学校と議会が協働した「高校生議会」の実践(岐阜県立可児高校・可児市議会)

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目次

1 はじめに

この記事は、2020年2月5日に行われた岐阜県立可児高校の高校生議会の様子と担当者へのインタビューを取材・記事化したものです。この記事では、議会や地域の機関と連携した主権者教育、キャリア教育、地域課題解決型教育の取り組みをご紹介します。

 今回は、高校生議会の実践を見学し、その後議会と学校の双方の担当者にお話を伺いました。
 高校生議会は年間カリキュラムの集大成として位置づけられているため、そこに至るまでの流れを簡単に紹介します。

2 年間カリキュラム

・夏季休業中
「夏のOPENエンリッチ」 with NPO法人縁塾
1年生を対象としたもので、総合的な学習の時間の一環として行われる。約20の講座が開かれ、地域の大人から地域課題に関する講義を聞いたり、ワークショップを受けたりする。

・10月
「模擬選挙」with 可児市議会
模擬選挙の運営メンバーが候補者のマニフェストを作成し、3人の可児市役所職員を候補者とする。1,2年生の生徒が、演説を聞いた上でグループ討議を行い、投票し、当選者を決定する。

・1月
「フィリピンフィールドワーク」
高校生議会における「多文化共生」チームはフィリピンへのフィールドワークに行く。フィリピンの貧困地域を訪れたり、外国人技能実習生との交流などを行った。

・2月
「高校生議会」
模擬選挙で争点となったテーマに関して、テーマ毎のグループで研究を深め、可児市議会に提出する意見書を作成する。高校生議会の当日は、作成した意見書を現職議員と一緒に議論し、修正して、最終案を作成する。その後議場で全市会議員に対して意見書の説明を行い、多数決によって意見書を採択する。

3 高校生議会の流れ

第1部 グループ討議(70分)

高校生が事前に作成してきた意見書案について、現職市会議員に説明し、質問を受けます。その後議論を進めていき、欠けている点や曖昧な点を洗い出しながら精緻なものにしていきます。最終的に、1枚の模造紙に政策の効果や課題点などをまとめ、第2部の発表への準備を進めます。

1班 学習支援(学校以外の学習環境)

1班は「公衆フリーWi-Fiの環境整備」を提言していました。その理由として、①非常災害時における連絡②観光客の町の情報取得③高校生の情報収集や勉強を挙げていました。これまで考えてきた政策案について、議員に説明していました。


                グループ討議前の意見書

その後、議員の方から質疑を受けます。「Wi-Fiを整備するにしても、市内全域なのか公共施設等に限定するのか」「現制度では災害時には数日間フリーWi-Fiが使えるようになっている」「勉強でなぜWi-Fiが必要なのか」「有料か無料か」「他の市町村ではどうしているのか」等の鋭い指摘が続きます。生徒たちは市会議員が露わにしていくこれらの論点に応えていく中で、自分たちの意見の欠陥に気づき、精緻なものにしていきます。災害時の数日間のフリーWi-Fiの存在を知って意見書から削除したり、勉強時の必要としては「大学入学共通テストの英語のリスニングの比重が高まり、音声や動画を使用した学習の必要性が依然よりも高まっている」ことを主張したり、「Wi-Fiがあると他地域からの高校進学率が上がって地域の活性化に繋がる」という地域社会の公共益の視点を取り入れたり、需要と供給を一致させるために「ポケットWi-Fiの貸出システムを作る」という全く新しいアイデアを思いつく等、議論が深まっていました。また、「Wi-Fiを整備した後も、生徒が学校のWi-Fiを使ってスマホゲームをするようなことも考えられる」等、政策を運用していく際のルール作りのようなことまで議論が発展していました

議論をしていく間には、適宜出た意見を付箋に書き、模造紙に貼っていきます。「学習」や「観光」等、要素ごとに分けて整理していました。


               グループ討議後の意見書

終盤では、意見書案を見直し修正します。

2班 学習支援(学校以外の学習環境)

2班は「学習スペースの設置」を提言していました。具体的には、民間企業と連携し、地元の高校生が通える有料の学習スペースを設置するというものです。その理由として、図書館等の既存の学習スペースでは席が不足していることや夜間の使用ができないことを挙げていました。これまで考えてきた政策案について、議員に説明していきます。


               グループ討議前の意見書

その後、議員の方から質疑を受けます。「需要が高まる時期はいつなのか」「有料なら具体的にどのくらいの金額か」「企業側にどんなメリットがあるのか」「大学等の企業以外の機関ではいけないのか」などの鋭い指摘が続きます。生徒たちは市会議員が繰り出してくるこれらの論点に応えていく中で、自分たちの意見の欠陥に気づき、精緻なものにしていきます。「新しく場所を設置するのでなく地区センターの利用を促進すること」に方針を変更したり、「家ではゲームやテレビ等の誘惑が多いのに対して自習室でみんなで勉強することで身が入ること」を必要性として強調したり、「将来その企業で働きたいと思う高校生が増える」という企業側のメリットを挙げるなど、議論が深まっていました。政策立案に欠かせない、場所や時期の「限定」それぞれの立場の利益を想像することを学んでいるように見られました。

議論をしていく間には、適宜出た意見を付箋に書き、模造紙に貼っていきます。「必要性」や「設置場所」等の項目ごとに整理していました。


               グループ討議後の意見書

終盤では、意見書案を見直し修正します。

3班 多文化共生

3班は「多文化交流」について提言していました。具体的には、食文化を通じて可児市に住む外国人と高校生が交流できる機会を設けるというものです。可児市には人口の約7.8%の外国人が住んでいます。生徒たちは独自の調査で、外国人と関わりを持つ人は外国人に対して良い印象を持ち、関わりを持たない人は外国人に対して悪い印象を抱いているという結果を得ました。そこで、地域の外国人や高校生が食文化を通じた交流の機会を設けることで、互いの交流を深めていくことを提案します。


               グループ討議前の意見書

生徒たちは、議員の方々に事前に考えてきた二つのプランについて相談していました。

プランA:その場で料理を一緒に作り、作った料理を一緒に食べるイベント。

プランB:参加者各自で料理を持ち寄り、持ち寄った料理を一緒に食べるイベント。

この二つのプランに対するメリットとデメリットを書き出していき、付箋と模造紙を使って整理していきます。スタッフの数、費用、料理の安全性、食の好み、宗教の食の制約などの観点からそれぞれのプランのメリットとデメリットを整理していきました。議員の方からは、「参加者の募集の方法や対応はどうするのか?」「使用する言語・言葉はどうするのか?」といった質問を受けました。また、イベントにかかる費用の問題は高校生では解決できないため、可児市からの援助を受けることを意見書に盛り込みました。


               グループ討議後の意見書

終盤では、意見書案を見直し修正します。

4班 社会福祉(子育て、高齢者等)

4班は「交通機関の整備」について提言していました。具体的には、自動車の免許返納をした人、足が悪い人など移動が困難な高齢者が増加することを踏まえて、可児市に住む高齢者のために、バスの停留所や本数を増やすことを提案します。


               グループ討議前の意見書

生徒たちは、高齢者の方が自宅から行きたいところなど、どこへでも行きたいところに行ける交通手段が理想形だと考えました。その後、議員の方が市がすでに提供している「電話で予約バス」というサービスを紹介しました。「電話で予約バス」とは、定時運行のバスではなく、事前に予約のあったバス停のみを運行し、予約がなければ運行しない方式のバスのことです。生徒たちはこのサービスに注目し、「電話で予約バス」をより普及させるにはどうすれば良いかを議論していきました。

生徒たちはこのサービスの名前がわかりにくいことや、市民の認知度が低いことを問題視し、名称の変更、広報活動の工夫や強化を主張していました。マグネット形式の広告作成、病院などの高齢者が多い施設での広報の強化、免許返納時に無料クーポンを配布などの提案がされました。


               グループ討議後の意見書

終盤では、意見書案を見直し修正します。

第2部 発表・意見書採択(60分)

会場を市議会議場へ移し、現職の市議会議長の進行のもと、実際の市議会さながらに進行が行われます。市議会議員は前方、高校生議員は後方に着席します。
 まず、高校生議員の代表に対し、模擬選挙に始まるこれまでの取り組みについて報告が求められ、代表者は議長の前に出て、写真やスライドを用いながら報告しました。

次に、グループ討議の時間に第一委員会室にて議論した成果の報告が行われました。4つのグループが1グループずつ前に出て、模造紙を議長に見せながら議論の成果を報告しました。グループの報告が終わるごとに、質疑の時間となり、市議会議員が高校生議員に対し質問を行い、グループの代表がそれに対し答弁を行いました。

最後に、意見書の決議が行われました。議論を経て修正された意見書を、各グループ代表が議長の前に出て提案します。その後、各意見書について採決が行われました。高校生議員は各意見書について、賛成の意思を起立で表明し、全ての意見書が全会一致で採択されました。

市長から結びのあいさつがあった後に議会は終了し、別室にて高校生議員の代表は意見書を議長に手渡しました。

4 事後インタビュー取材

川上文浩議員(可児市議会議員)

この高校生議会の取り組みの一番の目的は何なのでしょうか?

始まった当初は、当時まだ20歳選挙権の頃でしたが、私たちの思いとして、「有権者の声はよく聞いているが、主権者の声を聞けていない」ということがありました。10万人の市民全員が主権者になるので、選挙権を持っていない主権者の意見も吸い上げていく必要があるだろうという思いで始まりました。
また、可児高校の普通科に通う高校生たちは、工業科などの高校生に比べると社会性が低いということがあります。普通科の高校生たちが地域の良さを知る機会がないまま、首都圏などの大学に行き、そのままUターンしないというケースがとても多いことも大きな課題でした。これから市の人口が減っていくという問題がありながらも、やはり学校の先生方のミッション(思い)として、偏差値の高い大学に進学させるということはあると思います。そうなると現実問題として、地元を離れて国公立大学や有名私立大学に進学する高校生が多くなるので、可児市に住む私たちが、地域の魅力を伝えていかなければならないと感じました。

ありがとうございます。この高校生議会や模擬選挙は具体的にはどのような経緯で始まったのでしょうか。

高校生議会を行っていくうちに、地域課題懇談会を行っていました。この地域課題懇談会では、高校生と地域の自治会や金融業界、商工業界などの団体を関わらせようとなりました。可児市には多くの中小零細企業がありますが、高校生のリクルートができないという状況があり、お互いのことを知り、接点を持ってもらうきっかけが大事だと考えました。
 可児市に就職したいという思いを持つ高校生は企業の方にこんなことを尋ねていました。「私は可児市に就職したいです。3年くらい働いてお金を貯めたら一年間留学をしたいのですが、休暇制度はありますか?」「高校を卒業して可児市に就職したいです。自分は子育てをしたいのですが、育児休暇の制度はありますか?」しかし、そのような制度がある企業は一社もありませんでした。こういった交流があり、企業は高校生たちが求めている会社とのギャップに気づいていきました。そこで、商工会議所も給料以外の面からも今までのリクルートを見直していくことになりました。
 この市の工業高校の生徒は約8割が高卒で就職し、その中の6割が地元での就職を希望していますが、実際に地元の企業に就職する生徒はわずかです。それは、地元の企業を知らないというのが大きな要因でした。そこで、可児市の企業魅力発見フェアというイベントを行ったところ、地元に就職する高校生が一気に150人ほど増えていきました。議会の働きかけで、高校生と企業をつなげる取り組みを行った結果、地元に就職したいという高校生が増えていったのです。
 卒業してすぐに就職する子どもたちは学校で社会性を身につける機会が全くありません。18歳選挙権が始まったときも、学校ではなかなか取り組みができませんでした。学校では難しいという現状があるなら、議会が主導でやりましょうということで、1、2年生600人を対象とした模擬投票を本番さながらにやっています。地域への気づき・振り返りという側面に加えて、学校で行うことが難しい主権者教育やシティズンシップ教育を地域で行っています。候補者を立てて、全く知らない第三者に投票をさせるというのは、学校だけでも生徒だけでもできない地方議会ならではの取り組みになっています。

議会主導でこのような取り組みを行う際に、生徒を議会や政治に関わらせることへの抵抗は見られなかったのでしょうか。

やはり学校の先生方は、こういった取り組みに対して非協力的な方が多い印象はあります。模擬投票を最初に行った際には、ほとんどの先生が「自分には関係ない」といった感じでした。岐阜県の地域共創フラッグシップハイスクールに認定されていなければ継続的には続かなかったと思います。最初にこの取り組みを始めたときには、「可児市議会が公立高校と勝手なことをしている」と反発も多かったです。こうした取り組みをすると生徒の成績が下がるという懸念もありましたが、結果的に生徒の成績が向上していきました。こうした取り組みに参加した生徒が難関大学に合格したり、AO入試で合格したりするといった顕著な効果が表れたのです。

「学力が上がった」というお話がありましたが、高校生議会を行った世代の高校生の投票率が高かったというニュースも見かけました。高校生議会を続けてきて具体的に表れた効果はありますか。

投票率に関しては、新聞でも大きく取り上げられましたが、第一回目の18歳選挙では可児高校の生徒の投票率は約90%でした。
 高校生議会を続けてきた効果としては、高校入学してすぐに打ち解ける生徒が多くなったようです。また、学習スペースで交流できるようになりました。大学卒業後に地元に戻ってきてくれるという生徒も増えました。データは取っていないのですが、そういった効果を肌で感じています。「地域に帰ってきて地元のためになることをやりたい」という卒業生を生徒たちが見て、ロールモデルとして見習うようになったと思います。今回の模擬投票でそのような大学生を全体ファシリで使ったのはそういった狙いもありました。コアメンバーも最初は五人しかいませんでしたが、彼のような大学生を目標にしている生徒も多いと思います。
 

今回の高校生議会の意見書や高校生のアイデアが実際に議員さんに影響を与えることはあるのでしょうか。

議員が自分たちでは気づかないことに気づかされるということは多々あります。高校生が提出した意見書を議長が受け取り、議長が議会や委員会に出して、実際に意見を取り扱うかはそこで決まります。今回の意見書にあったWi-Fiの整備などは明らかに遅れていると感じているので、議員としても議会で今後主張しやすくなります。例えば避難所にWi-Fiがないと、災害情報がキャッチできないという問題などもあります。今回の高校生の意見書があることで、そういった問題を議員から市長に訴えやすくなります。予算の提言の際などで、「Wi-Fiの整備を進めるように」という主張をしやすくなるのです。

渡部正実教諭(岐阜県立可児高校教諭)

高校生議会も含めた全体的なカリキュラムの中での指導の注意や意識したことは何ですか?

今年岐阜県のふるさと教育の一環で「地域共創フラッグシップハイスクール事業」の指定を受けたので、高校生議会という1つの行事ではなく、年間を通じたカリキュラム設定を意識しました。まず、夏休みにはNPO縁塾が主催する「夏のOPENエンリッチ」があります。これは1年生の総合的な学習の時間の一環です。約20の講座があり、地域の大人から地域課題を聞いたりワークショップを受けたりする活動をしています。これまでのエンリッチは大人が提供した課題について話を聞くという受け身なものもありましたので、今年は大人と一緒に講座を企画するものも試験的に導入しました。多文化共生チームが特にそうでした。また、エンリッチコアメンバーが中心となって秋の模擬投票を企画し、年度末の高校生議会にも参加するという年間のスケジュールになっています。よって、最後の高校生議会に向けてそれぞれの活動を繋げていくことになります。多文化共生チームはフィリピンでの海外フィールドワークも行き、貧困地域を訪れたり外国人技能実習生として日本に来る予定の人と交流したりしました。彼らがどのような思いで日本に来るのかも理解した上で、「受け入れ側としてどのようなアクションができるか」と企画を考え、大人にも協力を要請し、議会で議案として発表するところまで持っていきました。教員としては、先の腹積もりをしつつ、でも出来るだけ目の前の生徒の想いもくみ取りながらやってきました。

高校生を議員や政治に関わらせる際に注意していること等はありますか?

個人的な見解を述べます。生徒が社会に出ていったときに、生徒が議員になるケースや地域の要望を行政に訴えるようなケースは当然出てくるので、過度に距離を置かせる気はありません。しかし、昨年度の反省の中に「議員のペースで話が進んでしまって、生徒が本当に訴えたかったことが述べられなかった」という事態が発生したとも聞いていました。生徒が知っていることに比べれば、議員は地域課題の周縁のことまで知っておられ、そこに量的な情報格差があります。よって、ある程度大人ときちんと議論ができるようになってからこの場に臨まないと、議員のペースで話が進む可能性もあります。今年は企画の立案だけで終わってしまいましたが、立案過程における議論の素養もつけていかないと、我田引水になる可能性もあり、そこは課題かと感じました。

グループ討議では戸惑っている生徒も見られました。

2班と3班は、用意周到にリサーチし、私ともセッションし、反論も想定して、かなり準備していました。また、3班に関しては自分たちのやりたいことなので、自分たちの主戦場で議論していました。しかし、1班と4班はそこまで準備ができていなかったので、議員から突っ込まれたときに自分たちの議論を再構築するまでには至りませんでした。この様子を見て学校教育の中でも議論の能力をつけさせる必要があると痛感しました。ここが、現在の教育の弱点であると思います。知識を吸収しても活用する経験が浅い分、より多くの情報を持つ相手とやり合った時に勝てません。当然、子どもたちは知識勝負、経験勝負では大人にかないません。しかし、議論ができるようになると、もう少しフラットにやり取りができ、より深い思考に至ると思います。

高校生議会に向けた事前学習の具体的な内容を教えてください。

年間で話すと、1年生は8月のオープンエンリッチの企画に参加します。そこで気づいたことをレポートにまとめるような活動をします。その後、エンリッチコアメンバーになった1年生は2年生のコアメンバーとともに、見つけた課題を少し掘り下げて模擬投票のマニフェストとしてまとめる作業に入ります。しかし、模擬選挙の準備に関しても、マニフェストを作成に関しても議論をしておけばより効果的でした。模擬選挙の日は2学年全体を6、7人のグループに分け、グループディスカッションをします。そこでコアメンバーや地域の大人がファシリテーターをします。ここで話を回す力を向上させたことが高校生議会でも活きていました。活動と活動を繋げることを意識してきました。

夏のオープンエンリッチや模擬選挙、高校生議会等の活動と普段の教科の授業に関連性はあるのでしょうか。

そもそも、夏のオープンエンリッチは総合的な学習の時間の一環です。学年全体としては模擬選挙については、事前に地歴公民科で議会制度や選挙制度について学習したのみになります。しかし、総合的な学習の時間や特別活動と教科の教育の関連付けが今後重要になるでしょう。昨年、文部科学省のキャリア教育指導者研修に参加し、3年間の学習計画を立てる際に特別活動を柱としたキャリア教育の構築をするワークを行いました。しかし、現場に来るとカリキュラムマネージメントの概念はまだ一般的なものになっていないが現状です。
 また、可児高校は総合的な学習の時間を夏季休業中等にまとめて計画的に割り振る方式を採用しています。よって、科目との接続は難しいところがあります。しかし、今回の高校生議会を通して例えば「もっと論理的に説明できるようになりたい」と生徒が思うようになれば、国語との関連も生まれます。このように、生徒自身が活動を通じて自身の課題を認識し、普段の学習の中で主体的にそれを解決していこうと思うきっかけになると思います。高校生議会を通じて教科学習の目的が生徒自身に内在化したわけです。しかし、特別活動や総合的な学習と教科学習、どちらが優先なのかというのは難しいですし、また教員が意図的にカリキュラムの中で関連を配置するのも難しい部分があります。生徒がその意図に気づけなかったり、想定した段階に達していない場合もあるからです。

長期的な視点でカリキュラムを組むとなると、その時々の課題感は分かりにくいですよね。

そうです。学年進行で発達段階が発現するなどということはほとんどあり得ません。よって計画的に組んだとしても、それが良い策かどうかというのは難しいです。

今後の振り返り等はどういったことをなされるのでしょうか。

コアメンバーは基本的にslackでやり取りしていて、各自の振り返りもslackで送ります。自己開示も大事なので、各自が考えたことをまとめてアップしてもらいます。教員にとってもデータとして収集しやすいですし、生徒にとってもお互いの考えを見て深めてもらえればと思っています。

学校でスマホを使う機会も増えているのですか。

可児高校では今年からClassiを試験導入しています。日々の学習の振り返りや1日の振り返りをClassiで記録する機会はかなりあります。他の学校に比べて、スマホを触る機会は増えているかもしれません。しかし、その反面ギガ問題は深刻化しています。学校で使うとデータの消費量は増えるからです。学校の教育活動としてやっているのにうまく使えないという問題があります。

現在、コアメンバーは任意ですが、今後拡大していくイメージはあるのでしょうか。他の生徒をどう巻き込んでいくのでしょうか。

夏のオープンエンリッチは1つのきっかけになると思います。エンリッチには1年生が1講座約10~20人参加するため、今回のコアメンバーが来年の講座を企画し、そこでコアメンバーのスキルやノウハウを1年生にシェアできれば良いと思います。現代はシェアすることが学びで、高校生議会などを通じて学んだことをアウトプットすべきだと思います。スキルを持たない生徒にプレゼンテーションすることを求めるのは難しいことですが、挑戦させる事でスキルアップにつながります。そういった良い循環を今後回していければ良いと思っています。もう1つは、最近AO入試が増えてきている傾向があります。エンリッチ活動などの活動を利用してそういった入試に挑戦している3年生もいて、彼らがロールモデルとしてあがってくると、後輩たちの中からコアメンバー希望者も増えてくると思います。最近の生徒は自分の得になることなら自分で動くので、良いロールモデルが増えれば参加者も増えていくと思います。しかし、コアメンバーとして囲い込むよりも、プロジェクトごとに動く方が良いと思います。slackもプロジェクトごとに分けてます。必要があればプロジェクトごとにカンファレンスしたりセッションすることはありますが、全体でやることはないです。プロジェクトごとに管理していけば、人数が増えても上手くできると思います。

全国の先生方に一言メッセージをお願いします。

無理のない程度にやっていってください。続かないとどうしようもありません。エンリッチに関しても通常の業務+αでやっているものなので、あまりにも負担になるようだと続きません。私もやれる範囲でやっていこうと思っています。また、公立高校の最大の弱点として、担当者が転勤になった時に事業が潰える可能性があることです。よって仕組化は課題です。管理職とも相談しながら、持続可能な範囲でやっていきたいです。

井藤勝夫教頭(岐阜県立可児高校教頭)

高校生議会の目的はどのようなものなのでしょうか。

主権者教育からはじまったものの、キャリア教育も地域と連携した教育も包含していると言えます。

主権者教育の壁として、学校が政治と関わる難しさがあると思いますが、このように議会と学校が密接に連携することができているのはなぜでしょうか。

政治色があまり強くないからという理由があると思います。地方の小さな町なので、政党のあつらえた候補ではなく、地域の代表が出てきている議会と言えます。政党の党利党略より、町のことをどうするか、考えている方が多いと思います。模擬選挙では、全校生徒が参加する立会演説会を行う前に、選挙管理委員会にもご協力いただき、ポスター、選挙公報なども作りました。立会演説会も、生徒が候補者になると人気投票のようになってしまう可能性があるので、市役所の3年目ぐらいの若い職員を候補者としました。候補者のマニフェスト制作には今回高校生議会に出席しているメンバーが関わっています。その際取り上げられたことを市議会に意見書として提出できないかということで、3つのテーマで意見書を作りました。今年は一連の取り組みが繋がり、深めることができたのではないかと思います。模擬選挙は2年に一度行っています。模擬選挙がない年も主権者教育は行っていて、去年は大河ドラマ「麒麟が来る」を利用してどう可児市を盛り上げるかというテーマでした。全員同じテーマでやると、いい案も出るのですが同じような案がいくつも出てしまうため、今年は人数を絞って複数のテーマで行いました。

可児市の特徴として、外国人の人口が多いということがあると思います。可児市の外国人教育、多文化共生教育についても教えてください。

可児高校にはあまり外国人の生徒は多くいませんが、他の高校では、3割くらい外国人のいる学校もあります。そこは公立ですが、日本語の苦手な生徒は特別の学級に入り、日本語の授業が単位として認められます。そして卒業後は地元の企業に就職する生徒が多いです。全国的にも珍しいのではないかと思います。夏休みに探究型の講座があり、1年生には一つは取りましょうと言っているのですが、その中に可児市の国際交流協会と一緒になって講座を開催するというものがあります。外国人の若者を招いて、悩みや将来の希望などを話しあって交流します。それに参加した生徒がこの高校生議会にも多文化共生チームで参加しています。すべてがはじめから計画されていたわけではありませんが、一部の取り組みはいろいろなところでつながっています。
 本校は今年度から「地域共創フラッグシップハイスクール」に指定を受けました。今までやっていた地域との連携活動を活かし、「グローバルな視点を」とのことなので、先月、フィリピンのフィールドワークを行いました。この事業は急に決まったことだったのですが、話は順調に進みました。地元企業がフィリピンに持つ拠点で、現地の人たちの研修を行い、研修を経て日本で採用するための施設にフィールドワークを受け入れていただけることになりました。さらにフィリピンの貧困地区でのボランティア活動の視察や語学研修も入れ、4日間の日程でした。こうした活動は、全員参加させるものではありませんが、興味を持ち、能力を伸ばせる生徒がいるのであればやる価値はあると思います。これからは選択する時代になります。選択肢の一つとして生徒に見てもらえればと思います。

5 プロフィール


川上文浩
可児市議会議員
ローカルマニフェスト推進連盟共同代表
ファインフード代表取締役

渡部正美
岐阜県立可児高校教諭

井藤勝夫
岐阜県立可児高校教頭

(2020年3月12日時点のものです)

6 編集後記

学校と議会が協働して取り組む先進的な実践でした。この実践によって、地域の問題の解決に日々向き合っている議員と意見を交わすことで生徒の地域課題解決への取り組みの深化に繋がるだけでなく、議会が若者の声を聴く良い機会にもなっていました。また、地域課題の分析が簡単なことや政治色が強くないことなど、地方の小規模な地域だからこそのメリットも見られ、地方創生の観点からも興味深い実践だと思いました。社会に開かれた教育課程を持続可能なものにしていくための、属人的な関係を超えた体制づくりも課題だと思いました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 風間志門、瀬崎颯斗、高木敏行)

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