【パネルディスカッション第2部】五月祭教育フォーラム2019『”教育改革のその先へ”~新時代に求められる人物像とは~』

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目次

1 はじめに

本記事は、2019年5月19日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2019『”教育改革のその先へ”~新時代に求められる人物像とは~』内で行われた、パネルディスカッションの内容を記事化したものです。

登壇者である隂山英男先生(隂山ラボ代表/一般財団法人 基礎力財団理事長)、工藤勇一先生(千代田区立麹町中学校校長)、鈴木寛先生(東京大学教授/慶應義塾大学教授)、中村伊知哉先生(慶應義塾大学教授)と、本フォーラムを主催するNPO法人ROJEの学生登壇者、椎名愛の5名が、議論を交わしております。

第2部では、主に中学校、高校における新時代の教育のあり方について取り上げています。

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中村先生基調講演

工藤先生基調講演

パネルディスカッション第1部

パネルディスカッション第3部

隂山先生インタビュー

工藤先生インタビュー

鈴木先生インタビュー

中村先生インタビュー

2 パネルディスカッション 第2部

新しい時代の大学のあるべき姿とは

椎名:ここまで、社会状況の変化から、教育がこれまでとは異なるものに変化していかなければならない段階にあるという話題を議論してきたと思います。ここからは、その話を念頭に踏また上で、まず、大学の教育がどのように変化していかなければならないか議論して行きたいと思います。

早速ですが、i専門職大学のような新しい大学が登場してくることで、大学にも多様な選択肢ができてくると思いますが、その点について中村先生はどのようにお考えですか。

専門職大学という新しい学校

中村:専門職大学の制度が必要だとは考えていませんでしたが、日本の弱点は大学だと思っていました。アメリカの大学はプラットフォームとしての機能が強いです。アメリカのIT大企業は、大学が生んだものと言えます。しかし、日本の大学にはその機能がほとんどありません。日本もITやポップカルチャーの分野でこれまで素晴らしいものをたくさん生んできましたが、大学が生んだわけではなく、大学が何を生んだかと言われると、ほとんどありません。

日本では産業界と学校との溝が深いのです。文部科学省では産業界と上手く連携できるような体制を作ってくださっているので、それを生かして、新しい学校・仕組みを作っていきたいと思っています。

椎名:従来の大学の役割も変わってくると思うのですが、鈴木先生はこれからの大学の役割についてどのようにお考えですか。

鈴木:そもそも、従来の大学とひとくくりにして論ずる意味が薄れているとも思います。

一般化して議論するのではなく、固有名詞で議論することが大事だと思います。大学によって全然違うし、学部学科、さらには研究室によっても変わってきます。みんなが一般論じゃなくて、個別暫定解を求めるようになれば良いと思います。

多様化の時代に適した学校のあり方

椎名:大学のあり方が変化していく上で、中学校での進路教育も変わるかと思います。今後、中学校ではどのようなことが求められるでしょうか。

工藤:もし、私が大学の経営者だとしたら、「最上位目標って何だろう?」と考えます。そうすると、最上位目標は世の中を協働しながら、たくましく生きていく人間、多様化の時代に適合した人間を育てるということではないのでしょうか。

しかし、今の大学が、多様性を受け入れるような人材をとっているでしょうか。現状はそうではないと思います。入試制度も一向に変わりません。アメリカですらも、SATといった共通テストは足切りにすぎず、実際の採用は全く異なるものをとっています。日本は相変わらず、ペーパーの1点で合否が決まります。それで本当に多様性のある人を獲得できるのでしょうか。ペーパーでの点数が高い人が、本当に多様性のある人なのでしょうか。むしろ、人種も価値観も異なった人たちを集めた方が多様性を保てるのではないかと思います。大学が社会に影響を与えていく存在になりうるかという視点でみれば、大学が社会そのものと密接でなければいけないと思います。

例えば、慶應義塾大学のSFCのように、大学の中にベンチャーが入っているなどが挙げられます。しかしその一方で、多くの大学は相変わらず閉鎖的で、企業も入っていません。したがって、大学の中に様々な企業が入っていて、企業の事務所があちこちにあって、企業とのやりとりができるということが、ごく普通になるような社会が望ましいのではないかと思います。

あえて、同調しないで話をすると、本当に超ヒマな社会が来るのかは分からないですが、少なくとも劇的に変化する時代にどうこたえていくかということについて、本当は待ったなしなのに、あちこち顔色を伺いながら手段の決定をずっとひきずっているのではないでしょうか。誰も勇気を出さないのが問題だと思います。

鈴木先生が、日本は協働するのが得意とおっしゃっていましたが、私はそう思っていません。協力することが目的になっているので、意見の対立を避ける学生が多いと思います。この意見を言ったら恥ずかしい、この意見を言ったら相手を否定するのではないだろうかと思って言わないのです。最終的に結論を出すときには折り合いをつけ、みんなの意見を入れて何とかまとまった意見を出そうとしますが、本当は、目標に戻り結論を出さなければならないのです。例えば、スティーブ・ジョブズは目標達成を実現するために、徹底的に相手の意見を潰していました。嫌われ者になってしまいましたが、彼はものすごく鋭い他者意識を持っていたと考えられます。社会に受け入れられる製品を作るという目標のために、折り合いをつけることよりも、目標の達成を優先したという強い意志があります。そういった、多様な人間が受け入れられるような社会を作る必要があります。

したがって、小学校、中学校といった子どもの頃から「意見は違ってOKだよ。その時、意見が違って、イライラするでしょ。大人でもイライラします。でもそれに慣れよう。」と、自分を客観視・俯瞰して見ていく訓練が大事です。日ごろの学びかたそのものがキャリア教育なのです。

世の中に出た時、生徒が自身の生きるスタイルが身についているかどうかということに、全く学校社会は目が向いていないと思います。染まってしまった価値観に従うのではなく、みんなが当たり前を否定していくことが必要です。全員が仲良くなれないのは当たり前なのに、子どもを無理やりひっぱっていき、大人を否定するような教育が行われているのではないでしょうか。

例えば、子どもが誰かを差別したら、大人は「差別してはいけません」と言いますが、大人だって差別をします。しかし、差別がどういうものか知り、差別しないことを意識することはだれでもできます。対立はOK、対立によりイライライすることもOK、頭の中で色々考えるのもOK、しかし行動にするときには上位目標にむけてどう合意形成をするかをきちんと表現できる子どもを育てていくことが大事だと思います。

学歴至上主義による課題

椎名:では、一旦選択肢の多様化に話を戻したいと思います。こうした選択肢の多様化を実現していくに当たって、現状の学歴至上主義というのは、1つの壁になってくると思います。鈴木先生は文部科学省で入試改革を担われてきましたが、この問題についてはどのようにお考えでしょうか?

鈴木:これも学歴至上主義とはなにかという議論になりますが、日本は学歴至上主義ではありません、低学歴社会です。博士号や修士号を持っている人がほとんどいないのです。博士号やそのことが世界と競争していく点では損しています。世界が学歴至上主義なのです。私はそれを「学校歴、特に入学学校歴割を割と気にするかもしれない人が多い社会」と再定義したいと思います。一方で、企業は関係ないのですが、採用した人と大学間の相関はあります。いろいろな指標がありますが、4象限に起こしてみると、

第1象限:偏差値が高く、作る力・共同する力が高い 

第2象限:偏差値が低いが、作る力・共同する力が高い

第3象限:偏差値が低く、作る力・共同する力が低い

第4象限:偏差値が高いが、作る力・共同する力が低い

というように分けられます。入学学校学歴が低いにもかかわらず、能力が高い人を企業は見逃しているところがあって、人事はこの層をどうとるかを考えています。逆にいうと学歴に騙されず、第3、4象限を掴まないようにするかということが現代の課題です。

中学校や高校の学びは、どのように変わっていくべきか

椎名:非認知スキルを重視するような入試制度に変わったとしたら、中学や高校はどのように変わっていくべきでしょうか?

工藤:私の学校は定期テストはやめましたが、単元テストはあります。再テスト制度があって、生徒は1回目のテストの点数が気に入らなかったら、自分の意思でもう一回受けることができます。例えば、100点中、70点しか取れなかった子は、再テストを受けるとしたら、取れなかった30点分に注目します。30点分勉強して、そのぶん上がったら、再テストの成績が最終的な成績になるシステムです。したがって、得点が取れなかったから、再テストするのではなく、自分の意思でさらに勉強したいと思ったら再テストを受けるという感じです。

本当は、入試制度が変わったら単元テストもやめます。入試制度が変わったら、学びを全部変えていきます。例えば、小学校の間ずっと病院に入院していて学校に登校できなかった高校生の子がいます。しかし、その子は「僕は虫が好きで昆虫に関する本を病院でずっと読んでいました。それで漢字も国語も学んできた。」と言っていました。本当に学校のカリキュラムで国語がいるかどうかについて、私はいらないのではないかと思います。基礎基本と言いますが、子ども自身、何が必要かって大人が思っているほど、こうでなければいけないと決まっていないのではないでしょうか。

むしろ、寺子屋のように先輩後輩、友達同士で学び合う姿は、世の中に出た時の我々の生き方そのものです。友達同士教え合うといった、コミュニケーションを取りながら学んでいくとのは世の中のスタイルそのものなのです。誰かとコミュニケーションをとると、そこから「あれができるのでは」、「これもできるのでは」と変化が生まれてきます。世の中に変化を与える力というのは、人と社会がいかにつながれるかが勝負です。麹町中はまだスタートにたったばかりです。「先生や友達に聞くスタイル」、「徹底して自分で調べるというスタイル」など子どもの学ぶ力の身につけ方にも様々なスタイルが見られます。そのスタイルが大人になった時の自分のスタイルになってくるのではないのでしょうか。そのような学びができるようなシンプルな仕組みにしていくべきだと思っています。

地方に存在する課題

椎名:先程、隂山先生は基礎力の重要性をお話しされていましたが、隂山先生は先ほどの話をどのようにお聞きになっていましたか?

隂山:この件に関してはバトルになってしまいます。(笑)

漢字を覚えられるほどの本を与えられる子どもは幸せです。やはり、今日のフォーラム会場である東大は日本の中で最も特殊な環境です。いわゆる一般的な地方とは異なります。超ヒマな社会がくると言われていますが、それは一部の人たちだろうなと思います。

皆が不安を感じているというのは、現代の行く先の未来があまりいいものではないと思っているからではないのでしょうか。東京であれば欲しいものがあって、インターネットで注文すれば、その日のうちにものが届きます。そのために、運送会社の人たちがどれだけ動いているのでしょうか。ですが、そのうち、ドローンが配達するようになる、と配達員の人たちの多くはドローンによってその人たちは失職してしまいます。ここだと思うのです。結局、今のITの信仰が何を生み出すかというと、やはり、ごく一部の人達が裕福になり、そうではない人達が非常に貧困になっていくというのを特に今の若い世代がリアルに感じているからこそ、その未来に対して希望と同時に大きな不安を感じています。

堀江貴文氏が言っているような、ベーシックインカムというものが本当に良いものであるのならば良いのだが、実はベーシックインカムは日本はすでに生活保護という名前で実現していると思うのです。

地域によっては意図的に子どもたちに勉強させない親もいます。私も衝撃を受けました。それはなぜかというと失職すれば生活保護が受けられる。どのようにすれば、より多くの生活保護費を受け取ることができるかということを考える親も実際にいる。このような状況が進む地、その地域の生活保護費が膨らみ、行政が破綻します。そして、行政は子供達が自立できるようにということで、とにかくその子供たちにせめて、本が読めるなど一般的に社会的に自立できる学力をつけてほしいということで仕事が舞い込んでくる。富の集積する地域とそこから大きく見放されていく地域があるということです。

※パネルディスカッションの続きはこちらからお読みいただけます。

3 登壇者のプロフィール


隂山英男先生
陰山ラボ代表/一般財団法人基礎力財団理事長/NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)代表理事

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月、尾道市土堂小学校校長に全国公募により就任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授を務める傍ら、立命館小学校で副校長、校長顧問を歴任。
現在は陰山ラボ代表、一般財団法人基礎力財団理事長、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、徹底反復研究会代表を務める他、全国各地で学力向上アドバイザーを務める。文部科学省中央教育審議会特別委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員長を歴任。


工藤勇一先生
千代田区立麹町中学校長

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。
教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究会委員、文科省若手有志による「教育長・校長プラットフォーム」発起人など、公職を歴任。


鈴木寛先生
東京大学教授/慶應義塾大学教授/NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)代表理事

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。慶應義塾大学SFC助教授を経て、2001年参議院選挙当選(東京都)。文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報分野中心に活動。
2014年2月より、東京大学教授、慶應義塾大学教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。
現在は東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授、日本サッカー協会理事を務める。文部科学副大臣、文部科学大臣補佐官を歴任。


中村伊知哉先生

慶應義塾大学教授

1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。

1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。

2020年開学予定のi専門職大学(仮称)学長に就任予定。

椎名愛
東京都出身。現在早稲田大学文学部2年に在籍。本フォーラム主催団体であるNPO法人ROJEでは先生のための教育事典EDUPEDIAに所属。

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