新学習指導要領で求められる教師力20(【教育技術×EDUPEDIA】スペシャル・インタビュー第16回 深澤英雄先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた深澤英雄先生へのインタビューを記事化したものです。
深澤先生は、2018年3月15日に著書『若手教員、教員志望大学生必読 学習指導要領2020 実現のための「新・教師力20」』を発売しました。
本記事では、教師にとって必要な力はどういったものなのかについて、著書にそって様々なお話を伺いました。

2 インタビュー

–先生が最近出版された『若手教員、教員志望大学生必読 学習指導要領2020 実現のための「新・教師力20」』について、内容を教えて下さい。

最近、学校現場でよく口にされるのが、「若い教師のコミュニケーション力不足」です。教員養成系大学では、学校現場ですぐに役立つような、子ども・保護者、同僚・管理職等との人間関係に関わるテーマの実践的な講義が行われることは多くありません。そのため、新採教員や教員志望の大学生は、教職に対して常に不安を抱いています。
 本書では、人間関係力を中心とした、これからの教師に必須の「教師力」を羅列・詳説し、新学習指導要領実施に際しての読者のバイブルとなるものを目指しました。
①きく力  ②話す力  ③読む力  ④書く力  ⑤察する力  ⑥見る力  ⑦疑問力  ⑧相談力  ⑨気配り力  ⑩学ぶ力 など、人間関係力関連の20個の「力」について、なぜ必要なのか、どうすれば身に付くのかなどを解説しました。

–この著書を書こうと思った理由は何ですか。

今、若い先生が日本全国で増えていて、20~30代の先生の割合が多くなっています。しかし、私たちのような昭和の教育を知る世代はどんどんやめていき、4~5年すると、これまでのベテランの教師がいなくなる時が来ると思います。現場では、地域によっては30代から教頭先生になっていたり、20代後半から学年のまとめ役になられる先生がいたりというのが実情だと思います。若いだけにパワーや意欲もあるのですが、個人として教師力を磨かなければいけない時にもう上の立場になってしまうことや、初任の先生で保護者の対応に悩んでしまうことがあるので、「教師力としてこういうことが今大事じゃないのか」ということでこの本を書かせていただきました。
 もう一つは、2020年に学習指導要領が変わって、「主体的で対話的な深い学びができる子ども」が求められています。その中で教師はどのような力を身につけておくべきか、という問題意識でこの本を書きました。

–20の教師力の中で、特に重要だと思う力を数点教えてください。

この本は「子どもを伸ばし学びを深める教師力」「自分を高め、学級づくりに生かす教師力」という大きく2章に分かれています。
まずは、教師が子どもをどういうふうに見ていくかという章の部分についてお話します。
特に「見る力」が大事になってきます。
子どもの行動や、そこから見られる内面のことをまず教師が見取らないと指導に入っていけないと思います。

また、教師は授業であっても学級づくりにしても、教師が話をすることによって教示していきます。もちろん口は使わないで行動で示す等、言語以外のところで指導することも当然ありますが、やはり一番重要なことを子どもたちに具体的なことを伝えるためには、「話す力」というのはとても大事だと思います。

三つ目に挙げているのが「聞く力」。どうしても教師というのは話が長くなってしまいます。話して伝えようとする傾向が強いところがありますが、子どもたちの気持ちを聞いたり、親の話を聞いたりという、受容をする力が大事なのではないかと思い、3番目に挙げました。子どもの気持ちを受け止めたり、様子を受け止めたり、親の想いを受け止めたり、あるいは職場で働いている同僚たちがどのような想いを持っているのか、しっかり聞くことが大事だと思います。それを聞き取ったうえで、自分はこういう考えを持っているから、こういうふうにした方が良いんじゃないか、と自分の意見を話すことに発展していくので、受容していく力がとても大事だと思いますね。

次に第2章の最初にありますが、若い先生には、まだ若いからベテランの先生にどんどん聞いてほしい。尋ねてほしいという意味で「訊く力」を挙げています。自分の力で頑張らないといけないという思いや、社会人になったんだからということで頑張ろうとするあまり、先輩や近くの仲間に訊くのはハードルが高いと思ってしまう先生もおられると思うのですが、訊くことによって自分ではわからないところや、自分がスキルアップしていくべきところが見えてくるのではないかと思っています。

–受容することって思ったよりも難しいですよね。ついつい発信しなければ、という思いが強くなってしまいます。

受容するためには、自分にある程度のゆとりを持っていないとできません。ゆとりを持つために重要なことは、相手の動きや表情を観察し気持ちをおもんばかることです。教師力の中で言うと「察する力」に関わってくると思いますが、相手の言葉や行動の裏には本当はこういった思いがあったのではないかということを読み取ります。こちらがしっかりと見て、察して、「あ、いまちょっと相手が嫌がっているな」とか「相手に伝わっていないな」ということが分かると思います。そういうふうに、相手をしっかり観察することが大事だと思いますね。そして、それを見て、どんな手を打つか、ということが大事になってくると思います。

–「訊く力」のところで、若手の教師はベテランの教師に積極的に尋ねてほしいとありましたが、若手の教師が学校に入ってからも活躍できるようにどんな体制が必要でしょうか。

文科省は初任研修のようにシステム化してきています。一人の教師に対し退職した教師や現職の教師がついて1日見てもらうというのが全国的です。指導教員が授業を見せるということもあります。校内研修というのは日本の場合は充実しているのでその中で先輩の授業を見る機会はあると思います。

それだけではなくて、近くの研究会に参加してみたり講座を体験してみたり、教育技術の本を読んで学ぶなどが大切です。教師になったら終わりではなく教師になってからがスタートです。学び続けるという姿勢が大事だと思います。

–理想の教師としては学び続ける姿勢を持つ以外にどんなことがありますか。

著書の中では疑問力というのを大切にしています。いつも教師は問いを持って生活をしなければいけないと思います。今主体的で対話的な深い学びが大切だと言われています。まず教師が「教科書」や「教材」の中に疑問点はないかどうかなどの問いを持つことが大切です。教師が問いを持てないのに子どもたちに「主体的で対話的な深い学び」を教えることはできません。教科書は非常によくできていて、意図があって作られているので、教師が教科書の中の背景をしっかりと理解し、問う力を持つことが大切です。教科書以外にも子ども達が意欲的になるためにはどういった教材を持って来たらいいのかなど常に疑問を持ち問い続けながらいろんなことを吸収することが非常に大切です。

また、子どもたちも現実の生活の中で色々な悩みをかかえています。例えば、「いつもは元気なのに今日は元気ではないな 」など些細な変化に対して疑問を持てるか。これは見る力と関係していますね。「どうして昨日の放課後までは元気だったのに、今は元気がないんだろう」「何かのトラブルに巻き込まれていないかな」などの気づきにも繋がりますね。教科書にも問いを持つことと子どもたちの様子にも問いを持つこと、もう一つは自分自身の指導に対しても問いを持つことが大切です。自分のどこが足りないのかなど常に自分自身に問い続けることが学び続けることに繋がると思います。

–意欲的に学ぶことが大切ですが、日々の忙しさに追われ学びに向かうことに消極的になってしまうこともあると思います。そういった状態を改善するためにはどういった環境が必要だと思いますか。

学びは、「子どもから得る」「本から得る」そして「人から得る」ものです。人から学ぶということの中にも二つあり、職場のなかの人からと外部の人からというものがあります。身近な職場にいる素晴らしい先生から多くの事を学ぼうとする姿勢が必要です。

また、外部にでて、自分と同じような考えを持ち学んでいる仲間を見つけることが大切です。一人だと日々流されてしまいますが、自分と同じような志を持った仲間がいることで励みになり、お互いを高めあうことにもなります。こういったことで気持ちがなえてしまうといったことを防げるのではないかと思います。
そしてもう一つ大切なことは「師」を持つことです。この人の考え方は共感できる。この人について行って学びたいと思う人を最低一人は見つけてほしいと思います。私の場合は学力研の岸本先生を自分の中で勝手に一番の師と決めて、一緒に勉強し、学ばせていただきました。他にも多くの先達から学ばせていただきました。

師は、自分の位置を教えてくれます。教師の生活は、日々、航海しているようなもので、自分の位置が分からなくなった時に灯台のように導き手になってくれます。
自分が一生懸命やっている中で、客観的に振り返ることは難しいですが、師はそんな時に自分の経験や知識を使い、客観的な振り返りを与えてくれます。今あなたの考え方の中でこういったことが足りないからうまくいかないんだよといったふうに、先を見せてくれます。
師がいることによって学び続け、問い続ける支えになるのではないかと思います。

–人とのかかわりの中で、自分を高めていくということですね。深澤先生のお話の中で、20の力に関することが、随所に出てきて、すべてつながっていると感じました。それでは最後に一言お願いします。

この本の最後のまとめで書いたところにあるのですが、私の師匠の1人の言葉の一つに、「星を望んで地を歩む」という言葉があります。星は理想で地は現実。どうしても理想を追いがちですが、理想を追いながらも現実を見つめ自分を高めていくということが大切だと思います。

教師とはしんどい部分も多くありますが、自分を高め続けることができ、自分の人生をかけて追求していくのに価値のある仕事だと思うので、教師になろうか迷っている人、しんどいなと思っている人、新任の教師の中で辛いなと思っている人もいると思いますが、少しずつ周りの人の力を借りながら乗り越えていくことで教育の面白さが見つかってくるのではないか思います。

–ありがとうございました。

3 プロフィール

深澤英雄(ふかざわひでお)先生
和歌山大学特任教授・学力研元常任委員長

4 編集後記

教師に求められる力は様々です。
中には、すぐに身につきにくい力も存在することでしょう。
子どもたちにとって、教師は第2の身近な大人です。教師の皆さんが、日々学び続ける姿勢を子どもたちに見せることで、彼らと共に成長していくのではないでしょうか。

(EDUPEDIA編集部 宮崎俊一、潮龍太)

5 関連ページ

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『小一教育技術』~『小六教育技術』4月号に掲載のインタビュー記事も合わせてご覧ください。

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【教育技術×EDUPEDIAコラボ】スペシャルインタビュー

第1回からのインタビューまとめページはコチラ

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