2つの「カード」によって知的障害の小学生が順序立てて話す「表現力」を身につけた事例(インクルDB)

GOOD!
314
回閲覧
11
GOOD

作成者:津田 佳歩 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

これは、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。この記事では、「知的障害のある小学1年生の表現力をつけるための合理的配慮」 に掲載されている事例をご紹介します。「話したい」という思いがあるのにうまく相手と話せない、そんな子どもに心当たりのある先生方におすすめの記事です。

<事例の概要>

A児は、B小学校の知的障害特別支援学級に在籍する、軽度の知的障害及びADHDの傾向がある小学校1年生です。A児は「話したい」という思いを強く持っているものの、話の内容が他の児童に伝わらない状態でした。そんなA児に対して、「順序を示すカード」「助詞カード」などを用い、ゲーム感覚で表現力を養う取り組みを行いました。合理的配慮の内容については、言語聴覚士(ST)のアドバイスも参考にするなど、外部専門家も活用しました。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
ADHDのある小学4年生への合理的配慮の事例(インクルDB)
子どもたちの注意集中を向ける教室環境整備—夏休み中に刺激の調節を—(田中亮先生)

2 知的障害のあるA児の普段の様子

A児は、B小学校の知的障害特別支援学級に在籍する1年生です。

A児は話すことが大好きで、「話したい」という思いをとても強く持っています。しかし、時系列がばらばらで話がまとまらないため他の児童に話の内容が伝わらず、トラブルになることがあります。

また、多動不注意の傾向があり、整理整頓や片づけが苦手です。掃除なども意欲的にしようとしますが、順番や方法が分からず戸惑うことが多くあります。さらに、他の児童の話や周囲の状況が気になり、集中力が持続しないこともあります。

発達検査の結果から、A児は聴覚情報の入力による理解より、視覚情報による理解や思考の方が得意であることがわかりました。

3 A児の在籍する小学校の環境

B小学校のあるC町では、学校からの要請により発達支援巡回相談員が学校を訪問し、児童生徒の学習時の様子を確認したり、担任に支援方法についての助言を行ったりしています。

さらに、C町からB小学校に月に1回程度派遣される言語聴覚士は、言語理解や表現力向上に必要なトレーニングの個別指導を子どもたちに行っています。また、年に2回程度派遣される作業療法士も、身体の使い方の評価や支援方法についての指導を行っています。加えて、B小学校は臨床心理士からも助言を受けられる体制をとっています。B小学校の特別支援学級では、それらの指導を活かして、個に応じた指導を行っています。

4 A児への支援内容を決定するまでの経緯

  1. 「他の児童と仲良く遊んでほしい、関わってほしい」という保護者の願いを学校側が受け取りました。
  2. 発達支援巡回相談員、臨床心理士、保護者、特別支援教育コーディネーター、特別支援学級担任による支援会議を開催しました。
  3. 支援会議において個別の教育支援計画を作成し、A児の小学校3年生終了時までを見据えた目標、及び支援内容を以下の通り決定しました。
  • 他の児童とのトラブルの原因であり、A児が苦手としている「表現力」を高める
  • 2年生までの国語の内容をできるだけ身につけさせる
  • 意欲的に取り組ませるために、A児が興味のあることや視覚的資料を取り入れて楽しく学べるようにする

5 「表現力」を高めるための合理的配慮

◎「表現力」を高めるための2つのカード

◇「順序を示すカード」の使用

A児が順序よく事柄や自分の気持ちを表現できるように、「順序を示すカード」を準備しました。「いつ、どこで、だれと、どうした」を意識しながら話ができるようにカードを使用し、スムーズに話せるようになったら「ようす、きもち」のカードも増やしていきました。


※原典を参考に筆者作成

◇「助詞カード」の使用

A児が助詞を正しく使って文を作ることができるように、言語聴覚士からの助言をもとに「助詞カード」を活用し、文中の空白に「助詞カード」を置いて正しい文を作る練習をしました。


※原典を参考に筆者作成

◎A児へのその他の合理的配慮

  • 日記を書くときには、状況を思い出す手がかりになるよう、写真を活用しました。
  • 通常の学級での音読発表会では、通常の学級の担任と相談し、短くて繰り返しが多い段落を担当するようにしました。そして、読み間違いを減らせるように事前に特別支援学級で練習を行いました。練習を重ねることで、間違えずに読めるようになり、音読への意欲向上につながりました。

6 この事例の成果

「順序を示すカード」「助詞カード」を用い、ゲーム感覚で言葉の使い方に慣れさせることで、A児は「いつ、どこで、だれと、どうした」を意識した話し方ができ、事柄や自分の思いを適切に順序立てて伝えられるようになってきました。また、交流及び共同学習においては、特別支援学級担任と通常の学級担任とが連携をとりながらA児の学習をすすめることで、A児は自信を持って活動に取り組めるようになり、他の児童との関係も少しずつ築けてきています。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

8 関連記事紹介

ADHDのある小学4年生への合理的配慮の事例(インクルDB)
ADHDのある小学4年生の児童が、通級による指導において、苦手であるひらがなの習得を目指すための合理的配慮に関する事例をご紹介します。
子どもたちの注意集中を向ける教室環境整備—夏休み中に刺激の調節を—(田中亮先生)
子どもたちの注意集中をそらす原因は、教室の意外なところに隠れているかもしれません。子どもたちへの刺激を調節するための教室整備のヒントについてご紹介します。

9 編集後記

「話したい」という思いはあるのに相手に伝わる話がうまくできない子どもに対して、先生方が力になれる一つの方法をご紹介できていれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田)

コメント

コメントはまだありません

    より良い実践のためには、あなたの励ましや建設的な対案が欠かせません。
    ログインして、ぜひコメント欄をご活用ください。