人気YouTuber 市岡元気さんから学ぶ! 科学を好きにさせるわくわく実験

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目次

1 はじめに

この記事は、2020年7月3日に行った、市岡元気さんへのオンラインインタビューを記事にしたものです。市岡さんは、サイエンスアクター、サイエンスアーティストとして活動しながら、世界中の方々に科学の面白さを伝え、将来の日本の科学技術向上のため、YouTuberとしても活躍されています。

今回のインタビューでは、多方面で活躍されているYouTuberならではの、活動の経緯動画制作について、実験を広めていくなかで感じた科学の面白さについてお話を伺いました。

2 現在の活動の経緯

実験動画をYouTubeに公開し始めた経緯

私自身が科学が好きで、たくさんの方に科学を好きになってもらいたいという思いから始めました。大学在学中には幼・小中高の教員免許も取得しましたが、先生だと1クラス40人、学年でも200人くらいにしか教えることができないので、大勢の方に一度に科学を好きになってもらうことは困難です。しかし、サイエンスショーでは一度で100人から1000人、YouTubeであれば世界中に科学の面白さを伝えることができます。例えば、マスクの動画は140万回再生され、多くの人に科学の魅力を伝えることができました。

テレビの仕事も多いのですが、テレビでは見た目が面白い実験が多く取り上げられ、学校教育に関する実験はあまり取り上げられません。学校教育に関する実験も自分の好きなように取り入れられることもYouTubeでの活動を始めたきっかけです。学校で行う実験を楽しめるように取り上げることで、科学の面白さを広めることにつながり、理系分野への進学・就職を目指す子どもたちが増えます。将来的に日本の科学技術の向上させるためには、科学の面白さを広めることが大切だと思っています。

学校実験に関する動画を公開している経緯

元々、見た目が面白いだけではない、学校教育に関する実験を作りたいと考えていました。しかし、それだけでは動画を見てくれる人も少なくなってしまうので、そのような実験動画を多く作っていませんでした。そのなかで、コロナウイルスの影響で2月末から休校を余儀なくされている学校が増えました。そのため、3月に学校で授業する予定だった単元の勉強を、実験動画を制作することによって支援したいと考えました。実験動画の撮影や作成については私は他の方よりも詳しくプロだと考えたため、学校の先生が行うものよりは少し魅力的で、見た目にインパクトがあり、子どもたちが楽しめるような実験動画を作りました。

コロナウイルスに関する動画を掲載している経緯

1つ目理由は他の人からの助言です。はじめは、コロナウイルス関連の話は非常に繊細な内容なので、触れないようにしようと思っていました。YouTube側としてもコロナウイルスについてあまり触れないことを推奨していて、「コロナウイルス」という言葉をタイトルに入れたり動画中で話したりすると、広告がつけられなくなったりアカウントにイエローカードが届いたりするような状況でした。しかし、SUSHI RAMEN【Riku】さんのお父さんから、「コロナウイルス関連に詳しいなら動画にした方がいいよ」というアドバイスをいただき、少しやってみようという気持ちになり、水溜りボンドさんとマスクの動画を投稿しました。

2つ目の理由は、私が元々生物系が好きだったからです。大学でもDNAやタンパク質について学んでいました。ウイルスは非生物ではありますが、大学で学んだことに関連していて、やりたいことと合致していました。動画を制作するにあたり、コロナウイルスについての知見を得るため詳しく勉強することは楽しく、動画を出した後「役に立った」「ためになった」などのよい反響があり、続けていこうと思いました。

3 実験動画作成に際して

動画の題材を探す際に心がけていること

動画のネタを思いついたときにはすぐにメモを取り、たくさんストックしています。多くの人に見てもらうために、過去に考えた実験の中から、サムネイルとタイトルにインパクトがあるものを、現在のトレンドに合わせて配信しています。

話題性の高いものは興味を惹きやすいので、見る人に興味をもっていただけるタイミングを見計らって動画を制作しています。授業でも、話題性を取り入れると生徒が興味を惹いてくれると思います。アニメは年間の放映時期を調べて、そのタイミングに合わせて数か月前から準備をしています。例えば最近(2020年7月現在)ですと、アニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」のなかで、登場人物のレムが使うモーニングスターという武器を作りました。この武器は、棒を持ち振り回すと遠心力が加わりよりパワーを出すことができます。そこで、この武器と、遠心力の公式やエネルギーの計算とを結び付けて、科学をより身近に理解しやすくなる工夫をしたり、印象に残りやすくしたりしています。

映像で実験をする際に心がけていること・伝わりやすくする工夫

動画を撮るときには目の前に人がいると仮定して話すことを心がけています。実際、再生回数の多いYouTuberさんは視聴者との距離の詰め方がうまいと思います。

ただ、教育系の動画を制作することは非常に難しいです。なぜなら1コマ45~50分の授業を、YouTubeだと10分前後にまとめないといけないからです。普通の動画だと2、3個の実験を取り入れますが、授業で扱うような長い時間の実験動画を撮る際は、5、6個の実験を取り入れないといけません。労力的に大変ですが、たくさんの人が見てくれたり、授業で流したりしてもらっていることを考えるとやりがいを感じます

最近の学校での実験について

先生をしている友人の話では、最近は先生のみが実験を行い、アクリル板をその間にはさんで、その様子を生徒が観察する形態となっているそうです。この現状に、私たち科学パフォーマーも頭を悩ませています。先日、実験キットを各生徒へ事前に送り、Zoomでのオンライン実験教室を開きました。おうちにいても楽しい現象が目の前で起こるので、この活動はよかったと思います。送れる実験キットの個数が限られてくることが難点ですが、おうちでできる実験や、おうちにあるもので実験する動画をあげていますので、その中のできる実験から始めてみるとよいと思います。

オンラインサロンのようなコミュニティーで、Facebookでやり取りする『科学実験王国』というファンクラブを作りました。そこに先生方も交えて、子どもたちが楽しく科学を学べる実験の見せ方について色々話しながら動画などを制作できればいいなと考えています。現場の生の声と私のできる実験を組み合わせたら、より面白くて勉強になる実験ができるのではないかと思っています。

動画を見ている方に科学を好きになってもらうような工夫

科学を好きになってもらうには、身近なところから分かりやすい実験を取り上げることが重要です。実際に、「メタルスライムを溶かしたらはぐれメタルになるのでは?」という実験をしました[*1]。融点が低く、お湯をかけると溶ける低融点合金を使用しました。この動画を見ることで、ゲームにしか興味のなかった子どもが科学に興味を持って、何か自発的に新しく調べてくれたら、その知識は忘れづらいものとなるのではないかと思っています。勉強するつもりがなくても、子どもたちが探究していくうえで勉強になる学びが大切だと思います。子どもの興味と科学的な知識を掛け合わせるような動画を撮ることを日々考えています。

[*1] メタルスライムとはぐれメタルは共にゲーム、ドラゴンクエストに登場するモンスターです。作中でメタルスライムがはぐれメタルに分裂したり、はぐれメタルが集まりメタルスライムに合成したりします。

4 先生の実践に結びつけるために

現場の先生でも簡単にできる実験

小学校の先生は理科を専科としていない限り、詳しく教えることが難しいと思います。そのような先生でもできるようなインパクトが大きく簡単にできる実験があります。例えば、「今すぐお家でできる10の凄い実験【おうち時間】science experiments」という動画を参考にしていただけるとよいと思います。

真面目な実験ももちろんよいと思いますが、理科についてあまり詳しくない先生はこのような面白い実験を取り入れてもよいのではないかと思います。

また、再生リストのなかにある「学校実験」では、学校での実験をまとめていますので、参考にしてみてもよいと思います。

7月17日にYouTubeの動画を凝縮した36個の実験を載せている本を出版しました。これには、視覚的なインパクトが大きい実験を掲載しており、実験ごとにおすすめの対象学年も記載しているので、中高生が楽しめるものになっています。掲載したインパクトのある実験は、気をつけてもらえれば学校の先生にも真似してもらえるものです。また、授業で私の動画を流しながらこの本を見て説明することもできます。是非授業の参考にもしてみてください。

楽しんでもらえる実験のために心がけること

まずは先生が実験をしてみて楽しめるかどうかが非常に重要だと思います。自分が楽しめないと見ている人も楽しめないと思います。そのため、事前に一度実験をしてみて、面白くできるように工夫を凝らしていくのがよいと思います。YouTubeで面白く実験をしている動画も参考にしてみてください。

科学を実験で学ぶとは

世の中全ての事象は科学で成り立っていると思います。科学ではないものはないのではないかと思うほどです。科学をきちんと学ぶことは全ての世の中の原理を理解することにつながると思います。そうすることで、偽物の科学、偽物の商品を避ける力や、何事にもまず自分で考えてみる力がつくと思います。身近なものの機能に興味をもち、それが何に役立っているかを知ることは、世の中のことを知ったり見たりすることにつながると考えています。

理科の授業のなかで実験をする必要性

私自身も、実際に実験をしてみないと分からないことがあったり、やってみることで新しい発見が見つかったりすることがあります。授業で手を動かして実験をすることで、教科書に載っていないことが分かったり、新しい発見があったりするので、そこから子どもたちの興味につながるのではないかと思います。

5 現場の先生方に向けて

私のYouTubeの動画を学校の授業で流していただいても構いませんし、少し見ていただいて何かヒントを得るのもよいと思います。また、Facebookなどのコミュニティーを通して、何か一緒によいものを作っていけたらと思っています。是非一緒に楽しい理科の実験を作っていきましょう!

6 プロフィール

市岡元気先生

サイエンスアクター、サイエンスアーティスト、YouTuber、俳優、モデル。東京学芸大学 小学校教員養成課程 理科選修を卒業後、2006年から「米村でんじろう サイエンスプロダクション」でスタッフとして活動。2019年9月独立。数々のサイエンスショー、実験教室を全国各地で開催。バラエティーなどでは、罰ゲーム実験・監修をしたり、YouTubeで「水溜りボンド」「すしらーめんりく」「まふまふ」などと実験協力。科学の面白さを多くの方に知ってもらう活動を、ジャンル問わず幅広く展開している。(2020年7月現在)

7 関連情報

◎『GENKI LABO』チャンネルはこちら

◎市岡さんのTwitterアカウントはこちら

◎会員制コミュニティー『科学実験王国』はこちら

◎理系脳がぐんぐん育つ! 魔法の科学実験図鑑

8 編集後記

自分の好きな科学を世界中に伝え、興味を持つ人を増やし、科学技術の発展につなげたいという思いを持ち活動されていることを伺い、非常に素敵な活動だと感じました。是非この記事を小学校の先生や理科の先生に読んでいただき、実験をする際に参考にしていただけたら幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安藝航・徳田美妃)

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