「ピラミッドメソッド(ピラミーデ:Piramide)」子どもの自律を目指すオランダの幼児教育

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作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

はじめに

オランダは、ユニセフが行った子どもの幸せ度(well-being)の調査結果で、世界で最も幸せな子どもの国となり、約95%が自分の生活満足度は高いと答え、子どもの相対的な満足感のギャップも低くなっています。

本記事では、そんなオランダで注目を集める、自分で選択して決断できる力の育成を目指すピラミッドメソッドについて、根底にある考え方や具体的な内容、関連資料などをご紹介します。

(写真は、ユニセフ・イノチェンティ研究所 最新報告書発表 『先進国における子どもの幸福度−日本との比較 特別編集版』 | 日本ユニセフ協会より)

(参考)
UNICEF Office of Research (2013)「Child Well-being in Rich Countries:A comparative overview」
(2016)「Fairness for Children: A league table of inequality in child well-being in rich countries」
“子どもが世界一幸せな国”オランダは「お母さん」も幸せだった | BUSINESS INSIDER JAPAN

目次

  1. 提唱者、発祥の由来など
  2. VVE(就学前早期教育:Voor-en vroegschoolse educatie)
  3. 4つの基礎概念(基礎石)ー「保育者の主体性」「子どもの主体性」「寄り添う」「距離をおく」
  4. 4つのプログラムープレイ プログラム、プロジェクト プログラム、チューター プログラム、ペアレント プログラム
  5. その他の特徴ー多様な三次元空間の保育室、サークルタイム
  6. 日本の実践園
  7. 参考・関連資料ーピラミッドメソッド、保育映像、遊びと学び、ことばと思考

1 提唱者、発祥の由来など

ピラミッドメソッドは、オランダの教育心理学博士フォン・カルク氏(Dr.Van Kuyk)が、ピアジェやヴィゴツキー、知能多重説理論、愛着理論、距離感理論、動的心理学などを基にして開発。オランダ政府教育評価機構Cito(チト)が、21世紀型の幼児教育カリキュラムとし、全オランダ国内に提唱したメソッドです。名前は、博士が「理論と実践」を分かりやすくするために、四角錐=ピラミッド型に整理したことから付けられています。

(写真は、こちら(NPO法人 国際臨床保育研究所)より)

子どもたちが最適に発達できる安全な環境づくりを大切にし、遊びや自立学習を通じ、自分で選択して決断できる力の育成を目指します。「①運動 ②創造 ③知覚 ④言葉 ⑤個性 ⑥社会性を持った情緒 ⑦考える力 ⑧時間と空間の理解」という8つの発達領域に重点を置き、認知的、社会情緒的、身体的、あらゆる領域の連続的・統一的な発達を目指す、バランスのとれたアプローチです。

2 VVE(就学前早期教育:Voor-en vroegschoolse educatie)

VVEは、オランダ語を母語としない子どもなどを対象とする、教育における発達の遅れに対応するための政策の一つです。言語的なサポートを中心に、初等学校に向けてよりよく準備し、遅れがない状態で義務教育をスタートできるように支援します。言語の発達は、算数や感情表現など、様々な分野の発達にとって重要な基盤と考えられます。

VVEの家庭用プログラムから、移民の増加と基礎学校との連携を目指して施設型プログラムが開発されました。ピラミッドメソッドは、施設型プログラムの中でも、オランダで独自に開発されたメソッドです。

(参考):オランダにおける乳幼児の教育とケアの変容に関する研究—「就学前早期教育プログラム」に着目して—、九州大学 大学院人間環境学府、教育システム専攻、福田紗耶香


(VVE - Voor- en Vroegschoolse Educatie in Helmond(オランダ:へルモンド)、BCO Onderwijsadvies & Innofun、3 Apr 2017)

3 4つの基礎概念(基礎石)

ピラミッドの底は写真のような四角形に分割され、「保育者の主体性」「子どもの主体性」「寄り添う」「距離をおく」という4つの基礎概念を表しています。子どもに寄り添い、安心・安全な環境(養護)という土台の上に、自主的に遊びながら、学びを楽しむ教育が成り立ちます。

(写真は、子どもと育ち総合研究所より)

子どもの自主性(initiative of the Child):やる気

子ども達が自分を取り巻く世界を理解するためには自主的に取組むこと、そしてその自主性を維持させることが何よりも大切です。子どもたちは「認められたい、自信を持ちたい」という養護的な要求と、「学びたい、探索してみたい」という教育的な要求を持っています。まずは養護的要求が満たされてこそ自主性は育まれ、充分に発揮することができます。

保育者の自主性(initiative of the Leader):働きかけ

子どもの自主性を育むため、保育者には子どもの要求を考慮した働きかけが必要とされます。まずは、安心できる保育環境の提供、変わらない情緒的な支援、自身の能力を信じて行動できるように支援するといった安らぎを与える働きかけ。その一方、教育的な観点から、発達を活性化させるために学びに明確なねらいをもって活動をすすめたり、学びに段階を設けたり、子どもの遊びや発達の状況に応じて支援方法に段階を設けるなど幅広い教育技能でもって働きかけることも必要です。

寄り添うこと(psychological nearness):養護的内容の基盤となる理論

母親と子どもの良好な関係がもたらす影響に注目した“アタッチメント(愛着)理論”から、その愛着は保育者と子どもの関係にもあてはまることをピラミッドメソッドでは唱えています。子どもが安心して探索活動にエネルギーを注げるようになるには、保育者が子どもと良好な信頼関係をきずくことが最も重要です。また、このような感情は、自分自身と他者を信頼することにつながります。

距離をおくこと( psychological distance):教育的内容の基盤となる理論

「今、目の前にある」物事だけを学ぶのではなくて、「目に見えないもの」にも焦点を合わせる学びが、子どもの発達を促す上で大切である、という“ディスタンシング理論”を適用しています。発達段階に合わせて、子どもに身近で具体的なことから取組みを始め、徐々に外の世界・抽象的な世界へと導く中で、表現することに挑戦させて発達を促します。

(引用文はピラミッドメソッド幼児教育法 | 子どもと育ち総合研究所から)

4 4つのプログラム

  • プレイ プログラム
  • プロジェクト プログラム
  • チューター プログラム
  • ペアレント プログラム

①プレイプログラム

プレイプログラムでは、大人の介入レベルは低く、子どもは豊富な環境で自由に遊びながら学びます。遊び場には、ホームコーナー、アートコーナー、建物コーナー、読書/言語コーナー、思考/数学コーナー、登山コーナーなど様々な種類があり、あらゆる発達領域を使って遊ぶことができます。空間づくりには、年齢や発達のレベル、性差、文化的背景などが考慮されます。

子どもたちは、与えられたテーマから始まって、たくさんの刺激の中から、豊かな遊びを自分で展開していくようになります。自己選択と自己解決の力が育つと、子どもは自分で遊びの環境をつくっていきます

先生は子どもの自主性を尊重しますが、活動に盛り上がりが欠けている場合は、新しい遊びのアイデアを提示したりするなど、適切に介入します。そそて子どもが自分で挑戦できるようになると、ゆっくりと手を放します。そのような介入により子どもは主体性を持ち始めるのです。究極の目的は子どもの自立を促すことです。先生には、子どもの意欲に火をつけるよう、豊かな遊びと学びを示す力が求められます。

NPO法人 国際臨床保育研究所では、子どもが遊びに興味を持ち、自主的に活動するための保育者の役割を、次のように紹介しています。

  • 自分の好きな遊びを見つけるよう導く。
  • 自主的に遊べているときは、ほめる。
  • 自主的に遊べないときはヒントを与える。
  • 遊びを放棄しそうになったら、手助けをする。
  • 遊びを意識させる。
  • 見守っているという安心感を与える。
  • ルールと制限があることを教える。

(写真は、星の光幼稚園より)

②プロジェクトプログラム

プロジェクトでは、遊びと経験を通して、一貫性のある概念を学びます。動的心理学理論における、「ある知的な認識行為は自ら刺激を吸収して拡大するのではなくて、環境が提供する知識 (刺激) と関連しながら発展し、ある段階に到達すると質的に変化し、さらにそれらが相互関連的に発展する」という学習観に基づきます。

子どもに身近な絵や体験など具体的な教材や話題から始まり、様々な感覚による認識や思考により、日常生活を離れた目に見えないものへの対処、抽象的な概念の体験的理解へと世界の探求が進みます。(生活的概念から体系的概念へ)

約1か月間、色と形、数、空間などのテーマに沿って進められ、8つの発達領域が段階的・連続的に育まれるのが特徴です。例えば、下の写真のように、“ 家庭 ”のテーマで発達する領域は“ 言葉 ”で、時間の理解を発達させるテーマは“ 秋 ”です。年間のテーマと発達領域をバランスよく構成されます。

(写真は、こちら(NPO法人 国際臨床保育研究所)より)

プロジェクト 4つのステップ

プロジェクトは、次の4ステップで構成されます。
1.オリエンテーション
2.デモンストレーション
3.広げる
4.深める

1.オリエンテーション(orientation)

子どもたちが安心かつ好奇心を持って取り組めるよう、テーマを日常の経験やすでに知っていることと結びつけます。例えば、テーマに関する絵本や物語を読んだり、歌を歌ったりします。

2.デモンストレーション(demonstration)

オリエンテーションの話に出た重要な特徴や概念に注目させたり、日常経験など身近な事柄から問いかけたります。多くの感覚を働かせながら対象に関わる段階で、多くの具体的な道具や状況だけでなく、想像力も使います。ここでは、認識することが重要です。(感覚運動的)

例えば、水であれば、温水と冷水を触り比べる、味わう、匂いをかぐ、泥水を綺麗にする、水の音を聞くなど、あらゆる感覚で対象を認識します。

3.広げる(broading)

ここでは概念を広げるため、体験を言葉にすることが重要です。異なる物語との類似点と相違点を見つけたり、子どもたちは自身の経験と関連させて考えたりすることで、新しい知識を得ます。そうして、現実の「今・ここ」の世界から離れたことにも目を広げられるようになります。(同化(assimilation))

例えば、浮く物と沈む物を分けて浮かぶ概念を発見したり、水に小麦粉などを混ぜたりして、水への理解を広げます。そして、目に見えないことや物事の矛盾、様々な種類の現象に対して、柔軟に考え、自分なりに理解し、処理することを学びます。

4.深める(Deepening)

この学習ステップの目的は、学習したことを新しい状況で適用し、子どもが自律的に問題を解決することです。ここでは、言語と認識に加えて思考が重要な役割を果たします。(調節(accomodation))

子どもは、感覚・想像の世界と現実世界を行き来するために、経験や知識をうまく使うことを学び、関連する特徴を他の場合にも適応させたり、新しい状況を予測したりして、問題を解決します。また、イメージを豊かにし、目に見えないものを説明する力を身につけます。このように、事物を別のものや言葉で置き換えて表現する表象機能は、生涯にわたって学び続けるための重要な力です。

例えば、水道やプール、給食室など、同じ水でも場所によって使われ方の違いを調べます。そして、水はいろいろな色や形に姿を変え、匂いや味が違うこともあるけれど、どれも同じ“水”だという概念の獲得を目指します。

(写真は、社会福祉法人南友会 かんらんこども園より)

③チュータープログラム、

チュータープログラムでは、子どもがプログラムに安心して取り組めるように、個別対応をしたり、活動の終わりに補習の時間をとったりして、個に合わせてフォローします。

④ペアレントプログラム

ピラミッドメソッドでは、親も子どもと一緒に遊ぶことが推奨されます。近年の研究では、母親と保育者が与える愛着の関連や、子育ての社会化やアロマザリングという考え方も広がりつつあります。

(参考)
・愛着形成:近藤清美(北海道医療大学、心理科学部 教授)
・アロマザリング:根ケ山 光一(早稲田大学 人間科学学術院 教授)

5 その他の特徴

多様な三次元空間の保育室

多様な子どもが遊び、学ぶには、それぞれに合った空間と個別対応が大切になります。保育室には、様々なおもちゃコーナーが設けられ、友達と一緒に遊んだり、一人で遊んだり、自分で遊びを選べる環境が整えられます。また、先生が黒板の前に立ち一斉に指導するのではなく、子どもたちと一緒に食卓を囲むように座って関わります。

(写真は、ピラミッドメソッド千葉保育園より)

サークルタイム

円形になり先生を囲むように座ります。お互いの顔を見ながら肩を寄せ合うことで、共同して学んでいる意識を生み出します。先生は、子どもに質問したり、読み聞かせたりして、子どもの好奇心や新しい発見へと導きます。

サークルタイムは、子どもが、自分を表現したり、相手の話を受け止めたり、発見や楽しみを共有する上で重要な時間となります。また、心のつながりだけでなく、対話的なやり取りを通じて優れた言語的効果も生み出しています。


(おへそ保育園「サークルタイム」、吉村直記、31 Jul 2014)


(Using Dialogue Circles to Support Classroom Management、Edutopia、4 Jul 2014)

6 日本の実践園

ピラミッドメソッド千葉保育園

千葉県千葉市にある認可保育園。
園長先生が運営するブログにおいて、同園が行っているピラミッドメソッド教育法を紹介する内容の記事を見ることができます。

星の光幼稚園

大阪府松原市にある幼稚園。
ピラミッドメソッドの他、問題解決能力と創造的思考力を育むための教育プログラム「SIあそび」も取り入れています。

社会福祉法人南友会 かんらんこども園

大阪は吹田市にある保育園。
ブログでは、子どもたちの行事の様子やピラミッドメソッド・おもちゃが紹介されています。

社会福祉法人大阪婦人ホーム 子ロバ保育園

大阪市都島区にある、キリスト教精神に基づき創設された保育園。
ピラミッドメソッドを取り入れた保育の様子を紹介する「ピラメソブック」には、カラフルな写真や手書きのコメントがあり、活動の楽しさが伝わってきます。

りっしょう子ども園

山形県鶴岡市にある、保育園と幼稚園の機能を併せ持つ「認定こども園」
「今月のピラミーデ教室」ページでは、子どもの活動の様子が写真付きで紹介されています。

(参考)自主性を育てる「ピラミッドメソッド教育法」とは - Chiik! - 3分で読める知育マガジン -

7 参考・関連資料

ピラミッドメソッド

保育映像

遊びと学び

ことばと思考

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