不登校の中学2年生が通級による指導で在籍学級への復帰を目指した事例(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「不登校であった中学2年生の生徒が通級による指導を活用することによって、在籍学級への復帰を目指した支援の事例」 に掲載されている事例をご紹介します。

※EDUPEDIAには、特別支援や不登校に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
学習に困難のある子どものテクノロジー活用(日本マイクロソフト)
特別支援教育での活用教材(サイト紹介)
「不登校」というキーワードの学習指導案・授業案・教材一覧)

〈事例の概要〉

A生徒はB中学校の通常の学級に在籍し、通級による指導を受ける中学2年生です。家庭環境が複雑で、小学生のころから不登校状態が続いています。A生徒は集団活動の経験が少なく、対人関係や集団参加に不安がありました。

A生徒が中学校に入学するに当たり、保護者から「少人数の場面であれば、登校できるかもしれない」との申し出がありました。不登校が続いていたこと、検査により認知のアンバランスがみられること、小学校段階の学習が定着していないことから、A生徒は通級による指導を受けることとなりました。その結果、不安や緊張が低減し、徐々に登校できる日数も増えました。

本事例の成果としては、A生徒は通級による指導を通して教員との信頼関係を築くことができました。それにより基礎的な学習を定着させることができ、A生徒の自信を回復することに繋がっています。現在では、通常の学級で授業を受け、合唱コンクールなどの行事にも参加ができるようになっています。

2 生徒の実態

A生徒はB中学校の通常の学級に在籍し、通級による指導を受ける中学2年生です。家庭環境が複雑で、小学生のころから不登校状態が続いています。集団活動の経験が少なく、対人関係や集団参加に不安がありました。知能検査の結果、知的な遅れはありませんが、認知のアンバランスさがみられました。また、A生徒が興味のある話題については、自分からたくさん話しかける様子がみられています。A生徒は、小学生の学習も十分に定着していないため、在籍学級で学習することへの不安は大きいようです。そのような現状を踏まえ、受けられる授業は限られたものになっていました。

3 A生徒に関わる基礎的環境整備

C市における取り組み

  • B中学校のあるC市では、通級による指導(情緒障害)を市内4校で行っています。また、教育相談室を設置し、障害のある児童生徒の状況に応じた指導の充実が図られています。
  • C市では、市の教育相談員(臨床心理士)及び発達相談員が担当校を決めて、各学校に週1回巡回しています。発達的な課題がある児童の行動の観察や、保護者と面談を行ったりしています。また、校内委員会にも参加し、支援策を検討しています。

B中学校における取り組み

  • B中学校では、対象生徒の担任及び通級による指導担当者、特別支援コーディネーターを中心として個別の指導計画を作成しています。作成に当たり、担任及び通級による指導担当者、スクールカウンセラーによるアセスメントに加え、保護者等との面談等を実施しています。また、作成した個別の指導計画は教職員で情報を共有しており、校内支援体制の充実を図っています。
  • 基本的に在籍学級と同じ教材を使用していますが、生徒の障害の状況や実態等に合わせて変更しています。

4 合意形成のプロセス

  1. A生徒が中学校に入学するに当たり、保護者から「少人数の場面であれば登校できるかもしれない」との申し出がありました。
  2. 通級による指導の申請も視野に入れ、通級による指導担当者が対応しました。
  3. その結果、A生徒の不安や緊張が低減し、徐々に登校できる日数が増えました。

保護者は当初、通級による指導がA生徒にとって有効かどうか悩んでいました。しかし、生徒の登校日数が増えたことで、正式に通級による指導を受けることへの合意形成ができました。

5 A生徒に関わる合理的配慮の実際

  • A生徒が在籍する学級の学習や活動を把握し、A生徒が在籍意識をもてるよう、定期的に在籍する学級の担任との面談を行う場面を設けました。
  • 行事等については、事前に通級による指導で必要な指導を行い、A生徒の参加が可能であれば部分的にでも参加できるように調整や配慮を行っています。
  • A生徒は、同学年の生徒とコミュニケーションをとることが苦手であるため、週1時間程度の小集団学習を行い、同学年の生徒と触れ会う機会を設けました。また、在籍学級の生徒も数人ずつA生徒と関わる場面を設定し、コミュニケーションがとれるように配慮しています。
  • A生徒が、週に1回スクールカウンセラーとの面談を行えるよう調整し、A生徒の心理面の安定を促せるように努めています。
  • A生徒の在籍学級の担任と通級による指導担当者が情報共有しながら、A生徒の実態把握や指導内容についての検討を行いました。そこでは、A生徒の背景にある発達の偏りを想定した対応策を考えています。

6 本事例の成果と課題

〇成果

通級による指導で教員との信頼関係を築き、自立活動の指導を行い、基礎的な学習を定着させることによって自信を回復することができました。現在は通常の学級で授業を受け、合唱コンクールなどの行事にも参加ができるようになりました。また、A生徒の在籍する学級の生徒達は学級担任とともにA生徒を温かく見守り、A生徒にとって居心地の良い環境を整えています。さらに、保護者もA生徒の学習とコミュニケーションの両面に大きな成長を感じています。授業公開日には毎回参加して、学校と連携を図ることができるようになりました。

〇課題

A生徒が通常の学級で学習に参加できる場面はまだ限られています。A生徒に必要な支援を行うことで保護者との信頼関係を築いてきましたが、A生徒の発達的な偏りについては保護者に十分に伝えられていません。今後はA生徒の成長や学習の成果を確認しつつ、保護者のA生徒への理解について更に話し合う必要があります。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

今回は不登校であった生徒に対して、通級による指導を行うことで通常の学級に復帰することができた事例の紹介でした。同じような課題を抱える生徒への合理的配慮にお悩みの先生方のお役に立てれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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