学校・企業・NPO それぞれの立場からみた学校教育(Teach For Japan×LITALICO×ROJE×福岡カタリバ)

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目次

1 はじめに

この記事では、教育に興味関心のある学生・社会人の方を対象に、2018年2月18日に認定NPO法人Teach For Japan、株式会社LITALICO、NPO法人ROJE、一般社団法人ピープラスの共催/協力をもとに開催された教育イベントの内容を紹介しています。

2 概要


イベント名:Teach For Japan×LITALICO×ROJE×福岡カタリバ
    ~学校・企業・NPO 様々な立場からの教育アプローチについて~
日時:2018年2月18日(日) 12:30~16:00
場所:西南学院大学
共催:認定NPO法人Teach For Japan
   株式会社LITALICO
   NPO法人ROJE
協力:一般社団法人ピープラス
合計来場者数:88人

現在、様々な人が「社会課題」や「教育課題」といったものに向き合っています。
今回は、学校、企業、NPOと多様な立場から教育に対してアプローチしているTeach For Japan、LITALICO、ROJE、福岡カタリバ、という4つの団体が集まり、それぞれの団体関係者の方々に、教育に関わる事業を通しての「やりがい」「よろこび」「難しさ」などについて話していただきました。

3 登壇者(敬称略、肩書きはいずれも当時)


下記写真右から
木村 彰宏(株式会社LITALICO)
原水 敦(福岡カタリバ/一般社団法人ピープラス)
風間 亮(認定NPO法人Teach For Japan フェロー)
モデレーター
松尾 啓司(認定NPO法人Teach For Japan フェロー)

4 パネルディスカッション

「教育」に関わるそれぞれの事業や活動を通して以下の3点について、登壇者の方々からお話を伺いました。

  • 「教育」に関わる活動を通して、印象に残っている人の言葉や、その時の状況はどのようなものだったのか。
  • 活動を通してのそれぞれの葛藤や悩みなど。
  • 「教育」に関わる中で嬉しかったこと。

トークセッションは、モデレーターの松尾啓司さん(認定NPO法人Teach For Japan 4期フェロー)の進行をもとに進められました。

Q1 学校や、学校ではないところから教育にアプローチしていく中で、印象に残っている人の具体的な言葉やその時の状況を教えて下さい。


*木村 彰宏さん ※以下敬称略:
ある時、LITALICOジュニアに通っているお子さまの中で、「学校に行くのが嫌だ」と言い出したお子さまがいらっしゃいました。その子は集中力が長くは続かず、授業中にも立ち歩いてしまうことがありました。「学校に行きたくない」とその子が言い出した原因は、その子の立ち歩く行為に対して担任の先生が厳しく叱ってしまうことにあったようです。このような際に、LITALICOジュニアでは、子どもたちの困り感は、その子が持っている特性だけに由来するのではなく、先生や環境(先生、友だちなどの)との関係性の中に生じると考えます。先ほどのお子さまの例でも、「立ち歩いて誰とでも学び合っていいよ」というスタンスの先生の教室では、その子は何も問題なく過ごすことができたかもしれません。教育や子育てに対する議論は、ともすれば「あの子はできない」「あの先生はだめだ」といったように、個の要因にばかり目が向けられ「個人攻撃の罠」に陥りがちです。そうではなくて、先生や周囲の子どもたちも、その子が適応しにくい環境をつくり出している可能性があり、教育に関わる立場として、そんな「個と環境」の視点を持つことの重要性を考えさせられる機会になりました。

※原水さんのご意向で、実際にカタリバでキャストとして活動経験のある、参加者の及川さんにもこの質問についてお話していただきました。
及川さん(カタリバ学生キャスト)
福岡カタリバが展開する別プロジェクト(マイプロジェクト)を高校の授業で実施した際に、あるクラスで、社会課題について考え、6人1グループで具体的な解決策を発表しあう活動をした時のことです。あるグループの中で、大人しく発表することを苦手とする子がいました。紙にはきちんと自分の意見が書けていたのですが、グループの中でなかなか発表が出来ずにいました。それを見て私は、学校のヒエラルキーの中に自分を位置づけ、それにより自分の行動を規定してしまい、のびのびと活動できていないように感じました。
*原水 敦さん
カタリ場では、当日に高校生とどのように向き合うのか、どんなきっかけを届けるのか、2ヶ月かけて企画・運営を大学生が行います。しかし、なかなか納得のいくものがつくれず、昼夜を問わず答えのない問いの自問自答を繰り返しています。このようなもがいている学生キャストがお互いに寄り添い合い、成長することができるのもカタリ場です。
*風間 亮さん
人によってやる気のスイッチが違うということを強く感じた経験があります。以前、学校に登校してきたとき時に宿題が出来ていない子は放課後に宿題を終わらせてから帰る、という決まりがありました。しかし、ある一年生の生徒が、宿題が終わらないうちに帰ってしまいました。保護者の方も、その生徒がどうしたら勉強に意欲的になってもらえるのかが分からず、悩んでいらっしゃいました。解決策として色々な方法を試してみたのですが、なかなか効果的な勉強法が見つかりませんでした。そんな中、学校にeラーニングを導入したところ、それがその生徒の勉強に対するモチベーションにとても響いたのです。おそらく、eラーニングが合ったのは、周囲の生徒たちの勉強の出来や進度などを気にすることなく、自分のペースで学習できるからではないかと思いました。

Q2 それぞれの事業や活動に取り組む中での、葛藤や悩みは何ですか。


*木村:
LITALICOジュニアでは、元教員や元保育士といった人が一緒に事業に取り組んでいます。そういった方たちはLITALICOでの研修により、学校で困難を感じる子どもたちへの関わり方等の知識を学んでいきますが、ともすればそれが「学校ではその子に対して十分な配慮をしてもらえないから」という「学校批判」に繋がりかねないな、と思います。学校には、一人の先生がどれだけ頑張っても変えることの出来ない仕組みなどもあります。だからこそ、学校の先生、保護者の方、そしてLITALICOジュニアのような第三者の立場が、お互いに理解し合い、尊重し合いながら「子どものために」とチームになる必要があります。自分は学校外から教育に関わる立場として、無意識のうちに誰かを否定してしまうような考えを持ったり、行動をとったりしていないかということを気を付けていきたいです。
*原水:
授業時間を2時間いただいて行っているカタリ場が、その授業時間分、先生方の期待を超えられる成果が出せているのかという葛藤があります。また、学校と教育委員会と、どのようにチームになってやっていくかということも大きな課題です。このような課題を乗り越えていくためにも、私は「ファンを増やす」ことが大事だと考えています。学校の先生方ともしっかりとコミュニケーションをとることは、ファンを増やしていくためにも欠かせないことです。

もう一つは、カタリ場の準備で、寝させてくれないキャストの学生たちの熱意にどう応えてくのかも葛藤です。(笑)
*風間:
子どもたちそれぞれが持っている、モチベーションのスイッチに合わせて授業をすることがすごく難しいと感じます。何を、どのように話したら子どもたちの興味を引き出すことが出来るのかということは悩みます。もう一つは、子どもを適切に叱って、きちんとした行動を促すことが難しいです。例えば、宿題を終わらせることが出来なかったという一つのことに対しても、様々な理由があるので、一人ひとりに対してどのように叱るべきなのかということはいつも考えています。子どもたち一人ひとりに合った教育をするためにも、その子がどのような子なのかという情報を集めて、想像して、寄り添うことが大事だと思います

Q3 教育に関わる中で嬉しかったことはどのようなことですか。


*木村:
教育に関する仕事をずっとしていて、その中で関わった子どもたちが連絡をしてくれたりして、今でもその関係性が続いていることも多いのです。久しぶりに会った際や連絡をとった時に、以前出来なかったことが出来るようになったという報告をもらうこともあり、それが嬉しいです。
また、子どもたちが良い方向に変わっていく姿を見ることが出来た時です。例えば以前、LITALICOジュニアで授業のスピードについていくのが困難で、学校に通うことに抵抗を感じているお子さまがいらっしゃり、ご家族も本当に悩まれていました。しかし、お子さまに合った学び方をLITALICOジュニアが提供できたことにより、その子は自分に自信がつき、また学校にも元気に通えるようになったとのことです。結果として、そのお子さまのご家族を支えることにも繋がったことが嬉しかったですね。
*原水:
カタリ場をしていると、途中から参加している高校生たちが泣き始めます。その高校生とキャストの学生たちが最後に会場から出てきた時、寄り添い帰っていく後ろ姿を見た時です。また、高校生たちを見送ったキャストたちが、戻ってきながら泣いている姿を見た時です。もう一つは、高校生の時にカタリ場に参加していた子たちが大学生になって、キャストとしてカタリ場に戻ってきた時がとても嬉しいです。
*風間:
まず、子どもたちの勉強に対するモチベーションが上がる瞬間に出会えた時が嬉しいです。また、Teach For Japanのフェロー(教員)は2年で任期修了のため、保護者の方からもっと続けて欲しかったので残念だというお言葉をいただき、先生をした価値があったと感じました。他にも、キャリア教育として企業の方に講演会をしていただいた後に子どもたちから、「発展途上国」という言葉や、「僕は将来こうなりたい」という言葉を聞くことが出来た時に、自分が介在した意味があったのではないかとも思いました。

5 団体紹介

株式会社LITALICO

株式会社LITALICOは「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、就労支援、幼児教育・学習塾などの教育サービスを提供しています。詳しくは以下URLをご覧下さい。
株式会社LITALICO
LITALICOジュニア
木村 彰宏さん:個々の学びやすさを考えた教育を学びたい、生涯教育に関わろうと考えている立場として、企業からも学校現場を見てみたいと思ったこと。子どもたちの周りにある様々な障害によって、人生の選択肢に差が出てしまうことが悔しいと感じることが多々あり、そのような障害をなくしていきたいと思い、「障害のない社会をつくる」というビジョンに惹かれ、LITALICOという会社に入社しました。

福岡カタリバ/一般社団法人ピープラス

北九州を拠点に、福岡県と周辺エリアで高校生のキャリアの授業「カタリ場」というプログラムを実施する団体。「カタリ場」の授業は、高校生(一部中学生)の進路に対しての意識を高めるために行う「動機付けキャリア教育プログラム」です。授業を行うのは主には大学生や社会人の「キャスト」と呼ばれるボランティアスタッフです。詳しくは以下URLをご覧下さい。
福岡カタリバ
原水 敦さん:カタリバでは、高校生と、一歩先をゆく”先輩”として大学生や社会人のキャストとの「斜めの関係」を作り出すこと。また、先輩からのアドバイスだけで一方通行に動くのではなく、お互いに学び合う姿勢をとても大事にしています。

認定NPO法人Teach For Japan

「教室から社会を変える」ことをミッションとして活動しています。独自に採用した人材に研修を行った上で、少なくとも2年間、公立学校の教師として派遣するというフェローシップ・プログラムを実施・運営しており、学校の教師として子どもたちの指導に当たることで、子どもたちへのより包括的な支援を行っています。また、生まれた地域環境や家庭環境にかかわらず、教育によって人生を切り開くことができ、多様な人材を教育現場に送ることで、多様な教育方法や教育実践の開発などに取り組んでいます。詳しくは以下URLをご覧下さい。
認定NPO法人Teach For Japan
風間 亮さん:自分自身の経験から、「自分は将来何をしたいのか」などを考える機会を学校教育でもつくることが必要だと強く思ったこと。また、学校教育と社会のギャップがあまりにも大きすぎるということを解決したいと思い、Teach For Japanで活動することを決めました。

6 登壇者プロフィール(敬称略)

木村 彰宏(株式会社LITALICO)

大学卒業後、岩手県にて復興支援NPOに就職し、子どもたちの学習・居場所づくり支援を行う。その後、認定NPO法人Teach For Japanで採用や企業向け研修・学生向け講演などを担当したり、一般社団法人答えのない学校でプログラムのファシリテーターをしたりしている。(2018年2月18日現在)

原水 敦(福岡カタリバ/一般社団法人ピープラス)

一般社団法人ピープラス、代表理事。北九州まなびとESDステーション、特任教員。マイプロジェクト九州事務局長。Upple代表。2015年より北九州市立大学特任教員として、北九州まなびとESDステーションにてプロジェクト型学習を担当。同年に(一社)ピープラスを設立し、福岡県内にてキャリア学習プログラム「カタリ場」を運営。次世代の育成に取り組む。ファシリテーション、ソーシャルワークが専門。社会福祉士。(2018年2月18日現在)

風間 亮(認定NPO法人Teach For Japan)

慶応義塾大学卒。卒業後、NTTコミュニケーションズに入社。グローバル事業チームで、経営陣が参加する世界一周の国際イベントの企画等を行う。その後、2016年Teach For Japanに参画し、現在福岡県下の公立中学校で英語教員として勤務中。生徒の視線なの拡大を目的に外資企業やソーシャル系スタートアップ企業のトップ層を学校に招聘するなど、生徒にとっての豊かな学びとは何かを追求中。(2018年2月18日現在)

7 編集後記

このイベントを通して、「教育」への各方面からのアプローチ方法は様々だけれども、どの方法も子どもたちにとって良い変化がみられることはもちろん、教育に携わる活動に取り組んでいる方々にも、たくさんの学びがあるということが感じられました。また、学校を外の環境から見て、視野を広げてみることも大切であると改めて思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 澁田)

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