インターネットのメディアリテラシークイズ~政治に関する情報と「フィルターバブル」~

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目次

1 インターネット情報を適切に受容するには

総務省の実施する「通信利用動向調査」によると、2019年時点で6~12歳のインターネット利用率は80.2%(前年67.1%)、13~19歳のインターネット利用率は98.4%(前年96.6%)と、子どもたちにとってインターネットは大変身近なツールとなってきています。このような環境では、インターネット上に存在する情報を適切に受容する能力が子どもたちにより強く求められます。

参考:
「通信利用動向調査」総務省。
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/200529_1.pdf>(最終アクセス日:2021/1/26)。

本記事では、まずインターネットメディアを利用する際に気をつけたい「フィルターバブル」という概念を紹介します。そののち、情報を適切に受け取るためのメディアリテラシークイズを、政治に関する情報を収集する場面を例にご紹介します。クイズについてはPDFファイル・PNGファイルも添付しておりますので、ご自身のリテラシーの確認にも、子どもたちへの話題の提供にもお使いいただけます。

※本記事に掲載しているのは、2021年2月時点の情報です。

2 インターネット情報を利用するときに気をつけたい「フィルターバブル」

インターネット上の情報を利用する際、留意すべき点は数多くあります。

本記事では、インターネットメディアのリスクとして近年指摘されている「フィルターバブル」という概念に焦点をあてて、インターネットメディアの利用のしかたを考えます。

「フィルターバブル」とは?

まず、「フィルターバブル」という語句の定義からご紹介します。『図書館情報学用語辞典 第5版』によると、「フィルターバブル」は以下のように定義されています。

インターネット上の検索エンジンやSNSを通して得られる情報が、検索エンジンやSNSの利用履歴を用いたアルゴリズムによって、個々の利用者向けに最適化された情報(パーソナライズされた情報)となり、その個人が好まないと思われる情報に接する機会が失われる状況にあることを示す造語。2011年にパリサー(Eli Pariser 1980-)が提唱した。賛同する意見ばかりに囲まれることで政治的・宗教的な動きが先鋭化していくリスクや、自分の意に沿わない新しい情報が届かなくなるリスクが指摘されている。(後略)

参考文献:日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編『図書館情報学用語辞典 第5版』丸善出版, 2020。

「フィルターバブル」にどんな問題があるの?

GoogleやYahoo!といった検索エンジンは、利用者である我々がどのサイトを多く検索し、どのサイトを長時間見ていたかを知っています。あるいはTwitterやFacebookといったSNSは、利用者である我々がどの人の投稿を頻繁にチェックしていて、どの投稿に「いいね」を押す傾向があるかを把握しています。その情報に基づいて、検索エンジンやSNSは、我々があまりクリックしないであろう情報を我々の目の届きにくい位置に置き、我々がクリックしやすいであろう情報を我々の目の届きやすい位置に置くようになります。この仕組みによって、我々は自分の好む情報を簡単に入手できるようになりました。ところが、自分の好む情報ばかりを簡単に入手できることによって、知らず知らずのうちに偏った情報にばかり触れることになるというリスクも指摘されているのです。このリスクが「フィルターバブル」です。

参考文献:イーライ・パリサー『閉じこもるインターネット:グーグル・パーソナライズ・民主主義』井口耕二訳, 早川書房, 2012。

3 メディアリテラシークイズ~政治情報を収集する場面を例に~

前章ではインターネットメディアを利用する際に留意したい「フィルターバブル」の概念についてご紹介しました。

本章では、この「フィルターバブル」の概念を参考に、インターネットメディアを利用するときに気をつけたいポイントを、政治に関する情報を収集する場面を例にしてクイズ形式にまとめました。ご自身のリテラシーの確認にも、子どもたちへの話題提供にもお使いいただけます。

「フィルターバブル」に関するメディアリテラシークイズ1

<問題>

政治に関心を持った鈴木さんは、情報収集のためSNSを使い始めました。政治家や政治に関する話題を投稿している人のうち、鈴木さんが興味を持った人をフォローして、みんなの投稿を見ています。しばらくして少し政治に詳しくなった鈴木さんは、A党の政策に疑問を覚えるようになりました。実際に、鈴木さんがSNSでフォローしている人の中にも、A党を支持しない人が多くいるようです。そして、鈴木さんはこんなことを思いました。

「わたしはA政党が嫌い。SNSを見ると、ほかの人も嫌いだと言っている。やっぱりみんなA政党のことが嫌いなんだなあ

鈴木さんのこの考えは正しいでしょうか。みなさんはどう思いますか?

<解説>

鈴木さんの考えは正しくない可能性があります。なぜなら、SNSを使っているときには、自分の好む情報だけが目に入っている可能性があるからです。

SNSと言っても様々な種類があるので一概には言えませんが、たとえばTwitterやFacebookは、その投稿を見たいと思った人を自分で選んでフォローしていく仕組みです。したがって、投稿を見たいと思った人の投稿ばかりを見ているわけですから、自分に似た意見や感情を持った人ばかりが目につくことになります。また、一部のSNSは利用者の行動を追跡して分析しているため、自分が好みそうな投稿を意図的に表示しやすくするアルゴリズムが組まれていることもあります。このアルゴリズムに従えば、自分に似た意見や感情を持った人がさらに目につきやすくなることになります。

自分の好む投稿や自分のほしい情報が表示されやすくなること自体は、決して悪いことではありません。不要な情報ばかりが提供されるSNSにはあまり価値がないでしょう。自分の好む投稿が表示されることによる恩恵を、我々は十分に受けています。

ただ、自分の目につく情報が世の中のすべてではないことに留意する必要があります。SNSを使っているときには、自分の好きな情報がとりわけ多く頻繁に見えていて、それが世の中の大多数の人の意見や感情であるかのように思えるときもあります。しかし、見えていないだけで、自分の好きではない情報も確かに存在します。とりわけセンシティブな話題について判断する際には、自分の目に入っている情報が偏っている可能性を考え、自分の目に入っていない情報も意図的に収集する姿勢が求められるでしょう。

「フィルターバブル」に関するメディアリテラシークイズ2

<問題>

政治に関心を持った田中さんは、情報収集のためにニュースサイトを開きました。そこで様々な政党の政策のニュース記事を調べていると、田中さんはB党の政策に興味を持ち、多くの記事を読んで情報収集をしました。賛同できたB党の記事には「いいね」をしていきました。

そのうちに、サイト側の「あなたへのおすすめ記事」としてB党の記事がよく表示されるようになりました。そこで、田中さんはこう思いました。

「ニュースサイトにB党の政策の記事がたくさん出てくる! 今世間はB党に注目しているんだなあ

田中さんのこの考えは正しいでしょうか。みなさんはどう思いますか?

<解説>

田中さんの考えは正しくない可能性があります。なぜなら、「あなたへのおすすめ記事」として提案される記事は、あなたの「いいね」をもとに選定された、世間が注目している記事ではなく田中さんが注目している記事にすぎない可能性があるからです。

ニュースサイトに限らず、WEBサービスには利用者の行動を追跡し、利用者の好む情報を提案する機能を備えたものがあります。中でも「いいね」という利用者の反応を求めるボタンは多くのサービスで使われていますが、この「いいね」によって利用者の好みを把握され、WEBサービスの側から意図的に利用者の好みに合った情報が提供されている可能性があります。

こうした機能のおかげで、我々は自分の求めている情報により簡単にアクセスすることが可能になります。自分のほしい情報を、自分が探さなくても勝手に提案してくれるのです。

しかし、そうして提案された情報は、あくまで自分の行動を追跡したうえで提案された情報であることに留意すべきでしょう。「いいね」した情報が自分の好む情報であるからといって、「いいね」しなかった情報が自分にとって不要な情報であるわけではありません。「よくない」情報が知らず知らずのうちに見えなくなっている可能性を頭に置きながら、うまくWEBサービスを利用できるとよいですね。

「フィルターバブル」に関するメディアリテラシークイズ3

<問題>

18歳の伊藤さんは、はじめての選挙を前に各党の政策を調べています。教育に関する政策に興味を持った伊藤さんは、インターネットの検索エンジンに「教育政策」と打ち込んで調べてみました。もっとも上にヒットした記事を読んでみると、教育政策にもっとも力を入れている政党はC党であると書いてありました。そこで伊藤さんはこう思いました。

「教育政策がいちばん充実している政党に投票したいな。検索していちばん上に表示された記事には、C党の子育て支援政策がもっとも充実していると書いてある! じゃあC党に投票しよう!」

伊藤さんのこの考えは正しいでしょうか。みなさんはどう思いますか?

<解説>

伊藤さんの考えは正しくない可能性があります。なぜなら、検索順位は操作されているので、検索のトップに表示されるページがよいページであるということは、必ずしも正しいとは言えないからです。

GoogleやYahoo!などの検索エンジンが表示するページの順番は、検索エンジンの独自のルールに従って操作されています。こうした検索エンジンのアルゴリズムは非公開であるため、検索条件にあてはまる膨大な量のページのうち、どうしてこのページがもっとも上位に表示されるのか、我々が知ることはできません。

また、こうした検索エンジンのアルゴリズムは我々の属性や検索履歴などによって影響されている可能性もあります。たとえば、Googleで「図書館」と調べてみてください。検索結果の1位に自分の住んでいる地域の図書館が表示された方は多いのではないでしょうか。このように、検索エンジンの検索結果は知らず知らずのうちに自分に最適化され、自分の好む情報が見やすくなるように操作されている可能性があります。伊藤さんの検索結果の1位にC党の記事が表示されたのは、もしかしたら伊藤さんの普段の行動を追跡した結果であるかもしれません。

こうしたアルゴリズムによって、我々は知りたい情報を簡単に手に入れることができています。しかし同時に、我々への情報は意図的に操作されていることを意識して、遠ざけられている情報にも意図的にアクセスするよう心がけることが必要になるでしょう。少なくとも、検索結果の1位や2位の記事だけを読んでセンシティブな物事を判断するのは、危険であると言えます。

危険性を認識しつつインターネットを活用しましょう

インターネットメディアの持つ危険性の一つ「フィルターバブル」についてご紹介しました。いかがでしたでしょうか。

もちろんインターネットメディアに掲載されている情報がすべて質の悪いものだということではありませんし、自分の好む情報がよく目につく仕組みによって恩恵を受けている部分も大きくあります。

インターネットメディアの利便性の裏には危険性もあることを認識しつつ、インターネットメディアを活用できるとよいですね。

本記事で紹介したクイズの資料はこちら(PDF,PNG)からダウンロードしていただけます。

4 メディアリテラシーに関する関連記事

この記事はインターネット情報の「フィルターバブル」という特質に着目したため、情報の信頼性の評価に関する議論は取り扱いませんでした。しかし、ネット情報の信頼性の判断は、情報を受容するうえで重要なスキルとなります。フェイクニュースの見分け方に関する関連記事はこちらからお読みいただけます。

☆フェイクニュースを見極める方法(IFLA)&メディアリテラシークイズ
https://edupedia.jp/article/5f2253a27c890ffd9263b870

5 編集後記

本記事ではインターネットメディアを利用する際のリテラシーについて、政治に関する情報を収集する場面を例に取り扱いました。

ところで、本記事もインターネットメディアの一つです。もちろん手を抜いて書いた記事ではありませんが、メディアの送り手である私自身が「この記事に掲載してある情報は正しいものである」と言っても大した説得力はないだろうと思っています。この記事の情報が正しいものであるかどうかは、メディアの受け手である読者の皆様のリテラシーを用いて判断していただければ幸いです。(文責:EDUPEDIA編集部 津田)

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