教師に必要な不易の考え方(野口芳宏先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、2019年4月3日に行った、野口芳宏先生(植草学園大学発達教育学部教授)へのインタビューを編集・記事化したものです。変わらない教育の軸・国語教育の軸について様々なお話をお伺いしました。

2 インタビュー

不易の教育の軸

○2020年から新しい学習指導要領での教育が始まりますが、変わらず教員が持つべき軸はなんだと思いますか?

義務教育は基礎教育だと思っています。基礎教育は根幹なので、学習指導要領改訂があるからといって変わるものではないのです。私が考える根幹とは、「信・敬・慕」の3つです。まず、「信」とは、信頼される必要があるということです。なぜなら信頼できない教師に学ぶことはできないからです。次に、「敬」とは、尊敬される必要があるということです。なぜなら尊敬されていないと、保護者や生徒は教師を軽んじてしまうからです。最後に、「慕」とは、慕われる必要があるということです。なぜなら、「信・敬」が達成されても、あの先生に学びたくないとなってしまっては、誰もついてこないからです。

○今の教員が「信・敬・慕」を身につけるにはどうしたらいいでしょうか?

教員養成の段階で、教員には「信・敬・慕」に沿った接し方をするべきだと教えることが必要です。そして、子どもには、教師に対しては「信・敬・慕」を持つように教えることも必要です。しかし、今は教えてはいけないことになっています。その代わり、子どもには考えることを求めています。しかし、私は子どもの本質は未熟だと考えています。なぜなら、知識も経験もないからです。だからこそ、教育を施して、まともな人間にしていく必要があるのです。

また、今は「こうあるべき」ということに対しては風当たりが強いです。逆に、多様性に対しては寛容です。子どもの個性を尊重するのが良いとよく言われています。しかし、無秩序な思想の自由を認めてしまったら、行きつく果ては乱れた国家になってしまうのではないかと考えています。ですから、秩序や根本哲学を絶対揺るがせてはいけないと思います。

○野口先生の根本にある哲学はなんでしょうか?

「信・敬・慕」と「利他公益」です。現代は「利己」のほうに向きすぎていると思います。つまり、己に利することは悪ではないとなっています。しかし、利己的な人が増えれば、争いが増えます。逆に、利他的な人が増えれば、和気あいあいとした良い社会になると思います。また、「公益」とは、みんなが良ければ、自分が我慢しないといけないということです。

また、個人が幸福に生きていくには、国家が必要で、その国家・社会の役に立てる人材を育成するのが教育の目的なので、そういう人材になるには、「公益利他」の精神が必要だと思います。つまり、個人は国家のために生きることで、結果的に自分が幸福になれるということです。利他公益の思想を持っている人は、誰からも大事にされます。これが幸福の正体だと私は思っています。

不易の国語教育の軸

○国語教育の不易の軸はありますか?

国語教育は教科の中で、一番大事な教科だということは、共有されています。しかし、日々、「新聞・テレビ・会話」などで日本語に触れる機会が多くあり、国語の勉強は自分でしているとみんな思っているので、一番時間をかけているわりに、感謝されない教科なんです。その理由としては、国語の授業は学力をつけていないと思われています、すなわち、学力形成が見えないのが問題なのです。これを打開するためには、見える学力・使える技術に国語科を変えていく必要があります。例えば、算数なら通分を勉強したといますよね。でも、国語の場合は、ごんぎつねを勉強したというだけで、ごんぎつねを通してなにを勉強したかが言えないのです。また、教えている先生にどんな学力をつけたのかを聞いても答えられないことが多いです。

では、なぜこのような状態になってしまうのでしょうか。それは、教材と教科の区別がついていないからです。例えば、太郎がみかんを7つ持っていて、花子は8つもっています、合わせていくつ?15だみたいな問題があります。この場合だと、みかんと太郎が教材になります。太郎は二郎でも一郎でもいいわけです。「7+8=15」のほうは教科内容です。つまり、学力です。国語科ではこの区別が付いていないので、最近では、国語科の学習に必要な用語をちゃんと教えようとする動きが出てきています。その表れとして、学習用語を使い始めた教科書が出てきました。ここでいう学習用語が教科内容のことです。例えば、「描写・比喩」などのことです。

また、読字力・語彙力・文脈力の3つも大事です。まず、「読字力」とは、陰山先生も言っていますが、漢字の読む力のことです。読字力を着けるには、学年に関係なくたくさんの漢字を早いうちから勉強していく前倒しが必要です。次に、「語彙力」とは、言葉をたくさん知っているということです。最後に、「文脈力」とは、言葉と言葉のつながりが理解できる力です。
 国語の授業では、教科内容・読字力・語彙力・文脈力が身に着くように自覚的に意識することが必要です。

 

○英語教育などが入ってきている中での国語教育の役割はなんでしょうか?

英語教育の教科化には、消極的賛成です。やってみたらいいでしょという感じです。つまり、国語の授業は学力を形成していないから、その時間を英語やプログラミングなど、今までやっていなかったことに時間を使えばいいのではないかと考えています。それで国語の時間が減ったら、どうしたらこの少ない時間で教えられるかを真剣に考えるようになると思います。なぜなら、国語の授業を増やしたら、子どものわかっていることをなぞる授業が増えるだけになってしまうからです。

3 プロフィール

野口芳宏(のぐち よしひろ)
1936年千葉県君津市生まれ。千葉大学教育学部卒業。公立小学校教諭、千葉大学附属小学校教諭を経て、公立小学校教頭、校長を務める。退職後、北海道教育大学教授、植草学園大学教授等を歴任し、現在植草学園大学名誉教授。「鍛える国語教室」研究会、授業道場野口塾各主宰。また2009年7月-15年12月千葉県教育委員を務めた。
著書に『教師の作法 指導』『授業づくりの教科書 国語科授業の教科書』(以上、さくら社)『野口芳宏 第一著作集全20巻』『同 第二著作集全15巻』『鍛える国語教室シリーズ』(以上、明治図書)、『野口流 授業の作法』『野口流 教室で教える小学生の作法』(以上、学陽書房)等多数。

4 著書紹介

5 編集後記

時代の変化があり、それに合わせたキーワードがどんどん出てくる中で、これだけはゆるがせにしてはいけないという哲学を教えていただけて、教員にならない人でも、生きる上での指針になるように思いました。私自身も、「利他公益」を大切にして生きていこうと思いました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 村嶋章紀)

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