子どもの発達を見とる眼とは?(②広島大学大学院講師、学校心理士・山崎 茜さん編) ~令和時代の幼児教育と小学校の連携をアップデートする~

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年12月6日に東広島市で行われたイベント「さざなみの森からみる未来の学び場 vol.3 -令和時代の幼児教育と小学校の連携をアップデートする-」の様子を取材し、編集したものです。

このイベントでは、保育士、スクールカウンセラー、小学校教諭の各ゲストがそれぞれの取り組みや問題意識、幼保小連携のためにできることなどを共有した後、参加者を交えての議論が行われました。今回は全体を通じて「発達」や「愛着」といったキーワードが浮かび上がりました。

この記事では、広島大学大学院講師であり学校心理士でもある山崎茜さんのお話の部分をご紹介します。

それぞれ異なる立場から見た「幼保小連携」「発達」「愛着」についてお話されているので、ぜひ他のゲストの記事も併せてご覧ください。
 
①認定子ども園さざなみの森保育士・大村恵さん編
③小学校教諭・仁井貴士さん編

2 山崎先生の自己紹介

私自身もまだ子育て中で,長男もさざなみの森(※関連記事参照)の卒園児です。

一方で、大学では教育心理学や学校心理学を専門にしていて、広島大学の教職大学院で講師をしています。子どもの育ちや発達の支援について研究したり実践したりしています。

また、小学校や中学校でスクールカウンセラーとして勤務したり、ストリートチルドレンを対象とした愛着の再形成のプログラムに関わっています。

今日はさざなみの森で育ってきた子ども達を見て感じることや自分の専門の話を交えながら、子どもの発達についてお話します。

3 子どもの発達とは

教育心理学では、子どもたちの発達というものを取り扱っています。子どもの発達には、遺伝的に持っているものと、環境的なものとが相互に作用していると考えられています。この「環境」という言葉には、物的な環境も人的な環境も、それらとの相互作用のことも含まれています。

私はスクールカウンセラーをするなかで多様な保護者の相談に乗ったり子どもたちの対応をしたりするのですが、そこでやっているのは「環境調整」です。保護者の話を聞いていても、「うちの子こんなんで困ります!」「学校に行きづらくて困ります」という相談が多いのですが、私たちは子ども自身を変えることはできません。できるのは子どもに与える影響を変えること、つまり子どもの周りの環境を調整することだけです。ですが、そのことが子どもの良い育ちにつながると思っています。

生徒指導や教育相談に関して私が先生方によくお話しするのは、「発達課題」についてです。

子どもたちは課題を乗り越えていくことで発達するのですが、自力で乗り越えようとするときに周りにほんの少し刺激があることで子どもは一歩を踏み出すことができます。これが環境を整えるということです。

4 問題行動の原因

子どもたちの問題行動は年々増えています。子どもの絶対数は減っているのに件数が増えているということは、割合はかなり増えていると言えます。実際に学校現場でも「ここ(小学校や中学校)に入るまでに育ってないよね・・・」という声を聞くことがあります。

子どもたちは本当に育っていないのでしょうか。

つながる力の不足

もちろん子どもたちにはいろんなデコボコがありますが、子どもたちが学校に来てつまずいていくのを見て、私は子どもに「つながる力」がないなと感じます。つながる力は練習しないと身につかないのですが、その練習の量が足りず,つながり方も上手くない子が多いのです。

つながる力を身につけられるような場が社会的に奪われていて、それが問題行動につながっているのだと思います。つまり問題行動は「困っているよ」というサインなのです。

私は主に学校に関わっているので、学校のなかで子どもたちが育つ人間関係を創造し、育ちを支える体制を構築する必要があると考えています。

では、人間関係を創造するために、子どもをいきなり集団の中に放り込めば良いのかというと、そういうことではありません。部活と同じで、たとえばまったくボールを触ったことがない生徒に対していきなり「試合に出ろ!」と言うことはありませんよね。まずは「シュートをするときにはこういう風に蹴るんだよ」とか「ドリブルではこういうところに気をつけると上手く行くよ」と教えてやらせてみる必要があります。同じように、人間関係についても、練習の量が足りない子に対しては私たちが一つひとつのやり方を教えなければいけません

問題行動の本質

「教科学習が上手くいかない」「自尊感情が低い」「自分をコントロールする力が弱い」というような、気になる子の「気になる部分」は、この図の中のりんごの実のような形で現れています。問題行動もそのうちの一つです。実が美味しくないからといって「美味しくしろ!」と言っても美味しくならないし、甘くないからといって砂糖をかけても意味がありません。美味しいりんごの実が生るためには、感覚的なことから体の筋肉の発達にいたるまで、様々な要素がバランスよく育つことが必要なのです。

このような「発達を見る眼」がみんなにあるといいなと思います。

5 組織で子どもを育てるには

私はよく学校でこのような話をするのですが、やはり組織において「One Team」がとても重要だと感じます。One Teamになるためには、ゴールの共有が大切で、ゴールを共有するためには子ども像の理解が必要です。やはり子どもの今の育ちを見とる眼が大事なのです。この眼があることで、たとえば「この子は今この段階まで育っているから、集団や社会に適応して生きていけるというゴールに向かうためには、私たちはこういうことをしてあげるといいな、そのためにこういう役割分担をしよう」と考えていくことができます。「あれもできない、これもできない」と悪いところばかりを見つける必要はないのです。

学校や園でこのようなことができるようになると、子どもたちはもっと幸せになれるのではないかと思います。そのために今私が意識しているのが、次の2つの理論です。

イノベーター理論

何かが普及するとき、「イノベーター(2.5%)」→「アーリーアダプター(13.5%)」→「アーリーマジョリティ(34%)」……という順番で拡がっていくと言われていて、社会で爆発的に普及するためには、全人口のうちイノベーターとアーリーアダプターを合わせた16%を突破するかどうかが鍵だと言われています。

ですから、私の仕事はイノベーターとアーリーアダプターをいかに増やすかだと考えています。今日このイベントに来られている皆さんもきっとイノベーターとして活躍される方々なのかなと思います。ぜひ次の回には何人かお知り合いの方を引っ張ってきていただけると、3%が16%になって、爆発的に普及していくのかなと思います。

チームマネジメントの理論

もう一つの理論を説明する前に、ここでクイズです。次のうちどのチームが一番速くプロジェクトを進められるでしょうか。

正解は、4番目の「組織の3割が相互理解」です。ですから、仲間を増やす中で、「それってこういうこと?」というような相互理解を深めていくことで組織が上手く回っていくのではないかと思います。

(出典:丸山智子(2019) 広島大学プロジェクトマネジメント研修資料)

6 山崎茜さんのプロフィール

広島大学教職大学院講師、学校心理士、ピア・サポートコーディネーター、広島市・総社市スクールカウンセラー。子どもの人間関係の発達と学校(環境)適応支援が仕事のテーマ。

7 編集後記

子どもたちの問題行動の根底にある要因や、周りの大人がどうすれば良いのかということまで分かりやすく教えていただきました。大村先生のお話に続き、山崎先生のお話でも「子どもの発達を見とる眼」というキーワードが出てきたことに驚くとともに、教育者として不可欠なものを学んだ気がしました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽)

8 関連記事はこちら

 
①認定子ども園さざなみの森保育士・大村恵さん編
③小学校教諭・仁井貴士さん編

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