英語教員勉強会レポート〜学び続ける教師であるための取り組み〜

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年2月24日に早稲田大学にて開催された第9回英語教員勉強会の内容をご紹介したものです。

今回は、学習者の主体的な学習を重視するオートノミーという概念や、教育の研究方法の1つである探索的実践について学びました。

英語教員としての専門性を高めるための、学校現場以外の学びの場の一例として、このような機会があるのだと参考にしていただければ幸いです。

2 英語教員勉強会とは

英語教員勉強会(LCET: Learning Community of English Teachers)は、英語教員の専門性と授業の向上を目的とし、英語教育の理論やスキルの協同学習、授業実践の共有と省察、教育理念の構築の促進を行う勉強会です。

現役の英語教員にかぎらず、英語教員を目指す学生や英語教育を研究する大学院生などが参加しています。
詳しくはこちらをご覧ください。

それでは、以下に第9回英語教員勉強会の流れをご紹介いたします。

3 アイスブレイク作成

まず、参加者間の自己紹介とアイスブレイクを兼ねて、4人ほどの班に分かれて以下のタスクを行いました。

明日は高校一年生の新年度初めての授業です。生徒はお互いの顔と名前も知りません。10分程度のアイスブレイクをグループで一つ考えてください。

短い時間のタスクでしたが、多くの案が出され、参加者の方々の引き出しの多さに驚きました。以下に、出されたアイデアの一部をご紹介します。

  • 英語でコミュニケーションしながらクラス全員が誕生日順に一列を作る。
  • 英語の質問(例:Do you like dogs?)がそれぞれのマスに書かれたビンゴゲームの用紙を配り、生徒同士が教室を移動して英語で互いに質問しながら、”Yes”と答える人を探してビンゴを完成させる。
  • グループに分かれ、生徒が互いに3つずつ自己紹介をする(例:①I like dogs. ② I’m from Kagoshima. ③I have a sister.)。ただし、その中に1つだけ嘘の自己紹介を混ぜてもらい、相手はどれが嘘かを当てる。
  • グループに分かれ、ロールプレイングゲームのように、あらかじめ提示された武器の中から好きなものを選び、他のグループを倒すための方法や役割分担を考えて、英語で発表する。

どれも生徒に簡単な英語を話してもらうことができ、かつ初対面の生徒同士が話すきっかけを作れるように設計されており、とても参考になりました。

4 理論編 オートノミーとアドバイジング

続く理論編では、早稲田大学大学院教育学研究科の守屋亮さんが
“Promoting learner autonomy within and beyond the classroom: Insights from advising in English learning”と題して、学習者オートノミーという考え方とそれを育む取り組みとしての言語学習アドバイジングを紹介してくださいました。

オートノミーとは

英語学習に限らず、最適な学習方法というのは人によって様々です。目で見て覚えるのが得意な人もいれば、耳で聞いて覚えるのが得意な人もおり、両者の間では一番良い学習方法が異なります。しかし、物事を教える際、私たちは往々にして自らの経験に基づき、自らの学習方法を押し付けてしまいがちです。

そうした問題を超克する考え方が「学習者オートノミー」です。

学習者オートノミーとは「自分の学習に関する意思決定を自分で行うための能力」であり、学習の目的、目標やその具体的な中身を自分で選ぶ力です。この能力を育むことができれば、その人自身に最適な学習方法を、学習者自身が選択できることになります。学習者や学習環境が多様化する中で、こうした考え方の必要性が認識されるようになってきました。

学習者オートノミーの育成には学習者中心の教育が必要であり、そのためには教師は学習者の必要に応じて支援する立場を担うことができます。

言語学習アドバイジング

学習者オートノミーを育成するための取り組みの一つがアドバイジングです。アドバイジングとは、対話を重視し、学習者の能動的学習を促す支援活動です。教えたり、決めたり、評価したりということよりも、相手の話を聴きながらそれを繰り返したり、具体化したり、言い換えたりして学習者をサポートします。教師と生徒が1対1で行うものもあれば、学習者同士や、1人対複数で行うものもあります。

以下に言語アドバイジングの例を示します。

必要な能力

アドバイザーには様々な能力が求められますが、特に重要なのは以下の3つです。

判断を留保する能力
学習は長期的なスパンで考えなければならず、また状況も刻一刻と変化するため、1度のセッションですぐに結論を出すことは控えます。
話を聞く能力
ついつい喋りたくなってしまうのをこらえて、学習者が喋る機会を確保します。
選択肢を提供する能力
学習方法に王道は存在しないため、様々な選択肢を提示し、学習者が自分のやりたいものを選べるようにします。

明日からできること

いきなり学校の中でアドバイジングを取り入れることは難しいと言った場合でも、生徒と接する中で生徒の自律的な学習を支援することはできます。そうした日常の中でできる点をまとめました。

経験で相手を類型化しない
先生は生徒より多くの経験を積んでいて、それまでのパターンなどに生徒を当てはめて考えることもできます。しかし、学習者は多様であるという前提に立てば、自らの経験に基づいて学習者を類型化するのではなく、目の前の相手の話に耳を傾けることが望ましいです。
学習者に応じて介入のあり方を変える
苦手な子に限らず、得意な子も特有な悩みを抱えていることがあり、そうした子の話も聞くことが大切です。
リソースを把握する
先生が様々な学習方法・使うことのできるものを把握しておくことで、生徒に対して様々な選択肢を提示できます。
学習について話し合う機会を作る
なぜ英語を勉強しているかを確認し、勉強計画を立てて実行し、振り返って修正するというプロセスを学習者と共有しましょう。

5 実践編 探索的実践

実践編では、早稲田大学大学院教育学研究科の太原達朗さんが、
“An Introduction to Exploratory Practice: Integrating Participants’ Puzzles in Language Teaching”と題し、探索的実践についてご紹介くださいました。

探索的実践とは

探索的実践(exploratory practice, EP)とは、教育実践を研究する方法の一つで、「教員が無理せず続けられる範囲で、教室で起こっていることを理解しよう」ということを目標にしています。

教育実践の研究は、1980年代ごろから盛んに行われるようになりました。当初行われていた研究方法は科学的研究(scientific research, SR)と呼ばれ、自然科学的手法で一般的な法則を発見することを目標にしていました。しかし、厳密性を重視しすぎるきらいがあり、研究者と実践者が大きく乖離してしまうという問題点がありました。

それを踏まえ、1990年代ごろからアクションリサーチ(action research, AR)という手法が用いられるようになりました。この手法では、教室で実際に起きている問題と、それに対して行った介入の結果を記述していました。ところが、「教室には問題がある」という前提を認めることの精神的負担や、データの収集などの物理的負担が大きいという問題点を孕んでいました。

これら科学的研究とアクションリサーチの反省から生まれたのが、探索的実践です。ただでさえ忙しい先生がバーンアウトしないようにするために、統計などのリサーチスキルを求めず、無理のない方法で教室で起こった出来事を記述して振り返り、積み重ねていきます。例えば、授業の終わりに生徒にコメントシートを記入してもらい、振り返るというだけでも十分探索的実践と言えます。

教育研究においては、研究者が現場に実験の成果を押し付けたり、実践者が現場から遠い研究者を敬遠したりしてしまう可能性があります。こうした事態を避けるためにも、現職教員は探索的実践のようなアプローチを取ることができます。

手軽にできる探索的実践の一例

今回の勉強会でも、質問会議の形式で実際に簡単な探索的実践を行いました。
グループを作り、一人が今まで英語を教える上で直面した困難を発表しました。そして、周囲の人がそれに関する質問を行い、その質問を受けて発表者が自分の困難について振り返りました。

小さなことからコツコツと

科学的研究やアクションリサーチと違って、探索的実践の一つ一つの結果が教育法に大きな変化をもたらすというわけではありません。しかし、この営みを一人一人が無理のない形で続けていくことで、集合知が形成され、実践者が研究に関わっていけると思います。

6 編集後記

先生が集まる勉強会ってどのようなものなのだろう、と興味本位で参加した今回の勉強会でしたが、校種も地域も違う先生方が一堂に会して「英語教員の専門性」を高め合う場に身を置くことで、自分自身も学び続ける先生になりたい、ならねばならないという気持ちを新たにしました。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 横田)

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