自閉症スペクトラム障害の高校生に「コミュニケーション」と「自己理解」を促すための工夫とは?(インクルDB)

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作成者:津田 佳歩 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、「インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)」の実践事例データベースの内容を引用・加筆させていただいたものです。今回は、「特別支援学校(病弱)に在籍する自閉症スペクトラム障害のある高等部1年生の生徒のコミュニケーションや自己理解を促す支援と配慮」 に掲載されている事例をご紹介します。他の生徒とうまく関わることができない生徒に対して、先生方ができる工夫の手がかりになれば幸いです。

<事例の概要>

A生徒は、自閉症スペクトラム障害を有しています。知的な遅れはありませんが、他者とのコミュニケーションがうまくとれず、対人緊張も非常に強い傾向にあります。今回紹介するのは、場に応じた言葉遣いなど他者とのコミュニケーション能力を高めるための個別指導や、自分の内面を理解するための掲示の工夫などを行った事例です。この結果、A生徒は集団活動に参加し、生徒どうしで関わりを持つことも増え、自分の意見もしっかりと伝えることができるようになっています。

※EDUPEDIAには、特別支援に関する記事が他にも多数ございます。ぜひ併せてお読みください。
テーブルトーク・ロールプレイングゲームによる自閉症のある児童生徒への余暇支援
高機能自閉症のある中学3年生に指導を行った事例(インクルDB)
特別支援教育での活用教材(サイト紹介)

2 自閉症スペクトラム障害のあるA生徒の様子

A生徒は、B特別支援学校(病弱)に在籍する高等部1年の生徒で、自閉症スペクトラム障害を有しています。

A生徒に知的な遅れはありませんが、他者とのコミュニケーションがうまくとれず、また対人緊張も非常に強い傾向にあります。不特定多数の集団に属して活動を行うと、過度の不安や緊張などに襲われ、他者とコミュニケーションが全く取れなくなり、日課の遂行も難しくなります。

A生徒は中学校では通常学級に在籍していましたが、専門医からは対人ストレスの強い集団の中での学校生活はA生徒にとって適していないと診断を受けました。その結果、A生徒に適した指導を行うために、B特別支援学校への入学が決まりました。

3 A生徒の在籍する学校の環境整備

  • B特別支援学校のある県では、特別支援学校教諭2種免許状を取得できる認定講習の機会を増やし、教員の専門性の向上を図っています。
  • 個別の教育支援計画や個別の指導計画の中に、保護者を通じて得られる児童生徒の家庭での状況などについての実態把握欄を設けています。

4 保護者との合意形成のプロセス

特別支援学校入学当初、保護者から「本人が学校を楽しいと感じ、毎日登校してくれることを願っている」「人との関わりにもっと積極的になってほしい」といった要望がありました。これをうけて、他の生徒と関わる機会を増やすため、A生徒は音楽や体育では集団に参加して他の生徒と一緒に授業を受けています。また、給食の準備や配膳、会食、食器などの片付けも学年の集団の中で行っています。これらについては、保護者との話し合いを行い、合意を得ています。

5 自閉症スペクトラム障害のA生徒が「コミュニケーション」と「自己理解」を図るための工夫

①「コミュニケーション」を図るための工夫

A生徒には、場に応じた言葉遣いや相手の気持ちの理解といった、他者とのコミュニケーション能力を高めるための個別指導を行っています。また、実際に人と関わる場面を想定し、挨拶の練習や会話の練習を行っています。このような取り組みを行うことで、A生徒は自信を持って人と関わることができるようになってきています

また、集団での学習で話し合いをするときは、A生徒にみんなの意見をまとめる役を担ってもらうようにしています。みんなの意見をまとめることで、他の生徒の気持ちや考えを推し量ることができるようにしています

②「自己理解」を図るための工夫

A生徒ができること、できないことなどを掲示し、A生徒が自分の内面や気持ちを視覚的に理解できるようにしています

※図は原典を参考に筆者作成

6 この事例の成果と課題

◇成果

A生徒には、保護者の理解もあり、学校での生活面や学習面において個に応じた指導や支援がなされています。他者とのコミュニケーション能力を高めるために、実際の場面を想定した会話の練習などの個別指導を行ったことによって、A生徒は自分の意見を伝えることができるようになってきました。また、A生徒ができること、できないことなどを掲示し、視覚的にA生徒が自分の内面や気持ちを理解できるように工夫したことによって、今では集団活動にも参加し、生徒どうしで関わりを持つことも増えてきました

◇課題

A生徒は、対人関係において自分の気持ちや意見を伝えることはできるようになってきましたが、まだ相手の気持ちに対する配慮が欠ける場合が見受けられます。今後は相手の気持ちに配慮した言葉遣いを身につけさせる指導や支援が必要です。また、集団の中でも、集団の雰囲気に合わせた言動ができない場面も見受けられるので、今後はこのことに対しても、指導や支援を継続する必要があります。

7 出典


インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)
http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運用するインクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)は、子どもの実態から、どのような基礎的環境整備や合理的配慮が有効かについて、参考となる事例を紹介しています。また、研修会等での事例検討にも活用できます。

インクルDBは、各学校の先生方だけでなく、保護者の方をはじめ、広く一般の方にもご利用いただくことができます。ぜひ、ご活用ください。

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9 編集後記

自閉症スペクトラム障害のある生徒がコミュニケーションと自己理解の力を伸ばすための工夫をご紹介しました。この記事が、先生方の対応の手がかりとなれば幸いです。
(編集:EDUPEDIA編集部 津田)

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