探求社の大野さんにソーシャルチェンジについてインタビュー。
 後半は、2017年8月26、27日に開催された「未来の先生展」にて行われたソーシャルチェンジ体験会のレポートです。

*教育と探求社は、現実社会を題材に生きる力を学ぶ学校用学習教材「クエストエデュケーションプログラム」の提供をはじめ、教育関連企画のご提案、企業を対象とした研修事業を行っています。
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2  インタビュー

「ソーシャルチェンジ」とはどういったものでしょうか?

当事者意識を持つ

「ソーシャルチェンジ」は、社会と自分がどのように繋がっているのかということを主体的に考えて欲しいという思いをもってつくられました。プログラムを体験しながら、社会の課題を自分ごととして認識していくというのがこのプログラムの特徴です。

学校の授業で「みなさんはこの社会の一員です」と言われても、なかなか実感がわかないと思いますが、このプログラムを体験していく中で、児童・生徒たちが「社会と自分ってこんなところで繋がっているんだ」と実感できるようになっています。例えば、身近な「ごみを拾う」という行為が、プログラムを進めていくことで、どのように社会と繋がっていくのか実感できるようになっています。

そして、「自分自身が社会に参加している」という当事者意識を育むために、このプログラムでは下の3つのポイントを大事にしています。

  • 心が動く授業
  • 小さな成功体験を繰り返す
  • 社会と連動した学び

「ほんとうにやりたい卒業式を考えよう!」など、思わず話し合いたくなるような題材を用意していたり、楽しみながらやり方を理解できるアニメーションがあったり、生徒の心が自然と動き出すような工夫がしてあります。そして、小さなプレゼンをやり、それをお互いにフィードバックし合いながら少しずつ自信を持って前に進んでいきます。等身大の小さな思いからはじめた取り組みが、やがて社会の大きな構造の中に位置づけられていることに気がつきます。

そして、このプログラムは、一部の優秀な生徒たちだけが出来るのではなく、偏差値や校種に関係なく、どんな子であっても取り組めてきちんと学習成果がでるような設定になっています。実際に四国の小学生に今年すでに実施しました。

「ソーシャルチェンジ」の進め方を教えてください。

プログラム内容

「ソーシャルチェンジ」は全12STEPに分かれていて、大きく3段階に分かれています。
 1段階目はSTEP1~3で、自分たちの身近な学校を題材にして新しい企画を考えます。ブレストやプレゼンテーションを「まずはやってみる」ことで、自然とアクティブ・ラーニングを体験します

次にSTEP4~6です。ここは「自分の身近なところに目を向けて社会課題について考えてみる」段階です。社会課題といえば、新聞記事やニュースで、環境問題や高齢化問題、貧困問題などを見かけます。しかし、これらの話題が「自分とどう関係しているのか」と言われると分からないことが多く、困ってしまうかもしれません。

ですから「ソーシャルチェンジ」では、STEP4で困っている人を探すところから始めます。探してみると、「道端に寝てるおっちゃん」や「友だちが出来ない人」「思わず万引きをしてしまう人」など、様々な困っている人が出てきます。そして、その困っている人をどうやって助けるか、アイデアを出し合っていきます。これらを深く追求していくと、自分の生活と先ほどの新聞記事に出てくるような社会課題が繋がっていることが分かってくるのです。

STEP7では、「チェンジ・メーカー」という実際に社会課題を解決するために、起業したり、地域で活動したりしている人たちの事例から、社会を変えるポイントを学びます

そして、最後の3段階目では、ここまでの学びを活かして、企画をブラッシュアップして、最後にポスターセッションのかたちで自分たちの考えを人に伝えます

このような学習を通して、主体的に社会と向き合っていくのが「ソーシャルチェンジ」です。

プログラムを進めていくことが難しいと感じる先生も多くいらっしゃると思いますが、いかがでしょうか?

ファシリテーターとしての先生

このプログラムにおける先生は、何かを教えるティーチャーではなく、生徒の学びを伴走者として支えるファシリテーターという位置づけです。そうすると、一人ひとりの生徒の可能性がよくみえるようになっていきます

ただし、普段の授業と異なるやり方に難しさを感じる先生もいらっしゃいます。そんな時は、先生方に研修をしたり、教育と探求社の学校コーディネーターが、授業の進行をサポートしたりします。プログラムを円滑に進めていくためのアドバイスはもちろんのこと、先生たちがもたらしたい学習効果に沿った形で、バックアップしていくということも、コーディネーターの重要な仕事です。

既存の「企業探究コース・進路探究コース」と新しい「ソーシャルチェンジ」の違いはどういったところにありますか?

まずは、間口が広いということですね。企業コース・進路コースの両コースは24ステップですが、「ソーシャルチェンジ」は12ステップと短く、しかもパソコンを一切使わずにやることもできます。どんな学校でもユニバーサルに取り組めることを目標にしています。

そして、このプログラムの開発の思想は「まずやってみる」です。チームでのアイディア出しから企画づくり、発表までのステップを3回繰り返し、小さな成功体験を積み重ねていくように全体が設計されています。また、この教材自体が、教育現場での実施状況を見ながら現場の声を聞き、迅速に改良させていくという姿勢を持っていますので、授業で使用するワークブックは今年の4月にリリースしてから、もうすでに第3版です。

プログラムでは、どういったことを期待していますか?

児童・生徒が「自分らしく」生きることです
児童・生徒は、プログラムの中で、自分の考えを伝え合ったり、異なる意見をまとめたりしていくプロセスを通して、自分やクラスメイトの好きなことや、得意なことなどお互いを知ることができます

そして、お互いの個性を認め合うことで、自分自身も認めることができるようになります。そのような自尊感情こそが民主主義の基板をつくるのだと私たちは考えています。自分のコップが満ちることで、はじめて他の人のコップに水を注ぐことが出来ます。社会課題を本当に解決するには、そのような基盤が不可欠だと思っています。

3 ソーシャルチェンジ体験会レポート(未来の先生展)

本章は、2017年8月26、27日に開催された「未来の先生展」にて行われたソーシャルチェンジ体験会のレポートです。体験会では、ソーシャルチェンジの第1段階であるSTEP1~3が行われ、参加者同士の活気ある話し合いや個性的なアイデアが生まれました。

1.導入

「社会を変える学びとはなんですか?」
プログラム体験の前に上記のテーマについて、グループで数分話し合われました。参加者からは次のような意見が出ました。
「社会課題に興味を持つ」
「当事者意識を持つ」
「社会に対して何かしらの行動を起こす」

参加者の発言を受け、ソーシャルチェンジで大切にしている「当事者意識」について説明がありました。

『私たち(教育と探求社)は「当事者意識が芽生えること」が社会と関わるはじめの一歩だと考え、ソーシャルチェンジというプログラムでそこに働きかけています。当事者意識とは「自分の人生に対して自分主導で生きている」「自分自身が社会に参加している」ということです。』

2.ソーシャルチェンジの説明

(前半のインタビュー記事を参照)

3.体験ワーク

3−1.自己紹介3分

(終始和やかな雰囲気で行われる)

3−2.体験ワークの課題発表

「体育館を使って一億円を稼ぐ方法」を考えてください

3−3.話し合う(37分)

  • ひとりブレスト(3分)

(ブレストとは集団で大量のアイデアを出し合うことにより、1人では思いつかなかった斬新なアイデアを、他人の思考と連鎖反応を起こすことにより生み出すこと)
※まずはひとりで大量のアイデアを発散してもらい、その後グループでそのアイデアを共有しながら、さらにアイディアを増やしてもらいました。

  • 付箋の共有、分類(12分)
  • 企画にまとめる(12分)

ひとりブレストの後の話し合いが体験会の最も盛り上がった時間です。参加者からは、「体育館を運動する場として使うのか、他の使い方をするのか」といった用途の視点や「単発イベントで終わらせるのではなく、継続させるのはどうしたらよいか」といった将来性の視点など、様々な見方から体育館について話し合われました。

また、「単に1億円を稼ぐだけではなく、社会にとってどのようなメリットがあるのか」「参加者だけでなく、企画者・見ている人も面白いと思えるものにしたい」といった、教育的な発想が多かったのは参加者の特徴をよく表しているように感じました。

(グループのアイデア案)
「小学校の椅子を並べて、結婚式場にする」
「テラスハウスみたいに生活できる場所にする」
「跳び箱などを使って、SASUKEのような大会を開催して、テレビに取り上げてもらう」
「昔の青春に戻ったかのように、自分が主人公で周りはみんな学生にして、恋愛のシチュエーションをデモ撮影する」

  • プレゼン準備(10分)

プレゼン準備のために、以下の3種類のプレゼンシートが配られました。このシートに沿って考えていくことで、企画がより深まります。小学生でも取り組めるための工夫の1つでしょう。
プレゼンシート①:決めたアイデアとその内容
プレゼンシート②:アイデアの問題点とその解決策
プレゼンシート③:アイデアが実現するとどんないいことが起こるか。笑顔になる人は誰か。

3−4・プレゼン発表

(参加者のプレゼン)
「最初にこの企画のゴールから話したいと思います。僕らが笑顔にしたいと考えているのは田舎の高齢者の方達です。そのために跳び箱を使用します。なぜ跳び箱かというと体育館といえば運動が連想でき、いろんな運動の種目があるが、みんなが知っているけど、イベントになったことがないような種目であると考えたからです。

具体的にどういうイベントかというと、跳び箱を使って、世界大会を行います。そのイベントに関連してグッズ販売をしたり、テレビ放送をしたり、跳び箱を使ったアスレチック施設として運用していきたいと考えています。ただし問題点が3つあります。

1つ目が知名度の問題です。解決策として跳び箱界のアイドル的存在になるスーパーおじいちゃんやおばあちゃんを作り、その人たちをSNSで拡散します。

2つ目がイベントを1回きりで終わらせないために、リピート客を増やすという問題です。解決策として満足度調査を行い、その都度改善し、来ていただいた方に昔ながらの暑中見舞いを送り、また足を運んでもらおうと考えています。

3つ目は安全面の問題です。解決策として、跳び箱の周りを柔らかいマットで囲み、安全を確保します。

こうした形でイベントに関わる方の雇用を生んだり、大会に県外や地域外の人をお客さんとして呼んだり、高齢者の方にこの大会に参加してもらうことで高齢者の方を笑顔にして、1億円の収入が入ればいいかと考えています。」

3−5.まとめ、振り返り

(ソーシャルチェンジの体験を通して気づいたこと、感じたこと、疑問に思ったことを考える)

(参加者のまとめ、振り返り)
「今回の体験ワークの企画のテーマでは実際には1億円稼げないから、実際にする文化祭ではどのように稼ぐかを考えたほうがいいのではないか」

「1番最初のテーマ設定が重要だと思った。なぜなら身近なテーマから考えたほうが実感は湧きやすいが、あまりにも大きいテーマだと現実と乖離してしまうと思ったから」

最後に、今回のプログラム発表者の中尾さんから、「このプログラムを手段として、生徒が自分を変化・解放させていき、その姿をみて大人も変わっていく。そうして、新しい学びの学校文化をつくっていきたい。」とプログラムの展望が語られました。

4 編集後記

今回の課題であった「体育館」のような、普段なにげなく存在している建物でも、ビジネスに活かすにはどうするかという視点で見ると、参加者の方々はいろんな使い方を思いついていらっしゃったので、世の中の当たり前に存在している物でも視点を変えれば、どんな使い方でもできると思いました。

また、実際に学校でプログラムを行う際は、各ステップの間に何日か時間が空きます。その間に課題について考えることができ、気付かないうちに日常を社会的にみる力が身に付くように思いました。
(取材・編集 EDUPEDIA編集部 熊川、村嶋、大和)

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