笑いでつくる授業の下地 ~芸人先生のコミュニケーション術~(第5回EDUPEDIA SCHOOL)

GOOD!
382
回閲覧
9
GOOD

作成者:徳田 美妃 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2020年8月22日に開催しました『笑いでつくる授業の下地 ~芸人先生のコミュニケーション術~(第5回EDUPEDIA SCHOOL)』を記事化したものです。

2 EDUPEDIA SCHOOLとは

EDUPEDIA SCHOOLとは、当サイトに掲載されている実践案を参加者の皆様に直接提供するための場として、EDUPEDIAスタッフが運営しているセミナーです。取材先の先生方の講演やワークショップ等を通じて、教育実践ノウハウを参加者のみなさまに提供することを目的としています。

第5回は、現役お笑い芸人として『オシエルズ』で活動し大学で先生をされている矢島ノブ雄先生を講師にお招きし、『心理的安全性を用いた学級づくりについて』というテーマでオンライン開催いたしました。イベントは前半はテーマの理論的な部分の講演をしていただき、後半はそれを活かした実際に学校で使えるアイスブレイクを参加者がグループ(ブレイクアウトセッション)に分かれて実践して、非常に盛り上がったイベントとなりました。参加者には現職教員をはじめ、教員志望の学生など様々な参加者の方がいらっしゃいました。

過去のEDUPEDIA SCHOOLの記事がございますのでこちらも併せてご覧ください。

第1回 先生の叱る力を高めよう(吉田忍先生)

第2回 子どもの「どうして?」で授業をデザイン~子どもがワクワクする授業の条件とは~(千葉教生先生)

第3回 ともはる先生の学級づくり~思いを正確に伝える技術を磨こう~

3 笑いでつくる授業の下地 ~芸人先生のコミュニケーション術~講演内容

「人を傷つけぬ笑い」が信条のお笑いコンビ「オシエルズ」

私は3年間高校の先生をした後、今は埼玉医科短期大学で教員をしています。朝日新聞では『人を傷つけぬ笑いが信条であるお笑いコンビオシエルズ』と掲載されました。2018年の8月に教育新聞に掲載していただいたことが、現在の仕事の生命線となっています。

オシエルズの相方野村真之介君は今年(2020年)の3月まで公立高校の先生をしていたのですが、現在英語学習アドバイザーという仕事をしています。ジュニア時代から世界的に活躍をする子どもが、海外でのプレーや私生活で困らないよう、子どもに向けて個別の英語レッスンをしています。

2015年に東京大学と河合塾が運営をする学びラボというホームページが立ち上げられました。そのときアクティブラーニングという言葉がちょうど世に出て、これから本格的にやらなくてはいけないというときでした。そのホームページはアクティブラーニングを取り入れようとする先生たちの疑問に答えていくようなプラットフォームです。私はその中で、動画コンテンツ「学びの笑劇場」というコントを使ってアクティブラーニングについて解説しました。

つい最近(2020年7月)読売新聞の非常に有名なコーナーである、STOP自殺しんどい君にオシエルズとして出演しました。中川翔子さんやRADWIMPSの野田洋次郎さん、ジャングルポケットの斎藤慎二さんなどの名だたる方々が、いじめを経験して今があるから絶対に負けないでというメッセージを夏休み間際や新型コロナウイルスの状況で皆が苦しい中で送っています。そちらに私たちも出させていただいて、メッセージを送りました。

博士課程の論文では、子どもの間で起きるいじめやいじり、ふざけといった問題をどのように笑いで解決していくかをまとめました。その論文の内容を基に3年前に本にしました。この本はイラストと4コマ漫画と文章が一緒になっている形になっています。

この本をきっかけに、3年ぐらい前から少しずつ学校を回るようになり、今は小中高、大学またはPTA、人権団体諸々様々なところに呼ばれて講演をさせていただいています。最近は私も相方も自宅にいながら、広島や鹿児島などの遠方にある学校にもオンラインで講演をしています。

実をいうと『教育 お笑い』でGoogle検索をすると私たちオシエルズがトップに出てきます。吉本興業、松竹芸能、その他様々競合他社がいますが、その方より上に検索結果がでる形でお笑い活動を続けています。簡単に言うと、日本一学校を訪問するお笑いコンビということです。年間で約100校訪問しています。

お笑い芸人を目指したきっかけ

私はいじめがきっかけでお笑い芸人になりました。小学校4年生のときに太っていることがきっかけでいじめを受けていました。当時ボキャブラ天国という番組があり、その番組で「X-GUN」というコンビが売れていて、メンバーの西尾季隆さんが太っていることを武器に笑いを取っていました。ある種お笑いというのは、コンプレックスを武器にできる分野です。ハゲていることが武器になるトレンディエンジェルの斎藤司さんや、ブサイクであることが武器になるアインシュタインの稲田直樹さんらもそうです。

やはりお笑いは一発逆転できるものなのです。さらに言うと、コンプレックスが武器にできる、また自分のすべてを武器にできるということです。もちろん長所も武器にできるし、短所も武器にできます

お笑いの世界から教育に関わる

日本国憲法には、法の下の平等であると書かれていますが、笑いの下においてはすべてが平等に扱われています。落語家の立川談志さんが、落語は業の肯定だという言葉を残しました。この業という言葉はカルマのほうの業です。業を肯定する、人間のよいところも悪いところも、醜いところもすべてが笑いに変えられる。それが本来のお笑いのあるべき姿であるからこそ落語やチャップリンの映画は権力への反抗でもありました。いわばお笑いというものは何かに立ち向かう力だったわけです。

笑いで傷ついた経験をもつ私と太っていることを武器にして笑いに変える西尾さんは対照的であり、西尾さんは人を元気づけて笑わせていました。私もこのようになりたいと思いました。笑いは必ず人のためにあり、人を救うものです。そのような意味では、同時期に笑いで傷ついた経験と笑いで救われた経験がずっと心の中に残っていました。

今も実際に、いじめで自殺している中高生や不登校になっている中高生がいます。それだけではなく文部科学省は、年間5000人の先生方が精神疾患になっていることを発表しています。これも絶対によくないことです。この多忙感や疲労感の中で、先生方は笑いを忘れて心理的余裕がなくなってバーンアウトしてしまう、子どもから先生に向けられる笑いの攻撃を中々回避できない、子どもとどう接したらよいのか分からないといったことがあると思います。生徒と先生間だけではなくて先生同士で職場の人間関係が悪くなっているといったこともたくさんあります。

東須磨小学校で先生がいじめられるなどのパワハラや、セクハラまがいなことがありました。一般社会で起きていることは、もちろん学校でも起きています。もしかしたらそれ以上にひどいかもしれません。そのような様々な問題を笑いで解決していきたいと思いお笑い芸人になりました。 元々は学校の先生もお笑い芸人もどちらにもなりたくて、結果どちらにもなったというのが今の状況です。

笑いとユーモア

私がユーモアや笑いについてまとめたものが下図です。実は笑いとユーモアというのは明確に違いがあります。

私は、医者や弁護士、経済学者などいろいろな人がお笑いについて研究する会員は1000人ほどの「日本お笑い学会」に加入しています。この学会では、笑いと法律、笑いと経済など笑いと関わる分野を学際的に研究して発表しています。その中で私は関東支部の運営委員をしています。私は、教育学×笑いの分野を研究しています。学会では笑いを真ん中にしてユーモアが定義されています。だから、笑いは最上位概念になります。ここで考えていただきたいのは、世の中にはどれだけの笑いがあふれているのか、ということです。

面白いと思う気持ちをもつために大切なこと

今私たちがいるこの場所、ノートパソコン、部屋を照らしてくれている蛍光灯など、皆さんの身の回りを見て何か面白いものはありますか? 面白いものは何か見つかりましたか? このような感覚があるかないかで笑いの量が決まってきます。例えば、カラオケボックスに行くときにミラーボールが回っていているのを見て私たちは何とも思いません。なぜならカラオケという文化が当たり前になっているからです。しかし、カラオケという文化を知らない人が見たらどう思うでしょうか?

例えば、アマゾンなどの奥地で独自の文明の中で過ごしているミラーボールの存在を知らない人が日本に招待されたとします。そこでミラーボールを見たときに興味と笑いが止まらないと思います。私たちは、慣れてしまったものや、自分の中で当たり前だと思っているものの面白さには気づかなくなってしまいます。しかし、お笑い芸人は見方や考え方を変えて面白さを探してみる作業をします。例えば、コップにコーヒーが半分入っているのを見て、「あと半分も飲める」か「あと半分しか飲めない」と考えるかによって、気持ちがプラスかマイナスになるか大きく変わってきます。見方を変えることで、育ってきた環境で培ってきた言語、知識、習慣などに影響されている真ん中にある「ユーモアを感じ取る人間の感覚」は広くなっていきます。分かりやすく言い換えると、英語を勉強していないと、英語のジョークを理解することができません。英語を理解していない人は、ユーモアを感じられる人間の感覚のうちの言語力がないと言わざるを得ません。珍しくないものを新しい視点で捉えるには色々な感覚が必要になってきます。だから、人間の感覚を広げていくことによって面白さを発見できる力、共有できる力をつけていくことが大切です。感覚を広げるために大切なことは、その真ん中にある感覚を研ぎ澄ます教育をしていくことです。人と話すときに、自分は面白く感じなかったけれど他の人が面白いと感じていたときになぜなのか話し合い、この視点で見ていたから面白かったのかと理解する教育が、今のお笑い教育にとって非常に重要だと思っています。感受性が欠けている子どもが多いといったことが言われていますが、私は感受性という言葉はあまり好きではありません。自分自身で感受性を求める求感性を大切にした教育をしていかないといけないと考えています。

大学院での研究

私は大学院でユーモアスキルについて研究していました。とても強い相関関係があるわけではありませんが、人を笑わせたり、楽しませたり、面白さを感じ取ることができるユーモアスキルが高ければ高いほど、コミュニケーションスキルが高いという結論がでました。この4つ(表現力、創造的思考力、コーピング力、論理構成力)にカテゴライズして現在様々な講演でも教えています。マトリックス図を使って、4つの領域をメインとして最高到達レベルであるレベル4を目指して人のために笑いを使えるようになろうという説明をしています。今回のイベントのテーマにもなっている「心理的安全性」を確保するために人のためになる笑いや人をフォローする笑いの大切さを普段お話ししています。

誰にでも面白いと感じてもらう秘訣

「誰でも面白くなれる方法があるのですか?」という質問をよくされます。誰でも面白くなれる方法があります。それは、相手から好かれることです。仲良くなることができればよいのです。お笑い芸人みたいにギャグがうまくなれればよいかというとその必要はありません。100%うける一発ギャグはこの世の中にはありません。学校の先生方は本当に忙しいなか、本を読んだり勉強会に参加したりと、教員研修とは別に自主的に様々な方法で勉強されています。そのような方は多くのネタを持っていますが成功する確率を先生に聞くと大体の先生から1~2割という答えが返ってきます。色々な知識を持ち、子どもたちを楽しませる引き出しをたくさん持っている先生方が、1~2割のネタの成功率であることに私はとても歯がゆさを感じていました。普段は厳しくしていて子どもとの信頼関係を築いていない状態で、ネタを披露するときだけ笑ってもらうのは難しいです。普段から子どもと仲良く接していて信頼関係を築いていることが授業の下地になるのではないのでしょうか。そのようなことができているクラスであれば、面白いことを言わなくても普通の話で笑いがおきます。様々な研究をしていくと、やはり今日のテーマである心理的安全性が大変重要であると分かってきました。お笑いの世界でも舞台に登場して突然ネタをするのではなく、お客さんに対して最初にどちらから来ていただいたのかを質問したり、簡単な問いかけをしたりすることで私たちはお客さんの敵ではないことを認識してもらう場づくりをしてから本ネタを披露します。それを客いじりといいますが、普段の授業づくりにも同じことがいえると思います。面白いことを成功させるには面白いことが成功するような下地、つまり心理的安全性が必要です。授業の導入部分であるアイスブレイクの部分で何をしているのか、面白い・やりやすい授業をするためにどのようなことをしているのかが実は重要です。よって、今日は超絶アイスブレイク×ユーモアスキルという内容で話していきます。

超絶アイスブレイク×ユーモアスキル

私はアイスブレイクに影響する人や物、時潜在的アイスブレイクと呼んでいます。この人や物や時、この三者が良い方向に重なったときに子どもたちが打ち解けやすくなると考えています。

まず、についてです。アイスブレイクを行う先生の着ているものや見た目は子どもたちに与える印象に大きく関わってきます。また、それだけではなくファシリテーターの態度、表情、キャラクター、服装、話し方、参加者への接し方、柔軟性、対応力も加えて大切になってきます。

次に、についてです。まずは、アイスブレイクをしやすい場所で行っているかということが関わってきます。薄暗いおばけが出そうな和室でワークショップをしたくないようにどこで行うかということも非常に重要になってきます。また、机や椅子の配置、参加者同士の距離・向き、天井の高さ、照明の明るさ、レジュメの見やすさも影響します。

最後に、についてです。天気にも左右されます。お笑いでも天気の悪い日とよい日を比べるとよい日の方が打ち解けたという手ごたえがあります。それゆえに天気の悪い日はいつもよりもアイスブレイクの時間を長めにとる方が望ましいです。

このように、普段あまり気を遣わないような部分もアイスブレイクに大きな影響を与えています。だから、先生がアイスブレイクをしやすい環境をつくることが子どもたちが打ち解けてくれるかについて非常に重要になってきます。この環境をつくることこそが授業の下地をつくることに繋がります。先生方から、アイスブレイクに集中してくれないとの声をいただくこともありプリントを見せてもらうと、先生でも見づらいと感じるようなものであることもありました。このように、授業前から始まっている潜在的アイスブレイクを押さえておくことが重要です。

そもそも必ず上手くいくアイスブレイクは存在しません。アイスブレイクの内容はあまり重要ではありません。それよりも先生が子どもとどのように接しているかが大切です。先生が雰囲気を作るのではなく、先生が子どもたちに楽しい雰囲気を作ることができる栄養を与えることが秘訣です。逆に言うと、先生がお笑い芸人のように面白くなくてよいということです。

最後に参加者のアイスブレイクを妨げる3つの要素をご紹介します。1つ目は、先生が必要以上に責任を取ろうとすることです。2つ目は、目的以外のことは決して許さない、認めないとすることで創造性を妨げることなど参加者の融通を利かせなくすることが挙げられます。3つ目は、参加者に議論や主張を競わせることが挙げられます。このようなことを先生がしてしまうと、子どもは委縮してしまいますし、アイスブレイクでするゲームが逆にアイスをブレイクできなくさせてしまいます。

4 ワークショップ内容

後半は講演で学んだことをアイスブレイクで実践する活動を行いました。全体で1つ、ブレイクアウトセッションに分かれたグループで2つ行いました。全体では、『イエスノー』を行いました。このゲームは、イエスノーで答えられる質問を考えて、参加者にジェスチャーで〇×で示してもらうものです。参加者に質問を選んでもらいながら4回程繰り返しました。ブレイクアウトセッションに分かれたあと『共通点探し』『ワンワード』を楽しみました。『共通点探し』はグループに分かれて3分間でメンバーの共通点を3つ探します。『ワンワード』は1人1つずつ単語をつなげて区切りがよい部分で切れるまで繰り返して文章を作るものです。

『イエスノー』で対話を重ねながら距離感を縮めたことが、のちの『共通点探し』や『ワンワード』をしやすい環境づくりにも繋がっていました。『ワンワード』でできた作品をブレイクアウトセッションから全体に戻ってから共有したのですが、どの班も非常に面白い文章ができていました。参加者の感想には、実際に学校の授業に取り入れたい、活用していきたいという意見も寄せられていました。

5 ゲスト紹介

矢島ノブ雄先生(オシエルズ)

1987年4月22日生まれ。一般社団法人 日本即興コメディ協会 代表理事。お笑いコンビ「オシエルズ」として活動。埼玉医科大学短期大学 非常勤講師。日本笑い学会 関東支部運営委員。著書「イラスト版子どものユーモア・スキル」(合同出版)。「第11回若者力大賞」ユースリーダー賞。(2020年10月時点のものです。)

6 編集後記

このイベントのキーワードでもある心理的安全性をいかに保証するのか、そのためにどのようなアイスブレイクが必要なのか、授業をうまく進めていくためにも、まずはその下地として先生がどのようなことができるのかが大切だということを感じることができました。イベント当日は矢島先生のネタを拝見することもでき笑いに溢れた時間でした。笑いを教育に取り入れることを考えてみるきっかけとなるイベントでした。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 山崎壮健 徳田美妃)

コメント

コメントはまだありません

    より良い実践のためには、あなたの励ましや建設的な対案が欠かせません。
    ログインして、ぜひコメント欄をご活用ください。