高機能自閉症のある中学3年生に指導を行った事例(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「自尊感情が低下した高機能自閉症のある中学3年生の生徒に対し、校内の支援体制を整備して指導を行った事例」 に掲載されている事例をご紹介します。
自尊感情が低下したことと教員との関係が悪化した結果、学習への意欲が低下してしまった子どもへの対応の事例です。
「学習面に課題のある子どもにはどのような配慮が必要か」とお悩みの先生は是非ご一読ください。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
「発達障害支援法」改正、押さえておきたい7つのポイントまとめ
学習に困難のある子どものテクノロジー活用(日本マイクロソフト)
特別支援教育での活用教材(サイト紹介)

〈事例の概要〉
A生徒は、B中学校の3年生です。高機能自閉症(アスペルガー症候群)があり、自閉症・情緒学級に在籍しています。

〇学習面
入学時の学力は学年内において上位でしたが、学力の遅れと低下が見られるようになり、自己肯定感や自尊感情が著しく失われました。
A生徒は高校進学を希望しており、中学3年時においては進路先を決定する必要がありました。そのため、生活面や学習面の改善、心理的な安定、自己肯定感や自尊感情の回復を図るための取り組みを行いました。

〇生活面
A生徒に対する教育的ニーズに十分に応えきれず、中学2年時には教員との信頼関係が喪失し、他の生徒との間でトラブルを起こしました。それ以降、極度の心理的不安定さが見られるようになりました。この状況を改善するため、中学2年時の2学期に保護者が専門機関へ相談したことがきっかけとなり、専門機関と学校が連携してA生徒の障害に対する理解を図り、指導や支援についての具体的なアドバイスを専門家から受けるようになりました。それを基に改善に向けての取り組みを行いました。

2 生徒の実態

A生徒は高機能自閉症(アスペルガー症候群)です。学習能力の高さから特別支援学級に在籍しながらも、自立活動以外については交流学級において他の生徒と共に学ぶ体制がとられていました。

〇学習面の実態

入学当初は学年の生徒の中でも上位の学力でしたが、A生徒が興味・関心の高い教科以外は居眠りをする状態でした。そのため、次第に学習の遅れを招き、A生徒が興味・関心のある教科(国語と社会)以外の教科では学力の低下が目立つようになりました。

〇生活面の実態

A生徒はコミュニケーションが苦手で、級友とのトラブルを引き起こすこともありました。規則に対する解釈や判断も自己流で行うため、生徒指導の対象となり注意を受けることも多くありました。このため、A生徒の自尊感情や自己肯定感が低下し、教員との信頼関係も失われ、中学2年の3学期には教員との関係の悪化から学習について拒否的態度が見られるようになりました。中学校卒業後の進路希望は高校進学でした。

3 本事例に関する基礎的環境整備

B中学校のあるC市では、特別支援教育の推進を図るために全ての幼稚園、保育所、学校にコーディネーターを配置しています。また、各中学校校区にまとめ役としてリーダーコーディネーターが配置され、定期的に会議を開き児童生徒の情報交換等を行っています。

  • 校内に特別支援教育「特別支援チーム」を編成し、個別の対応ができる体制づくりを行っています。
  • 自立活動の時間の教材として、制作活動や体験的活動につながる教材を作成し、活用しています。
  • 各教科担任の空き時間を活用して、校内学習指導体制を整えています。

4 合意形成のプロセス

保護者からの申し出の内容

A生徒の保護者から支援の申し出がありました。

  • 専門機関と学校が連携して、A生徒に対する障害理解を深めて欲しいこと
  • 個別指導をして欲しいこと
  • できることや良い行いを認め、褒めて欲しいこと

でした。

学校側の支援を決定するプロセス

その申し出を受け、学校では具体的な指導や支援の手立てを講じるために、学校職員や合理的配慮協力員、C市のあるD県発達障害者支援センター相談員が連携することになりました。A生徒について毎月観察し、検討を行い、支援事項を決定した上で実践しました。また、学級担任も保護者と情報交換を行いA生徒に対する支援の合意形成を図りました。

5 A生徒に関する合理的配慮の実際

校内コーディネーターが教職員に対して、専門機関との協議内容や実践内容を校内研修等を通して伝達し、A生徒への認識・理解を深めました。

A生徒の自己肯定感を高めるための取り組み

  • 学習での取り組みに対して良い面を記述し評価することにしました。
  • 難しい課題を解かせ、課題ができたら褒める取り組みを行いました。

学習に対しての意欲を高めるための取り組み

  • 学習や活動の時間を明確に指示し、タイマーの活用により集中力を高めました。
  • 50分の授業時間を学習内容によって区切り、学習内容を変化させ、持続できるようにしました。
  • 他の生徒と協力し合う喜びを感じてもらうため、国語の時間に漢字の部首を組み合わせるカードゲームを取り入れました。

6 本事例の成果と課題

D県発達障害者支援センター相談員の協力を得て、特別支援学級担任の指導・支援の実践をサポートする体制をとれるようにしました。相談員からA生徒の障害から生じる困難さについてきめ細かくアドバイスを受け、手立ての内容を検討し実践しました。

〇成果

上記の結果、A生徒は心理的に安定し、学習に対する取組も改善されました。障害から生じる課題の克服については自立活動の時間等に指導を行いました。

学習面については、学習の遅れを補う基礎的基本的な内容及び受験に備えた学習内容を組み合わせた指導を行いました。その結果、第一志望の高校へ合格することができました。

〇課題

A生徒に対する指導・支援は高校進学のみを目標にしたものではなく、将来において自己の障害を自覚し、生きる力を備えることを目指しました。
今後の課題としては

  • 自尊感情や自己肯定感の育成
  • 他者とのコミュケーション能力の向上
  • 自己の生活リズムのコントロール方法

などを身に付けさせることなどが挙げられます。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

今回は自尊感情が低下した高機能自閉症のある中学3年生の生徒に対し、校内の支援体制を整備して指導を行った事例を紹介しました。このような事例においては、外部機関との連携が非常に重要になると感じました。この記事が課題を抱える生徒への合理的配慮にお悩みの先生方のお役に立てれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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