【高校生物】20日間に渡る主体的実験活動の実践

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目次

1 はじめに

 生物における目標は,高等学校学習指導要領解説理科編(平成21年12月)で,「生物や生物現象に対する探求心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,生物学的に探究する能力と態度を育てるとともに,生物学の基本的な概念や原理・法則の理解を深め,科学的な自然観を育成する」と示されている。これは平成31年度から移行期間が始まる新学習指導要領(平成30年7月告示)および解説理科編(平成30年7月告示)においても,基本的な方針は同様である。また,新学習指導要領中では「学びに向かう力」「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を育成すべき資質・能力の3つの柱として捉え,「何ができるようになるか」が明確に示された。その実現のためには,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善が必要であり,従来のように知識を教え込む形ではなく,「知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に想像したりすることに向かう過程を重視した学習の充実が必要」と文部科学省は述べている。さらに,高大接続改革の中の大学入学者選抜改革について,令和3年度から大学入学共通テストが実施される。その実施の趣旨の中で「知識・技能のみならず,思考力・判断力・表現力も重視して評価を行うものとする」と示されている。
解説理科編における生物の目標に「目的意識をもって観察,実験を行い」とあるのは,実験内容を理解させることが重要なのではなく,しっかりとしたねらいをもって観察,実験を行うことで,普遍的な「探求する能力」を身に着けると共に,実験結果を思考・判断して考察し,他者へ表現する能力を身に着けることが肝要であると考える。担当しているほぼすべての生徒が大学入学共通テストを受験することを鑑みると,従来型の実験活動ではなく,目的意識や見通しをもって観察,実験を行い,生物学的に探究する能力や態度を身に着け,結果を論理的に考察,発表できる思考力・判断力・表現力を育成できる実験活動の改善が重要であると考える。
 対象生徒高校2年次の文系クラスで,すべての生徒が大学進学を希望している。生活態度は落ち着いていて,非常にまじめで学習意欲も非常に高い。しかし一方で,間違えることに対する恐怖心が強く,模範解答のない問題を避けてしまう傾向があり,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたりすることが不得手なのが実態である。これまでの授業では,興味関心を起こすための情報や教材の開発,思考問題を取り入れるといった取り組みを行ってきたが,実験活動に関しては従来型の授業を展開していた。目的意識をもって実験活動に取り組むためには,教員から提示された指示書通りに作業を行うのではなく,自ら実験計画を立案し,見通しをもって実験活動を行い,結果を考察して発表するといったプロセスが重要だと考える。
 そこで実践では「生命現象とタンパク質」の単元に登場する様々なタンパク質の性質について実験テーマと活動目標を設定し,それを達成するための具体の手順に関しては生徒自ら考えるという実験活動の改善と,その結果・考察から生命現象に関する原理・法則を導く授業改善を目指す。

2 ねらいと重要な手立て

 「タンパク質の構造と性質」における生徒自身が立案・実施する長期実験活動を通して,実験活動から生物学的な原理・法則を導き,それを基に問いに対する答えを記述する力を育む学習指導の方法を追究する。
 教員から提示された指示書通りに作業を行うのではなく,自ら実験計画を立案する。具体的には「生命現象とタンパク質」の単元に登場する様々なタンパク質の性質について,実験テーマと活動目標を複数種類設定し,そこから1つ選んで,それを達成するための具体の手順を作成する。

3 実践仮説

 「タンパク質の構造と性質」において生徒自身が立案・実施する長期実験活動をすれば,生徒は目的意識をもって観察,実験を行うようになり,その中で生物学的な原理・法則を導き,それを基に問いに対する答えを記述する力が育つと考えられる。

4 仮説検証の方法

 (1) 実験活動を行う前に「タンパク質の構造と性質」に関する記述テストを実施し評価を行う。
 (2) 実験計画書の分析を行うことで,見通しもって計画が立案できているかを確認する。
 (3) 実験後,班でレポートを提出し,実験活動が正しい手順で行われたか,論理的な考察ができたか,設定された問いに対して記述できているかを確認する。
 (4) 異なるテーマに取り組んだ班のメンバーと班を再構成し,自身が活動した内容と結果,および考察したことを的確に相手に伝えられるか評価を行う。またそれらの情報を統合し,テーマ横断的な課題を解決できるか確認する。

5 授業実践

単元名

生命現象とタンパク質

単元の目標

様々なタンパク質が様々な生命現象を支えていることを理解すること。

単元の評価規準

関心・意欲・態度

タンパク質の関わる生物現象に興味をもち,意欲的に生物現象に関する観察をしたり情報を得たりしている。

思考・判断・表現

多様な生物現象の中に一貫する原理・法則を見出し,レポートにまとめたり他者に説明できる。

観察・実験の技能

与えられた課題について,解決するための適切な実験手法を選んで実験を行うことができる。

知識・理解

タンパク質の性質や特徴について知識を身につけ,様々な生物現象を引き起こす仕組みを理解している。

 単元の指導計画(10時間扱い)

下記ファイルを参照
単元の指導計画

6 実践の結果

ミニテストの結果は,平均得点率は全体のおよそ半分程度で,講義形式の授業をした限りでは細かい点まで習得できていないことがわかった。

実験の結果,すべての班がレポートを期限内に仕上げ提出を行うことができた。レポートの内容については,設定した課題に対して,実験結果から論理的に考察することができていた班がほとんどであった。ただし,実験の方法が誤っていたり,操作の不手際で結果が望ましくないもの(正しく考察が導けないもの)になってしまった班がいくつか存在した。そのような班は,考察内容がレポート内で矛盾してしまったり支離滅裂になってしまっていることがあり,実験指導の誘導の点で課題があると感じた。
最終時の異なるテーマの班とのメンバー交換,および情報共有・課題解決に関しては,ほぼすべての生徒が熱心に自身の活動内容と結果・考察について意見を発表できていた。相手の話を聞いてメモを取り,作業プリントでしっかりと設問に反映をさせていた。タンパク質の性質について理解を深め,難しい設問にもしっかりと答えを記述できている姿が印象的であった。

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***後記***
甚だつたない実践でありましたが読んでいただきありがとうございました。
現在現場を離れており,小テストの結果やレポートの具体的な内容,テーマ横断的な設問に対しての実際の解答内容などを載せられません。結果としてデータ分析が不十分で,焦点のぼやけた実践となってしまいました。

現在こちらのwebサイト(http://dekunoboh.com)でも実践等を記載しておりますので,ご覧いただけたらと思います。また機会がございましたらよろしくお願いいたします。

投稿者 でくのぼう

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