言葉に細やかに目を向けていくために~文集交流と「オノマトペ草子」作り~(山本賢一先生)

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目次

1 はじめに

大村はま最後の勤務校・東京都大田区立石川台中学校にて開催された「大村はま記念国語教育の会」平成29年度研究大会では、「いきいきとした言語生活者が育つ国語単元学習—大村はまの実践に学ぶ—」という研究主題で、実践研究発表やワークショップ、大村はまの教室で学んだ方々の鼎談などが行われました。
 本記事では、第一回大村はま奨励賞を受賞された、埼玉県川口市立戸塚北小学校教諭の山本賢一先生の「言葉に細やかに目を向けていくために~文集交流と『オノマトペ草子』作り~」という実践発表の資料、およびそれに基づく山本賢一先生へのインタビューを掲載しております。
 なお、大村はまの業績や著書などについては、以下の記事をご覧ください。

大村はまの業績「大村はま氏について~日本の国語教育のパイオニア」
  大村はまの教え子・苅谷夏子先生による「話し合い教育」
  大村はま・苅谷夏子・苅谷剛彦『教えることの復権』

2 実践報告「言葉に細やかに目を向けていくために~文集交流と『オノマトペ草子』作り~」

山本賢一先生の実践は、担任していた小学校4年生が、ロンドンの補習授業校に通う子どもたちと文集交流を始めたことが契機となり、子どもたちの「生き生きとした文章の表現力を育てたい」という思いが生じ、文章表現を豊かにするオノマトペの使い方を集めた「オノマトペ草子」を子どもたちと一緒に作成する活動が始まりました。文集やオノマトペ草子を作る際には、山本先生がさまざまな「てびき」を示して、子どもたちが書き出しやすいようにし、「文章を書く」体験をどんどん増やしていけるようにしています。
 実践報告は、こちらからご参照いただけます(pdfファイルが開きます)。ただし、資料に関しては子どもの作品も掲載されており、著作権の関係上、ご覧になることができませんのでご了承ください。

3 山本賢一先生へのインタビュー

Q.単元構想のきっかけを教えてください。

実践を行ったのは、平成26年度・27年度で、どちらの年も小学校4年生を担任していました。4年生の子どもたちは、日記を書いても毎回内容が同じようなものでした。「○○と~をしました」「楽しかったです」というように、説明文は書けるけれども、「自分がどのように感じたのか」「自分の切り口で場面を取り上げる」という文章表現ができないのです。もっと生き生きとした表現ができないだろうか、というのが実践の出発点ですね。どうしようかと思案していたとき、大村はま先生の教え子で、現在大村はま記念国語教育の会・事務局長の苅谷夏子先生から、「ロンドンにも大村はまの会が立ち上がったので交流してみたらどうか」とご提案頂きました。ロンドンには、在住する日本人の子ども向けに、日本の学習指導要領に基づいた国語(日本語)教育を行う「ロンドン補習授業校」(※平日は公立・私立の学校に通い、土曜日の午前中に補習授業校で日本語を学ぶ)が3校舎設置されています。ロンドン補習授業校の国語教育で、大村はま先生の「てびき」をもとに実践をしていらっしゃる河内知子先生にご協力を頂いて、当時担任をされていた小学校2年生の子どもたちとの「文章交流」が実現しました。
 一年目は3月の実施だったので、お互いが自分たちの生活を文章に起こしたものを送りあうだけの、一度の交流で終わってしまったのですが、子どもたちの方から「返事を書きたい」という声があがりました。その子どもたちが返事を書くことは叶いませんでしたが、次年度も交流する機会を頂き、私が担任した4年生と、河内先生が担任した2年生とが文章交流をしました。異学年交流にもなりますし、ふだんは英語を使いイギリスの文化の中で暮らしている子どもたちとの交流は、同じ日本人でも「異文化交流」になっているという点が、この実践のポイントだと思います。同じ日本人でも、暮らしている環境が違えば生活様式も違います。英語のオノマトペは日本でよく使われるものと違っており、感覚の違いに子どもたちも興味を惹かれていました。

Q.「オノマトペ」の魅力とは何でしょうか。

子ども自身は「読み手にとってのわかりやすさ」を求める傾向にありますが、教師としては「その子らしい表現や言葉遣い」があって、その子らしさを生き生きと表現してほしいと考えます。「その子らしい表現」があらわれるのが「オノマトペ」だと思うのです。小さい子どもは「オノマトペ」を日常的に使います。例えば子どもが「○○くんがビューンって来てダーンとなってバターンとした」という言い方をしたとします。それに対して、「伝わらないから、きちんとした言葉を使ってね」と指導をすることもあると思いますが、実際はオノマトペだけで状況は想像できるし、伝わることも多いです。むしろ状況がありありと伝わってくることもあります。フォーマルな場では使えないですが、子どもたちと一緒にオノマトペの魅力を考えることを通して、言葉の良さに気づけるような単元を構成しました。

「太陽の光がズンズンと飛び込んでくる」
 「ビシッと光が降り注ぐ」
 「キラキラ降り注ぐ」「ジリジリ降り注ぐ」

上の4つは、どれも日中の太陽の様子を表現しています。どれが優れた表現なのかという観点ではなく、「ズンズンって分かる気がする」「ジリジリというのは夏の日差しにピッタリ」「春になると日差しの感覚は変わる」など、言われればストンと腑に落ちる「共通の感覚」を培っていくことが必要だと思います。
 他にも「葉っぱが落ちる様子」が例に挙げられます。葉っぱが「カサリと落ちる」/「パサリと落ちる」という表現の違いについて、ある子が「『カサリ』は湿っている葉ではなく、乾いている葉っぱが地面に落ちたことを表し、『パサリ』は、もともと地面に葉っぱが沢山落ちていて、そこに別の葉っぱが落ちたという感覚」だと発言すると、別の子は違った感覚があると言うのです。
 このように、言葉によってイメージが膨らみ、実感を伴って表現することができます。表現の仕方は人によって異なり、表現ひとつで文章の見え方・魅力が変わるというのが分かってくると、子どもたちが色々な場面での表現に活かしていけると思っています。

Q.山本先生にとって「てびき」の意味や使い方は、どのように変化したのでしょうか。

「てびき」は、苦手な子への手助けをするものだと考えていましたが、「文章交流」を通して、「てびき」の認識が私の中で変わりました。できる子も「てびき」を使います。「あ!こういう表現あるんだ!面白そう!」といった、言葉の魅力に気づくことができるのです。また、オノマトペ草子を作成する過程で、「文章としてのわかりやすさ」だけではない、多様な「良さ」—「実感を伴っていて良い」「言葉の響きが良い」など—を取り入れていけるようになりました。
 こちらから、「文集交流」の作成および「オノマトペ草子」の作成のための「てびき」一例をご覧いただけます(pdfファイルが開きます)。

Q.「てびき」で方向性を示したことで、文章表現の能力が飛躍的にのびた子どもはいますか。

運動会の作文で、起こったできごとを時系列に沿って書くだけだった子が、「100m走のスタートの場面で緊張していた様子」から書くようになったときは驚きました。何気ない場面も書き残しておくことが文章を書く意味の1つなので、「何年か経つと忘れてしまうような小さなことでも、書いておこう」と声をかけると、書くのが苦手な子どもたちも「それで良いんだ」と思って、自分が思い描いていることを生き生きと書くようになります。それを踏まえて、「てびき」では作文の表現方法について、「時系列に沿って書く」だけでなく、「会話文から始める」「印象に残っているまさにその場面から始める」など、多様な手法を示しています。

Q.最後に、「文章を書く」「表現する」ことの魅力を教えてください。

話し言葉と書き言葉は異なるので、話し言葉をそのまま文章化すると変ですよね。自分の言葉をかなり整理しないと「書けない」わけです。その「整理する」過程が大事です。思うがままに書くのではなく、相手に伝わるような文章に整理していくうちに、「自分らしい表現」が加わっていく。「伝えたいこと」があるからこそ、自分らしく表現したくなり、表現することは楽しいことになります。そのためにも「伝えたい」と感じる瞬間に気づける心を育てていきたいと思っています。

4 山本賢一先生プロフィール

埼玉県川口市立戸塚北小学校教諭。
大村はま記念国語教育の会所属。
2016年、「知ろう『川口の私』『ロンドンのあなた』~自分らしく楽しく書き、お互いが育つ文集交流を目指して~」の実践研究で、第1回大村はま奨励賞を受賞。
大村国語教室の精神を受け継いだ、国語単元学習の実践を精力的に行っている。
(2018年8月時点のものです)

5 編集後記

子どもたちの「生き生きとした自分らしい表現がなかなかできない」という状況を変えることをきっかけとして、ロンドン補習授業校の子どもたちと交流するという意欲的な実践でした。実践発表の際は、子どもたちに配布した「てびき」や子どもたちの書いた文集をまとめた厚い資料が配布され、山本先生の熱意に圧倒されました。実践を通して、「『てびき』はできる子も使い、言葉の魅力に気づいてもっと成長していく」ことが分かったというエピソードからは、山本先生が実践を大切にし、常に良いものにアップデートしていこうという想いが伝わってきました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 山田駿亮)

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