熊本市ー書画カメラ(実物投影機)の一斉導入についてー

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目次

1 熊本市

—子どもたちの未来への投資—

人口738,907人(令和元年6月1日推計人口)の熊本市は、今回大きな挑戦をした。子どもたちの未来への投資を行い、次の熊本市を担う子どもたちの育成に力を入れた。

熊本市のICT環境整備について熊本市教育センター教育情報室の村田様と今村様に導入時とその後の様子をインタビューさせていただきました。
—PROFILE(写真左)—
熊本市教育センター教育情報室
指導主事 今村正作様
—PROFILE(写真右)—
熊本市教育センター教育情報室
参事 村田一広様

—政令指定都市20市中19番目という順位—

●熊本市がICT環境整備をしようとしたきっかっけを教えて下さい。
村田さん:①2020年度から小学校、2021年度から中学校で全面実施となる新学習指導要領において、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善や小学校教育における情報機器の更なる活用が求められ、新学習指導要領の理念を実現するためにICT環境整備を行う必要がありました。
②熊本市はこれまでも教育用PCや校務用PCの整備など、学校のICT環境整備を進めてきましたが、学校のICT環境の整備率(PC)が政令指定都市20市中19番目という非常に低い水準にあったためです。

—初心者でも簡単に使える—

●なぜ実物投影装置(書画カメラ)を導入されようと思いましたか。
村田さん:文科省のICT環境の整備方針にもある通り、実物投影装置を各教室に1台ずつ常設し、いつでも使いたいときに使える環境を整備することで、積極的な活用を目指すためです。

●実物投影装置が何台導入されたのでしょうか。
村田さん:熊本市内の小学校1,657台、中学校690台全ての普通教室に1台ずつ導入しました。
AVer:文科省の方針では中学校は入っていないのですが、中学校にも導入された理由をお聞かせください。
今村さん: 中学校の授業でも、生徒たちが主体的に学び、自らの考えや意見をアウトプットしていくことはこれまでより重要になっていくと考えています。そのような流れの中で、実物投影機を単に教師が教える内容を分かりやすく伝えるための道具だけに留めるのはもったいないと思っています。生徒が自分の考えをクラスのみんなに伝える時、B4 サイズのホワイトボードをそのまま見せるのと、実物投影装置を通して65 インチの電子黒板に拡大して映し出されるのとでは発表する側にとっても、見る側にとっても意識が大きく変わるだろうと思います。また、ICT 環境整備を機会に、先生方自身の授業づくりに対する意識が大きく変わっていくだろうと期待しています。小中学校問わず、どの教科においても、情報機器を効果的に活用しようとすることをきっかけに、授業の目的やねらいにも考えが広がり、よりよい授業づくりにつながるからです。また、小中学校に一斉に同じ機器を導入することで、中学校でも使い慣れた機器で生徒が戸惑うことなく発表に臨むことができるメリットもあります。

●導入された機種の実物投影装置をお選びになった理由をお聞かせください。
村田さん:実物投影装置の仕様を作成する際、操作性と機能性に重点を置きました。先生だけでなく、子どもたちも使うため、誰でも簡単に使えること、また、授業で効果的に活用できる機能も必要と考えました。今回導入した機器はフレキシブルアームで柔軟性があり壊れにくく、初心者でも研修を受講することなく簡単に使えるところのポイントが高いです。

—スイッチ一つで日常的に—

●通常どのように使用されていますか。
今村さん: 電子黒板と実物投影装置は常設なので教室の照明をつけるようにスイッチ一つですぐに使えるようにしています。 45 分や50 分という限られた授業の中で、先生方にとってできるだけ授業と関係ない準備やセッティングの時間を省くことができます。そのことは、不具合やトラブルの発生を大きく抑えることにもつながり、授業のテンポを乱さず使用することが可能となります。また、本市では今年度から全小学校にタブレット端末も導入しているのですが、タブレット端末を使っていない授業時にも電子黒板に映したいものがすぐに投影できます。タブレット端末と併用している時でも、彫刻刀の使い方や毛筆での筆遣いなど、両手を使ってやり方を示す場面では実物投影機のよさを実感することができます。

—さらにわかりやすさを求めて—

●教育センターでは実物投影装置の研修等は行っていますか。
村田さん:簡単に操作することができるので、ほとんどの先生が難なく使用することができる印象です。また、今回熊本大学の准教授前田先生に監修いただいた「かんたん使い方シールガイド」とイラスト絵でわかりやすく実物投影装置の使い方の取扱説明書を作成していただいたので研修をしなくても使用することができています。
 機器の操作が苦手な先生には、教育センターの指導主事やICT支援員がサポートしたり、授業での効果的な活用方法等のアドバイスを行っています。

—恐れずどんどん活用を!—

●実物投影装置の故障を恐れて使用していない学校もあると聞いています。また、電源アダプターやケーブルなど紛失して使用していないなども聞きます。熊本市はどのような対策がございますか?
村田さん:普通教室に1台ずつ大型提示装置(電子黒板)と1セットで管理しているため、教室間を移動させる必要がなく、移動の際の落下による故障や紛失の心配はありません。常設しているため、いつでも使いたいときに使える環境になっています。
今村さん: 常設しているので、当然クラスからクラスに移動することがない ので、電源アダプターなども紛失することはほぼないと思います。 常設のメリットは「面倒がない」「すぐ使える」の他にもこういうところにも反映されますね。

—これから期待すること—

●実物投影装置(書画カメラ)などのICT機器を導入することで、子どもたちはどのように変わっていくのでしょうか。
村田さん:子どもたちが自分の考えをグループや学級全体で共有し、学びあい、主体的に取り組むことで、これからの社会に必要な資質・能力を身につけていってほしいと思います。
熊本市の取り組みが全国的に広がっていければいいなと思います。

●その他、お困りごとはございますか?
今村さん:サイズが少し大きいだけです。その代り安定性が良く、倒れることはありません。子どもたちが機器の傍を通っても安心して常設できます。

2 熊本市立城東小学校 実物投影装置活用事例

【国語 文章の書き方について1年1組 岩越先生】

【授業の概要】
文章の書き方を覚える。句点のつけ方を学ぶ。

<先生の手元を映して>

—授業のポイント—
先生が実際にノートに書くことで、子どもたち自身のノートと照らし合わせることができます。そのため、スムーズに実際の作業にとりかかれます。

※先生の手元を真剣に見つめる子どもたち。

<教科書を映して違いをみつける>

—授業のポイント—
下準備をすることもなく気軽に子どもたちが発表の場に立つことができます。
どのページを開けばよいか迷っている子どもも、実物投影装置で先生が教科書のページを映し出すことによってすぐに気づき、同じページを開くことができます。
子どもたちと同じノートを使用することによって、書き始めの位置や、手順が一目でわかり、どこに何を書くのかをすぐに理解することが可能です。

【算数 学びを活かし話し合おう 3年1組 安達先生】

【授業の概要】
箱の長さが24㎝で同じボールがすき間なく横に3つ、
縦に2つ並んでいるときの縦の長さを求める。

<自分自身の図を使って発表をしよう>

—授業のポイント—
子どもたちのノートを映すだけなので、新たに先生が黒板へ図を描く必要なく時間が短縮できます。
自分自身のノートを映すことで言葉だけではなく、自分で考えた図を使いながら効果的に説明することができています。また、考えがまとまっているノートを使用することで、スムーズに伝えることができています。

【算数 「いちご」を掛け算を使って簡単に教えよう 5年1組 倉岡先生】

【授業の概要】
並べられた「いちご」の数を掛け算や引き算を使って計算する。

<自分の考えを発表する>

<友達の意見を聴きながら、さらに詳しい説明をする>

—授業のポイント—
実物投影装置で映すだけで教室全体にすぐに情報が共有されます。情報が全体に共有されているので、発表者のフォローや異なる意見も言いやすくなります。
視覚的にわかりやすいため先生の解説が少なく済み、他の子どもたちの発表に時間を費やすことができています。さらに、子どもたちが発表をしている横で、先生が子どもの意見を電子黒板に書き込むことで授業がテンポよく進んでいることがわかります。先生は授業のコーディネーターとして進めていき、子どもたちがメインで活躍できる授業になっています。

3 熊本大学 大学院教育学研究科 教職実践開発専攻(教職大学院) 准教授 前田 康裕

熊本市では、未来の創り手を育てる教育のために、授業のあり方が大きく変わろうとしています。教師が子どもたちに知識や技能を伝えるというタイプの授業だけではなく、子どもたちが自分たちで考えたことを仲間と共有するというタイプの授業えと広がり見せはじめているのです。子どもたちが、自分のノートを見せて考えを発表したり、集めてきた資料や実物を見せながら意見を述べたりするといったアウトプット型の授業が確実に増えてきています。こうした学習プロセスの中で、子どもたちは自ら知識や技能を獲得し、思考・判断・表現力を高めていくことになっていくのです。
 そのためのもっとも心強い道具になるのが、この実物投影装置です。まずは教師が日常的に実物投影装置を使っていれば、子どもたちは自然とその方法を学んでいきます。それから次第に子どもたち自身が実物投影装置を使えるようになっていき、お互いに情報を伝え合う学習の道具として位置づけられていくのです。こうした学習をスムーズに展開していくためには、道具そのものが簡単で使いやすいものでなくてはなりません。熊本市が今回導入した実物投影装置はまさにその条件を満たすものであると言えましょう。

使用機器

書画カメラ(実物投影機)【F50-8M】

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