文科系科目って学んで役に立つの?『答えのない世界を生きる』(小坂井敏晶)

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作成者:村嶋 章紀 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

EDUPEDIAのスタッフが教員の方々におすすめの書籍を紹介する企画です。
今回、紹介するのは、小坂井敏晶(2017)『答えのない世界を生きる』

「先生〜なんで日本史とか学ばなければならないんですかー?」と生徒から聞かれて、困ったことはないですか?
教科を学ぶ意義を生徒に伝えることは難しいですよね。そこで今回の本では文系科目に焦点を当てていきたいと思います。
教科の意義を聞かれて、答えることに困ったことのある教員におすすめなのが、本書です。本書は「文科系学問」を学ぶことにはどんな意義があるのかという切り口から、いかに〈答えのない世界〉を生きていくかを論じています。

2 書籍内容

皆さんは普段数多くの物事を「当たり前だ」「正しい」と思いながら生活しているのではないでしょうか。しかし、それは本当に客観的な意味で正しいのでしょうか?

そもそも世の中に「普遍的に正しいこと」なんて果たして存在するのでしょうか?

普遍的に正しいことや正しい生き方が存在していると思って生きることは、自由に考えたり、発言したり、思った通りに生きたりすることに縛りを加えてしまう可能性があります。

筆者によると、「全世界でこれが絶対正しいんだ!というような事は存在しない。なぜなら人間がこれは正しいと決めている以上、そこに正しいという保証はないからである。つまり、人間が正しいと決めたことを正しいと証明することができない以上、この世に絶対的に正しいことなんて存在しない。」と述べられています。

文科系科目の役割

正しいことが存在するという思考に陥らないために有効な物として、ここで文科系科目が登場します。

普遍的価値や正しい生き方が存在しないということを認識し、自由な思考を促してくれるのが文科系科目の役割ではないでしょうか。

文科系科目を学ぶことで、我々の認識や思考のメカニズムの歪みを学ぶことに繋がります。例えば、日本史を学ぶことで、時代ごとにパラダイム(ある時代に支配的な物の考え方・認識の枠組み)が違う事を学び、今あるパラダイムが普遍的なものではないことや、どのようにしてその枠組みができたのかを知ることができます。そうすることによって、今の認識の枠組みに気づくことができ、思考をその枠組みから自由にすることができるでしょう。このように歴史を学ぶことは我々の現在の生を束縛している制度・システム・常識・倫理に対して批判的な距離を取り、その根拠を問い直し、そこから自由になることを可能にしてくれます。

普遍的価値が存在しないからこそ、文科系科目を学ぶことで、正しいことなんて存在しないことを認識する必要があります。なぜなら、普遍的に正しいことが存在すると思っていては思考の枠が定まってしまい、自由な思考ができなくなるからです。その既存の枠を超えた自由な思考は、答えのない世界において自律して生徒が生きていく土台となるのではないでしょうか。

また苫野一徳さんの『勉強するのは何のため?—僕らの「答え」のつくり方』という本でも、苫野さんの勉強する意義に対する納得解として「自由」になるためであるとおっしゃっています。また千葉雅也さんの『勉強の哲学 来るべきバカのために』という本でも、「勉強は今いる環境(価値観、常識)から抜け出すためにする。」ともおっしゃっています。

授業の重要性

文科系科目が役に立つことを生徒に伝える上で授業が一番大切でしょう。授業では、ただ教科書を読むだけでは得られない学びを生徒にもたらしたいですね。例えば歴史を教える時、授業を受けている子の世界観や価値観や常識を揺さぶるような授業であればいいですね。また歴史を通して、教える側が考えることの楽しさ、深淵さを実感した瞬間を伝えたりすることも授業を通してでしかできないのではないでしょうか。

こういう授業をする上で大切なことは、自分の生きた言葉で語ることです。生きた言葉で授業をするには小手先の話術ではできないでしょう。生きた言葉で語るとは、例えば、自分が日本史を学んで、自分の思考がどのように変わったのかを軸に語るといったようなことです。梅田悟司さんの『言葉にできるは武器になる』という本でも、「「こうするべき」から言葉を発するのではなく、自分の内なる言葉に意識を向けることによって、自分だけが持っている視点に気づき、自分の生きた言葉を発することができるようになる」とおっしゃっていました。

文科系科目を学ぶことは、絶対的に正しいことが存在しないことを認識させてくれて、自由な思考を促してくれます。こういうことを授業を通して伝えるためには、教科書を読むだけでは得られない学びを提供する必要があり、自分の生きた言葉で語る必要があるでしょう。

これらを念頭に、改めて自分の授業を見直してみてはいかがでしょうか。

3 著者プロフィール

小坂井/敏晶
パリ第八大学心理学部准教授。1956年愛知県生まれ。アルジェリアでの日仏技術通訳を経て、1981年フランスに移住。早稲田大学中退。1994年パリ社会科学高等研究院修了、リール大学准教授の後、現職。

4 参考文献

5 編集後記

正しいことが存在して、絶対的な答えは存在するんだと思っていると、やっぱり思考が自由に出来なくなったり、思ったことを自由に発言できなくなるというのは実感としてあります。正しいことが存在していると思っていると、自分が考えることは間違っているんじゃないかとか正しそうなことを言わなければならないのではないかと考えてしまうと思います。この本を読んだことで勉強することは思考を自由にすることなんだと改めて認識することができました。
一言で言ってしまえば、この本を読めて良かったと思いました。

(文責:EDUPEDIA編集部 村嶋章紀)

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