話し合いの学習効果を高める予習と授業 ~LTDの枠組みを基に~

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作成者:Satoshi Arai (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、LTD(Learning Through Discussion)という話し合いによる学習法の枠組みを紹介し、その枠組みの効果や観点について考察するものです。話し合いによる学習の効果を高める工夫が詰まっている技法なので、様々な授業において参考になると思います。

2 LTDについて

概要

LTDは課題文を深く読み解くことを目標にする学習法です。もともとは大学教育における学習技法ですが、その要素は様々な学校段階に応用可能です。
深く読み解くとは、単に正確に読むだけでなく、読解した内容を自分の知識や生活、社会に関する内容と結び付けて読んでいくことです。その過程の中で批判的な思考力や自己学習能力の育成を目指していきます。また、生徒自身で深いところまで思考しながら予習したものを基に生徒同士で議論するので、人と共に学ぶ面白さを実感させることもできます。

LTDが生まれた背景

LTDが生まれたのは、1960年代のアメリカでした。当時、アメリカの大学教育では、学生の学びに対する意欲、希望が無いことが問題となっていました。その理由として、学習事項の暗記が中心のため受動的な学習になっていたことがあります。この問題を解決するために、認知心理学や学習心理学の理論的裏付けのもとにLTDが考案されました。

LTDにおける学習過程

LTDは予習と授業内でのグループワークを、以下の枠組みに沿って行っていきます。予習と授業において、各過程に求められることを着実にこなしていくことで、課題文の深い理解が実現できるというわけです。


予習、授業においてそれぞれどのような活動を行うのか、以下に説明していきます。
なお、上記の図に表示されている時間は授業においてのもので、予習においては時間制限はありません。

3 LTDの具体的なやり方

【予習の方法】

課題文自体の理解

1.全体像の把握
まずは一回文章を通読して、全体像を把握する。

2.言葉の理解
分からなかった、もしくは理解が曖昧だった言葉の意味をノートにまとめて理解し、説明できるようにする。授業で聞きたいポイントも明確化する。

3.主張の理解
もう一度文章を精読し、筆者の主張を把握したうえで、自分の言葉で要約する。
筆者の主張を受容し、まだ評価しないこと。文章中の記述の抜き書きはしない。

4. 話題の理解
筆者の主張を支持する話題を3つか4つ見つけ、ノートにまとめる。自分の言葉で言い換える。

課題文の深い理解

5. 知識との関連付け
筆者の主張や扱っている話題について、すでに知っていることや学んだこと、経験を思い出し、3、4の時にまとめた内容との共通点・矛盾する点・理解が深まった点・曖昧になった点をまとめる。

6. 自己との関連付け
3、4の時にまとめた内容と関連する、自分についての事柄をノートにまとめていく。自分の所属する集団、過去の経験、未来について考えたことなどをまとめる。

まとめ

7. 課題文の評価
表現、構成、概念の使用、新たな観点の導入などにおいて、課題文の主張をよりよく伝えるためには、課題文をどう改善したらいいのか、自分の言葉でノートにまとめる。

8. リハーサル
ノートの内容を見ずにノートにまとめたことを説明する、また気になったことをグループに質問を投げかける練習をする。

【授業の方法】

1. 雰囲気づくり
一緒に学ぶ意識をメンバーと共有し心身の状態を確認する。予習の状況も共有する。

課題文自体の理解

2. 言葉の理解
新たな発見があった言葉を紹介。意味がよく掴めなかった言葉はメンバーに質問する。筆者がどのような意味でその言葉を使っていたのかを確認する。

3. 主張の理解
まずは自分の言葉で簡潔に筆者の主張をメンバー全員が紹介する。そして違いを考察する。

4. 話題の理解
取り上げたい話題を選択し議論を行う。

課題文の深い理解

5. 知識との関連付け
まとめてきた関連付けをメンバーに伝えたうえで、適切さや妥当性について議論を行う。

6. 自己との関連付け
まとめてきた関連付けをメンバーに伝えたうえで、適切さや妥当性について議論を行う。

まとめ

7. 課題文の評価
より内容を正確に伝えるためにはどうすればいいか、議論し検討する。

8. 振り返り
よりよい学習グループになるために振り返りを行う。議論の中でのメンバーの良い言動と悪い言動を振り返り、次につなげる。

4 LTDによる学習効果

LTDを適切な形で導入できた教育現場からは以下のような学習効果が報告されています。

  • 確かな知識の定着、テストの成績の向上
  • 思考スキル、言語スキル、対人スキルの向上、特に話し合いの技術の向上
  • 仲間の理解のために真剣に学び交流することによる主体性、学習意欲の高まり(大学では4~5時間も予習する生徒も現れる)
  • 自分たちの力だけで学べたという生徒の達成感、有能感の獲得

5 LTDから学べるポイント

予習(もしくは復習)のやり方を細かく規定する

生徒は授業の時間以外からも学ぶことができますが、やること、やり方、やる目的が明確になっていないと自習は難しいものでしょう。もちろん学校段階やカリキュラムの組み方によって、また生徒の状況によって適切な自習の指示は異なると思いますが、予習により議論の密度を上げるというのは一つの有効な手段ではあるでしょう。

1人ひとりの活動に責任を持たせる設計を行う

話し合いを行う授業では、よく話す人が偏る、何もしない生徒がいても話し合いが進んでいく、という状況が起きがちです。LTDでは個人の活動の目的、役割が明確であり、生徒個人の綿密な予習と議論への積極的な参加が求められます。自分がしっかり準備をし思考をしないと他のグループのメンバーの迷惑がかかるという状況は、学習の意欲、精度を高めるのに非常に有効です。

前提知識が共有されている状態で議論を行う

議論する話題についての知識が十分にない状況で、議論を進めるのは非常に難しいことでしょう。質の高い議論にならず、単なる意見の出し合いになりがちです。LTDでもまず前提知識を予習や授業の前半で確認したうえで、自分の意見を発表するなどの創造的な議論に入っています。

課題文の内容を、それ以外と関連させる

課題文の内容を既存の知識と関連させる作業を生徒に行わせることは、現在扱っている知識、事項、話題の位置づけを自然に生徒に意識させることに繋がるでしょう。知識は他の知識と脳の中で結びつくほど印象が強くなり、忘れにくくなります。また自分自身の経験などと関連させることは、学習内容を自己の成長に活かそうとする姿勢にもつながるでしょう。

課題文の”正確な”読解にはこだわりすぎない

LTDの学習過程では、生徒が行った課題文の解釈の正確さに関して、教員がコメントを入れたり修正を行ったりすることがありません。生徒が読解力を身につけるには、必ずしも教員のフィードバックが必要というわけではないということです。教員が正解を教えてくれないため、自分で考えなくてはならない状況に置かれること。そして、回数を重ねていくうちに生徒同士のフィードバックの質が改善することなどがこの理由として考えられます。
もちろん最初からうまくいくわけではありませんが、誤りを重ねることで少しずつ正確な読解を身に着けられるという側面もあるでしょう。

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7 参考文献

安永悟 『LTD話し合い学習法』2014年 ナカニシヤ出版

安田利枝 LTD話し合い学習法の実践報告と考察 : 学ぶ楽しさ
への導入という利点 『嘉悦大学研究論集』51巻1号

8 まとめ

今回ご紹介したLTDは、もともと大学教育発祥のものなので、そのまま中学校や小学校の授業に導入することは難しいでしょう。生徒が十分な量の予習を行うことが難しい環境であることも往々にしてあるでしょう。しかし、LTDの枠組みには、話し合いを授業において行う上での重要なポイントが数多く詰まっています。是非今回の記事を参考に、授業での話し合いのやり方を見直してみてはいかがでしょうか。

(文責 EDUPEDIA編集部 新井理志)

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