子どものための哲学とはなにか~HP『p4c-japan』紹介~

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目次

1 はじめに

本記事は、大阪教育大学/武庫川女子大学 名誉教授であり、HP『p4c-japan』の運営者である桝形公也先生へのインタビューを基に、p4cについてご紹介します。

2 p4cの紹介

p4cとはなにか

p4c(ピーフォ—シー)とは子どもの哲学 philosophy for children のことで、頭文字からつくられた略称です。
哲学の活動に子どもたちといっしょに飛び込み、子どもに推論方法を身に着けてもらうことを目指したアプローチです。

p4cの目的

p4cは、身近なテーマや物語などを題材として、子どもたちが題材から見つけた問いについての考えを深めることを通して、論理的思考力を養うことで、子どもが民主主義社会において自立的な市民になることを目的としています。
また対話を通して、相手の発言の矛盾や不適格性を指摘することは、相手を批判・否定することではありません。むしろ相手が囚われている考えからの解放を手助けできる可能性があるので、最大の「ケア」となるのです。例えば、偏ったものの見方をしていると、友だちの考え方を受け入れられず、否定してしまうことでいじめの原因になるかもしれません。「本当にそうかな?」「ほかにもこんなことがあるんじゃない?」「その根拠はどこにあるの?」などを考えさせることができると、偏ったものの見方をメタ認知させてあげることができて、子ども自身が考え方を修正することができることになるでしょう。そうなると、クラスでいじめなんて起こりにくくなります。このようにp4cは論理的思考力を養うことが目的ですが、同時にケア的な役割も果たしてくれます。

p4cのやり方

1.輪になって座ります
まず、全員で輪になって座ります。教室では、机をどけて、イスだけで輪を作ってみましょう。輪をつくることで、お互いの様子を確認しながら話すことができるのです。また、みんなが平等に対話に参加できることを「輪」が保証してくれます。

2.みんなで問いを選びます
大切なのは子どもたちが問いを立て、先生が一方的に決めてしまわないことです。日頃から感じている疑問を全員で黒板に書き出して、一人一票の投票で問いを決めます。選ばれなかった問いも、次の時間に選ばれるかもしれないとコメントしておくのもいいでしょう。

3.コミュニティボールを使って対話
問いが決まったら、対話スタートです。コミュニティボールを持っている人が話し始めます。場合によっては、より深いところまで探求するための「哲学者の道具箱」を使って対話を進めていきます。もちろん、先生もボールを持っていないときには話せません。
※コミュニティボールとは、今話している人を可視化するために使うものです。
※「哲学者の道具箱」とは、さらに対話を深めるツールです。以下、ツールです。
以下のような言葉が書かれたカードを用意し、そのカードを示しながら質問します。

What do you mean?それってどういうこと?どういう意味?分からないことがあれば意味を確かめます。

Reasonなぜ?どうして?意見の背後にある理由を尋ねます。

Assumptionこの意見の根っこにはどんな考えがあるんだろう?一つ一つの考えがどんな前提や想定にもとづいているかを明らかにします。

Inferenceその考えはどこから来たの?過去の体験や考えからいろいろなアイディアが導かれていくプロセスに目を向けます。

Trueそれって本当?意見や考えが本当に正しいかを問い直します。

Example例えばこんな時があるよ……事例や証拠を探しながら、意見の正しさを示します

Counter-exampleでもさ……けどね……反例を示しながら、意見の正しさを問います。

哲学者の道具箱の力を借りることで、探求をより深いところまで進めることができるのです。

4.最後にふり返り
対話の最後にみんなでその日の対話を評価します。先生はいくつかの質問を投げかけます。「あなたは今日の対話に参加できましたか?」「この話し合いは興味深いものでしたか?」「対話は深まったと思いますか?」……etc そのそれぞれに全員で自分の思う評価を、親指を上げる/横にする/下げることで表現してもらいます。もちろん、親指が上がっていれば「とても」横になっていれば「まあまあ」下がっていれば「あんまり」ということです。

p4cをする時の教員の役割・注意点

教員は子どもの言っていることを整理してはいけません。教えたがる教師は子どもの思考力を奪います。なぜなら子どもの言っていることを教員がまとめると、子どもは「そうです」と肯定しかしなくなり、子どもの考える機会を奪ってしまうことになってしまうからです。話をまとめる必要がある時は、参加している子どもにまとめてもらうのいがいいと思います。
基本的に、教員は輪の中に入ったら、子どもと同じ立場になって、参加するのがよいと思います。教員の役割は、対話の場を設計することです。対話の場を設計するとは、コミュニティボールを作ったり、ルールを守らせたり、子どもの発言を促したりすることです。

3 p4c-japanについて

p4c-japanのサイトの使用法

p4cに必要な材料はすべてこのサイトに載っています。サイトの使い方は、どんなものを必要としているかによって変わります。p4cのやり方を知りたい人、成果を知りたい人、授業案を知りたい人、もっと勉強したい人などによって、サイトの使い方は変わります。p4cを実践してみて、困ったことがあったら、お問い合わせくださいましたら、サイトの運営者がご相談に乗らせていただきます。

4 プロフィール

桝形公也(ますがたきんや)
1947年、川崎市生まれ。京都大学文学研究科博士課程(倫理学専攻)を修了。大阪教育
大学及び武庫川女子大学名誉教授。大阪教育大学では2000年に総合的な学習の時間を担う
教員を養成する総合認識教育専攻の創設に関わる。2005年に退職して武庫川女子大学に就
職。2006年武庫川女子大学のアメリカ分校Mukogawa Fort Wright Institute副学長就任
。2012年帰任後、2013年武庫川女子大学退職。
 現在は専門のキェルケゴール研究とともに、子どものための哲学(Philosophy for
Children)の研究会p4c.japanの運営委員をして、主に現場の先生方とp4cの勉強会をして
いる。
 

5 著書紹介

論文に「「考え、議論する」道徳のための新しいアプローチ」(『キリスト教論集』第53号、桃山学院大学)など。

6 編集後記

今回取材させていただいて、一番私の中での驚きは、p4cは論理的思考力を養うだけではなく、ケア的な役割を果たしてくれる可能性があるということです。哲学的な問いについて対話していくことで、自分自身の思考が拡張されるというのは、日々実感することが多いのですが、同時に、ケアとなっていることを知ることができて、ますます哲学対話をしていきたいと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 村嶋章紀)

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