『言葉の基礎基本とシンプル授業』吉永幸司先生【近畿教育実践のための教師塾】

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目次

1 はじめに

 本記事は、2018年2月3日(土)に行われた「近畿教育実践のための教師塾 第9回講座」内の吉永先生の講演の模様を編集・記事化したものです。

2 講演内容

「国語力は人間力」の面から国語科授業を考える。 

国語の勉強といえば

私が国語教育について、どのように考えてきたかという話をしていきます。まず若い先生方に聞きたいことがあります。1年間、授業をして、クラスの子どもを褒めるとしたらいくつ挙げることができますか。加えて、クラスで一緒に勉強をして一番印象に残ったことや自分が成長したところをテーマにして書かせたら、どんなことを書いてくれると思いますか。ここで子どもたちに書かせたことと先生の思っていることが合致すれば、嬉しいです。また先生が思ってもいなかったことを書いてくるかもしれない。
私はいつも卒業文集や思い出文集を書かせたときに子どもたちがどんなことを書いてくれるかなと楽しみにしています。そして、それぞれの子どもらしい作文ができて、その中に必ずでてくるのが、運動会、遠足、修学旅行などの学校行事です。国語の授業を毎日しているのに、子どもの心になかには国語の勉強は印象に残っていない。少し悔しいですね。
国語の授業だけの目標ではなく、「どうしたら子どもたちは言葉について考えてくれるのか。」という反省がでてきます。
 「国語の勉強といえば、何をすることか」本来、国語の勉強の目標は、言葉を使って自分の気持ちを適切に正確に使うということです。私は言葉について考えてくれてくれない子どもたちにとって、国語の勉強は授業の中で完結してしまい、授業を離れた日常生活では全く別のものになっているのではないかと考えています。つまり、「主語述語で話しなさい。挨拶をしっかりしなさい。自分でお話をしなさい、段落を考えて」と授業で教えていることが日常生活で出てこなかったら、国語を勉強したことはいつ使うのかということになります。このように考えると国語は、授業だけでは「いけないのかな」と思うようになりました。日常生活の言葉を良くしようと思ったら、授業の中でしっかり教えて、授業で習ったことが生活に役に立つようにしたいです。そうすれば、子どもの国語に対する意識が変わってくるのではないかなと思います。

 若い先生の最初の仕事で大事なこととは?

若い先生の最初の仕事はたくさんありますが、まず子どもの言うことをしっかり聞いてやることが大事です。「言いたいこと」をしっかり言えない子もいる。一方で、「言いたいこと」をしっかり言う子もいる。色んな子が教室にいます。そこで先生が一人一人全員に教えていくことは大変なので、お互いに「友達同士」で学ぶという姿勢が大事になります。「言いたいこと」をしっかり言えない子に対して周りの子がその子に声をかけたり手を差し伸べたりする。こういう環境が非常に大事です。そうなると子どもが教室にとって「宝」のように思えるようになる。国語の勉強はいわゆる人間そのものと関わってくるということになります。他の教科と少し違うのはその点で、先生の言っている言葉が実は子どもにとっての教科書になっているのです。教室で勉強したことを日常的にできるようにするには、授業でどうしたらいいのだろうかということを先生はしっかり考える必要があります。賢くなろうという強いエネルギーがないと出てきません。

 子どもたちに「国語の勉強をしているから、日常生活で丁寧な言葉で話しましょう」と指導をしたことがあります。子どもが「先生、何で丁寧語なのですか」と聞いてくるので、「教科書をみてごらんなさい。教科書は全部『です、ます』で書かれている。それを勉強しているのだから『です、ます』でやりましょう。」と私が言いました。教室で『です、ます』で話すと、1年生たちは言われた通りに、生徒同士のケンカでさえも『です、ます』でやるようになり、そのうちケンカ自体も起きなくなりました。
 
国語力は人間力、国語は人間を育てているのだ。」そういう目で毎日教室をみていると荒っぽい言葉が嫌になり、相手に分かるようにしゃべらないといけなくなる。そうすると相手の話をしっかり聞こうとする。勉強したことを生かすわけですから家に帰っても丁寧な言葉で話すようになる。そうすると家に帰ると子どもが変わって来たなと親が気づいてくれる。学校で勉強したことが家で胸張って言えるような勉強をさせてやってほしい。だんだんうちの子は賢くなってきたと、学校の勉強が家庭の話題になる。親の夢も膨らみ、「うちの子は将来良い子になるんじゃないか」話している間に私の良かったことが、友達の良かったことになる。クラスの良かったことに広がります。その時に内緒で親に「今日きっとこういうこと言うから褒めてあげてください」とメッセージを伝えると家庭との連携もできてくる。褒められるような話題を作るのに一番便利なのが、国語の授業である。

「国語の勉強は何ですか」と聞かれたときは、国語は人を好きになるための勉強であると言うようにしています。すなわち「友達が大好き!」となると国語の力があるということになる。例えば、教室の中に言葉の汚い子どもがいるとする。その時、「『アホ』と言ってはいけません」と注意するのも大事だが、教室で汚い言葉が出るということは、クラスの3分の1くらいの子どもは使ってると考えられます。たまたまその子だけが目についているというだけの話で、教室がそういう雰囲気になっているということです。その見えている子だけを叱るのではなく、根本から変えていかないといけない。何か出来事が起こってから後始末するのではものすごく大変なので、怒る前にしっかりと良い雰囲気を作っておく。特に新任の先生や若い先生はやっておくことが大事です。国語の授業は、低学年だったら週に2時間、高学年は毎日あります。「国語の勉強が楽しい」と思って、ランドセルに国語の教科書を詰めるのと、「今日も国語か嫌だな」というのと比べて朝の始まりからして違う。「毎日、子どもたちが賢くなるようなこと」をしてやって欲しいです。

 言葉の確かさ・豊かさと国語科の授業

学習に興味を持つのは新しいことを知るということです。しかし、国語の勉強には新しいことは他の教科と比べて少ないです。それをいかに新しいと感じさせるかは授業の仕方にかかっています。国語の授業は、日常に使っている言葉がいっぱいあります。それを授業の中で一つ一つ整理しながら、新しさを感じているということです。新しさを感じなかったら、先生が音読をし、視写をして教材の中に新しさを見つけるしかないです。例えば、音読をしていて国語の勉強が苦手だという子が「どのような読み方をするかな。」「新しい漢字出てきた、あの子読めるかな」と思い浮かべながら、こういう風に考えながら授業をすると授業すると、音読の際、子どもが新しくできるようになったこといち早く気づくことができるでしょう。視写は力入れて書かないといけません。力入れて書くのと、サラサラ書くのでは、生徒の気持ちの移り方が違ってきます。視写すると新しいものが見えてくる。読んでいるだけでは変わらない。何回も読んでいる先生でも新しさがあるのだから、まして初めて読んだ子どもは新しいことばかりです。国語の授業は「新しくないもの」を、いかに「新しさ感じさせる」ようなことをするのが大事です。そして、日常の貯えが授業参加の要になってくるため、国語の勉強は日常的に言葉に関心を持っている子どもと授業だけの子とは授業で学べる内容の密度が違います。

 言葉の基礎基本とシンプル授業

授業の指導面だけではなく、教材面での話をします。年度の初めに使う教材全文を書き、大事なところは、赤鉛筆で引いて、同じ言葉がでてきたらその言葉をつないで文末、同じ表現、あちこち矢印でつなげることを一度作ります。それをノートにすると巻物みたいに出来上がります。音読だったら自分で声をだし、時間を計る。黙読だったら何分かかるか。この作業をすると教材自体の見え方が変わってきます。

 授業改善の方向性(国語の授業改善を考える)

最後に国語の授業の改善の方向性として以下の3点があげたいと思います。

1.学習内容に新しいことを一ついれる。

一つ新しいことを入れようという気持ちであらかじめ用意することもあるし、授業の中で拾うこともある。ベテランの先生は授業の中で新しいことを一つ拾う。国語をすごく頑張っている子どもより違う考えをする子どもである「国語が嫌いな子ども」、「とんでもない発言をする子ども」が新しい要素を持っている。この子どもが教室の宝になっておもしろい授業になる。

2.言葉で考える活動をすることを繰り返す。

言葉で考える活動であるから、生徒に質問をして、答えを発言したら、どうしてそのように考えたのかを必ず考えるように指導する。そうすると子どもは考えるようになる。これを友だち同士言えるようになると良いです。

3.先生が「聴く耳」を持ち、生徒の発言の内容を聞き分けるようにする。

・子どもの発言を聞くときに二つに分けて聞くとわかりやすい
「抽象的な言葉でいう子」「具体的な話ができる子」それぞれ考え方の癖がある。抽象的な言葉で話す子には具体的に話をきいてあげましょう。分けて聞くようにすると子どもの言っていることにイライラしなくなります。
・比べることをキーワードに
友達と友達の発言について比べてみて、「教科書に書いてあることと書いてないこと」「私と友達」色々と比べてみると、子どもの思考力ができてくると思います。
・背景をわかりやく説明できる
低学年では2文、中学年では3文、高学年では4文で、会話をすることができることが分かりやすさの条件になります。。伝えたいことを一番最初に言うと、かなり意識した話し方ができるようになり、これらのポイントを意識すると授業での子どもたちの考え方がはっきり分かるようになります。

3 プロフィール

吉永幸司(よしながこうじ)先生
1940年生まれ。滋賀県長浜市出身。
 滋賀大学学芸学部卒業後、滋賀大学教育学部附属小学校教諭(26年間)、滋賀県大津市仰木の里小学校校長(3年間)などを経て、2001年に定年退職。退職後、京都女子大学教授/京都女子大学附属小学校校長(兼務)を務め、現在は京都女子大学講師(非常勤)。著書多数(2018年6月12日時点のものです)

4 編集後記

 国語の授業は、生活の基盤であり、「人間力」を育むという吉永先生のお話は非常に新鮮に感じました。その人間力を育むためにも、自分も日常生活で学校で学んだ国語の勉強は果たして生かされてきたか改めて考えさせられました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 竹内雅浩)

5 関連ページ

読書で育む「人間力」~国語授業と読書指導のポイント~(【教育技術×EDUPEDIA】スペシャル・インタビュー第11回 吉永幸司先生)
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