~各教科で主体的に学ぶ生徒を育てる~子どもをモチベートするスキル(Teacher’s School)

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年10月22日に開催されたイベント『~各教科で主体的に学ぶ生徒を育てる~子どもをモチベートする100のスキル』(主催:Teacher's Lab)の内容を編集・記事化したものです。

2 「主体的に学ぶ」という意味

子どもはやる気に満ちていますが、それは主体性と必ずしも一致するものではありません。
本日は「主体的に学ぶ」の定義をきちんと理解していただいた上で、なるべく具体的に、生徒を主体的にする仕掛けを考えていきたいと思います。

話を始める前に、みなさんが考える「主体的に学ぶ」の定義をお聞きしたいです。
ただし、「言われなくても学習する」という意味ではないというところだけ注意してください。

(以下参加者の意見です)

・興味関心を持って、他者と折り合いをつけながら自立した学習者になっていくこと。

・導入段階において、「やりたい」「知りたい」という想いから勉強を始めること。そしてそこで得たものを日常や自分の興味ある分野に活用していくこと。

・これを学んだら自分は何を得ることができるのかという、メリットを理解して学ぶこと。

 学びの要素

私の所属している、国際バカロレアのPYP(Primary Years Programme)では以下の4つが「学びの要素」として重要視されています。

1. 魅力的であること

やはり生徒にとってワクワクすることを何より大事にしたいですよね。

2. 自分と関係していること

例えば問題文を「○○君(クラスの生徒)がお買い物に行きました」とするだけでも、生徒は「先生が自分のために授業をしてくれている」と感じることができます。

小学校ではよく実践されているように思うのですが、中学高校と学年が上がるにつれて、生徒が「自分のために」やってくれていると感じる授業が少なくなっているのではないでしょうか。

3. 挑戦的であること

子どもはちょっとチャレンジングな方が燃えるんですよね。特に小学校2,3年生に対して「これ実は4年生の問題なんだよ」と言いながら問題を出すと、すごくやる気を出して取り組むんです。

4. 重要性

「なんでこれやるの」という生徒の疑問にきちんと答えることができない先生が多いように思います。私は以前社会人をやっていたこともあって、作文を書くのは「会社にはビジネス文書っていうのがあってね、それを上手に書けるとたくさん稼げるんだよ」などとはっきり言うこともあります。

生徒は「これって、いつどこでどう使うの?」ということをもっと知りたがっているようなので、できるだけ伝えるようにしています。

 まとめ

私は「主体的に学ぶ」を以下の図のように考えています。

1. やりたくなる

まずは、学校側としてやらなくてはいけないことをいかに生徒たちのwillに変えてあげるかが重要です。

例えば算数の「大きな数」では、1000本くらいの紙束を見せて「先生これなんかぐちゃぐちゃにしちゃってさ…助けてよ」とか言いながら生徒に1000の数え方を考えてもらったり。ちょっとしたことでもいいので「~しなさい」から「~やりたい」への変換が必要です。

2. 見通しを持てる

「この授業ってなにやるの」ということを生徒になるべく言わせないことが大事だと思っています。そのために、私は授業をプロジェクト化しています。

例えば「劇を1週間後つくるよ。じゃあ今日はこれ、明日はこれをやろう」というように順序立てて伝えることで、子どもは見通しを持てるようになり、課題に向けて自分から行動するようになります。

3. 支えてもらえる・教えてもらえる

試行錯誤のプロセスで生徒はつまずいてしまうこともあります。その時に生徒の「やりたい」を引き出し、見通しを持たせた上で支え教えることが大事だと思います。

4. 自分の達成を振り返えられる

この4つ全部がそろわないと「主体的な学び」はできないと私は思っています。
先生が課題の与え方を工夫することで、mustをwillにして、そしてcanにしていく。そうして子どもが達成感を得ることが理想です。

3 児童・生徒を主体的にするスキル

ここからは、先程示した「主体的な学び」の図のうち、3つの視点に基づいて、児童・生徒を主体的にするスキルについてご紹介します。

 1. やりたくなる

 ①大切なところを隠す

やっぱり隠すと知りたくなるので。物語文の重要な部分を隠したりしています。
何か大切なことを伝えるときは、1つ空欄を作るだけで印象付けることができます。

また、それを発展させて以下のような疑問作りのシートも作っています。

まずは、この□に言葉を入れてもらう。例えばロボットについての疑問をつくりたかったら「ロボット」をひたすら□にいれていきます。
次に、その中から1個気になる疑問を選んでもらう。その瞬間に先生側がやらせたいものが生徒のやりたいことに変わってるんですよね。

どのような疑問を立てるかが重要になってくる夏休みの自由研究で主に使っているのですが、作文を書いたり、授業の振り返りをするときなど、様々な場面で用いることができます。

 ②擬人化

特に小学生は大好きです。

算数であれば図形をゴレンジャーにしてみたり、英語であれば、関係副詞や比較級、最上級などを少し擬人化してみるのも面白いと思います。

 ③カルタ化

図形や地図記号など、細かい違いを気付かせたいときに使えます。

算数であれば、平行四辺形とひし形の違いを伝えるために自分たちで画用紙を切って遊ぶ。この2つの図形の見分けをつけるのは大人でも難しいのですが、カルタを使うことで楽しんで学ぶことができます。

 ④予想する

特に理科では予想が一番重要です。そしてその予想をちゃんと外してあげましょう。

小学3年生で出てくる日時計であれば、まず青鉛筆で予想で書いてもらう。そこから観察に入ると、大体外れます。
地理や歴史でも使えます。ある国に関するグラフや表を見せて、どこかを当ててもらうとか。その際に欠落したデータを見せて推理させるのもいいかもしれませんね。

先生は完成や正解をすぐ与えてしまいがちなので、あえて不十分さを持つ問題を提示することで、主体性を引き出せると思っています。

 ⑤ノート選手権

これは私が小学生の時に担任の先生がやってくれたものです。生徒がお互いのノートを見て、良いと思った部分にコメントを書いた付箋を貼ってあげます。Twitterでいいねを集めるイメージですね。

「ノートを綺麗に書きなさい」と言うのも言われるのも辛いものなので、「今日はこの子のノートのこういうところを真似してみよう」といったような言葉がけで、綺麗なノートづくりを促していきます。

やはり先生が一方的に教えるのではなく、みんなで知恵を出し合うというのが大事かなと思います。

 2. 見通しを持てる

私はこれをかなり意識して授業をしています。
例えば、みんなでプレゼンをやるときにこういったシートを作るんです。

右の表をプレゼンフォーマットとして生徒に配って記入してもらう。同時に左の表を前に投影しておくことで進捗を見せておく。それだけで生徒は「この班は遅れているな」「あの班は進んでていいなあ」と自分たちの状況を判断し、主体的に動くんです。これは手書きで黒板に書くだけでも大丈夫です。

あとは、ルーブリックの作成もいいと思います。

表のマスのすべての文言を先生が決めるのではありません。数個だけ埋めておいて、空欄の部分について「じゃあ資料作りのレベル2は何になるかな?」といった発問をして、生徒が自分で考えるような仕掛けをつくります。そこで「発言=コミット」を引き出していく。

これを単元の最初にやってしまいます。そうして「この授業では、どういう風に過ごすといいんだろう」ということを生徒と先生で共有していきます。

 3. 振り返り

最近私が気に入っているのが、マンダラートという手法です。

まず、個人でテーマに沿ってマスを埋めていきます(上図)。上の例では「しつぎおう答」に対して、その隣のマスに「たすけあってこたえる」「いろんなしつもんにこたえられるようにする」などが書かれています。特に小学生は空欄があると埋めたくなるので、大体1時間で80個くらいのマスを埋めることができます。その後先生が、ある言葉に対する各生徒の定義をエクセルに表にしてまとめます(下図)。それを使って授業の振り返りをしていきます。

マンダラートはどんなものにも応用することができ、英作文づくりや理科の実験で気を付けること等を考える際に使うのはもちろんのこと、論文を書く際に用いることでより論理的なものを作成することができると思います。

ここで出てきた生徒の発言は、そのまま通知表のコメントに使うことができますし、生徒の理解度を認識して次の授業づくりに活用することもできます。

 グループワーク

以上のことをふまえて、小中高生をやる気にさせるセリフをみなさんに教えてもらいたいです。自分が言われて嬉しいものでもいいですよ。

(以下参加者の意見です)

・○○さんに任せた     ・そんな見方があったんだね     ・先生はその考え思いつかなかった

・新しいね     ・助かった     ・ありがとう     ・そのアイディアいいね

・ファインプレー     ・同じ言葉を2回繰り返す(「書いてる、書いてる」)     ・そういう視点大事だよね

4 生産性という概念

先生方は生徒を主体的にさせようと、遅くまで学校に残って頑張りすぎてしまうことがあります。そうした状態では生徒を主体的にする前に疲れ果ててしまいます。

私が伝えたいのは、本当に子どものためになっているのかをまず考えましょうということです。やめるべき作業はありませんか?

例えば丸付け。私は国語の授業を漢字練習をさせたら次にグループワークやってもらうという構成にして、グループワークをしている間に丸付けを終わらせて時間内に生徒たちに返しています。そういった少しの工夫で早く帰れたりするので。なるべく負荷を下げて成果を挙げましょう。

また、職員室で「今日の授業上手くいった」という発言を耳にすることがあります。そういったとき、先生がクラス全体の雰囲気だけを見ているといったことはないでしょうか。
授業は1人1人の成長が肝です。私が振り返りを重要視しているのもそのためです。生徒1人1人が「何ができるようになったのか」というところへ目を向けることが、先生の責任だと思っています。それが生産性を考える上でも大事になってくるのではないでしょうか。

最終的に生徒が、先生がいないところでも自分から勉強するようにならないと意味がありません。そのために「問題設定→仮説→検証→振り返り」のサイクルを自分で回せるようになっていることが必要です。私が本日紹介したツールはすべてここに帰結しています。

今後は、先生側がルーブリックを提示しておくだけで生徒が動いていく状態にしたいと考えています。

5 プロフィール

 野口真五先生(開智望小学校教務主任)

曾祖父、祖父、父すべて教員の4代目。茨城県守谷にある私立小学校の教員。大学ではデンマークやフィンランドの教育システムを研究。キャリア教育や生涯学習に興味を持つ。

NPOカタリバに参加し、30校以上の高校へ行き、3000人以上の高校生と接する。
大学卒業後コンサルティング会社に入社。人材開発領域のプロジェクトに多数参加。新入社員育成やOJTの仕組み構築などを経験。その後独立し個人事業主としてネットショップ経営、個人コンサルティングなどを経験。通信教育で小学校教諭一種免許状を取得。

開智学園総合部に勤務後、開智望小学校開校準備室にて業務を行う。2018年4月現在は開校4年目を迎えた開智望小学校で教務主任と3年生主任を担当。
(2018年11月時点のものです)

6 Teacher's Schoolについて

Teacher’s Schoolは、下の3つの価値を大切にしながら、学校の先生と共に様々な社会資源を活用し「学びたい先生が主体的に学べる環境」「挑戦したい先生が自分のやりたい事に挑戦できる環境」の創造を目指しています。

Teacher's School 3つの価値

つくることで学ぶ「生成的な学び」
ふりかえることで学ぶ「内省的な学び」
つづけることで学ぶ「継続的な学び」
失敗を気にせず自由に試行錯誤して、自分の想いを「学び」のプログラムにすることができるのが特長です。

詳しくはこちら↓

HP:Teacher's LabFacebook

HP:Teacher’s School

Mail:info@teachers-lab.org

7 イベント情報

今回の講師・野口先生のTeacher's Labイベントが下記日程で開催されます。

詳細はこちらのFacebookページをご覧ください。

テーマ

 エッセンシャル思考で見直す学校の働き方改革
  〜来年からは定時に帰れる働き方で、子どもと接する時間を増やそう〜

日時

  2018年12月28日(金) 12:30~16:00

場所

  メトロポリタンプラザビル(東京都・豊島区)

8 編集後記

自分が小中高生であった頃にワクワクした授業を思い出しながら参加させていただきました。参加者には現役教員の方が多く、現場のリアルな声を聞くことができました。

今回出てきた主体的な学びを促す工夫は今すぐできるものばかりです。ぜひ明日からの授業で実践してみてはいかがでしょうか。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 粒來)

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