SDGsの観点で社会科授業~ファッションで世界が見える!?~(小6社会科「世界の未来と日本の役割」)

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年4月27日に広島市で開催された第11回問い立てラボの様子を取材し、編集したものです。

今回ご紹介するのは、広島市公立小学校教諭の野元祥太郎先生がSDGsの観点で取り組んだ社会科の授業についての実践報告の部分です。野元先生の解説と実際の授業の内容を併せてお伝えします。

2 用語解説

 
SDGs(Sustainable Development Goals)…持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。
外務省HPから引用)
 
ESD…ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されています。

今、世界には環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な問題があります。ESDとは、これらの現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動です。

つまり、ESDは持続可能な社会づくりの担い手を育む教育です。
文科省HPから引用)

3 授業について(野元先生)

今回は小学6年生の社会科の「世界の未来と日本の役割」の単元の授業をご紹介します。

この単元では飢餓や紛争、環境破壊や労働者の権利などの幅広い内容を扱うのですが、学年の一番最後の単元なので、普通に進めていると時間が足りずパッと終わってしまいます。しかしそれはとてももったいないことですし、ESDといえばこの単元が最も適していると考えたので、今回はこのような授業を実践しました。

この授業では、「エシカルファッション」というものをテーマに選びました。「エシカル」というのは、簡単に言うと環境や動物、人に配慮されたものづくりのことで、フェアトレードやオーガニック、地産地消の考え方などが含まれています。ファッションに限らず、この「エシカル」という考え方は様々な分野で広がっているそうです。

そして、エシカルファッションの中でも今回は「世界一透明なパンツ」という商品を教材に選びました。「世界一透明なパンツ」は大学生が起業したOne Novaという会社で作られている商品で、彼らの「衣服に関する課題や消費観について考えてほしい」という想いから、原価や生産地、生産過程などの情報がすべて公開されています。

 
※(上)商品のパンツ/(下)パンツの生産過程。ともにOne Novaのサイトより引用。

彼らがこのような想いを持つようになったのは、衣服に関する問題を描いた映画、「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション真の代償」を見たことがきっかけだったそうです。この映画では、海外で服がペーパータオルよりも安くなっていること、服がたくさん捨てられていること、使い終わった服がたくさん途上国に送られて溜まっていること、服を作るために工場から流れ出ている物質が環境を汚染したり人体に悪影響を及ぼしていたりして、皮膚病を患っている人もいることが描かれています。

「世界一透明なパンツ」の説明を聞いて、子どもたちは率直に「なんで原価や生産過程を全部見せるの?」と問いました。この問いから、子どもたちと一緒に海外で起こっている様々な問題について考えたのが今回の授業です。

4 授業の流れ

①透明なパンツの「透明さ」について考える

最初に先生が「透明なパンツ」という商品名を紹介して子どもたちの関心を引いた後、実際にパンツを見せながら色が透明なわけではないことを確認しました。先生が、パンツの値段は3500円だと伝えると、子どもたちからは「高っ!」という声が上がりました。

色が透明ではないなら、何が透明なんだろう?」と先生が問いかけ、子どもたちに班ごとに話し合わせると、「暖かくなったら透明になる!」「濡れたら透明になる!」という意見が出てきます。どうしてもパンツを透けさせたい子どもたち。

そこで先生が、パンツに同梱されている紙を子どもたちに見せました。この紙には、パンツの原価や生産地、生産過程などの情報が載っています。子どもたちは班ごとに紙を眺め、
「普通のパンツはどこで作ったかとかが分からないけど、このパンツは原価とか工程とかが書いてある」
「工場の名前も分かる」
「情報を隠さない」
と、分かったことを発表しました。

 

②学習課題について予想する

ここで、先生がOne Novaの大学生のことを紹介し、この授業の学習課題である「なぜOne Novaの大学生は『パンツが出来上がるまでの過程』をすべて透明にしたのだろうか」という問いを投げかけます。

子どもたちは、これまでの単元で習った「食品」「安全」といった内容を思い出しながら、「商品を安全に買いたいから」と予想しました。

 

③映画「ザ・トゥルー・コスト」を見て、One Novaの大学生が伝えたかったことについて考える

One Novaの大学生が問題意識を持つきっかけになった映画の一部を子どもたちに見せて、衣服に関して海外で様々な問題が起こっている現実を一緒に確認すると、多くの子どもが「ああ、なるほど」とつぶやきました。

 

④インタビュー動画を見て、自分たちの考えと比較して考える

それをふまえて、「結局大学生の彼らは何が伝えたかったのかな」ということを、ご本人のインタビュー映像(なんと先生が東京に行った際にご自身で撮影したそうです)を見て確認しました。

映像では、世界の現状を知ったことで人や環境にやさしいものづくりに興味を持ったことや、商品を届けるからには嘘をつかずに良いものを作りたい、だからこそどこでどのように作られてあなたの手元に届いたかを伝えたい、といった作り手としての想いが語られていました。

 

⑤振り返り

以下は、授業後に子どもたちから出てきた感想です。
 
・服のむだづかいで苦しむ人を減らしてほしい。お金の使い道や物を大切に使うことを考えてほしい。
・どんな素材を使っているかを知ったら買ったあと捨てられたりすることがなくなる。
・外国ではひどいことになっているので、日本でつくって、もっとものを大切にする。
・すべて情報を公開することで、何もわからずに買おうとする人がいなくなり、すぐに捨てることにならない。
・情報を伝えることでいろいろな良さが分かり、その商品のよさが分かる→よさを知ることで服に対する見方が変わる。
・きれいにすれば長持ちする。品質がわかれば捨てなくていい。物を粗末に使わないでほしい。憲法では、国民が最低限度の生活を送ることができるから、自分たちのせいで犠牲になっている人がいるから、大切につかってほしい。
・服で環境や生活が変わるし、服の素材などを見ずに買ってしまうと、いろんな服がぜんぜん使われないこと。

5 指導案


 
Wordファイルはこちらからダウンロードできます。

6 授業の課題(野元先生)

 
・時数の問題
小学校の最終単元であることもあり、卒業式の練習などで時間が無い中大慌てでやったのが実情です。
 
・活かすのが難しい
子どもたちの感想の中に、「自分でできること」が思ったよりも出てきませんでした。ESDに取り組む中で、自分でできることについて考えさせる時間はやはり必要だったのではないかと思います。
 
・映画とのレベルのギャップ
外国語の映画だったこともあり、小学生にとっては難しかったのではないかという技術的な課題もありました。
 
・SDGsの言葉や概念を使っていない
今回は12番の「つくる責任 つかう責任」の項目に焦点を当てた授業になっていますが、SDGsの考え方をどのように小学生に伝えていくかということが今後の課題だと思います。
 
・評価が難しい
SDGsの授業について、良かったこと・悪かったこと・何が足りなかったかを自分で評価するのが難しかったので、ぜひそういうところを教えていただきたいなと思います。
 
・体験的な活動
たとえば、ユニクロでは不要になった服を集めて途上国に送る活動をしています。このような体験を授業と一緒に行うことで、より単元に膨らみがでるのではないかと考えています。

7 授業で目指していること(野元先生)

私の学校では「たいが泳ぐ授業づくり」を合言葉に、「『考えたい』『調べたい』『わかりたい』と思える問いが児童に生まれるような授業づくり」を目指しています。

最終目標は自分で問いが立てられる子どもの育成だと思うのですが、日々の授業ではまず子どもたちの中に問いが生まれるようにすることを意識しています。

「たい」には次の2つの段階があります。
(参考文献:正木孝昌(2007)『受動から能動へ~算数科二段階授業を求めて~』)
 
①受動的なたい…教師から問題を与えられ解こうとする段階
算数の問題で子どもの名前を出したり、実物を見せたりすることで、確かに子どもたちは「やりたい」と思います。ただ、それだけでは、まだ不十分です。私は社会科を専門とするので、よく実物を用意しますが、授業が進むにつれて目が死んでいく子どもをよく見ます。ここから脱却したいと考えています。
 
②能動的なたい…自分たちのやりたい(わかりたい)(知りたい)ことを見出し、自分の意志で歩き始める段階
授業の内容にかかわる本質を「知りたい」「わかりたい」という願いこそが、授業づくりにおいて重要だと考えています。そのためには子どもの中に問いが立つことが不可欠です。子どもの中に問いが立って「やりたい」「わかりたい」と思えるような授業づくりを大切にしています。

8 プロフィール

野元祥太郎(のもと しょうたろう)先生

鹿児島県出身。広島大学を卒業後、広島市の公立小学校で勤務。学生時代より平和教育に関心があり、平和教育やESDの授業実践のあり方について考えている。
(2019年4月27日時点)

9 編集後記

子どもの中に自然に問いが生まれるような導入や、問いを持って映画を見る流れなど、たくさんの工夫がされていて、話を聞いているだけでワクワクするような授業でした。課題に対して実際にアクションを起こしている人を題材にすることで、様々な課題をより自分ごととして捉えられるのだと実感しました。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽)

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