ダウン症の小学生が足し算の答えを自分で導き出すための教具づくりの3つの工夫(インクルDB)

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目次

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「特別支援学級に在籍する小学4年生のダウン症の児童が、主体的に算数の学習に取り組むための合理的配慮についての事例」 に掲載されている事例をご紹介します。自分で見通しを持って活動を行うことが難しい子どもへの手助けとして、ぜひお役立てください。

<事例の概要>

ダウン症のA児が主体的に算数の学習に取り組むための合理的配慮についての事例です。A児が自分で操作しながら答えを導き出すための教具を開発し、さらに正答を確かめるための手立てを考えたところ、簡単な具体的操作をともなう活動設定とプリントを提示することで、A児に活動の見通しを持たせることができました。

※自分で操作しながら答えを導き出すための工夫例(詳しくは記事本文にて)

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
視覚に訴える「することマグネットシート」(長谷川隼土先生)
活動の見通しやコミュニケーションに課題のある小学1年生への対応事例(インクルDB)
インクルーシブ教育・特別支援教育に関する情報サイトまとめ(研究所など)

2 ダウン症を有するA児の普段の様子

A児は、B小学校の知的障害特別支援学級に在籍する、ダウン症の小学4年生です。

言葉の理解については、簡単な言葉での指示であれば概ね理解することができるものの、発語については不明瞭さが見られます

数唱については、20までの数を数えたり、それ以上の大きな数を読んだりすることはできますが、足し算や引き算などの計算をすることについては困難さが見られ、学習全般に遅れがあります。

3 A児の在籍する学校の基礎的環境

環境①個の実態に応じた教具の考案

B小学校では、各教科等の指導内容や個の実態に応じて教材・教具を考案し、教材開発の視点を全教員で協議したり、実際の授業場面で児童が使用することを想定して、改良する点はないか検討したりしています。また、授業で使用した教材・教具は、校舎内に設けられた教科別の倉庫に保管し、必要なときに職員がいつでも使用できるよう共有しています。

環境②教科担任制の実施

B小学校の特別支援学級では、各教科等の特質をふまえた専門的な指導を行うことができるように、教科担任制による指導体制をとっています。各教科の担当教員が全ての学級で教科指導を行いながら、児童の発達段階や障害特性の把握に努めています。

環境③合理的配慮協力員の配置

B小学校では、特別支援学級に合理的配慮協力員を1名配置しています。合理的配慮協力員は児童や各担任の必要や要望に応じて児童の様子を観察しながら担任への助言をし、働きかけを行っています。

4 A児の支援に関する合意形成のプロセス

A児の保護者から、「できるだけA児の持っている力で何事にも取り組ませ、自分で学習できる力を身に付けるための支援をしてほしい」との申し出がありました。そのことを受けて、B小学校特別支援学級担当者の間で話し合い、「A児が自力でできること」「支援があればできること」「支援があっても難しいこと」に分けて指導内容を構成し、どのようなときにどのような支援が必要であるのかを吟味しました。特にA児に関しては、

  • 自分で操作しながら答えを導き出すための教具を開発すること
  • 正しい答えを導き出せたかどうか本人が確認できるような授業の仕組みづくりを行うこと

を保護者に提案し、合意を得ました。

5 ダウン症のA児が自分で答えを導き出すための教具づくりの3つの工夫

工夫①活動の手順を視覚的に示す

学習の導入段階で、A児に活動の手順を説明し、それらを短い言葉で示した写真付きのカードにして、順番に黒板に貼るようにしました。

工夫②情報を色分けして提示する

特別支援学級での指導を発達段階に応じて2つのグループに分けて行うときに、A児がどちらのグループに属するのかを写真で黒板に示しました。また、2つのグループをオレンジ色と青色とで色分けし、A児が自分のグループを判別できるように学習プリントと教具にA児の顔写真を貼り、青色の枠をつけました。その結果、A児は、自分が青グループであることを把握し、青グループがどのような活動をするのかを理解して活動を行う様子が見られました。

工夫③実物を数えながら取り組めるようにする

A児が課題意識を持って主体的に活動に取り組むことができるように、教具を作成しました。具体的には、イラストのある学習プリントを作成し、どんぐりのイラストを数える活動を行いました。また、A児が実物のどんぐりを数え箱に入れることで、体感的にどんぐりの数をとらえることができるようにしました。さらに、2つの数を足すときは、数えるための箱と学習プリントを対応させて、足される数と足す数にそれぞれ赤と青の枠をつけて示すことで、A児がどちらにどんぐりを並べればよいかを一目で分かるようにしました。


※画像は原典を参考に筆者作成

6 この事例の成果

A児にとって簡単な具体的操作を伴う活動設定と、プリントを提示することによって、「どのような活動を」「どのような順序で」「どのように行えばよいのか」といった見通しを具体的に持たせることができました。活動が簡単でわかりやすいうえに、視覚化された教具をもとに自分のがんばりを確認し、具体的に振り返ることができるよさがありました。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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インクルーシブ教育・特別支援教育に関する情報サイトまとめ(研究所など)
特別支援に関する情報を提供しているサイトを、一覧にしてご紹介します。 

9 編集後記

自分で見通しを持って活動を進められない子どもに対して、視覚化した資料を用いて活動の手順を明確にした事例をご紹介しました。この記事が多くの先生方のお役に立てれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田)

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