1 はじめに
この記事は、2018年5月13日(日)に行われた「「教育産業」が支配する?学校教育!!〜高大接続(そして中高接続も)を考える〜」セミナー(全国進路指導研究会)の内容を記事化したものです。このセミナーの第1部では小池由美子先生による教育産業の学校支配についての講演、第2部では参加者を交えた意見交流会がありました。
主催者である全国進路指導研究会は、子ども・青年たちのアイデンティティの形成を援け、自分自身の生き方をみずから見出し、主体的にきり拓いていくことのできるちからを育てる本来の進路教育・進路指導の理論の確立実践をめざし、研究している教育団体です(全国進路指導会HPより引用)。現在は年4回のセミナーを開催し、交流の場を開いています。
講演者である小池由美子先生は、埼玉の県立高校で国語科の教員をされる傍らで、大学評価学会にも参加し、大学で教職の講義を受け持つなど、幅広く活動されています。
講演の流れ
- はじめに〜自己紹介をかねて〜
- 1. 教育産業の学校への浸出
- 2. 新自由主義と公教育のスリム化
- 3.「教育産業」の学校支配の実態
- 4. 次期学習指導要領のねらい
- 5. 2つの新テストー高大接続問題ー
- まとめ 私たちの対抗軸
本記事では、「はじめに」、「1.教育産業の学校への浸出」、「2.新自由主義と公教育のスリム化」、「3.「教育産業」の学校支配の実態」、「まとめ」の部分から一部抜粋して紹介します。
本記事目次
- はじめに
- 高校の実態
- 教育産業支配の要因
- おわりに−これからの学校づくり−
2 小池由美子先生講演
○はじめに
教育産業が昔から存在していたことは事実です。しかし、昔は学校現場と教育産業の棲み分けがなされていました。現在の教育産業は全国の学校現場を覆っていると言っても過言ではないほど学校現場に影響を与えています。なぜこのような状況が作り出されたのか、教育産業だけでなく国の政策もふまえて考えていきたいと思います。また、このような状況に対し学校現場はどのように対処していけばいいか解決策を探っていきたいと思います。
○高校の実態
学校現場を覆っている教育産業の現状を2点紹介します。
①教育産業主催の研修
学校が週5日制になった2002年より前の長期休業中は、研修承認願いを学校に提出すれば、教員が学校現場を離れて研修に行くことが校長の判断で認められていました。しかし、だんだんと研修の内容が詳しく問われるようになり、教員の個人的な研修は認められなくなりました。「教員に夏休みはなくなった。教員が学校を離れてどこに行くのか」とメディア等からバッシングされるのを校長が恐れたからです。
その一方で教育産業主催の教員向け研修は出張で認められています。受験のノウハウを仕入れることは生徒や保護者のニーズに合っていて、どこからもバッシングされないためです。
教育産業主催の研修は通常の授業日に行われることも多く、出張費も出ます。しかし個人的な研修は、休日に自分のお金を使って行くしかないのです。教育産業の研修で受験情報を仕入れることは認められる一方で、教員の自由な研修権が奪われているというのが現状です。
②教育産業が提供する模試やソフト
教育産業の模試を生徒全員に受けさせて、その結果をもとに進路指導を行っている学校が多くあります。学校によっては、教育産業の実施する模試が通常の授業日に行われています。教育産業が学校現場に堂々と踏み込んでいるのです。また、進路指導のために教育産業が提供しているソフトを用いています。
○教育産業支配の要因
教育産業が学校教育に入り込むには、ハードルがあったはずです。それではどうして教育産業の学校支配がこれほどまでに進んだのでしょうか。要因を考えていきます。
①教育産業のデータを利用した進路指導
高校進学率や大学進学率が上がるにつれて、進路指導に役立つデータを入手するために、校内の定期考査だけでなく、都道府県規模・全国規模の模擬試験を受けるように生徒に勧めるようになりました。
模試の結果が学校に返却されるという仕組みを学校現場が利用したことで、学校現場に教育産業が入り込む土壌が作られていったのです。
②保護者の学歴の向上
高度経済成長とともに保護者の学歴も高くなりました。高校進学率が上がるなかでよりよい高校に行かせたい・行きたいと願う親と子のニーズに教育産業はマッチしていったのです。
③国の政策
公教育の規制緩和が始まるターニングポイントは、ゆとり教育への転換だったのではないでしょうか。この頃から、「公教育のスリム化」が言われるようになりました。ゆとり教育を個性尊重という言葉に置き換えて、一人一人違っていいという考え方になったのです。それが教育予算を全ての子ども達に使うのではなく、一部のエリート育成のために使うという財政政策の転換につながったのではないでしょうか。
④教員の多忙化
教員は以前に比べて忙しくなりました。そのため業務を減らそうと、授業等で市販のテストを利用する教員も増えました。また、教育産業が提供する業務削減のためのソフトを学校に取り入れる動きも大きくなっています。
⑤まとめ
教育産業が学校現場を支配している状況は、最近になって急激に作られたわけではありません。浸出という言葉のように、滲み出ながら、じわじわと広がって現在に至っているのです。
○おわりに−これからの学校づくり−
私は高校で国語を教えています。以前授業していた時に、私が黒板でチョークの色を変えると生徒が一斉にボールペンの色を変える音が聞こえるのです。その時に私は「生徒が集中して授業に取り組んでいる」と思いました。しかしある時、生徒が能面のような顔をしていることに気づいたのです。生徒は作業はしていても、考えてはいなかったのです。
そこで、班ごとに課題に取り組み、発表するというアクティブラーニングを取り入れた授業をしました。その時の生徒の表情は一人一人異なり、考えていることが伝わってきました。そして、このような授業をしていくなかで生徒は「答えは一つではないんだ」「このように考えればいいんだ」ということを発見していきます。
他人がどう考えているか知ることによって、生徒は成長します。それこそ生徒同士が学び合う力だと思うのです。だから私は主体的で対話のある深い学びに確信をもっています。
アクティブラーニングに上手く参加できない生徒がいるのも事実です。だからといってすぐに授業でアクティブラーニングを扱うべきではないと結論付けるべきではありません。参加できない生徒を見守っていると、その生徒なりに参加の姿勢に変化があります。それを読み解けるかどうかがポイントです。
上記のような創造的な教育実践や、開かれた学校づくりで地域・保護者と結びつくことは教育産業にはできないことです。教育産業支配を乗り越える糸口は、こういった実践を積み重ねて、広げていくことにあるのだと思います。
3 講演者紹介
小池由美子(こいけ ゆみこ)先生
埼玉県立高校国語科教諭
著書に、『新しい高校教育をつくる 高校生のためにできること』、『学校評価と四者協議会—草加東高校の開かれた学校づくり』がある。(2018年6月23日現在のものです)
4 著書紹介
5 編集後記
この講演で教育産業と学校との関わりを再考することができました。多くの生徒は、小学校から高校までの12年間、学校のお世話になります。その環境の中でいかに学校らしい取り組みがなされているかが大切だと感じました。ともに学び合うことができるのは学校ならではの体験です。次期学習指導要領が現場で適切に使用されて欲しいと思います。(文責・編集 EDUPEDIA編集部 椎名愛)
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