自閉症スペクトラムの児童に「学習量の調整」を行い効果を上げた事例(インクルDB)

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作成者:津田 佳歩 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「自閉症スペクトラムの小学4年生の児童に対して、学習量の調整と特性に対する配慮によって学習への意欲を高めた事例」 に掲載されている事例をご紹介します。

<事例の概要>

自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する4年生の自閉症スペクトラムを有するB児について、 学習量の調整と特性に対する配慮を行った事例です。B児に対し、一時間の学習の流れを明示して見通しを持たせたり、ノートに書く量を調節したりするといった取り組みなどを行った結果、B児は以前より意欲的に学習を継続できるようになってきました。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
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2 自閉症スペクトラムのあるB児の様子

B児は、小学校3年生まで通常の学級に在籍していましたが、4年生からA小学校に転入し、 現在は自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍しています。

B児の実態は、以下の通りです。

  • 一斉指導の際に立ち歩くことが多くあります。
  • 周囲の児童とトラブルを起こし、登校するのをしぶることがあります。
  • 短い時間しか集中して学習できません。
  • ノートに書く字は乱雑です。
  • 宿題を忘れることが多くあります。
  • 持ち物を管理すること片付けをすることが苦手です。
  • 会話はしますが、ときおり質問の意図とは違う返答をしたり、話の一部分だけを聞いて反応したりすることがあります。
  • 衝動性が高く、ルールから外れた行動をすることがあります。
  • 聴覚過敏もみられます。

3 自閉症スペクトラムのあるB児に対しての環境整備

このような特性を持つB児に対し、B児の通うA小学校は以下のような環境を整備しました。

  • 特別支援教育コーディネーターを3名指名し、校長のリーダーシップのもとに全教職員が特別支援教育を推進しています。
  • 市のインクルーシブ教育推進研究会が作成した「合理的配慮事例集」を使用して合理的配慮の実際について学習し、B児への対応に取り組んでいます。
  • 理科や社会科では、デジタル教材デジタル教科書、教員自作のパワーポイント教材を使用しています。また、個別学習にタブレット型端末を使用しています。
  • コミュニケーション力を高めるための表情カード、ソーシャルスキルトレーニング(以下「SST」)用のカード類を活用しています。
  • 雑音などの刺激が気になってB児が学習に集中できないときは、隣接した小教室を個別学習の場として利用しています。
  • 自閉症・情緒障害特別支援学級の担任と交流学級の担任が、交流及び共同学習の目的や内容について「交流及び共同学習打合せ記録」や週案に基づいて打合せを行っています。

4 保護者との合意形成のプロセス

B児の保護者は子育てに悩んでいました。B児が小学校3年生のときに登校をしぶるようになってきたため、就学相談を受けた結果、自閉症・情緒障害特別支援学級への入級を勧められました。保護者は、B児が落ち着いて学習でき、登校できるようになるのであれば、特別支援学級に在籍することがよいと判断したため、4年生からA小学校の自閉症・情緒障害特別支援学級にB児を在籍させることにしました。

転入直前の月に、保護者とA小学校の自閉症・情緒障害特別支援学級担任、通級指導担当者の3人で、B児の様子や保護者のニーズについて話し合いました。保護者の願いは、

「とにかく学校に喜んで通ってほしい。落ち着いて学習できるようになってほしい」

というものでした。これらを踏まえて、B児の個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成し、支援を行うようになりました。

5 自閉症スペクトラムのあるB児への合理的配慮の例

B児に対して、実際に以下のような合理的配慮を行いました。

  • 学習内容を10~15分ずつ3~4つに分け、提示しました。
  • 耳障りな音が生じるような場面では、イヤーマフをつけさせるようにしました。
  • 教育番組のデジタルコンテンツや絵カードを利用してSSTを行いました。
  • 漢字練習については、1回の練習で学ぶ量を3文字程度、1文字あたりの練習回数も3回程度におさめたり、 板書についてはまとめの部分だけをノートに記入するよう促したりするなど、学習内容や量の調整を行いました。
  • プリントの文章問題は、教員に問題文を読み上げてもらい、問題を解かせるようにしました。
  • 「①前時のふりかえりの確認、②課題の把握、③自力解決、④ぺアまたはグループで自分の考えを出し合い比較する、⑤全体での話し合い・集団解決、⑥まとめ、⑦適用問題を解く、⑧ふりかえり」の流れで授業を展開しています。
  • 収納箱を設置し、使用した教材はそこに入れることにしました。

6 この事例の成果と課題

B児の特性を把握して、作成した個別の指導計画に基づき指導した結果、B児は特別支援学級を自分の居場所ととらえ、行動が落ち着くようになってきました。さらに、低学年児童に対する思いやりのある行動もみられるようになりました。また、担任が個に応じた指導を工夫することで、B児が意欲的に学習に取り組むようになり、達成感を持てる場面が増えてきました。保護者は「B児が登校をしぶらなくなり、学校に休まずに通うようになった。宿題に取り組むようになった」と成長を喜びました。

課題としては、特別支援学級の中で、B児に特化した個別指導の時間確保が難しいことが挙げられます。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

自閉症スペクトラムの児童に対して学習量の調節や配慮を行った事例をご紹介しました。集中が続かない、「できない」と思うとやる気を出せなくなる、そんな子どもに対してどのように働きかけようか悩んでいる先生方にお役立ていただければと思います。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田 佳歩)

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