人工内耳を装着した5年生児童に対して、発音指導及び感情の調整に関する指導を行った事例(インクルDB)

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作成者:福山 浩平 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「人工内耳を装着した5年生児童に対して、発音の指導及び感情の調整に関する指導を行った事例」に掲載されている事例をご紹介します。

聴覚障害を持つ子どもや感情の調整が必要な子どもが在籍し、どのような合理的配慮が必要かお悩みの先生は是非ご一読ください。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
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特別支援教育での活用教材(サイト紹介)
 
〈児童の概要〉
 
A児は、小学校5年生で通常の学級に在籍しています。難聴で左右の耳に人工内耳を装着しており、言語障害通級指導教室において指導を受けています。自分の気持ちをうまく表現できずに感情を露わにすることが多くあります。教員の指示や学習の理解はよくでき、気持ちが落ち着いた状態であれば集中して学習に取り組むことができます。ただし、会話の中では発音の誤りや不明瞭な話し方が見られます。

2 児童の実態

A児は、小学校5年生で通常の学級に在籍しています。難聴で左右の耳に人工内耳を装着しています。発音の不明瞭な部分として「き」と「ち」や「じ」と「ぎ」、「つ」と「ちゅ」の置換などがあります。このようにA児の言葉は聞き取りにくくなる場合があるため、言語障害の症状を緩和するための通級による指導を月2回受けています。

学習面

学習に関しては大変意欲的で進んで発表をし、与えられた課題に早く取り掛かることができます。大きな声で音読ができ、語彙は比較的豊かで、読み取る力もあります。

生活面

他の児童との関わりが低学年の頃からうまくできません。トラブルを起こし、喧嘩になると泣き叫び、暴言や暴力をふるうことが度々ありました。怒り出すと教員や友達の言葉掛けが聞けなくなり、興奮がおさまるまで自分の思いが言えないことがありました。さらに、相手との話し合いができないことがありました。

3 本事例に関する基礎的環境整備

  • 人工内耳の扱い等に関して、医療機関や聾学校から指導を受けました。
  • 個別の支援シートを作成し教員間の連携を図ったほか、連絡帳等で保護者との連携も積極的に行いました。
  • 特別支援教育支援員や合理的配慮協力員の配置を行いました。
  • インクルーシブ検討委員会(月1回)を実施しました。
  • 保護者と共に個別の指導計画を作成し、指導・支援の在り方を確認し実践しています。また、全教員にも共通理解を図り、随時、修正・評価を行っています。

子どもに関わる直接的な環境整備

  • 絵カードや拡大資料など視覚に訴える教材や情報機器等を活用しました。
  • 刺激の少ない教室環境を整え、クールダウンできる場所を確保しました。

4 合意形成のプロセス

校長を含めたインクルーシブ検討委員会を開き、A児の将来的な自立と社会参加を見据えた支援の必要性を確認しました。

保護者との合意形成

  1. 発音の誤りや聞きもらし、聞き間違いに対する支援、学習面での支援、友達とのコミュニケーションのトラブルに対応するための支援についてA児の保護者と話し合いを行いました。
  2. 学校と家庭の十分な連携が重要であること、A児の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しを行うことを保護者との間で合意形成しました。

5 合理的配慮の実際

  • 絵カードや写真等の視覚支援などの教材を活用しています。
  • 学校便りや学校ホームページの活用、人権に関する参観授業などで、児童や保護者の理解を深めています。
  • 補聴器の聞こえ方などについて、学級の児童全員に理解を促しています。

子どもへのアプローチ

  • 自分の思いを伝えたり、相手の気持ちに気付くことができるように、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を取り入れ、コミュニケーション能力の向上を図っています。
  • 言葉を聞き取れていない場合は特別支援教育支援員が耳元で復唱し、不安を少しでも早く取り除くようにしています。

意思疎通を円滑にするための工夫

  • 他の児童との意思疎通を図るため、メモ帳を自分の気持ちを伝えるツールとして活用しています。
  • 他の児童と気持ちの食い違いがあったときには紙に書いて状況を整理し、双方に自分の言動を振りかえらせるようにしています。
  • 困ったことを気兼ねなく相談できるような子ども同士の信頼関係づくりに努めています。

6 本事例の成果と課題

○成果

A児は活動中に怒り出すことが減り、気持ちの切替えができるようになりました。周りの子どもたちも成長し、A児が怒り出しても静かに見守るようになってきました。発音に関しては、舌や唇の操作がうまくなり正しい発音を意識して言えるようになってきました。語彙数も増え、正しい発音を身に付けています。他の児童と誤解が生じたときは、誰がどのような気持ちで何を話したのかを時系列で文字に書き表して説明し、自分の非を認めつつ相手の行動を認めるような考えができるようになってきました。

○課題

他の児童とのトラブルへの対応は、自分だけの力だけで解決することがまだ難しいようです。そのような場合の支援方法等を、次年度の担任にきちんと申し送ることが重要です。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

本記事にあります様々な配慮は、各児童に合わせて実践していただけるのではないでしょうか。本記事が、課題を抱える子どもへの合理的配慮にお悩みの先生方のお役に立てれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 福山浩平)

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