何をあきらめてもいいから、生きることだけはあきらめないで(【教育技術×EDUPEDIA】スペシャル・インタビュー第24回 本多正識先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたよしもとNSC講師・漫才作家 本多正識さんへのインタビューを記事化したものです。
 本多先生の新刊『笑おうね 生きようね~いじめられ体験を乗り越えて~』を通して、いじめを受けた子への声掛けや、学校現場はいじめとどう向き合うかなどについて、様々なお話をお伺いしました。
 『小一教育技術』~『小六教育技術』2/3月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
教育技術.net

2 インタビュー

笑おうね 生きようね

どのような想いでこのタイトルをつけられましたか?

今の日本では、残念ながらいじめが原因で自殺する子が多いです。あえて「いじめなんて」と言いますが、いじめなんて長い人生の中での100のうち1くらいでしかありません。残りの99は夢がいっぱいあるのに、その1の”いじめ”に囚われて自殺するのだけは辞めてほしいという想いを込めました。本を見ていただいて、「あ、違う道もあんねんな」と、今の世界がすべてではないということに思い至ってもらえたら万々歳です。
 私もいじめをうけたり、親から言葉の虐待の経験をしていて、17~25歳までは家と病院しか知らない青春でした。それでも自分は死ぬという選択をせずに、生きています。
 そして、漫才作家になりました。常識を裏切ることが仕事です。そのため、こんな真面目な本を書く機会がなく、文章には自信がありません。それでも、壮絶な経験をしていて、特に資格も学歴もないおっさんが頑張っているよということを伝えるために執筆しました。これができたのは命があったからです。だから、皆さんにも自分の命を大事にしてほしいです。

いじめられるという居場所

本書の中で、「いじめられているといじめっ子のことしか目に入らなくなる」と書かれていましたが、なぜその状態になると思いますか?

その子にとっていじめられている状態=自分の居場所を確保している状態なのかもしれないですね。ここに来たらいじめられるけれど、自分の居場所はあるというような。学校生活は閉鎖的なものですし、両親が好きだったら余計に申し訳なくていじめられていることを言えなくなると思います。過労で自殺してしまう人が「仕事をするか死ぬか」と選択肢が2つになってしまうように、「いじめられるか死ぬか」という選択を迫られているように感じてしまうのです。

先生ができること

いじめから子どもを守るにはどうすればいいでしょうか

私は素人なので、どうしてあげたらいいかは分かりません。ただ、かけてあげることのできる言葉は、「君はこの世の中に1人しかいない存在なんだから、自分を認めて、褒めてあげて」ということです。
 生徒は、「先生にどう見られているのだろう」と思っています。逆もそうだと思います。そして、先生も「子どもたちにどう見られているか」を思い切り意識してほしいと思います。生徒は一人ではないので大変とは思いますが、「俺はこの子たちからどう見られているのだろうか」ということを意識すると、言葉が変わってきます。あの子にこういう言い方をしたらきついのではないか。「あほぼけ」で、「ぼけ」では笑っているけれど「あほ」では落ち込むこともあります。つまり、この子にとっては「あほ」はNGワードなのです。NGワードは全員異なります。一人一人が全部違うということを意識してほしいです。

学校の評価を気にしてはいけません

学校の先生も、自分たちの学校からいじめが理由で転校する子がいたら、学校の評価が下がってしまうなんてことを気にしていてはいけないのです。一定のルールの中で生徒一人一人がどれだけ自由に生きていけるかが一番大事なんです。子どもの自由を守ってあげられない学校はなんの意味もないと思います。子どもの一人一人の個性の違いを認められない先生は情けないというか、歯がゆい気持ちになります。学校しか居場所がない子どもはたくさんいると思います。その居場所が辛かったら、子どもは本当に苦しいと思います。先生には、「自分がこうしたいから子どもにもしてほしい」ではなく、この子を助けるためにはどうしたらいいか、と考え方の主語を変えて見直してほしいです。子どもにとっては、先生や学校のことはどうでもいいことであって、今苦しい状況にある自分を助けてくれる人が神様なんです。目の前の子どものために、何が一番良い選択肢かを考えてほしいです。それはとても難しいことだと思いますが、そうしないと解決できないときもあると思います。色々なしがらみがあるのが、大人の世界というものなのでしょうね。よく学校の先生が「学校自治」という言葉を盾にすることがありますが、「学校自治」というものは幻想だと思います。先生方が守らなければならないのは学校ではなく、子どもたちですからね。子どもが第一であって、立場や学校の名誉などはどうでもいいんです。

親ができること

我が子の存在を認めてあげましょう

世界中で一人一人みんな違うということをまず認める必要があります。成績がいい、運動ができるなどはその次からです。「俺なんてどうしようもない」とよく聞きますが、自分がこの世界にいてもいいんだということを認めるのが大事です。まず存在しないと何も始まりません。これを親が教えてあげてほしいです。親が子どもに「Aくんはできるのになんであんたはできないの?」と言うことがありますが、それはその子がAくんではないから当たり前のことです。頑張るのは大事ですが、頑張った結果できなかったことは仕方がないことです。結果だけにとらわれずに、そこまでどれだけの努力をしたのか、そのプロセスを見てあげてもらいたいですね。

いじめの中にいる君へ

コミュニティを変えよう

少し横を見たら、違うコミュニティがあり、コミュニティを変えればその選択は変えられます。いじめられている子たちは、少し横を見たら違う世界があるということに気付いてほしいです。いじめを受けている子どもはいじめられている状態が全てになってしまっています。辛かったら学校に行く必要はないし、積極的に休めばいいのです。何も言わずに休んだら、親や周りの人は心配します。また、死ぬというとてつもない覚悟ができるのなら、周囲にいじめられていることを言うのはどうでしょうか。いじめっ子にとって一番怖いのは教師や親に「バレること」です。教師にも親にもバレるようにすれば、立場は逆転するでしょう。いじめっ子も、違う角度から見ると大したことがないかもしれません。いじめられっ子も、違う角度から見れば、ある一面はいじめっ子にとって脅威かもしれません。だからいじめられるのを我慢するという選択肢をやめてほしいと思います。

「みんな仲良くしましょう」は無理

本の中でも言っていますが、「みんな仲良くしましょう」は絶対に無理です。小学校で講演をするときに「みんな仲良くしましょうと言われたことがある人?」と聞くと、小学生はみんな元気に手を挙げます。しかし僕が「そんなの出来へんで」と言うと、子どもたちは「えー」と声をあげて驚きます。そこで僕が「でも嫌いなやつはおるやろ? 手は挙げへんでええで」と言うと、うなずいている子どもがいます。嫌いな子に積極的に自分から関わらないでいいと思います。でも、挨拶や伝言はちゃんとしようねと伝えます。それ以上は関わらなくていいのです。

最後に、全国の学校の先生と子どもたちに一言お願いします。

学校の先生はしっかり子どものことを見てあげてほしいです。子どもたちは自分が世界で唯一無二の存在であるということを自分で認めて、他の子と比べないでほしい。自分は自分ですからね。「君の人生の主人公は君自身」なんだということを忘れないでください!
 もしいじめられたら自分からいじめを受けているということを発信してほしいです。そして、子どもからそう言われたときに、気のせいじゃない? と否定するのは絶対にやめてほしいです。子どもが自分から発信するのはかなり勇気のいることで、大人たちは子どもの言うことを真剣に受け止めてほしいと思います。もし辛かったら子どもはぜひ親に言ってもらいたいです。言われた親御さんたちも「そんなことをいちいち気にしない」とか「そんなこともある」とか、簡単に片づけないで、真剣に受け止めてあげてください。自分の子どもが突然命を絶っていなくなってしまうより、何か言ってくれた方が絶対に親は嬉しいはずです。昨日まで元気だった自分の子どもが今日いないことほど辛いことはありません。両親のことが好きなのであれば、命を絶つという選択肢だけは絶対に捨ててほしいです。最初にも言いましたが、子どもには無限の可能性があります。これから先の人生にどんなチャンスが転がっているかわからないので、それに挑戦してほしいです。そのためにも絶対生きてほしいと思います。そして、命を絶とうとしている子どもには、「君はこの世界に一人しかいない。君の命は一つしかない」ということを理解してほしいです。「ひとりひとりが奇跡のひとり」なんだということを忘れないでほしいと思います。

3 本多先生プロフィール

本多正識(ほんだ まさのり)
漫才作家。よしもとクリエイティブ・エイジェンシーの養成所「NSC」講師。放送芸術学院講師。オール阪神・巨人の漫才台本をはじめとして、テレビ、ラジオ、新喜劇などで数多くの台本を執筆。NSCではこれまで、1万人以上の芸人志望生を指導。NHK連続テレビ小説『わろてんか』にて漫才指導。著書に、『吉本芸人に学ぶ生きる力』(扶桑社)、『芸人志願』(鉄人社)、『素顔の岡村隆史』(ヨシモトブックス)。大阪市高槻市出身。 (2018年12月27日時点)

4 著書紹介

5 編集後記

辛いこと悲しいことにとらわれずに笑って生きるすべをたくさん教えていただきました。本多先生のお話や著書はいじめはもちろん、あらゆる辛く悲しいことに立ち向かう勇気をくれる言葉がちりばめられていたと思います。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部樋上真子、瀬崎颯斗、加藤舞)

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