情報リテラシーと情報発信力を高める取り組み ~ICT Conference 2018 in 神奈川より~

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作成者:一色 凌 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、2018年10月6日に行われた「ICT Conference in 神奈川」の内容を記事化したものです。ICTについて高校生が考えるというワークショップの実践について、また高校生がICTについてどのようなことを考えているのか、といったことについて述べる記事となっています。

2 ICT Conference とは?

ICT Conferenceは、高校生が集ってICTに関するテーマをもとに議論し提言をまとめるイベントです。「初対面の人と議論して考えをまとめ伝える」「高校生が情報モラルについて深く考える」という2つのことを目的に行われています。2011年度に始まったこのイベントは8回目を迎え、今回は全国18か所での「熟議」、さらに各会場の代表が集まる「サミット」が行われました。さらに今後、サミットでの提言をまとめ関係府省庁に報告する「最終報告会」が行われる予定です。
熟議のテーマは2015年度から順に以下のようになっています。

  • 2015年度:第一部 「大人のルール&マナー」、第二部 「大人が作った子どものルール&マナーを考える」
  • 2016年度:ネットトラブル!どうする?【予防】と【対策】 ~トラブルに巻き込まれないために、巻き込まれたら~
  • 2017年度:高校生が考える心豊かな生活 ~ ICT×(家族・学校・地域)~
  • 2018年度:社会で活躍するためのICT活用法 ~18才成人化を控えて~

はじめはネットのルール・マナーなど「正しい使い方」を考えていましたが、次第に、ICTを正しく使えることは前提としてそれをどう活用するのか、というところをより重視するようになったことがうかがえます。
ネットをただ単に規制したり自重したりするのではなく、ルールやマナーを守りつつも積極的に活用できるように考えなければならなくなった、と言えるのではないでしょうか。

さて、今回は神奈川県横浜市で行われた「熟議」を取材してきました。

3 ICT講演

熟議のための前提知識を得るために、DeNAの西さんから講演がありました。その内容を紹介します。

DeNAはインターネット関連の事業を手広く繰り広げており、その中でスマホ依存や誹謗中傷などの問題とも向き合ってきたといいます。そういった立場から高校生に3つお願いしたいことがあるとおっしゃっていました。

誹謗中傷にはやり返さない

誹謗中傷に反撃するとどんどんエスカレートしていくケースが多いため放置しておくのがベストです。たとえ初めは被害者であったとしても反撃すれば加害者になってしまいます。学校の友達であれば、実際に対面して話をして仲直りするのが一番良い解決方法です。インターネットのサービスには「ブラックリスト」や「違反報告」といった不適切な発言を遮断したり運営者に報告したりするシステムが備わっていることが多く、それを利用してほしいのことです。例えばDeNAでは違反報告をすべてチェックしたりネットパトロールを実施したりしているとのことです。

個人が特定される情報を投稿しない

家からの景色や学校の制服など、些細な情報でも個人の特定につながりかねません。スマホなどの位置情報サービスをオンにしているとそのスマホからの投稿や画像を手掛かりに住所を特定されることもあります。住所を特定されるとストーカーや暴力に直結する可能性があり、気をつける必要があるとのことです。

顔を知らない人に会いに行かない

ネットでは容易になりすましができるので、相手の素性をネットから知ることはできないと言っていいでしょう。これに気を付けなければならないのは女性だけでなく男性も同様だと西さんは警鐘を鳴らします。

以上の3つはインターネット利用において非常に重要なことです。ネット上のやり取りは、相手が友人や家族であっても他の人が見ている可能性がありますし、一度してしまえば消し去ることもできません。スクリーンショットを撮られる可能性もありますし、サーバーにデータが残り続けることも考えられます。例えばDeNAでは投稿情報を保存しており、場合によっては一定の手続きのうえで警察に提供することもあるそうです。
インターネットは上記のような危険性もありますが、それでも西さんは、若い人たちはスマホをしっかり使いこなせるし、そんな世代は他にいないのだから、ルールやマナーに気をつけつつもスマホをもっと活用できるようにするべきだと訴えていました。

4 熟議

この講演を踏まえて、今回のテーマ「社会で活躍するためのICT活用法 ~18才成人化を控えて~」についての熟議が始まります。

まずは自己紹介。その中では、ICTに興味があるというよりもディスカッションに興味があるという生徒が多い印象を受けました。また今回が2度目の参加という生徒も見られました。ICTについて理解できると同時に、様々な場所で応用できるコミュニケーションスキルを身に着けられるイベントとしての価値も見出されているようでした。
自己紹介が終わったら、1つ5~6人の3つのグループに分かれて議論が始まります。出身校も学年も性別もバラバラな高校生が一つのグループになっているだけに午前中のアイスブレイクや議論では固さが見られましたが、昼休みに一緒に昼食をとるうちに次第に打ち解けてきて、午後の議論は一気に活発化しました。
議論の進め方や中心になる論点のサンプルは示されていますが、基本的には各グループの裁量に任されています。


このようにモデルとなる議論の進め方が示されています。

そこで、まずは各チームでファシリテーターが主導し、「成人する・大人になるとはどういうことか?」「日常生活でICTをどのように活用してるか?」など、身近なことや基本的なことから各自で考え、それをKJ法などを用いてまとめていきました。


このように付箋を用いて意見がまとめられています。

高校生がお互いの考え方を知ると、それを踏まえて議論はどんどん加速していきます。やがてファシリテーターの手を借りずに自分たちで議論を進めることができるようになってきました。

議論の中ではいくつも興味深い意見が出てきました。以下にその一部を紹介してみたいと思います。

  • 同じ機械(スマホ)で勉強、仕事、遊びができてしまうということに難しさがあると思う。
  • 機械を受け入れてちゃんと使えるようにできるかは、それに触れる機会がちゃんとあったかどうかで決まると思う。
  • 「社会に出て活躍する」とはどういうことなのかイメージがつかめていない。
  • 知識として「してはいけない」とわかっていても結局してしまう人はいるから、自分の経験や体験として考えるようにできればいい。

このほかにもまだまだ、高校生から鋭い意見が出ていました。じっくりと話し合えば高校生が持っている素晴らしい考えをたくさん引き出せることがよくわかります。また高校生が必要としていることとして、社会に出るとはどのようなことなのかというイメージを掴むことや、ICTをしっかり使えるようにする機会などがあるようにも思えました。

一方、ファシリテーターの方にもお話を伺いました。ファシリテーターは情報科学を学んでいる専門学生や過去にICT Conferenceに参加した大学生などが務めていました。
ファシリテーターとして最も難しいのは、「正解を教えてはいけない」けれども「議論の方向性がぶれないようにサポートしなければならない」ことだと言います。確かに今回のような難しいテーマでは、テーマから話がそれたり高校生が何も意見を出せなくなったりしてしまう危険性もあり、ファシリテーターの高い技術が要求されましたが、結果としては見事に成功していたという印象を受けました。

ワークショップの中では、ICT Conferenceに出席された総務省やDeNAの担当者の方から話を聞くことができるようになっていました。このようなワークショップではしばしば学生の専門知識の不足が議論の壁になることがありますが、ここでは学生がわからないことをすぐに質問できるようになっていて、そのことが議論を一層円滑にしているように見えました。

さて、自分たちで考えをまとめられたら、今度は各チームに一つずつ貸し出されたパソコンを使って、発表用スライドを自分たちで作っていきます。慣れないパワーポイントに悪戦苦闘しながらも、なんとか発表を完成させました。

5 グループ発表

熟議の結果まとまった提言をグループごとに発表していきます。

グループ1:「手ぶら社会」

このグループは何も持たずに外出できる社会の実現を提言しました。あらかじめ名前や顔などの個人情報を登録しておけば、現金もカードも身分証明書も持たずに、顔認証だけで買い物したり飛行機に乗ったりマンションのオートロックを解除できたりするというものです。メリットとしては貴重品を盗まれたりなくしたりする心配がないこと、デメリットとしては膨大なデータを処理・管理しなければならないこと、プライバシーの問題があることなどを挙げていました。これらを踏まえて、成長して顔がそこまで変化しなくなる成人の時期に顔認証システムに登録するということを提案しました。

グループ2:「生活に身近なICT」

このグループはまず熟議のテーマを構成していた「成人」という要素に注目しました。18歳成人化によって、学生のうちから契約などが可能になって責任が重くなるため、学校で契約などについて教えるべきだと提案しました。そのうえでICTが生活面での向上をもたらすとしました。まず医療においては健康状態のデータを広く収集し、患者の健康状態と照らし合わせてアドバイスができるとしました。また災害時には、交通機関が麻痺しても代わりの振替輸送や徒歩帰宅ルートをすぐに提示できるようにしたり、旅行先でも安心できるように全国版のハザードマップを作成したりできると提案しました。さらに、サイバー犯罪をすぐに探知したりウイルスが入ったメールを開く前に検知したりと犯罪抑止にも効果があると主張しました。そして、このようにICTは生活を向上させるが、それを使いこなすには知識が必要であり、これを学校で教えていくべきとしています。

グループ3:「これからとICT」

このグループは将来の社会とICTの関係を論じました。まず18歳成人化について、今の親世代は情報リテラシーについて知識が不十分なことがあり、若者に情報リテラシーについてしっかり教えることができないため、若者に対してそういった知識を提供する場を作るべきだとしました。その具体例として情報技術を自ら体験できる施設を提案しました。これはインターネットによって生じる問題を自分で体験することで情報リテラシーの重要性を自分の問題としてしっかり受け止められるようにする施設で、もちろんICTのメリットについて知ることもできる場所になっています。また、ICTが災害によってダメージを受けることに着目し、情報機器を手回し発電で維持したり高台に蓄電池を設置したりして地震や津波にも強いICT技術を確立することを提案しました。そして、政府や自治体に望むこととして、ICTのメリットやデメリットを肌で感じることのできる疑似体験施設の建設と都市機能の停止を防ぐ仕組みの確立を挙げていました。

6 編集後記

この取材で最も印象深かったことはやはり、高校生が率直な意見を出し合い素晴らしい発表を作り上げていたことです。今の高校生がどのようなことを考えているのかということをしっかり語ったり、またそういった意見をまとめて発表する力を養ったりする場を自分の目で見られたことはとても貴重な経験だったように思います。

一方、今後中等教育の場でどのようなことが要求されるのか、ということもおぼろげながら見えてきたように思います。まず生徒は自分の身の回りの問題についてしっかり考えるだけの力を持っていますから、それを引き出したり、さらにそれを教育に反映させたりする取り組みが必要であるように感じられました。また高校生はICTについての知識や、成人することや社会に出るということの具体的なイメージについて少し不足しているようなところもあるので、そこを学校がしっかりとカバーしてあげることも重要なように思いました。

高校生がICTについて考えるというイベントは他にもいくつか行われており、高校生の新鮮な意見が多く必要とされているということがうかがえます。この記事を読んでくださった先生方にも、ぜひこういったイベントを知っていただき、よければそこに生徒を送り出していただければ、と考えております。

編集・文責:EDUPEDIA編集部 一色凌

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