脳性まひの中学生が安心して宿泊学習に参加できた3つの理由(インクルDB)

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作成者:津田 佳歩 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「特別支援学校(肢体不自由)に在籍する中学3年生の生徒の宿泊学習への参加における合理的配慮」 に掲載されている事例をご紹介します。普段から合理的配慮が必要な子どもを担当されている先生方、宿泊学習の際に合理的配慮が必要な子どもを担当する可能性のある先生方も、ぜひご一読ください。

<事例の概要>

A生徒は、脳性まひのある中学部3年生です。知的な遅れはなく、学年相応の学習を行っています。歩行は可能ですが、長距離の移動などは難しいため車いすを併用しています。A生徒は、地域の合同宿泊学習への参加を希望しました。本事例は、A生徒が宿泊学習へ参加するために、宿泊学習の支援スタッフが、A生徒に対してどのような合理的配慮を提供したかについての事例です。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
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2 脳性まひのあるA生徒の実態

A生徒は、B県立C特別支援学校(肢体不自由)に在籍する、脳性まひのある中学部3年生です。A生徒の実態は以下の通りです。

  • 知的な遅れはなく、学年相応の学習を行っています。
  • 歩行は可能ですが、長距離の移動、段差のある場所や坂道、砂利道の移動、大きな荷物を持っての移動などが難しく、車いすを併用しています。
  • 視力・聴力については特に課題はありません。
  • 様々な活動の中で豊かな人間関係を築いていくことを中心的な課題としています。
  • C特別支援学校中学部卒業後はD商業高等学校への進学を希望しています。

3 宿泊学習にあたっての基礎的環境整備

A生徒は、B県教育委員会が主催する地域の宿泊学習への参加を希望しました。この宿泊学習には、地域にある複数の学校から、障害のある生徒も含めさまざまな生徒が参加します。

A生徒の参加にあたり、宿泊学習の支援スタッフは以下のような基礎的環境を整備しました。

①連絡体制

宿泊学習に参加する地域の学校間の連絡体制は、日常的に確保されています。また、必要な情報を随時メールや電話等で交換できる体制があります。

②引率者

宿泊学習の引率者は、参加生徒の所属校から出しました。特に、障害のある生徒については、支援ができる教員を引率者としています。

③プログラム内容

ホテル及び現地スタッフが提供するプログラムについては、事前に引率教員が調査し、生徒に合うものを選定しました。また、可能な限り参加生徒自身がプログラムを選択できる機会を設けました。

④救護室・静養室

心身の健康に個別に対応するため、宿泊先に救護室と静養室を確保しました。救護室では、同行した看護師が対応できる体制を確保しました。

4 宿泊学習に至るまでのA生徒との合意形成のプロセス

A生徒から、宿泊学習に参加するにあたり、

  • 身体に関する障害の状況(特に移動面の困難さ)
  • 心理面での状況(集団活動への参加に対する不安)

などについて配慮の申し出がありました。

B県教育委員会は、A生徒への合理的配慮を検討するため、A生徒をよく知るC特別支援学校のE教諭を現地に派遣して事前に下見を行い、A生徒に現地の状況を伝えました。また、事前に「A生徒が自分で行うこと」と「支援を依頼すること」について確認し、支援が必要なことについては、A生徒が自分から周りの人に支援を依頼するよう伝えることについて、A生徒と合意形成を図りました。

5 脳性まひのA生徒が安心して宿泊学習に参加できた3つの理由

①活動の見通しが持てるよう配慮

E教諭をはじめとした引率教員が、事前に宿泊学習に関する説明会を開き、A生徒が移動や集団で活動することの不安を解消し、活動についての見通しが持てるように配慮しました。また、E教諭の宿泊する部屋をA生徒が宿泊する部屋の向かいにしました。このことにより、A生徒は何か不安に感じたことがあればE教諭に相談でき、安心して活動に取り組むことができました。

②「自分で行うこと」と「支援を依頼すること」について確認

A生徒とE教諭の間で、事前に「A生徒が自分で行うこと」と「周りの人に支援を依頼すること」について確認し、支援が必要なことについては、A生徒が自分から周りの人に支援を依頼するよう伝えました。宿泊学習では、同室の高校生と積極的にコミュニケーションを図り、支援が必要なときには、A生徒自らが依頼する様子がみられました。

③配慮事項や支援体制について情報を共有

A生徒が宿泊学習に参加するにあたり、個別の配慮事項や支援体制について、引率教員で詳細に確認、打ち合わせを行いました。特に健康面については、養護教諭と看護師の間で綿密に情報を共有しました。

6 宿泊学習における合理的配慮の成果と課題

○成果

今回の宿泊学習は、引率するE教諭やそのほかのスタッフが、

  1. A生徒に事前に説明するなど、活動の見通しが持てるよう配慮
  2. A生徒が「自分で行うこと」と「支援を依頼すること」について確認
  3. A生徒の配慮事項や支援体制について情報を共有

することで、A生徒は安全で充実した宿泊学習での活動を行うことができました。

また、宿泊学習に参加した生徒にとって、障害のある人に対する支援の必要性について改めて意識するとともに、合理的配慮を具体的に認識する機会となりました。宿泊学習に参加する前は、多くの生徒が障害のある人や年齢の異なる人との関わりについて不安を感じていたようですが、実際に宿泊学習で共に生活する中で互いに相手への関心が高まり、今回の取り組みの後、交流を希望する生徒が増えました。

さらに、引率教員にとっても、宿泊学習を安全で効果の高いものとするために、事前調査の実施や引率者間の生徒の参加動機や健康情報等の情報共有、支援スタッフ体制等の重要性を改めて認識する機会となりました。

○課題

今回の宿泊学習では、支援スタッフの間で、車いすで移動する肢体不自由のある生徒や手話を使う聴覚障害のある生徒についての合理的配慮の理解は進みましたが、認知面や心理面、健康面に障害のある生徒への合理的配慮については、更なる情報共有の機会や学習の機会を設ける必要があります。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

肢体不自由の生徒が宿泊学習に安心して参加できるように合理的配慮を行った事例をご紹介しました。宿泊学習が多くの子どもにとってよい思い出になるように、この記事をお役立ていただければ幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田)

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