先生に知ってほしい!性別違和の子どもたち(第2回)

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目次

1 はじめに

この記事は、はりまメンタルクリニック(東京都)の針間克己院長に取材し執筆した連載記事の第2回です。取材では、こころの診療に詳しい針間先生に、性同一性障害(本文では性別違和と表記)を持つ子どもについてお話を伺いました。この記事では、学校の先生方に気を付けていただきたい性別違和の子どもと関わる際の注意点や、医療機関での性別違和の子どもへの対応をご紹介しています。

第1回も合わせてご覧ください。
先生に知ってほしい!性別違和の子どもたち 第1回

2 性別違和の子どもと接するときに

まず、学校での性別違和の子どもへの対応について考えてみましょう。

〇性別違和の子どものよくある特徴

性別違和の子どもには、自分の身体的性別に合わせた学校の制服や髪の長さ、「くん」「さん」付け、トイレが嫌だという人が多いです。しかし、身体的性別とは逆の制服を着ることやトイレに行くことは性別違和のカミングアウトにもつながるので、実際にどうしたいかの希望は子どもにより様々です。

〇一般論と個別論

先生方は、誰であっても性別違和についての基本的な知識は勉強していただいた方がよいと思います。しかし、結局はその子どもに合わせた個別的な対応が必要になります。つまり、性別違和に関する一般論を知っていることも重要ですが、結局は個別論に基づいて子どもに対応する必要があるということです。性別違和の基礎知識が全くない状態で子どもに接し、見当違いのことをしてしまうのは問題になりますが、一般論だけで中途半端な対応をしても実際にはその子のためにならないこともあるのです。

〇日頃の言動に注意

先生方には日々の発言や行動、考え方に普段から注意していただきたいです。何気ないつもりでも、「男らしくしろよ!」とか「お前はおかまか!」という発言は絶対にやめてください。なぜなら、クラスには性別に関して悩みを抱えている子どもが一定数いるからです。自分のクラスにはそのような子どもはいないと安易に考えてはいけません。

また実際のところ、性別違和の子どもに先生側から声をかけるのは難しいです。子どもから性別違和に関して言ってこない限りは、先生方は何も言わないことをおすすめします。「あなた性別違和?」と聞いても子どもは身構えてしまい、うまくいかないことが多いです。

〇マニュアル的な対応は禁物

性別違和の子どもの抱える状況は様々です。また、状況はその都度変化していきます。ですから、子どもに対してマニュアル的な対応は禁物です。先生方はその子どもに合わせた個別的な対応を心がけていただきたく思います。例えば、制服とかトイレとか、パッケージ化した対応はしない方がよいです。トイレも職員用トイレの使用許可だけで満足する子どももいますし、制服についてもジャージで登校するだけで満足する子どももいます。そこは本人の希望に合わせてほしいです。 

3 実際にカミングアウトされたあとの反応

性別違和であることをカミングアウトしてくる子どもがいた場合は、まずは子どもの話を聞いてみましょう。その上で、「先生として何かできることはあるかな?」と質問してみます。自らその子どもに合わせた助言をすることは難しいので、子どもにしてほしいことを聞くのが一番よいと思います。

〇ただ話を聞いてほしいだけの場合

子どもの中にはただ先生に自分の話を聞いてほしいだけの場合もありますので、そのときは本当に何もしてあげる必要はありません。学校全体で対応を考える必要があるとき以外は、職員会議などでの共有もしない方がよいでしょう。世界にたった一人でも「話せる相手がいる」ことはその子にとってとても大事なことなのです。

〇具体的な要望がある場合

実際にトイレを変えてほしい、制服を変えてほしいなどといった具体的な要望を言ってくることもあるかもしれません。そのときはその子どもと相談しながら進めていくことが大切です。性別違和であることを誰にまで伝えるのかなど、子どもと一緒に作戦をたてます。ただ、もちろん制服を変えるとクラスだけではなくて学校中に性別違和ということが知られることになるので、「制服を変えるときには性別違和であることが周りに伝わるよ」ということを確認しながら進めます。

〇経過は変わりうる

また、子どもは年月を経るにつれて性別違和についての意識は変わりうるということを覚えておいてください。青年期以降でも性別違和は弱まっていくことがあります。そういうときは「こんなに手をかけたのに」などと言って脅すようなことはしないでください。その都度、その時点でその子どもの思っていることに対して対応してほしいと思います。

4 性別違和の子どもへの医療機関での対応

最後に、医療機関では実際にどのような対応を行っているのかを紹介します。

〇個々のセクシュアリティの尊重

子どもによって自分のセクシュアリティの受け止め方は様々なので、医療機関の治療の基本は子どもの話をよく聴くことです。個々のセクシュアリティを尊重し、必要な医学的情報を与えたうえで自己決定を促すことになります。そのとき、自分が思う自分の性別に近づきたいという希望を聞くこともあります。そのときに、18歳未満でも受けられる治療の一つにホルモン治療があります。

〇ホルモン治療

性別違和の子どもに対して行う治療法に、「ホルモン治療」があります。ホルモン治療は、大きく①二次性徴を抑制する治療と②反対の性別に近づく治療の2種類に分かれます。

現状の性別違和に関するガイドライン上(2018年3月現在)では、「①二次性徴を抑制する治療」は二次性徴が始まったらすぐに治療開始することができますが、「②反対の性別に近づく治療」は15歳からしか行うことができません。

二次性徴を抑制する治療は、身体的変化を止めることができますので、性別違和の子供の苦悩を和らげることができます。反対の性別に近づく治療は、精神科医が1年以上診察している場合にできます。この治療により、反対の性別への二次性徴の変化を得ることができます。しかし、思春期は子どもの身体的変化も心の変化も激しい時期なので、性別違和だとはっきり判断できない子どもに対してこれらの治療をしてよいのかという判断は難しいところです。また、ホルモン治療を行う際には子どもへの精神的なフォローだけではなく、身体的な副作用が起きてないかどうかの評価も欠かさず行わなければなりません。

したがって、もし大学病院などで身体の病気を扱う医師も含めて治療体制が整っているのならばホルモン治療をしてもよいかもしれませんが、そうでない場合には、私はまだ子どもにホルモン治療をすることには慎重になった方がよいだろうと考えています。

5 プロフィール

針間克己(はりまかつき)先生(写真中央)
東京大学医学部卒業。東京大学大学院医学部博士課程終了。医学博士。
「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の立法に際して発足した国会議員による性同一性障害勉強会に招かれ、性同一性障害に関する医学的概念の講義をおこなった。
性犯罪者処遇プログラムの専門家として、テレビなどマスメディアへの出演もする。
(プロフィールは2018年3月9日時点のものです。)

6 編集後記

性別違和の子どもへの対応として、まず子どもの様子を見守り、子どもが話しかけてきた場合は子どもの話にしっかりと耳を傾けることが大切だと分かりました。性別違和の子どもを担当されていない先生方も、性別違和の子どものことを意識して、日頃から自分の言動に注意していただきたいと思います。(取材・編集 EDUPEDIA編集部 大森友暁)

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