教員に”今こそ”必要なオンライン対話スキル~プロコーチと学ぶスキルの活かし方~(Teacher’s School)

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目次

1 はじめに

本記事は、2020年5月1日(金)に開催された教員に“今こそ”必要なオンライン対話スキル~プロコーチと学ぶスキルの活かし方~(一般社団法人Teacher's Lab.主催/NPO法人日本スクールコーチ協会 共催)の内容を編集したものです。

コロナの影響で多くの学校が採用した「オンライン授業」。オンライン授業で困っている点として、先生方からも生徒からもよく意見が挙がるのは「オンラインでのコミュニケーションの問題」です。特に、先生方は「相手の能力を引き出す」というコーチングの観点を意識したコミュニケーションをとる必要があると思われます。

今回はNPO法人日本スクールコーチ協会・副理事長で、日本最古参の現役プロコーチである三好智玄さんをお呼びしました。「withコロナ」でも「afterコロナ」でも活用できるコミュニケーションの取り方をコーチングスキルの観点から教えていただきました。そのオンラインイベントの様子をご紹介します。

2 アイスブレイク

イベントの初めに行ったのは「アイスブレイク」*1です。
今回のアイスブレイクは、ペンと事前に配布されたメモを使い参加者全員がそれぞれの手を動かしながら行いました。
アイスブレイクの手順は以下のようなものでした。

アイスブレイクの手順

1. 画面に表示された言葉を基に連想した言葉を4つメモ書きする(1分間)

 
2. 再度時間を追加し、さらに深く連想して新しい言葉を4つメモ書きする(1分半)

3. 少人数に分かれ、各々自分が書いた8つの言葉を共有しながら最も独創的であった言葉を選ぶ 

4. 各グループが決めた最も独創的であった言葉を全体に発表し共有する

[*1] アイスブレイクとは、初対面の人同士が出会う際、その緊張をときほぐすための手法。集まった人を和ませ、コミュニケーションをとりやすい雰囲気を作り、そこに集まった目的の達成に積極的に関わってもらえるよう働きかける技術を指す。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

このアイスブレイクの意図とは

全体共有が終わった後、コーチの三好さんが参加者の皆さんに質問を投げかけました。

三好さん:今こうやって皆さんの連想した言葉を聞いていくと「へー。」と感じることもあったと思います。ここで皆さんにお尋ねしたいのは、私はどんな意図があってこのアイスブレイクをやっているか?ということです。アイスブレイクの狙いは何なんでしょう。

参加者A:考えを広げるということですかね?

三好さん:うん、考えを広げる。1つのことからどんどん考えを広げていく。それもありますね。他にはどうでしょう。

参加者B:価値観を知っていくというような感じですか。

三好さん:価値観。その人によって、『りんご』っていうものに対する考え方が違ったり、価値観・捉え方が違ったりする。そうですね。もっと他にもありますか。

参加者C:最初に思い浮かぶ言葉は在り合わせというか、ひらめきで何とか取り繕うとするのですが、その後時間が追加されて、さらに4つと言われると本来自分の奥深くで考えていたことが出てくるのではないかと思いました。

三好さん:はい、そうですね。先ほど私が示した絵でも最初の4つは上の方にあり、次の4つは”真っすぐ深いところにある”というようなイメージでしたね。私がこのアイスブレイクを通して伝えたかったのは、言葉に持たせている意味合いを意識してほしいということです。話し手がその言葉の奥に「どんなイメージを持って話しているのか」ということは他人には分からないのです。先ほどの例で言いますと、「この『りんご』にどんな意味を持たせているのだろう? どんな過去・思い出を持っているのだろう?」といったことは想像もつかないですよね。だからこそ、『りんご』という言葉の音を聞くのではなく、話し手自身が『りんご』に持たせている意味合いを聞く。こういった聞き方がコーチングでいう、「傾聴」という聞き方です。単に言葉を聞くだけではなく、そこに込められた想いを聞いていく。好奇心を持ち「自分とは違う何かを持っているはずだ」という姿勢で話を聞きます。

3 コーチングセッション

コーチングの様子

三好さん:それでは、コーチのスキルや能力について、何をどうしているかという話に入りたいと思います。私がこれから舘野さんとコーチングの対話をしてみますので、「どんな聞き方をしているのか」ということをよく聞いておいてください。舘野さんよろしいですか?

舘野さん:はい、お願いします!

三好さん:今この時間を使って舘野さんがお話ししてみたいなあと思うことはどんなことですか?

舘野さん:はい。立場が違う方との話し方について伺いたいことがあります。上の世代の方と話すときに、私はどうしてもカタカナの言葉や英語を使ったり、ワークショップ用語のようなものを使ったりしてしまって、「それって日本語で何て言うの?」と言われることがあります。そういう言葉をたくさん発してしまうと、そこで拒絶反応を示してしまう人がいるんですよね。そういう方と話すときに気をつけたほうがいいことを知りたいと思いました。

三好さん:気を付けるというのは、そういうことをしないようにしたいということですか? どういう状態が手に入れば良いと思いますか? どういう風になりたいですか?

舘野さん:こちら側の意見ややり方を通したいというわけではなくて、相手にわかっていただき、どういう形が良いのだろうと意識したうえで話をすることで、建設的な話し合いができると思っています。

三好さん:舘野さん自身、どういう形が良いかというのを分かっていらっしゃるのではないですか? いかがですか?

舘野さん:分かってはいるのですが、うまくいくときといかないときが結構まちまちなのです。今思うと、相手の様子や状態を受け取ってから、気をつけて話せばよかったなと思います。

三好さん:うまくいくときといかないときの差は他にどんなことが考えられますか?

舘野さん:ん〜。自分が話すときにカタカナ言葉等をあえて使う必要はないかもしれません。自分に余裕があるときは、「カタカナ言葉を使わない方が伝わる」ということを意識して敢えて使わないようにできるのですが、普段使っている言葉で伝えようとするとうまくいかないのかなとも思うのです。

三好さん:なるほど。舘野さんは今、どういう言葉遣いや話し方をしたら良いのかというのは分かっていらっしゃる。「余裕」という言葉が出てきたのですが、その言葉については具体的にどのように考えていますか?

舘野さん:自分に余裕がないときっていうのは、あまり客観的に自分を見ることができていないときだと思うし、相手に余裕がなさそうだなと思うときは、相手が相手自身を客観視できていないのかなと思います。「余裕」は作るものなのですが、それが作れる状況ではない中でお互いが話していたら建設的な話はできないなあと思いました。

三好さん:そうですね。それではもし、舘野さん自身が自分の余裕をコントロールできる場合、自分が心がけて何かできることはありますか?

舘野さん:自分が誰かに話しかけるという段階で、「自分に余裕があるか?」という問いを自分の中にできればいいかなと思いました。

三好さん:なるほど、自分に対する問いかけですね。「今、自分は余裕を持っているか?」という問いかけをすることは素晴らしいですね。では、ここまで私と話してみて、今どんなことを感じていますか?

舘野さん:はい。ここまでの会話を終えて、自分で答えを見つけられるように問いを投げるということができるようになりました。まだまだ三好さんが今問いかけてくださった言葉たちを真似できるようなレベルではないなとは思いますが、聞き方によって自分が話しやすくなっている感覚がありました。普段言語化していなかったことまで引き出されるという経験ができました。

三好さん:そうですね。それでは舘野さん自身が、「こんな聞き方を真似してみよう」と思えるような、自分でもできそうな工夫はありましたか?

舘野さん:相手に一度にたくさんのことを訊かないということです。「どんどん話して〜」と急かしたてるのではなく、「ちょっとだけ教えて欲しいな」という話し方を真似したいと思いました。

三好さん:なるほど。ありがとうございます。

参加者からの質問

三好さん:それでは次は、お聞きになっていた皆さんの質問にお答えしたいと思います。

相手から答えが返ってこない場合は?

参加者A:相手から答えが出てこない場合はどうしたら良いのでしょうか? コーチはクライアントである、相手の中に答えがあることを信じてその答えを引き出そうとしているということですが、相手から答えが出てこない場合もあると思います。

参加者B:「わからない」と言われることもありますし、語彙がない子から「知らない」の一言で返されることもありますよね。そのときは「それだけで言われると先生も返事のしようがないから、もうちょっと詳しく教えてよ」とか「他の言い方はないかな」とか、もう少し深掘りして聞くようにはしています。

三好さん:言葉を変えたり聞き方を変えたりするのですね。「わからない」「知らない」と答える場合って、本当に知らない場合もあれば、答えたくないという場合もありますよね。

参加者B:私が想定していたのは答えたくないという場合です。もし答えたくないなら、「答えたくないんだね」と認めて別の質問にいくことが大事なのかなと思いました。それ以上その質問については追及しないということなのでしょうか。

三好さん:状況によって次の展開や聞き方が変わってくると思います。触れられたくないことがあって「知らない」と言っている場合は、それを掘り下げることでますます相手から心理的に遠ざかってしまいますよね。「わかりません」と言われたときは「何ならば分かっているの?」「どこまでなら分かっているの?」と聞いてみると良いと思います。分かっているところからスタートするために、分かっているところに戻すということです。「もし知っているとしたら何?」と聞いてみると、答えが出てくることが多いです。あるいは、条件を変える聞き方があります。「忙しくてできません」と言われたら「では時間があったらどうしますか?」と聞く。「お金がなくてできません」と言われたら「ではお金があったらどうしますか?」と聞く。相手ができない、わからないという渦に入っているとき、その状況から一旦出すということを考えます。条件を外してみたり、障害になっているものを外してみたりして「もしこうだったらどう?」と聞くのです。

参加者B:「もし〜の立場になってみたら?」と聞いても生徒から答えが返ってこないことがあります。例えば、友達に失礼なことを言った生徒に対して「この子がこういうことを言われて嫌だと言っている気持ちはわかる?」と聞くと「わからない」と言われます。こういう場合はどうすれば良いのでしょうか?

三好さん:「わかる」「わからない」だと答えが二択になってしまいますよね。では、二択にしないようにするためにはどのような質問をしたら良いと思いますか?

参加者B:そういう場合は「そういうことを言うべきか、言うべきでないか」という選択をさせていくことが多いのですが、それはコーチングではないですよね。教えるとか導くという方法でないと思うのです。

三好さん:選択させていくというのは、コーチングでは誘導と言います。コーチの立場からすると、質問とは何が返ってくるかわからないものなのです。yes、noではなくて、自由に相手の言葉で喋ってもらうことを想定しているのです。そこで、例えば「あなたが〜だったらどう思う? どういう感じを受ける?」と、条件や仮定をおいて聞きます。例えば、ガキ大将的な強い子が他の子をいじめているときには、「自分よりもっと強いプロレスラーがきてあなたをいじめたらどうする? どんな風に思う?」と聞きます。

声のトーンやまなざしで気をつけていることは?

参加者C:声のトーンやまなざしで気をつけていることはありますか?
三好さん:今回はオンラインイベントという形でやっていますが、まず私が注意しているのはカメラ目線。皆さんと目が合っていますよね。そして、口角を上げて笑顔で話しています。相手の目をじっとみていても威圧感を与えないことが大事です。

4 プロフィール

講師

三好 智玄 (みよし ちげん)さん

NPO法人日本スクールコーチ協会・副理事長(養成事業部担当)
CSCマスタートレーナー
ICFリードインストラクター
国際コーチ連盟(ICF)プロフェッショナル認定コーチ(PCC)
(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ

日本スクールコーチ協会のHPはこちら↓
http://www.jscoach.com/index.html

※プロフィールは2020年6月時点のものです

コーディネーター

館野 峻 (たての しゅん)さん

東京都内公立小学校 主任教諭
一般社団法人Teacher’s Lab.エグゼクティブ・アドバイザー 初等教育領域担当
いたばし対話プラス ファシリテーター
edcamp ITABASHI 実行委員長
未来の先生塾 塾長
1984年生まれ 東京都出身

※プロフィールは2020年6月時点のものです

5 Teacher's Schoolについて

Teacher’s Schoolは、下の3つの価値を大切にしながら、学校の先生と共に様々な社会資源を活用し「学びたい先生が主体的に学べる環境」「挑戦したい先生が自分のやりたい事に挑戦できる環境」の創造を目指しています。

Teacher's School 3つの価値
「つくる」ことで学ぶ「生成的な学び」
「ふりかえる」ことで学ぶ「内省的な学び」
「つづける」ことで学ぶ「継続的な学び」
失敗を気にせず自由に試行錯誤して、自分の想いを「学び」のプログラムにすることができるのが特長です。
詳しくはこちら↓
HP:Teacher's LabFacebook
HP:Teacher's School
Mail:info@teachers-lab.org

6 編集後記

今回紹介されたコーチングスキルや話の聞き方は授業だけでなく、職場や日常生活にも応用できるなと感じました。周囲の方々と対話する際、まずは1つからでも学んだことを日常に取り入れてみるとコミュニケーションをさらに楽しめるようになるかもしれません。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 伊藤、船橋)

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