【漆紫穂子氏インタビュー】ROJE関西教育フォーラム2020「先生はどう働き、子どもはどう学ぶか ― コロナ禍で問う学校のあり方 ―」

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目次

1 はじめに

本記事は、2020年11月29日にYouTubeでライブ配信されたROJE関西教育フォーラム「先生はどう働き、子どもはどう学ぶか — コロナ禍で問う学校のあり方 —」の収録終了後に行われた、漆紫穂子先生へのインタビューを記事化したものです。

今回は、主に学校と外部とのかかわりにおけるリスクの考え方について、漆先生のお考えを伺いました。

※本フォーラムでは、新型コロナウイルスの感染拡大を予防するため、適切な対策を講じています。

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2 インタビュー

学校が外部とつながるリスクとマネジメント

パネルディスカッションでお話しいただくことができなかった、学校が外部指導員を受け入れるリスクや先生たちが学校外で学ぶリスクについてお聞かせください。

学校が外部とつながるとき、リスクは必ず付きまといます。なぜなら、外部指導員は学校の職員ではないため、学校がコントロールできないからです。例えば、学校が企業とコラボしたと考えます。互いの組織で不祥事が起きた場合、レピュテーションリスク(企業に対する評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度)を被る可能性が出てきます。このように、外部と一緒に何かをやるとき、リスクコントロールができない部分が出てきます。

漆先生はそのようなリスクがあると知りつつも、学校が外部と連携するメリットがあると思い、行動されていると思います。漆先生は外部と連携するメリットとリスクコントロールのバランスをどのようにして保っていますか。

リスクはコントロールしきれません。ですから、何が起こるかわからないけれど、何か起きる覚悟をすることが大事です。何かが起こった時、私はいつも最悪の場合を考えています。私にとって最悪の場合とは、学校が潰れることと、生徒が取り返しのつかないような事故に遭ったり、怪我をしたりすることです。これ以外の場合は、謝れば何とかなると思っています。私たちの学校では、入学前にリスクがあることについてできる限り伝えています。だから、保護者からのクレームは少ない方だと思います。何かが起きるという前提で外部との連携についても準備をしています。

学校が外部と連携するメリットは、子どもたちが社会を知ることです。子どもたちは社会に出れば、様々ばリスクと向き合っていかなくてはなりません。親や私たちが守り支えることができる中学・高校の間、社会に出る前に色々な失敗を経験することはとても大事だと思います。

つまり、事なかれ主義にならないために、リスクある経験をしていくことが大事ですというお話しですね。

チャレンジしていく人が世の中を良くしていきます。また、学校が、チャレンジして失敗するリスクを取れる人をたくさん育てていかないと、少子高齢化している日本は生き残っていけないと思います。本校の生徒はよく「考える前にまず行動」と言いますが、卒業後、「これが普通だと思っていたら、違いますね」と言うこともあります。

学校現場で活用できる情報収集方法

漆先生は外部の情報などを大事にされていると思います。漆先生がよく使われているデータはどこから集めていますか?

教育に関する研究の情報は大学のCiNiiGoogle Scholarでも多く得ることができます。また、私は国立教育政策研究所で評議員をしているのですが、ここでも教育関係の研究が多くなされています。さらに、研究者に直接聞くこともあり、研究論文の内容は素人には難しく、特に統計的データの意味を理解するには基礎知識が必要です。私は教育におけるデータの必要性を考えていたため、三年前に大学院に行って学び直しました。

学校の中にはもともと多くのデータがあります。例えば、成績やアンケートです。現在、私たちはこれらのデータを整理・統合して、データ同士をつなげる作業をしていますのでこれからどんどん使えるようになると思います。さらに、卒業生にアンケートを取る「回顧的調査」もしています。これと在校生のデータをつなげていけば社会での活躍につながる教育ができるようになるはずです。

このようなデータの整理・統合・結合を各学校が行えばより多くのデータを共有でき、多くの価値が生まれると思っています。最近、文部科学省は学力テストのデータの中に非認知能力を測れるようなアンケートも付けています。現在、私は「これらのデータをより活用していきましょう」という意見も伝えています。

おわりに

社会は常に変化しています。今はそれが激しい時代です。たとえ、学校の先生からの情報であっても、自分の頭で考えること、良い意味で「疑うこと」を大事にしましょう。また、目的はそもそも何だっけ、そして、これはいつでもそうなのかな誰が決めたのかなというように、自分に問いかけることで、本質に迫ることができます。そうして教育の現場はより良くなっていくのかなと思います。

3 プロフィール 

漆 紫穂子 氏

品川女子学院 理事長 

創立1925年の中高一貫校・品川女子学院6代目校長を経て、2018年より現職。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。教育再生実行会議委員(内閣府)同校は1989年からの学校改革により7年間で入学希望者数が30倍に。「28プロジェクト」を教育の柱に社会と子どもを繋ぐ学校作りを実践している。近著『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)

(プロフィールは2020年11月時点のものです)

4 編集後記

漆先生の考え方は教育の本質を突いていると感じました。教育は誰のため? 子どものためですよね。決して、学校や先生のためではありません。そこを常に問い続けて、先生は子どもたちと関わり合っているのだと思います。また、学校におけるデータの価値は大きくなっていきそうな予感がします。理論的な視点は、学校内の会議を促進させ、子どもたちへのよりよいアプローチを打ち出せる環境へといざなうことでしょう。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 高見・上島)

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