コロナ禍における休校期間の実践-オンライン授業と反転授業-

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目次

1 はじめに

公立小学校で6年生の担任をしながら、教職大学院で学習意欲などについて研究されている淺見先生に2020年7月3日にインタビューを行いました。新型コロナウイルスの影響による休校期間中に淺見先生が取り組まれたオンライン授業反転授業について取材しました。

2 インタビュー

◆教職大学院

—教職大学院に行かれたのはなぜですか。

前の年に長期研修を受けていたのですがそれがあまりうまくいきませんでした。その時に校長先生に「教職大学院というのがあるからこっちに行ってみたらどうだ?」という話をもらいました。学年主任も教務主任も経験してある程度学校のことが見えてきたところでした。今まで実践を重ねながら「なんだか、この部分をもっと詰めていかなければならない」そう思うところが自分の中にあり、それが高まっている時にタイミングよく話をもらったので、これはチャンスだと思って教職大学院を受験しました。

—どのような研究をされていますか。

簡単に言えば、子どもの学習意欲です。人は意欲があれば好きなことをとことん突き進めていきます。だから、授業も学習意欲が根底にあってそれが影響しているのだろうと思います。それなら学習意欲が湧き出るような授業を構築していけばいいのではないかと思います。では、どうやってその授業を創りあげるのか。そういった部分を研究しています。

◆オンライン授業

—担当学年とオンライン授業に踏み切ったきっかけを教えてください。

担当は6年生です。オンライン授業というと双方向性のやりとりがあるように見えますが、結局は授業動画をとってネット配信をしただけです。なぜそこに至ったかというと、学校が再開されるという見通しがあったからです。学校が再開されると、6年生なので様々な学校行事やクラブ、委員会など忙しい日々がはじまります。また、何よりも卒業に向けて動いていかなければなりません。そうなった時に学習内容を少しでも多く習得しておいてもらえれば、ある程度余裕を持った生活ができるのではないかと思いスタートしました。

—他の先生方とはどのように連携しましたか。

2クラスなので先生は主任と私です。話を持ちかけると主任の先生はぜひやろうと言ってくれました。私は算数をやって、主任の先生は非常に字が上手な方なので漢字をやってくれました。したがって漢字・算数をやりました。他の学年については、同じ高学年ブロックの5年生を引き込みました。

—授業の配信方法について教えてください。

本校では、5、6年前からインフォメールをずっと活用しており、インフォメールの登録世帯はほぼ100%です。何を送っても家庭に届くので、動画のリンクを貼ったメールを送りました。学校ホームページにも「授業動画を配信します」と載せましたし、週に1回子どもが課題を受け取りに来ていた時にも「授業動画〇曜日に配信します」という週の計画表を渡していました。見ていないという子はいなかったので、何らかの形で見ていたのかなと思います。ただ、保護者からは「仕事に行くと昼間見せられないので先生どうにかなりませんか」という話はありました。

—動画の工夫した点を教えてください。

板書です。見やすさを重視しました。また、「えーっと」「あのー」などの余計な言葉もなくすようにしました。動画は学年の先生と一緒に撮りました。全部で5本くらい配信しましたが、最後の動画が1番いい出来になりました。ただ、納得いくまでやっていたらテイク17くらいかかりました。

—それだけ多く撮られたんですね。編集した方が早いといえば早いですよね。

本当はもっと簡単にできる方法もあるのかもしれません。市内の中学校の先生が自分で撮影・編集しYouTubeに流しており、凝っていて面白かったです。自分には真似できないスキルでした。ただ、別にそれで勝負しようとは思っていなくて、手ごろさも大事だと思っています。ここで「淺見がYouTubeで配信していて何やら凝った動画で編集も大変そうだった」とか「淺見先生のあの編集スキルすごい」とかなると、他の先生が「やってみようかな」と思っても手軽にできないのではないかと思います。「淺見先生、あの動画どうやったんですか?」と聞かれた時に、「まず動画撮影して、こういうソフトで編集してこういう感じで文字や音楽入れてやりました」と言ったら、「えっ…難しそう…」となりますよね。自分ならなると思ったんです。でも、「普通に、撮影してリンクで共有しただけですよ」と言われれば、「あぁ、そんなもんでいいんだ!」「簡単そう、やってみようかな」となりますよね。そうすれば動画配信へのハードルも下がって多くの先生が取り組めると思いました。

—子どもに会えない休校期間中、先生のモチベーションはどのように保ちましたか。

モチベーション、難しいですね。自分自身は新しいことをやらなきゃと思っていて、ちょっと違うぞというのを見せようという想いもありました。それにこういう時だからこそ新しい何かをやるチャンスだと思いました。どこの学校もそうだと思いますが、ペーパーでの課題を提示し、それに取り組む—丸付けする—返すの繰り返しなので、先生のモチベーションの前に子どものモチベーションがどうだったかなというのはありますね。

—オンライン授業だと困る事や不安な事はありますか。

特に困ることはないです。デバイスの整備が各家庭にできてさえいれば、先生はいくらでもやることができます。ただ、教育委員会が先導を切って動いてくれると現場の先生はやりやすいです。また、双方向性のあるオンライン授業で考えたときに、Zoomのブレイクアウトルームはランダムに組むから否が応でも話し合いをしなければいけません。半ば強制的に「この人たちと話し合いなさい」とした時に、それが有効なのか、もしくは望ましくないのか、というところは課題ですね。苦手な人とはリアルで会っても話すのが難しいのに、オンライン上で画面だけでぱっと会って話ができるのでしょうか。児童の発達段階にもよりますが、やっぱり実際に会って顔を突き合わせてする学びの方が効果は大きいと思いますね。

—オンライン授業だとできない事はありますか。

相手との距離感を知ることだと思います。リアルで対面した時はこの子はぐいぐいと前のめりで話すとか、この子はぼそぼそ話すから耳を傾けなければいけないとかがわかります。そういうところで他者理解のようなものも進んでいくのかなと思いますが、オンラインだと難しいですね。

◆反転授業

—反転授業を思いついたきっかけを教えてください。

そもそも今回の授業動画配信が反転授業と言えるかどうか?なのですが…。反転授業は思いついたというか、もともとそうした取り組みがあることを知っていて、既に実践している学校を見に行っていました。この時、反転授業は参観できなかったのですが、その後自分で調べて、サルマンカーンという数学の学者が提唱していると知りました。ちょうどそのことを思い出し、計画してみました。休校期間中に計算の仕方のみを、学校が再開したら計算の意味や根拠となる部分を教えたら成立するのではないかと思いました。

—反転授業でどのように学習意欲を高めますか。

直接的に学習意欲にどう作用するかはわかりません。そもそも反転授業と学習意欲を同じ領域で話していいのかもわかりません。個人的にはそんなに関係ないんじゃないかなというのが正直なところです。しかし敢えて言うならば、反転授業は、基礎的な部分(これを一人でもできる部分とします。)をこなした上で応用問題に取り組むわけですから、子どもたちは「自分はこの問題に立ち向かう力を持てているから応用問題なんて怖くない」そんな意識が働くのではないでしょうか。もし応用問題で躓いてもまた基礎的な部分に立ち返ればいいことです。

—反転授業の良いところを教えてください。

反転授業の本質やねらいを熟知しているわけではないし、反転授業を一生懸命やっている人に言わせれば、「そうじゃない」と言われてしまうかと思います。それでもあえて言わせてもらうのであれば、本来、子ども達は「これはもっとできるのではないか?いや、できるようになりたい、挑戦したい」というように、自己有能感のようなものをもっているのです。ということは、ある程度基礎ができていれば子ども達はさらなる有能感でもってさらなる挑戦をしようとすることができるのかと思います。
単純に、「計算の仕方はわかるから、あとはなんでこういう式になるのか、なんでこういう解き方になるのか」それだけを考えればよいのです。もし解き方がわからなくても、計算の仕方はわかっているから、そこに立ち返ればいいわけで。こういうところが反転授業の良さかと思います。

◆これからの教育

—これから先、教育現場において大事だと思うことを教えてください。

子どもの学びをどのように保障していくかということが大事だと思います。虐待を受けている子や親から疎まれているような子は学校が休校になっただけで自分の部屋に閉じこもってしまうと思います。そのような子たちが何か学び続ける1つのツールみたいなものは用意していかないとダメですよね。それが学びの保障なのかなと思います。それから外国籍の子やそこにルーツのある子など、所謂マイノリティーと言われるような子どもたちの学びも、現行の学校の制度では休校に関わらず保障しきれていないと思います。

—淺見先生が具体的に描いている理想の学びはありますか。

自分は勝手に“オルタナティブな学び”と言っています。要は、自分が興味を持つことについてとことん探求していくのです。インターネットでもいい、人に聞いてもいい、フィールドワークしてもいい、本や教科書でもいい。そういったことを時間的にも余裕をもって取り組めたらいいんじゃないかなと考えます。そのために総合的な学習の時間を核にしてカリキュラムを組んでいけばそれができるのではないかと水面下で画策しています。例えば、休校になりせっかく家にいるのだから、自分が興味あることについて探求するとか、そういう学びのチャンスに置き換えていけないかなと思います。「社会科で選挙について学んだから選挙について調べてみたい」のように子ども自身が興味を持つ分野に勝手にスポットを当てて探求するのです。

3 プロフィール

淺見雄大先生

東松山市立松山第二小学校教員。

帝京大学文学部史学科を卒業後、いくつかの職を経て中学校の社会科教員になる。その後白百合女子大学にて小学校免許を取得し、小学校教員となる。教員歴16年目。

現在は小学校教員でありながら埼玉大学教職大学院に在院し、子どもの学習意欲について研究している。コロナウイルスの影響による休校期間中、何かできることをしようと以前から知っていた反転授業を思い出し、学校内で先陣を切ってオンライン授業を開始。反転授業によって子ども達の自己有用感を高め、学習意欲向上に繋げている。

4 編集後記

休校期間中であっても子どもの学びを保障していくことは重要ですが、そのために現場の先生は奮闘しながら取り組まれていることがわかりました。できないことばかりではなく、オンラインだからこそできること、休校だからこそできることを考え取り組んでいくことの重要性を感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部・西山花音)

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