【稲田先生へのインタビュー】公立学校初のイマージョン教育!秘密は、学校と行政の連携

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作成者:髙見 健 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2020年9月5日に行った愛知県豊橋市八町小学校教頭の稲田恒久先生へのオンラインインタビューを編集、記事化したものです。稲田先生は豊橋市八町小学校の教頭の業務と社会科の授業を普段担当しておられます。本記事では、日本初の公立学校でのイマージョン教育をなぜ始めることができたのかについて知ることができます。

2 日本におけるイマ—ジョン教育の必要性

豊橋市がイマ—ジョン教育コースを御校に設立しようと思ったきっかけは何でしたか?
私は2018年と2019年に豊橋市の教育委員会で英語教育を推進する指導主事として勤めていました。私がそこで勤めていた頃「子どもたちがもっと英語を用いる機会を作れないか」という課題意識を豊橋市は持っていました。豊橋市はそうした課題意識から平成29年から平成31年までの3年間で、「英語で学ぶモデル授業」というものを始めました。そのときには、体育や図工などの実技科目を英語で行うという実践を行い、その結果「子どもたちは英語による授業展開によっても実技科目を身につけることができる」ということが分かりました。その結果をふまえて、算数や理科やその他の科目も英語を用いた授業展開をして学習してもらうことができるのではないかと考え、イマ—ジョン教育コースを開設しました。令和元年は、これまで先行的な英語教育を行ってきた経験を活かした新たな展開として、小学3年生の算数の授業で1年間を通して英語で授業をするということもしました。そして今年からは全学年のイマ—ジョン教育コースにおいて、英語を用いて全ての教科を教えることに踏み切りました。
 小学校からイマ—ジョン教育コースを始める必要性を感じた理由は何でしたか?
元々平成17年から「英会話のできる豊橋市立八町小学校育成プラン」という小学校3年生から中学校3年生までの7年間の英語育成カリキュラムが存在していて、その実践を10年以上してきました。この実践は他の多くの市区町村からも賛同を得ることができました。それをふまえて、今後は小学校の6年間と中学校の3年間、つまり、義務教育の範疇にある9年間を使用した英語を用いたコミュニケーション力の育成を目標に掲げています。これまで長年にわたって積み上げた実践と成果をいかし、将来を見据えたさらに一歩進んだ取り組みが必要と感じ、小学校からの豊橋版イマ—ジョン教育を構想しました。また、英語の導入についても考えていることがあるのですが、リスニング力の向上は低学年から英語に触れることが効果的であると言われているので、豊橋市立八町小学校ではイマ—ジョン教育コースでその機会を提供しています。高校でのイマ—ジョン教育に関しては、高校は自治体(県)の管轄にあるので本校から働きかけることはあまりできません。そのため、豊橋市立八町小学校における範疇の中で最大限にできることは何かと考えた結果、イマ—ジョン教育コースにおいて英語教育の推進に尽力しようということになりました。
稲田先生が考えていらっしゃる、イマ—ジョン教育のメリットとデメリットは何でしょうか?
イマ—ジョン教育の導入に関してはまだ始めたばかりのことで先は読めませんが、数多くのメリットがあると考えています。豊橋市立八町小学校自体がそもそも、「特色のある学校づくり」を掲げ、その実現のために自然体で取り組んでいます。豊橋市の政策としても「特色のある学校づくり」のためにやりたい実践を提言している学校を積極的に支援していると思います。そのため、イマ—ジョン教育コースを開設し英語を用いたコミュニケーション力の向上をはかる実践を始めたことで、「特色のある学校」のモデルケースを示すことができたのではないかと思っています。また、イマ—ジョン教育を導入することで、豊橋市全体の子育てに対する姿勢を地域の方々や保護者の方々に示せたというのもメリットの1つとして挙げられると思います。豊橋市八町小学校のイマージョン教育コースは、児童と先生が関わる時間が長いです。また、先生2人体制で授業が行われているため、児童一人一人を見ることができます。子育ての面でも、保護者が子どもとの時間を長くとってあげることにつながったのではないでしょうか。デメリットについては、教育費用がかかることだと思います。イマ—ジョン教育の推進にはどうしても人的な支援が不可欠になってきます。

3 豊橋市八町小学校におけるイマ—ジョン教育の特徴

イマージョン教育発祥の地はカナダですが、日本とカナダにおけるイマージョン教育の違いについて稲田先生のお考えを教えてください。
豊橋市八町小学校のイマージョン教育については、私はカナダのイマージョン教育とは違うものであるという認識をしています。したがって、豊橋市八町小学校独自のイマージョン教育という認識をしています。具体的には、子どもたちが授業で学んだ英語を聞いて、授業内あるいは授業外で活用する点です。特に、英語をシャワーのように絶えず聞き続けるインプット方式が豊橋市八町小学校独自のイマージョン教育の特徴になります。
イマージョン教育の推進において稲田先生が難しいと感じていらっしゃることはありますか?
豊橋市八町小学校において先生方が抱えている問題の1つは公立の小学校であるため、英語で各教科を学習する際、学習指導要領に準拠しなければいけないことです。そのため、先生方は学習指導要領の範囲内かつ教科書の内容理解を優先させながら、英語を用いて授業をしていくことを難しいと感じています。しかし、その範囲内で最大限に英語に慣れ親しんでいってもらう姿勢を大切にしています。
公立学校においてイマージョン教育を行う意義は何ですか?
ここでイマージョン教育に携わっている日本人の先生方は豊橋市で各教科を10年以上指導してきた方々です。今まで豊橋市が行ってきた「個を大切にする教育」や「問題解決的な学習」などの実践をNET(Native English Teacher)という外国人指導教員とともに進めていきます。そのため、授業の展開は若干、他の公立学校と異なるかもしれませんが、基本的には、今まで日本語で行ってきた授業をいかに英語を用いて進めることができるかを考えています。

4 豊橋市八町小学校のイマ—ジョン教育コースにおける授業方式

 豊橋市八町小学校のイマージョン教育コースに関して質問です。授業カリキュラムはどのように組まれていますか?
カリキュラムは当然、学習指導要領に則っています。そのため、一般の公立学校で行われている授業カリキュラムになります。教科書も、日本語の教科書を使用しています。ただ小学1~3年生に関しては、英語の授業時数が週29時間に達しないため、本校では5~6時間目に独自の特別授業を導入しています。たとえば、小学1年生でいうと、毎日5時間授業が国が示す授業時間数になるため、6時間目にあたる週4~5回の授業に関しては特別に英語の活動を行っています。
英語を「シャワーのように絶えず聞き続けるインプット方式」とお話しされましたが、授業外で英語を用いる機会はありますか?
英語を授業外で用いる場面はあります。たとえば、朝の会、帰りの会、あるいは、学級活動などです。基本的に外国人指導教員が学級担任として一日中そのクラスの子どもとともに過ごすため、給食時間の会話や放課後の会話でも子どもたちが英語で話すことを目標にしています。また、授業時間内でもそのような機会は生まれてくると予想されます。
外国人指導教員とは先ほどお話しされていたNETの先生ですか?
その通りです。
NETの採用理由は何ですか?ALTではいけなかった理由がありますか?
現在、6人の学級担任と翻訳と学習支援を担当する1人のコーディネーターが存在していますが、彼らも10年以上豊橋市でALTとして活動していた先生たちです。今回は、彼らをNETとして市が採用しています。ALTとNETの違いは、将来的にNETの先生は特別免許を取得する対象となる点です。今から3~5年の経験をもとに、NETの先生方は特別免許の取得を目指していきます。そのため、授業のアシスタントではなく、先生という位置づけで、NETという呼び方をしています。

*NET=Native English Teacherの略で、ALTとは異なる。具体的に、NETの先生方は、各学校での経験をもとに、特別免許の取得を目標にしている。
将来的にNETの先生方が様々な授業を担当していくことはあるのでしょうか?
そうではありません。外国人に付与される特別免許(英語)は、小学校免許の付与とは別物です。もちろん彼らは英語を用いる活動や英語の授業を行うために英語の教員免許を取得しています。しかし、英語以外の教科についてはその教員免許を持っている日本人の先生との ティーム・ティーチングが原則です。
英語で授業を行う際に気をつけていることはありますか?また、授業前の準備は何をしていらっしゃいますか?
翻訳等を担当してくれているコーディネーターである2人の先生方に訳してもらった教材をそれぞれの教科の先生方が、「英語を用いてどのように授業展開をすればよいのか」模索しています。今年が豊橋市八町小学校イマージョン教育コース開設1年目ということもあり、各授業準備については先生方に子どもが英語を用いて各教科の内容をわかりやすく学ぶための工夫をお願いしています。
教育課程外の活動の内容は、具体的に言えばどのような活動ですか?
小学校1、2年生は学習指導要領に英語の授業がないので、その学年の子どもへの英語の授業が教育課程外の活動になります。
 小学校低学年の子どもたちは座学で英語を学ぶことよりも、言葉に出して英語を身につけていくことが好きなのではないかという印象があるのですが、英語で実施する各科目の授業において体験的な活動は導入していらっしゃいますか?
低学年の子どもたちは「文字で」学ぶというよりは、図工や体育などを見ても分かることですが体験的な活動から知識を身につけていくことを好みます。そのため、イマ—ジョン教育コースにおける英語を用いた授業でも、歌ったり踊ったりするなどの体験的な活動をしています。
体育では英語でダンス指導をされることもありますか?
本校では、通常の学級とイマ—ジョン教育を推進するイマ—ジョン教育コースの2クラスが各学年にあり合同に体育をします。そこにNET(イマ—ジョン教育コースのための教員)も参加はしますが、体育では英語よりも活動を重視しているのであまり授業内で英語は用いません。

5 イマ—ジョン教育推進のために用いる教材

教材は豊橋市八町小学校で独自に開発していらっしゃるのでしょうか?
教科書は採択されたものを使用しています。しかし、子どもたちが教科書を英語で理解するためにPowerPointを用いるなど先生方が様々な工夫をしています。ワークシートなどを用いることもあります。たとえば私が社会の授業で使用している教材は、教材の本文が全て英語で書かれてあり、社会の授業に登場する用語(穴埋め部分)の記入を子どもに英語でしてもらうようにしています。ときには、PowerPointを大画面で使用したり、動画を使用したり、それに際して全員が英語で話すことによって英語に慣れてもらうようにしたりしています。
動画はどのようなものを使用していらっしゃいますか?
動画は基本的にはYouTubeから引用してきたものやデジタル教材を使用しています。英語の教材に関しては、既存のデジタル教科書の中に収録されているデジタル教材を有効活用しています。私は社会の授業で使用する教材を見つけるために、YouTubeで「大仏作り 英語」などと検索して探しています。そうすれば東大寺について英語で分かりやすく説明がされた2分くらいの動画が検索結果にヒットするので、それを授業内で活用しています。
 イマ—ジョン教育コースの子どもたちに課す宿題の本文は、ほとんど、もしくは全てが英語で記されているものなのでしょうか?
家庭の状況や子どもの意欲によって違いはあると思いますが、学校の授業で3時間程度は英語に普段から触れています。そのため、宿題として課す教材の内容は英語で記されたものではありません。ただ、イマ—ジョン教育コースの子どもたちの中には、教材の内容が英語であるために習熟に困難を感じる子どもも出てくる場合があると思います。それを防ぐために、基本問題を通常学級の子どもたちより時間をかけて学ぶ必要があるため、教科書の練習問題を家庭で入念にしてもらっています。

6 イマ—ジョン教育推進におけるデメリットと対処

早期に英語に触れることにより、母国語の修得がおろそかになる面が指摘されています。このような側面について現場ではどのように感じていますか?
国語の授業は一般のクラスと同じように授業をしています。あくまでも、豊橋市の「個を大切にする教育」が本校の教育理念として前提にあるため、英語や日本語を用いる際に子ども一人ひとりの習熟度別に応じて、英語と日本語を使い分けていきます。英語を強制的に活用する学習環境ではないため、もし子どもが英語で各教科を学習して、教科書の内容が理解できないようであれば、ためらいなく日本語で内容の説明や英語表記の文字の説明などをします。先生も、教室にNETと日本人の先生がいるため、英語の授業が難しく困っている子がいれば、日本人の先生が日本語で内容の説明や会話のやり取りなどをしていきます。このような体制をとっているため、現時点では早期に英語に触れることにより、母国語の修得がおろそかになる側面が生じているとは感じていません。
イマ—ジョン教育コースにおける各科目の授業の中で、専門用語が出てくる場合があると思いますがそのときはどのように教えていらっしゃるのでしょうか?
英語でその用語は何というのかを教えて学んでもらっています。特に5、6年生の理科ではかなり難しい用語が出てきますが、子どもたちは容易く吸収しています。
 英語による授業展開の場において、英語を聞き取ることについていけずに授業内容が分からなくなってしまう子どもはいませんか?
今年がイマ—ジョン教育コースを開設して1年目なので今後どのように子どもたちが成長していくのか様子を見る必要はありますが、現時点では子どものリスニング力に差はあると思います。そのため、あまりリスニングに自信がない子も授業についていけるようにするためのサポートとして、先生方がテレビを用いて視覚的支援をしたり日本語の教科書を開いて参考にしてもらったりしています。

7 アメリカのトリード市と連携した、豊橋市八町小学校の外国語教育に対する姿勢

豊橋市八町小学校におけるイマ—ジョン教育の取り組みは、他の地域と推し進めていらっしゃるものなのでしょうか?
本校のホームページには挙げましたが、今年はトリード市との交流を始めて20周年になるのでそれを祝うイベントを新型コロナウイルスの影響がなければ開催する予定でした。また、トリード市との交流事業の一環として、トリード市から推薦された先生方に豊橋市の学校で3年間勤務してもらうということもしています。本校で勤務しているNETやALTはその勤務期間を経ています。トリード市との連携は本校だけではなく市全体で行っている取り組みです。そのため、今後もトリード市で選ばれた先生方と子どもたちが英語で交流をすることで国際的に活躍できる子どもを育てるための取り組みは発展していくと思われます。

イマ—ジョン教育コースを設立しようとお考えになった背景には、トリード市との連携が関連していますか?

イマ—ジョン教育の設立に関しては、豊橋市が平成17年に内閣府に申請をして「英語教育推進特区」というものに認可されたことが背景としては大きいと思います。豊橋市の「10ヵ年計画」というものの中でも「英語を用いて国際的に活躍できる子どもを育てたい」と唱えられていたということも、イマ—ジョン教育コース設立に大きく関わっていると感じます。

8 新型コロナウイルス禍における、豊橋市八町小学校のイマ—ジョン教育

新型コロナウイルスとイマ—ジョン教育推進との関連でお聞きしたいのですが、昨年の4~5月はイマ—ジョン教育コースの子どもに向けてどのような対応をしていらっしゃいましたか?

まず、イマ—ジョン教育コースの子どもだけに限らず、入学式や宿題などを提出するための出校日は他の学校と同様にありました。イマ—ジョン教育コースへの支援としては、自粛期間中は困難で、対面でないと活動の幅には制限がついてしまうものなのだと痛感しました。そのため、自粛期間中はホームページにYouTubeなどから引用した英語の動画を載せて家庭でも見られるようにしました。細々とでも、英語に触れる時間を作ってもらえたらと考えていました。今は学校全体として、文科省や市教委や自治体(県)の指示に基づいてマスクをつけて授業を再開しています。しかし、イマ—ジョン教育コースにおける授業の際に先生の口の形が見えないことで、リスニングや正しい発音をするための口の形を見ることに支障が出ていました。しかし、企業の方から無償でフェイスシールドを支給していただけたので今は問題なく授業ができています。企業の方々からは、フェイスシールドの無償提供に加え、自分の発音を聞くことができるモニターをもらうこともあります。今後は、イマ—ジョン教育コースの実践の1つとして、イングリッシュキャンプの範疇で豊橋市にあるフォルクスワーゲンの本社を訪問できたらとも考えています。普段から、企業だけでなく市役所や市から自然体で応援していただいている実感があります。

9 最後に一言

最後に、今後のイマ—ジョン教育コースの展望をお伺いしたいです。

豊橋市が掲げている目標の1つとして、英語のコミュニケーション力を長所として生かしグローバル社会で活躍できる人材の育成ということがあります。そのため、本校を巣立った子どもたちがイマ—ジョン教育コースで学んだ英語によるコミュニケーションの技術を活かして人のために役立てたり、本人の自信になったりしたら良いと思っています。また、本校のイマ—ジョン教育の実践を通じて、人と人の交流が様々な場面で盛んになれば良いという波及効果も期待しています。そのために、今後はイマ—ジョン教育コースにおいて、そのクラスの子どもたちが通常の学級の子どもたちと変わりなく学習内容を定着させられることを目標に授業をしていきたいです。それに加えて、英語のリスニング力と会話力の向上を目標にしたいです。今年からは全学年を小学1年生から受け入れているので、今イマ—ジョン教育コースにいる小学6年生と小学1年生では達成できるゴールは少し違うところになると思いますが、どんな形であっても本校で英語を早くから学んで良かったと思える何かを子どもたちの中に残せたら良いと考えています。

10 プロフィール

稲田恒久(いなだつねひさ)豊橋市立八町小学校教頭。2018年度より2年間、豊橋市教育委員会学校教育課指導主事として、3年生算数豊橋版イマージョン授業の研究実践や夏休み小学生イマージョン体験講座などを企画、運営し、八町小学校イマージョン教育コース開設準備に携わる。2020年度4月より現職として、イマージョン教育コースの4年と6年の社会科の授業も担当している。

11 編集後記

私は元々イマージョン教育に関心を持っていたのですが、日本にイマージョン教育を導入する際に必ず大きな壁として立ちはだかる問題が資金援助です。イマージョン教育は先生の数を増員するなど、どうしても費用がかさばります。しかし、豊橋市八町小学校は豊橋市や民間企業の支援が豊かであることから、この問題に対処しています。学校教育が学校だけにとどまらない関係性は読者の皆様にも有意義な情報になるかと思います。イマージョン教育についてご存じの方も、まだご存じでない方も是非ご一読ください。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 髙見、金田)

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