本物の対話を授業で実現するには~価値観・メタ認知が生まれる対話〜(Teacher’s school)

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目次

1 はじめに

本記事は、2018年11月26日に開催されたイベント『本物の対話を授業で実現するには~価値観・メタ認知が生まれる対話〜』(主催:Teacher's Lab)の内容を編集・記事化したものです。

2 前矢先生の実践

本イベントでは、最初に駒沢学園女子高等学校の前矢先生より、対話型の授業実践のご紹介がありました。

 〇対話型授業の重要性

前矢先生:私は対話を重視した授業を今までやってきました。教員と生徒が最もマクロな状態で対話をする場は、やはり授業だと思いますので、授業内での対話を大切にしています。

個別指導と一斉教授はよく比較されますが、対話型授業というのは、この2つがハイブリッドした授業ではないかと考えています。一斉教授の中で、生徒一人ひとりが自分の意見を深めていくことができるのが対話型授業だと思います。

 〇対話型授業の落とし穴

前矢先生:最近はアクティブ・ラーニングの手法が叫ばれるようになり、多くの学校で対話を取り入れた授業が行われています。しかし、ベテランの先生を中心に、対話型授業をすること自体がゴールになっている気がします。とりあえずペアワークやってみたり、とりあえずグループになってみたりなど、そのような手段自体が目的になっていることで授業がグダグダになってしまう現状にあるのではないでしょうか。

 〇対話型授業のゴール

前矢先生:私が対話型授業のゴールの達成基準におきたいのは、自分が教えた内容が生徒に伝わっているかどうか、ということです。自分が言った=伝わったと考えるのではなく、相手に伝わったかどうかをチェックするところまでやって初めて「対話」と言えると思います。

例えば、「明日〇〇を持ってきてね」と話して、そのあと全く別の話をした後に、「明日何持ってくるんだっけ?」と確認するだけで、対話になるのではないかと思います。実際に生徒に身についているのかを確認していけばいいと思います。

 〇対話型授業の手法

前矢先生:私は普段ペアワークをしてもらうようにしています。ペアだと必然的に話すことになりますし、意見交換が活発に行われるからです。まずはペアワークで積極的に議論してもらうことが大切です。ある程度の会話が終わったら、ペアをグループにしてさらに話し合わせます。

議論中、教師はバラエティー番組のMCのような感じで、机間巡視をしながらどんな意見が出たか聞いたり、面白い意見にコメントしたりします。

 野口先生のコメント

野口先生:前矢先生の授業の1番のポイントは、いかに生徒を参加させるかというところだと思います。これはかなり日本的な考え方ですが、次にインターナショナルスクールで先生をされている岩澤先生の実践をお聞きしたいと思います。

3 岩澤先生の実践

次に、インターナショナルスクールで先生をしていらっしゃる岩澤先生より、実践の紹介がありました。

岩澤先生:私が務める学校は、コミュニティスクールのような小さな学校で、生徒中心に授業を進めることを大切にしています。幼稚園の段階から、自分の話したい言語を話すところからスタートして、小学生になった後はもう少しアカデミックに授業を進めていきます。

 〇「対話」って何だろう?

岩澤先生:私は、「対話」と言われても案外パッと来ないのですが、みなさんはいかがでしょうか。外国の生徒も、あまりピンと来ないことが多いと思います。なぜかというと、日本で言われている「対話」というものを自然にやっているからです。

私の学校の教員は、私のようなバイリンガルの先生が多いのですが、先生方はみな、日本の生徒は対話をして、とお願いしてもなかなかできないことが多いと感じています。そのため、教員はどうやって日本の生徒を対話させるか、話しやすい環境を作るか、を意識して授業を作っています。

 〇対話型授業を作るためのポイント

 ①先生が話をあまりしすぎない

岩澤先生:基本中の基本かと思うのですが、先生が質問を投げかけて、その質問に対して生徒に話し合ってもらうだけの授業を心がけています。

 ②対話のルールを決める

岩澤先生:”I agree.”や”I disagree.”など、対話する際のフレーズを多く紹介するようにしています。そうでないと、生徒も話し合いの仕方が分からないのではないかと思います。

 ③先生がいなくても対話が生まれる環境づくり

岩澤先生:例えば、何も言わなくても生徒が机に向かうように指導したり、相手を思いやって発言することとはどういうことかを教えたりして、生徒間で自発的に対話が生まれるようにしています。

 〇フィッシュボウルディスカッション

岩澤先生:私は、対話型授業の一環としてフィッシュボウルディスカッション(※)を行いました。

※フィッシュボウルディスカッション
良い対話を深めつつ、その内容を参加者全員で共有するための方法論。立場の異なる参加者が、お互いの観点をよく理解し、傾聴することを促進できる。
(写真、文章引用:OUR FUTURES フィッシュボウル(Fishbowl)

中央に4人生徒がいて、周りには4人の対話を傾聴している生徒が複数います。対話のテーマは私が設定して行います。私がこのワークを導入した意図は、傾聴している生徒が、どのようにディスカッションが発展していくのかを理解してもらいたいということです。

対話している生徒にも、自分の意見を言う時には根拠がないといけないと指導しているので、生徒たちは"I agree because……"などの表現を使っています。

先生の役割としては、議論を活性化させるためにあえて生徒とは真逆の意見を言うことではないかと思います。生徒も、真新しい意見が出ると議論を楽しむようになります。

前矢先生:周りで聞いていた生徒はどのようなフィードバックをするんですか?

岩澤先生:フィッシュボウルディスカッションでは、本来なら対話の様子をメモさせるのですが、私はまず対話を聞くことが大切だと思うので、メモを取らせないようにしています。

 野口先生のコメント

野口先生:何か生徒にインプットさせるときに、「このあとそれに関する対話をします。」と指示しておくだけで、インプットの質は上がります。岩澤先生の話を聞いて、対話は、インプットの質を上げるための手段としても使えるのではないかと思いました。

また、生徒は対話をする中で相手がどんな意見なのかを理解しようとすると思うのですが、対話は相手を傾聴する練習にもなるのではないかと思います。

4 「対話型授業」の概要

次に、野口先生より「対話型授業」に関するお話がありました。

 〇なぜ対話型授業を取り入れるのか

野口先生:対話型授業を取り入れるメリットとしては、話し合いを通して新たな価値観や結論が出ることなのではないかと思います。そして、対話型授業の中での先生の役割は、生徒が気付いていない新たな論点を提示してあげることだと思います。

相手と話してみて、「あ、自分とは違う考え方もあったんだ!」と気付いたり、「自分の意見って本当に正しいのかな?」と考え直すようになったりすることが、生徒にとって大切なのではないでしょうか。対話は、自分の意見を深めるきっかけになります。

 〇対話的な学びを作るために

野口先生:対話的な学びのポイントは、自分の学びを広げたり深めたりすることができるかということです。そのため、先生は常にメタ的な視点を持ちながら、様々なトピック・テーマを結びつけて考え、対話型授業の中で生徒にフィードバックできるように準備することが大切です。

5 対話パート~いい先生とは?~

最後に、「いい先生とは何か?」というテーマで哲学対話を行いました。参加者からは、「生徒思いの先生がいい先生なのではないか。」「適度な距離感を保ちながら生徒と接する先生がいいと思う。」「自分は勉強の楽しさを教えてくれる先生がいい先生だったなと印象に残っている。」「子どもが好きな先生は理想だけれども、子どもが好きっていうのは危ない考え方かもしれない」など様々な意見が出て、活発な哲学対話となりました。

6 野口先生のプロフィール

 野口真五先生(開智望小学校教務主任)

曾祖父、祖父、父すべて教員の4代目。茨城県守谷にある私立小学校の教員。大学ではデンマークやフィンランドの教育システムを研究。キャリア教育や生涯学習に興味を持つ。

NPOカタリバに参加し、30校以上の高校へ行き、3000人以上の高校生と接する。
大学卒業後コンサルティング会社に入社。人材開発領域のプロジェクトに多数参加。新入社員育成やOJTの仕組み構築などを経験。その後独立し個人事業主としてネットショップ経営、個人コンサルティングなどを経験。通信教育で小学校教諭一種免許状を取得。

開智学園総合部に勤務後、開智望小学校開校準備室にて業務を行う。2018年4月現在は開校4年目を迎えた開智望小学校で教務主任と3年生主任を担当。
(2018年12月時点のものです)

7 Teacher's Schoolについて

Teacher’s Schoolは、下の3つの価値を大切にしながら、学校の先生と共に様々な社会資源を活用し「学びたい先生が主体的に学べる環境」「挑戦したい先生が自分のやりたい事に挑戦できる環境」の創造を目指しています。

Teacher's School 3つの価値

つくることで学ぶ「生成的な学び」
ふりかえることで学ぶ「内省的な学び」
つづけることで学ぶ「継続的な学び」
失敗を気にせず自由に試行錯誤して、自分の想いを「学び」のプログラムにすることができるのが特長です。

詳しくはこちら↓

HP:Teacher's LabFacebook

HP:Teacher’s School

Mail:info@teachers-lab.org

8 イベント情報

今回の講師・野口先生のTeacher's Labイベントが下記日程で開催されます。

詳細はこちらのFacebookページをご覧ください。

テーマ

 エッセンシャル思考で見直す学校の働き方改革
  〜来年からは定時に帰れる働き方で、子どもと接する時間を増やそう〜

日時

  2018年12月28日(金) 12:30~16:00

場所

  メトロポリタンプラザビル(東京都・豊島区)

9 編集後記

今回このイベントに参加して、対話的な授業が生徒の学びを広げたり深めたりすることにつながると知りました。主体的・対話的で深い学びが叫ばれている今、先生の役割はTeacherからFacilitatorに変わりつつあるのではないかと思いました。(取材・編集:EDUPEDIA編集部 大森友暁)

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