自閉症スペクトラム症の児童が不登校を脱した事例のご紹介(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の許可をいただき、実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。本記事では、「不登校であった自閉症スペクトラム症の小学2年生の児童が楽しく学校生活を送るための取組」 に掲載されている事例をご紹介します。合理的配慮が必要な児童への対応にお悩みの先生方、ぜひご一読ください。

<事例の概要>

自閉症スペクトラム症を有するA児はB小学校の2年生で、自閉症・情緒障害学級に在籍しています。A児は、はじめはC小学校の通常の学級に入学しましたがうまく馴染めず、小学1年生の2学期頃から登校できなくなり、1月にB小学校の特別支援学級に転入しました。転入にあたって、保護者はB小学校に相談し、A児のこだわりへの配慮等について希望しました。そこで、B小学校では全職員での研修を行い、A児への対応についての共通理解を図りました。また、 A児が1日の見通しをもてるように、1時間目を国語に固定し、個別の指導を行っています。これらの対応により、A児は学校で終日過ごせるようになってきました。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
自閉症の子の意欲を引き出す①(岡篤先生)
テーブルトーク・ロールプレイングゲームによる自閉症のある児童生徒への余暇支援
特別支援教育での活用教材(サイト紹介)

2 自閉症スペクトラム症児童A児の実態

A児は、B小学校の自閉症・情緒障害学級に在籍する2年生です。A児は6歳のときに、自閉症スペクトラム症と診断されました。A児は、規模の大きいC小学校の通常の学級に入学しましたがうまく馴染めず、小学1年生の2学期の運動会が終わった頃から学校に行きたい気持ちはあっても登校できなくなり、B小学校の特別支援学級に転入しました。当初は、共感性に乏しく周囲に配慮しない言動も見られましたが、現在は、何をどのようにすれば良いかを理解すると集中して取り組めるようになりました。算数や自然科学的なことや工作、絵を描くことなどには関心を持っています。

3 自閉症スペクトラム症児童に関する基礎的環境整備

○研修会への教員の参加

B小学校の特別支援学級担任は、B小学校のあるD市教育委員会で実施される特別支援教育研修会に参加したり、夏休みを利用して指導力向上のため研修会に参加したりしています。また、校内研修で研究授業を行い、同僚の意見を参考に授業改善を図り、A児の指導が充実するよう心がけています。

○教育委員会による研修の実施

D市教育委員会は、特別支援学級担任や特別支援教育に関係する教員に対する研修を行っています。また、教育委員会は市内のすべての職員に対して、特別支援教育に対する理解・認識を深め、専門性や指導力を向上させるための取り組みを行っています。

○通常学級との交流

D市の各小学校や中学校では、特別支援学級と通常の学級との交流及び共同学習を積極的に推進しています。B小学校でも特別支援学級に在籍する児童は、それぞれの状況に応じて通常の学級と交流及び共同学習を行っています。

4 自閉症スペクトラム症児童とその保護者との合意形成

A児の保護者から「集団生活で皆と一緒のことをする目的と意義は十分理解しているが、A児の特性を考慮して必要なときは特別支援学級で過ごす時間(クールダウン)を設けて欲しい」「A児の自己肯定感を育み、学校で毎日楽しく過ごせるようにして欲しい」という要望がありました。そこで、B小学校の校内支援委員会で検討し、自閉症・情緒障害学級担任と交流先の通常の学級の担任を中心に全職員がそれぞれの立場でA児を見守ることを決めました。また、A児への支援については、保護者と協議し、合意形成を図りながら進めていくことにしました。

5 自閉症スペクトラム症児童への合理的配慮の実際

○学習に遅れがみられる分野に関する工夫

A児は不登校であったため、漢字、カタカナ、音読、作文等については遅れがみられ、A児も自信がありませんでした。そこで、毎日1時間目を国語にして個別指導を行い、A児が1日の流れを理解し、落ち着いた生活と学習のスタートができるよう配慮しました。授業の流れをパターン化して明確に示すことで見通しを持たせました。また、教科書の音読は担任と交代しながら読み進めるなど、集中して取り組むことができるようにしました。

○時間割を確認できるようにする工夫

交流先の通常の学級では教室全面の黒板左端に今日の時間割を示し、A児が1日の時間割を視覚でとらえやすいようにしています。また、特別支援学級では、教室前面の小黒板にA児が自分で1日の時間割を書き、朝から今日1日の時間割を確認できるようにしています。

○学校行事に参加するための工夫

A児が見通しをもって学校行事や学年行事に参加できるよう、前年度の行事のDVDや写真などを用いて、担任が事前の指導を行っています。

○他の児童との関係づくりに関する工夫

A児の発言が周囲に誤解されたときやA児が他の児童の発言を理解していないときには、交流先の通常の学級の担任と特別支援学級の担任が中に入り、A児と他の児童が互いに理解し合えるように話しています。

6 自閉症スペクトラム症児童に関する本事例の成果と課題

A児は、小学1年生の1月にB小学校の特別支援学級に転入して以来、欠席もなく学校生活を送っています。A児への対応について教職員で共通理解を持ち、特別支援学級担任と通常学級担任が中心となりA児を学校生活に馴染めるように配慮したことによって、A児が登校し、学校生活を少しずつ楽しめるようになってきたと考えています。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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※特別支援教育に関する他の記事は、こちらからご覧いただけます。

9 編集後記

不登校であった自閉症スペクトラム症の児童が不登校を脱するきっかけとなった実際の取り組みをご紹介しました。特別支援の必要な子どもとのかかわり方に悩んでいる先生方にとって、この記事がお役に立てれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田)

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