聴覚障がい生徒が得意なことを活かして交流及び共同学習に参加した事例(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「聴覚障がい生徒が得意なことを活かして交流及び共同学習に参加した事例」 に掲載されている事例をご紹介します。障がいを持つ普通科の生徒への対応にお悩みの先生方、ぜひご一読ください。
※インクルDBの記事はこちら
※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
難聴生徒のためのインテグレーション環境 〜聞こえないハンデをハンデとしない環境づくり〜
ユニバーサルデザインを使用した難聴学級の自立活動
基礎的学習活動を支援するICT活用

<事例の概要>

A生徒は、B特別支援学校高等部2年生で、聴覚障がいを有しています。A生徒は、聴覚活用と発話でコミュニケーションをすることもできますが、同校では手話を併用しています。各教科ともに学年相応の学習ができ、パソコンに詳しく、次期の生徒会長として選出もされています。しかし、B特別支援学校以外の人とのコミュニケーションはスムーズにできない現状があります。

本事例は、A生徒が得意なことを活かしてC高等学校の授業に参加した交流及び共同学習の事例です。

交流及び共同学習におけるA生徒の課題は「遠慮せずに、自ら必要な支援や情報保障を求める力を伸ばすこと」です。各授業において、A生徒と他の生徒が筆談アプリによってコミュニケーションを図ることが自然に行われています。また、授業の中で大型テレビを活用するなど、A生徒や他の生徒にとって情報を得やすい工夫などを行いました。生徒同士がコミュニケーションを図るときに、できるだけ教員が介入し過ぎず、生徒同士の話し合いや主体的な活動を大切にすることで、A生徒が課題を克服しやすい、自然な場面を作れるよう配慮しました。このことにより、A生徒は、必要な支援や情報保障、コミュニケーションを図る上で配慮して欲しいことを自ら伝えられるようになってきました。

2 対象児童生徒等について

A生徒はB特別支援学校の高等部2年生で、普通科に在籍しており、次期の生徒会長に選出されています。A生徒の平均聴力レベルは、右115dBHL、左110dBHL であり、先天性の感音性難聴です。右耳に人工内耳、左耳には補聴器を装用しています。装用時の聴力レベルは右28.8dBHL、左46.3dBHL です。同校では聴覚活用と発話の他、手話も併用しながらコミュニケーションを行っています。

各教科ともに、学年相応の学習ができており、特にコンピュータ関連の事柄に興味関心をもっています。また、IT企業での職場体験実習では作業面で高い評価を得ています。
※参考リンク
補聴器や集音器で使用する単位 dBSPLとdBHLの違いについて
難聴の程度

3 本事例に関する基礎的環境整備

○ B特別支援学校とC高等学校は、学校間交流を行っています。具体的には、C高等学校の文化祭において、B特別支援学校で制作したビデオ劇の上映及び手話による合唱を行ったり、B特別支援学校体育大会において、C高等学校の生徒がリレーに参加する等の交流を行いました。

○ C高等学校の教員に、B特別支援学校の教員が

  • 特別支援学校で行われている支援について
  • B特別支援学校の様子、授業での工夫、A生徒の障がいにおける具体的な配慮事項

等についてオリエンテーションを行いました。

○ A生徒が取り組みやすい手話学習(ボランティア関連授業)や、社会と情報(パソコンを使った授業)など、授業参加の際の教科を設定しました。

4 合意形成のプロセス

交流及び共同学習を行っているC高等学校の教頭及び担当教員との話し合いにおいて、 教科学習を通しての交流及び共同学習を行う案が挙がりました。話し合いにおいて、A生徒も是非体験してみたいという意欲を示し、合意形成に至りました。ただし、B特別支援学校以外の学校で教科学習の経験がないA生徒の心理的負担を考慮し、

  • 生徒が得意とする分野
  • 生徒がリーダーシップを発揮することのできる場面の設定
  • 授業の中での視覚支援教材やコミュニケーション手段の確保

を行うことを、B特別支援学校とC高等学校の双方の校内委員会で話し合い、決定しました。

5 合理的配慮の実際

○ 交流及び共同学習全体を通してできるだけ教員が介入し過ぎないようにし、A生徒にとって、遠慮せずに自ら必要な支援を求めやすい雰囲気を作りました。

○ 数学の授業において、4名ずつのグループで筆談アプリで話し合い、答えを見つけるといった形式をとりました。

○ 各教科において視覚支援教材を用意すると共に、座席の位置などの配慮を行いました。 また、生徒同士の話し合いの際、誰が発言しているのかが、A生徒に分かるようにしました。

○ 学校紹介ビデオの編集作業など、A生徒が得意とする作業を体験できるようにしました。

○ 教室移動などは、事前の活動でA生徒と話す機会の多い生徒が支援するように配慮しました。

○ C高等学校でA生徒が授業に参加している様子のビデオを作成し、B特別支援学校の教員及び高等部の生徒が視聴できる時間を設け、交流及び共同学習への理解啓発を図りました。

雑音を軽減するため、机や椅子の全ての足にテニスボールをはめました。また、行事の際のマイク音量や、他者の口元が見えやすい明るさに配慮しました。

6 本事例の成果

交流及び共同学習の際に、A生徒が得意とするパソコン等の活動を取り入れたことによ って、A生徒は意欲的に授業に参加することができました。また、教師があまり介入せず、両校の生徒同士が話し合いによって活動をすすめたことで、生徒同士の自然な関係を築くことができました。その結果、A生徒は必要な支援や情報保障、コミュニケーションを取る上で配慮して欲しいことを自ら伝えられるようになってきました。

C高等学校の生徒もA生徒とコミュニケーションを積み重ねるなかで、聴覚障がいのある人に対する配慮事項を知り、自然な関わりの中で支援を行うようになりました。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

聴覚障がいを持つ生徒が得意なことを活かして交流及び共同学習に参加した実際の取り組みをご紹介しました。普通科に在籍する障がいのある生徒への指導に悩んでいる先生方にとって、この記事がお役に立てれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 伊藤 真琴)

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