主体的な学びを育む問いづくりセミナー~第2回 ハテナソンを体験してみよう~(ハテナソン共創ラボ 佐藤賢一氏)

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年3月30日に広島市で開催された第10回問い立てラボ「主体的な学びを育む問いづくりセミナー」~問いをもつ喜び、問いから始まる学び場に~の様子を取材し、編集したものです。

イベント当日は、NPO法人ハテナソン共創ラボ理事長の佐藤賢一氏による、問いづくりのワークショップとセミナーが行われました。

第2回では、実際にイベント参加者が体験したハテナソンのワークショップ部分をご紹介します。
 
他の記事はこちら↓
 
~第1回 ハテナソンとは?~
~第3回 ハテナソンの作り方~

2 体験ワーク

今回は、QFT(問いづくりのメソッド)のワークの前に、好奇心の喚起と前提知識の導入のためのワークが行われました。
 

体験ワーク①「私の人生のたな卸し」

ワークの内容


このワークは、上記のワークシートを使って行われました。
 
①自分の人生の振り返り
 まずは個人で1枚目のワークシートの質問に回答し、自分の人生を振り返りました。
 
②インタビュー
 次にペアを作り、2枚目のワークシートの質問を使ってお互いにインタビューを行いました。
 

ワークの解説「好奇心を持って聴く5つの選択肢と質問例」

 
佐藤氏:

このペアワークは、対人コミュニケーションのやり取りの中で自分から問いを発する体験をしてもらうために取り入れました。

相手の話の聞き方にはいろいろありますが、ここでは5つのパターンを紹介しています。

3つ目までは、状況や文脈によっては有効なこともありますが、好奇心を持って相手の話を聴くという点においては有効ではありません。

4つ目のように話の内容を理解することに焦点を当てると、かなり好奇心にあふれた質問をすることができます。これはコーチングや教師の役割をしている私たちにとって、とても大事なポイントかもしれません。相手の今置かれている状況について詳しく尋ねることを通して、「どうしてそんなことになったんだろうね」というように出来事に焦点を当ててアドバイスすることができるのです。

また5つ目のように話し手と聞き手の両方に焦点を当てると、「あなたと私で力を合わせればどんなことができるでしょうか」という好奇心にあふれ開かれた質問をすることができます。これは2人で物事を作っていくという態度を表明するのに向いている質問で、特に交渉や問題解決の場面で有効です。
 

体験ワーク②「問い重ね」


 

  

ワークの内容

 
①「はじめの問い」づくり

まずは体験ワーク①を経て出てきた、自分にとってのこれからの人生における課題や疑問を疑問文の形で表現します。これを「はじめの問い」とします。
(例:自分がもっと自信を持って生きていくにはどうすればよいか?)
 
②問い重ね

次に再びペアを作り、相手の「はじめの問い」に対する問いをお互いに書き並べます。
(例:自信を持つとはどういうこと?)
 
③意見交換

最後にペアの相手にその問いを共有し、お互いに意見交換をします。

  

ワークの解説「“問い”にはどのようなものがあるでしょう?」

 
佐藤氏:

このワークは、問いづくりの前提知識を体験的に学んでもらうために行いました。

通常、学校の生徒たちは教師が立てた問いの答えを正確にスピーディーにはじき出すトレーニングを積んでいる一方で、生徒自身の疑問から出発して学ぶ機会はなかなか無いのではないかと思います。この状況から脱出し、生徒自身が問う側にもなるというマインドシフトと具体的なアクションを促すためにこのワークシートを用意しています。

問いにはいろいろな種類があるので、今回はその一例をご紹介します。以下の内容は「考えるとはどういうことか(著:梶谷 真司)」という本から引用しています。
A:◯◯とは何か? ◯◯とはどういうことか?
 言葉の意味を尋ねるような問い。英語でいえばWhatの質問です。
B:なぜ◯◯なのか? なぜ◯◯と言うのか?
 理由を尋ねる問い。英語でいえばWhyの質問です。
C:たとえば(具体的に)どういうことか?
 具体的にはどういうことか尋ねる問い。自分の知っていることと紐づけるための質問です。
D:そうでない場合はないか? 別の可能性はないか?
 与えられた前提に対して疑う選択肢はないか聞くような問い。
E:◯◯と△△はどのように関係しているか?
 ◯◯であると、△△ということになるのか?
 2つ以上の要素があるときに関係性を尋ねる問い。
F:◯◯と△△はどのように違うのか?
 2つ以上の要素があるときにその違いや同じ部分を尋ねたり、どのような関連性があるのかを尋ねる問い。
G:要するにどういうことか?
 まとめる問い。
H:本当にそうだろうか?
 前提そのものを疑う問い。
I:5W1H
 
 
さらに、時間と空間を移動する質問もあります。

過去、未来、現在について尋ねる、時間軸をもとにした問いや、自分の視点、他人の視点、他の場所など、空間を移動する問いが考えられます。さらに同じテーマの問いでも大小や抽象度の違いがあります。

問いの類型を前提知識として持っていると、実は問いは頭を悩ませて作るものではないかもしれないと思えてきます。つまり、テーマがあればそこからある意味機械的に問いを立てることが可能だと考えられます。

 

体験ワーク③「QFT」

ワークの前準備「哲学対話のルール」

 
佐藤氏:

質問を豊かに出し合いたくても、質問の良し悪しという価値判断が大前提になってしまっていると、沈黙が良いとされてしまいます。

頭の良い人は「バカと思われるのが嫌だから言わないでおこう」と考え、バカだと抑圧されている人は「また抑圧されるのが嫌だから言わないでおこう」と考え、どんな立場の人からも質問が出にくくなってしまうのです。

実は日本だけでなくアメリカでも同じような状況になっています。学校教育の文化が行き届くことで逆に質問しにくい文化が育まれてしまうという、先進国の課題だと感じています。

このスライドも、先ほどと同じ「考えるとはどういうことか(著:梶谷 真司)」から引用しています。

私がこの中で特に気に入っているのは「分からなくなってもいい」というところです。考えているとどうしても最適解を求めがちですが、そんな中で「分からなくてもいい」というのは救いですよね。これが学びの姿勢だと思います。

私はこの9番目に、「1つでもいいから自分の問いを立てよう」という項目を付け加えたいと思います。

 

ワークの内容

 
①「質問の焦点」の共有

SDGsの17のゴールとそのロゴデザインや概要を示した資料が全員に配布され、これをもとに質問を作るように指示がありました。この資料に関することであればどんな質問でも構わないとのことでした。
 
 
②質問を出し合う

4人一組のグループに分かれて、各グループ内で質問を出していきます。そのときに提示された質問出しのルールは以下の4つです。
1.たくさん質問する→質問シートに書く
2.話し合い、評価、回答は禁止。
3.質問は発言の通りに書く。
4.意見や主張は疑問文に直す。
 
 
③質問を分類・変換する

各グループで出した質問を「開いた質問」と「閉じた質問」に分類します。
「閉じた質問」とは「はい/いいえ」で答えられる質問や明確に答えられる質問、「開いた質問」とは何かしらの説明が必要な質問です。たとえば「今日は何曜日ですか」という質問は閉じた質問です。

次に、開いた質問と閉じた質問のメリットとデメリットを各グループで考えました。これを通して
「閉じた質問は明確な答えが得やすいが、その背景にあることが分からない」
「開いた質問は背景が分かるが、色々な理由があり一貫性を見つけにくい」
といったそれぞれの質問の特徴を確認しました。

さらに、閉じた質問を開いた質問に、開いた質問を閉じた質問に変換するワークを行いました。1個の質問を材料にこの変換を繰り返すと、自分が何を知りたいのか、何を外してはならないのかを明確にすることができるそうです。
 
 
④優先順位をつける

まず他のグループが作った質問を見て、その中で大事な質問を3つずつ選んで印をつけていき、その次に自分たちが作った質問から大事な質問を3つ選んで紙に書き出すワークを行いました。他のグループから質問を盗んだり、質問を融合したり、新たな質問を作っても良いそうです。
 
⑤質問を見直す/答えを探る
 
問1 何を、どのような順番でおこないましたか?
問2 どのようなことを新たに学びましたか?
問3 今日おこなったことで、よかったことはなんですか?
問4 面白いことや楽しいことを新たに見つけられましたか?
問5 それは、あなたのこれからの学びに役立ちそうですか?
問6 意見や感想など自由に書いてください。

佐藤氏:

この振り返りは、教師にとってのフィードバックとしてはもちろん、生徒のメタ認知を涵養する取り組みとして重要です。

問1は学んだ内容やプロセスを振り返るための質問です。

問3や問4は、取り組んだことの中からポジティブな面を自分で言語化して自分の今後につなげる、というねらいがあります。

問5は「新しい知識が増えたからレポートが書けそうだ」「こういう学び方があると分かったので一人でもやっていきたい」というように、何か自分のアクションに紐づけるような言葉を探してもらいます。

QFTを学び始めて間もないうちは、できればこのように丁寧に振り返りを言語化する時間をとるのが望ましいと思います。

 

体験ワーク④「アクションプラン」

 
佐藤氏:

このワークシートは、体験ワーク③でできた問いについてのアクションプランを考えるためのものです。上の欄から順に説明します。
 
①問い/仮説

この欄には大事な問いを書き込みます。これはグループの中で3つに絞り込んだものを1枚に1つずつ書くやり方、さらにグループの中で1つに絞ったうえでそれを書くやり方、教室のみんなで投票して質問を1つに絞り込み、その質問に対して全員が取り組むというやり方もあります。それぞれに掘り下げがいがあります。

そして可能であれば、問いと合わせて仮説を書いておきます。仮説が言語化できていると、問いについて掘り下げていくためにどんな情報や行動が必要になるかをイメージするうえで非常に役に立ちます。つまり、問いの答えを見つけるということは仮説の検証をするということでもあるのです。
 
②テーマ/目標

この欄の内容は基本的に教師側が決めておきます。あらかじめテーマが書かれているワークシートを配っても良いかもしれません。

「この単元での学びを掘り下げる」「研究テーマをみんなで絞り込む」など、このワークや授業がそもそも何のためにあるのかという大前提を共有し、自分たちのやっていることがその前提からずれていないかを確認できるようにするねらいがあります。
 
③必要な“知るべきこと”/必要な“行動”

テーマや目標を確認したうえで生徒が取り組むのが、必要な情報とそれを得るために必要な行動を洗い出す作業です。この2つの要素を私は素材と呼んでいます。まず個人単位で素材を書き出したあと、グループの中で情報交換してもらいます。このグループは同じテーマで作ることもあれば違うテーマで集まることもあります。さらにグループ間シェアも行い、どんな課題でどんな素材が出てきたかということを研究してもらいます。

その後、再び個人ワークに戻ってもらいます。

今度は素材の中からタスクを絞り込みます。つまりこれまで出してきた素材を組み合わせて、「◯◯を調べるために図書館に行く」「◯◯を明らかにするために、△△の人にアポを取ってインタビューを取る」「◯◯を明確にするために△△の実験を行う」というふうに、自分のすることを決めてもらいます。
 
④中心となる、または付随する成果物

これは教師側から期待するものを書いても良いですし、生徒自身がテーマや目標に寄り添った形であらかじめ手に入れたいものを想定しておいて、そのために役立っているかどうかを検証するための記入欄として活用することもできます。
 
⑤わたしのコミットメント

ここには、今日や数日中にこのタスクを完了するために何をするかということを書いてもらい、これをグループや全体の前で話してもらうことにしています。

これによって自分のアクションに対する意識や責任が生まれることをねらいとしています。
 

立てた問いを実際に活用するには、個人のレベルで具体的なアクションにまで落とし込んでその問いと向き合うのが基本です。そのうえで、グループ内、教室内からいろんなアイデアをもらうということももちろん有効だと思います。

こういったワークを通して、新しい引き出しとして自分での学び方を手に入れてもらうということも、どんなテーマで行うにせよ大事なことではないかと考えています。

  

3 プロフィール

佐藤賢一氏
京都産業大学総合生命科学部 生命システム学科 教授      
専門分野:生命科学

 

4 他の記事

 
~第1回 ハテナソンとは?~
~第3回 ハテナソンの作り方~
 

5 編集後記

かなり長時間のセミナーでしたが、ワークを体験していると時間が過ぎるのがあっという間でした。「生徒の問いから出発する学び」によって、学校の授業はもっと楽しくなるのではないかとワクワクしました。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽)

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