「モチーフ」に注目した物語文の発問 『三年とうげ』を例に (谷和樹先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、2017年10月7日(土)に石川県女性センターで行われた「第3回 谷和樹&石坂陽 ブレイクスルーセミナー」(NPO法人いしかわ子ども未来ネット 主催)を取材し、編集させていただいたものです。

2 講演内容

谷和樹氏の『三年とうげ』教材研究

私が『三年とうげ』の教材研究をする上で注目したポイントを冒頭部分から順番に話します。
 
『三年とうげ』はまず「あるところに」から始まりますが、「あるところ」とはどこでしょうか。これは明かされていませんね。昔話はたいてい「昔、あるところに」といった文言から始まり、場所も時代も特定していません。いつでも、どこでも良いということが昔話の特徴でしょう。それを生徒に押さえさせます。
 
読み進めていき、春と秋の情景が素晴らしいことを述べているところには「素晴らしい」などと書いておきます。次に「言い伝え」とはどの部分か特定します。言い伝えからは不吉さが読み取れるので、「よくない」と書いておきます。その後、「こうしちゃおれぬ」とはどうしちゃいれないのか、「その日」とはいつか、などを読み取り、明かされていないなら「わからない」と書いておきます(場所や時代が一貫して明かされていないことが明らかになります)。

モチーフ(物語の構成要素)に注目する

こうした物語文では、多くの教員は

  • 登場人物は誰か」
  • 主人公は誰か」
  • 「主人公がクライマックスでどういった内面の変化をしたか」

などを発問にすると思います。この発問も有効だと思います。
 
 私の場合もクライマックスについて発問しますが、少し問いかけ方が異なります。クライマックスというのは主人公の気持ちが変化したところ、というだけではないのです。

モチーフ(物語の個々の場面の構成要素)に注目したクライマックスについての発問もあります。ずっとよくない場面が続いていたのが、ある瞬間からガラリと良い場面に変わるような、全体の流れの変化を読み取ります。先ほど「素晴らしい」「よくない」などと書き留めていたのは、このモチーフの読み取りのためでした。


▲主人公やその内面以外にも物語を構成している要素(モチーフ)の象徴する意味から、物語の流れの変化を見ることができます

『三年とうげ』では、「おもしろい歌」という良い印象のモチーフが出てくる段落から、それまでのよくない印象のモチーフが姿を消し、全体の流れが変わります。主人公の心情に注目するほかに、このような問いかけもあってもいいと思います。これはどちらが良いということではなく、異なる視点で物事を見させるということです。これはいろいろな文学作品で応用が可能です。

3 講師紹介

谷 和樹(たに かずき)玉川大学教職大学院教授。TOSS会員(中央事務局、TOSS授業技量検定代表、TOSS和(川崎市)代表。)(2017年10月7日現在)

4 講師著書紹介

5 編集後記

物語文は全ての要素が作者の作為によって作られたものですから、意味のないモチーフは無いはずだと思います。授業時間の制約上全てのモチーフの意味を汲み取ることは困難かと思いますが、1つだけでなくいくつかの物語の見方を経験させることは、文章読解という行為の奥深さに気付かせることにつながるのではないでしょうか。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 高木敏行)

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