注意欠陥多動性障害と自閉症スペクトラム障害を持つ生徒への合理的配慮を行った授業(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「注意欠陥多動性障害と自閉症スペクトラム障害を診断された中学3年生の生徒への合理的配慮の提供の取組」 に掲載されている事例をご紹介します。

注意欠陥多動性障害と自閉症スペクトラムを持つ子どもや、その傾向がある子どもが在籍し、どのような合理的配慮が必要かお悩みの先生は是非ご一読ください。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
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〈事例の概要〉

A生徒は小学校では先天性の心疾患のため、病弱・身体虚弱学級に在籍していました。中学校に入学してからは、集団で行動できないこと、身辺が清潔に保てないことが多くありました。そのため、スクールカウンセラーが知能検査を実施し、さらに児童精神科専門医の診断を受けたところ、A生徒は注意欠陥多動性障害及び自閉症スペクトラム障害と診断されました。

そこで、A生徒に対して教科ごとに配慮を行うとともに、各教科で出された課題の内容や課題の提出期限を保護者にも知らせたり、こまめに指示したりするようにし、A生徒が課題を期限内に提出できるように配慮しました。さらに、欠席が多いA生徒のために、各教科担任が欠席した日のノートのコピーを渡す等の配慮を行いました。次第にA生徒の成績が大きく伸び、第一志望の高等学校に合格しています。

2 生徒の実態

A生徒は当時、B中学校の3年生で、通常の学級に在籍していました。幼少時に先天性大血管転位症の手術を受け、入退院を繰り返していました。また、小学校では発達障害を疑われたことがありませんでしたが、心疾患のため、病弱・身体虚弱特別支援学級に在籍していました。中学校に入学した当初は、通常の学級に在籍していましたが、集団行動になじめず、席の周囲は様々な物が散乱した状態でした。また、制服の裾をなめる行為がみられるため制服は汚れていることがよくありました。そのため、スクールカウンセラーが知能検査を実施し、児童精神科専門医の診断を受けたところ、A生徒は、注意欠陥多動性障害及び自閉症スペクトラム障害と診断されました。

3 B中学校のリソースと外部の環境

  • 校内にはソーシャルスキル委員会が設置され、生徒への個別支援を行っています。
  • 個別の教育支援計画は、合理的配慮協力員、特別支援教育コーディネーター、在籍する学年の教員で協議したものを担任がまとめて作成し、担任が学年以外の教科担任にも伝達しています。
  • 発達障害の診断等のある生徒について、特別支援教育コーディネーター、合理的配慮協力員から必要な支援のアドバイスを受けることができます。
  • スクールカウンセラーが配置されており、生徒と面談を行うと共に、保護者との面談も定期的に行っています。さらに特別支援員が配置され、生徒への個別支援を行っています。

4 保護者との合意形成のプロセス

保護者は、B中学校入学時からA生徒の身体の状況について、詳細に管理職や担任、養護教諭に伝えていました。それに対して学校として可能な支援について協議し、保護者に伝えることを丁寧に行っていました。こうした積み重ねの中で、保護者との信頼関係を構築していました。そのような中で、A生徒が課題を期限まで遂行できず、課題点が獲得できないことに関する懸念事項が出されていました。

◆保護者からの申し出の内容

  1. 課題の提出ができていないときは本人に確認してほしいこと
  2. 課題の内容や期限を保護者にも知らせてほしいこと
  3. 通院などでA生徒が欠席した授業のノートのコピーを本人に渡してほしいこと

この申し出を受け、学年会議で協議し、A生徒の発達上の特性を理解したうえで、支援を行うことにしました。

5 合理的配慮の実際

◆教科指導における合理的配慮

  • 得意教科である数学科では、多少難しい課題を課しました。
  • 歴史も得意教科であったため、単なる暗記にならないように考えさせる問いを提示するようにしました。
  • 英語科では集中が切れやすくなるので、声をかけないようにしました。

◆その他の合理的配慮

  • 各教科で出された課題の内容と課題の提出期限を保護者にも知らせ、各教科担任が生徒にこまめに指示するようにし、A生徒が課題を期限内に提出できるように配慮しました。
  • 欠席が多いA生徒のために、各教科担任が欠席した日のノートのコピーを渡しました。
  • A生徒の心理的安定を図るためにスクールカウンセラーによるカウンセリングを実施しました。
  • 合理的配慮協力員は、A生徒の学習、生活の様子を担任及び各教科の教員からこまめに聞き取り、必要な合理的配慮について提案しました。

6 本事例の成果

A生徒の障害特性に応じた合理的配慮等の支援を行った結果、A生徒自身がクラスメイトに声をかけて文化祭の学級劇に取り組んだり、放課後に一緒に遊んだりする姿が見られるようになりました。また、成績が大きく伸び、第一志望の高等学校に合格しました。第一志望の高等学校への入学は、A生徒にとって大きな自信になったようです。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

教科教育においての配慮と心理的な安定を図る配慮によって、A生徒の学校生活がよりよいものになった事例でした。複数の配慮の例がありますので、各生徒の状況に合わせて実践していただけるのではないでしょうか。本記事が、課題を抱える生徒への合理的配慮にお悩みの先生方のお役に立てれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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