教室に新聞を!~ニュースパークが授業で使える学習動画を公開中~

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目次

1 はじめに

本記事は、2021年1月に行った、ニュースパーク(日本新聞博物館)で館長を務める尾高泉さんと学芸員の平形さゆみさんへのオンラインインタビューを記事化したものです。ニュースパークとは、2000年10月、日本の日刊新聞発祥の地である横浜にオープンした情報と新聞の博物館で、全国の新聞・通信・放送128社(2021年7月1日時点)が加盟する日本新聞協会によって運営されています。

取材者自身、同館には中学時代に課外活動で訪れたことがありましたが、コロナ禍を受けて新たにホームページ上で学習動画を公開されたということで、取材させていただきました。インタビューでは、学習動画についてだけでなく、NIE(教育に新聞を=Newspaper in Education)の重要性やニュースパークの先生をサポートする取り組みについてお話を伺い、スタッフの方々の熱い想いを知ることができました。ぜひ最後までお読みください。

2 NIEについて

NIEとは

日本の新聞界では、1985年からNIEという活動が全国各地で行われてきました。NIEは「新聞を読む」「新聞を作る」「情報リテラシー」の3要素からなります。日本では、「新聞づくり」教育が、戦後急速に広がり、先生方の研究会が全国各地に発足しました。一方、アメリカに起源を持つNIEでは、記事を読んで内容を理解したうえで、要約や感想を書いたり、周りとディスカッションをしたりといった「新聞活用」が活発に行われてきました。

新聞を読む

新聞を読む学習において近年注目されているのが、現在、日本新聞協会NIEコーディネーターの関口修司氏が小学校の教員・校長時代に提唱した「NIEタイム」というメソッドです。これは、小学1年から6年まで全学年の子どもたちが週に1回、朝学習の15分間で、その場で選んで切り抜いた新聞記事について、要約と感想を書くという取り組みです。そこでは、子ども新聞ではなく普段大人が読む一般紙を使います。低学年であれば、自分が好きな写真を切り抜くだけでも、自分が知っている言葉を丸で囲むだけでも、自分が習った漢字を探すだけでも良いのです。考案者の関口氏も、わからないことをわかるようになりたいという気持ちが子どもの自ら成長する力の源泉だおっしゃっています。子どもの伸びしろを信じ、小学1年生から継続して読むトレーニングを行うことで、確実に言語能力・読解力を育成することができます。

さらに新聞には、主権者教育に不可欠な社会に参画する意識の醸成や、多面的かつリアルでタイムリーな学びを信頼性をもってサポートする力があります。昨今、SNSの利用が増え、コロナ禍では真偽ないまぜの情報があふれるインフォデミックという事態や、人々が自分好みの情報だけに接してしまうフィルターバブルといわれる現象に、多くの人が振り回されています。そのようななかでも皆で社会の文脈を議論できるよう、世の中で起きていることを共通して理解するための確かな情報源となるのが新聞なのです。

新聞をつくる

新聞づくりに欠かせない、人の話を聞いてまとめる作業は、社会人の基本動作として義務教育後も長く必要とされるものです。また、「見出し」と「タイトル」との違いを理解し、「事実」と「意見」を書き分けるという学習では、情報社会を生き抜いていく際のリテラシーを醸成するとともに、書くというコミュニケーション能力も鍛えることができます。

新聞づくりには、壁新聞、A3サイズのもの、理想教育財団考案のはがき新聞など、さまざまな取り組みがあり、当館でもパソコンで新聞を作るプログラムを提供しています。

情報リテラシー

NIEの中でも近年特に関心が高まっているのが、3つ目の「情報リテラシー」です。これを学校で扱う場合、従来は新聞が出来上がる工程や新聞記者の仕事といった新聞産業について知識を得ることが主な学習内容でした。しかし、SNSを使って情報を得ることが一般的となっている今、日々子どもたちが目にするネットニュースには、新聞社や放送局が提供する記事もあれば、誰が書いたかもわからないフェイクニュースもあるということをどこかで教える必要があります。近年、このような情報社会におけるニュースの流通構造を学ぶことも、情報リテラシー教育の一環であるということが強く指摘されています。

3 ニュースパークについて

当館は、確かな情報を見極める力の大切さと新聞ジャーナリズムの役割を、現在と過去の両面から伝える社会教育施設です。常設展示エリアには、新聞の歴史をご覧いただくゾーンや、人類の情報化の歴史を映像と音で体感できる情報タイムトンネルの展示、情報社会の中でどのようなメディアリテラシーをもつべきかを考える展示などがあります。2020年夏に「新型コロナと情報とわたしたち」展を開催したように、年に3~4回の企画展も行っています。また、新聞閲覧室には全国の新聞社102社による130紙が1週間分配架されています。小中学生向けの体験型プログラムとしては、新聞記者出身の新聞製作マネージャーによる新聞の読み方・作り方についてなどのレクチャーを実施しています。そのほか、子どもたちがワークシートを持って館内のスタッフに話を聞いてまわる取材クルーズや、タブレットを使って横浜周辺の発展の秘密について取材体験を行うプログラムも用意しています(※新型コロナウイルス感染症の拡大状況によって内容を変更することがあります。)。

授業用教材「新博キット」

当館の提供する学びは実際に来館していただく形だけではありません。全国130紙の新聞を授業用教材としてキット化した、「新聞博物館学習キット(新博キット)」の貸出および提供も行っています。神奈川県内の司書教諭や学校司書の皆さんの協力を得て作られたもので、貸出用では、防災教育や新聞の歴史など、テーマごとに著作権処理を行った関連記事をまとめたキットを作成しています。ホームページにテーマの一覧が載っているので、その中から借りたいキットを選んでお問い合わせいただきますと、2週間貸し出すことができます。ある学校の司書の方からは、このサービスを利用して図書館に新聞活用の特設コーナーを設置したことで、学校全体でNIEが行われるようになったという話も聞いています。

新聞閲覧室での配架が終了した130紙を教材としてお分けすることもできます。同じ日の全国130紙を読み比べるなど、さまざまな活動ができます。こちらは返却不要で、送料だけご負担いただいています。学校関係者の方にぜひご活用いただければと思います。

教員免許状更新講習で新聞活用術をサポート

2018年度より、星槎(せいさ)大学が開講している教員免許状更新講習の一環で、ニュースパークによる「NIE実践講座」が、選択領域の18時間講習として取り入れられています。講座では、日本新聞協会NIEコーディネーターの関口修司氏の協力を得て「新聞を活用した授業デザイン(NIE)を考える」をテーマに、新聞を使った学習指導案の作成などを行っています。新聞には社会の森羅万象が載っているため、小学校でも、中学校でも、高校でも、特別支援学級でも、あらゆる科目・単元で新聞を活用することができるということを、ご参加いただいたすべての先生方に実感していただいています。2020年度は、12月25日からの3日間、すべてオンラインで実施しました。2021年度も同じ日程で3日間開催します。

先生方をサポートしたい

このように、ニュースパークでは新聞活用を考えるすべての先生方をサポートしたいという一念で、さまざまなプログラムを企画しています。家庭で新聞をとっていない子どもたちが増えている中で、学校教育で新聞を扱うことは非常に意味のあることだと考えています。だからこそ校外学習で当館のような体験型施設を利用していただいたり、次にご紹介する学習動画を活用していただいたりして、家庭内で親子一緒に新聞に触れることを学校からも働きかけていただきたいと思っています。

4 今回の学習動画について

動画の概要

これまで当館では、たくさんの学校団体にお越しいただき、展示見学のほか、記者経験のあるの新聞製作マネージャーによるレクチャーなど幅広い学びを提供してきましたが、昨年(2020年)の緊急事態宣言を受け、多くの方にご来館いただくことが難しくなってしまいました。そこで、これを機にこれまでなかなか当館にお越しいただくことができなかった遠方の学校の方を含め、全国の先生方にニュースパークの学びをお伝えするべく、動画を作成しオンラインで公開する運びとなりました。このたびは、小学4、5年生の国語と社会の中で新聞を扱う単元を想定した、「新聞とは」(小4、5国語)、「新聞作りの材料をそろえよう」(小4、5国語)、「材料がそろったら」、(小4、5国語)、「くらしを支える情報産業」(小5社会)の全4本の動画を作成します。
ニュースパーク学習動画一覧

入門編「新聞とは」

1本目の動画は、「入門編『新聞とは』」と題して、小学4年生国語の「新聞を作る」、小学5年生国語の「新聞を読む」の単元に沿った内容となっています。1本目を「入門編」としたのは、家庭や学校で新聞に触れたことがない子どもたちが増えている中で、まずは新聞がどのようなものなのかということを理解してもらう狙いがあるためです。

前半部分では、見出しやリードといった新聞を構成する要素の機能や、紙面内での位置が意味する記事の重要度を説明し、一見文字が多くて取っつきにくい新聞も、読み方を知ることで素早く読めるということをお伝えしています。一方、後半部分では、新聞を作るときのポイントを解説しています。新聞を作ろうとするとまず、「記事の内容をどうしよう」「見出しをどうつけよう」といったことを考え始めてしまいがちですが、その前に「この新聞は誰に読んでもらうのか」ということを考えることが大切です。動画内では、同じ日に発行された複数の新聞を読み比べることで、伝える相手によって情報の伝え方も変える必要があるということをわかりやすく解説しています。

2本目、3本目も公開

2本目と3本目の動画では、取材をするときや取材で得た情報をまとめて記事にするときの具体的な方法についてより詳しくお伝えしています。また、4本目は、小学5年生の社会で情報産業としての新聞を学ぶときに役立つような動画として作成する予定です。

博物館の学習動画として意識したこと

博物館が作る学習動画なので、いかに展示を活用するかという点を意識して作成しました。教育連携に力を入れている当館の展示が、教科書の内容をより良く理解するために役立つということを知っていただけると嬉しいです。また、当館に校外学習に来てくれる子どもたちに話を聞くと、新聞をあまり読んだことがないということが多く、子どもたちと新聞との距離を感じます。そのため、YouTube動画風にするなど、とにかく親しみやすくすることも非常に意識しました。

授業での使い方はさまざま

ひとつの動画内でも内容ごとにチャプター分けしているため、授業の進度に合わせて再生する部分を調整しながらお使いいただけます。また、先ほど紹介した「新博キット」と合わせてご活用いただくと、手元の紙面を見ながら学習できるため、子どもたちの理解も深まるのではないかと思います。学校で使うパソコン・タブレット端末から見られるよう取り計らっていただいた教育委員会もあります。

さらに、本動画は国語の授業だけでなく、調べ学習でもお使いいただける内容になっています。信頼性が高くタイムリーな情報を扱う新聞は、調べものをする際のツールとしてうってつけです。1本目の動画では新聞の読み方や選び方を学べるため、調べ学習の前提としてご活用いただけます。

家庭学習で利用する場合

コロナ禍で授業の進め方の変更などもあり、家庭学習でも調べものをする宿題が増えていると聞いています。調べ学習で「新聞を使いたいけれど、どう手をつけていいかわからない」というときに、ご家庭でも参考にしていただけるかと思います。

また、新聞を作る授業では、グループで話し合ってひとつのものを作り上げていくことにも重きが置かれているかと思います。授業中のグループ作業を効率的に進めるために、各自が事前に家で動画を見て、新聞についての前提知識を共有しておくという使い方も良いでしょう。

5 動画を活用される学校の先生や保護者の方々へ

未来を担う子どもたちをどう育てていくかということは、先生にとっても保護者の方にとっても本当に重要な問題だと思います。今回のコロナ禍で、情報との付き合い方の重要性が一層浮き彫りになりました。この複雑な情報社会の中で、新聞が読める人を育てるということは社会全体を良くすることだと思います。学校でも家庭でもNIEを進めていただき、そのためにこの学習動画を活用いただければ幸いです。そして、学習動画をご覧いただいた上で面白そうだなと思っていただけましたら、ぜひ当館に足を運んでいただきたいなと思います。

6 施設情報

【施設名】ニュースパーク(日本新聞博物館)

【所在地】横浜市中区日本大通11 横浜情報文化センター内

【開館時間】午前10時から午後4時30分。感染症拡大防止のため、予約制を実施しています。

 詳しくは当館ウェブサイトをご覧ください。

【休館日】月曜日(祝日・振替休日の場合は次の火曜日)

【入館料】一般400円▽大学生300円▽高校生300円▽中学生以下無料(税込み)

2000年10月12日開館。日本の日刊新聞発祥の地・横浜で、一般社団法人日本新聞協会が運営しています。新聞ゆかりの文化財の収集・保管・研究・展示および教育普及が目的です。2016年7月、学校団体の利用を意識して情報社会と新聞を重視した展示にリニューアルしました。2019年4月、歴史展示を拡充し、歴史と現代の両面から確かな情報の大切さと新聞の役割を学べる展示としました。
(2021年1月現在)

7 編集後記

中学時代、夏休みの宿題のために訪れたニュースパークには面白い展示が多く並んでいた記憶があります。今回取材させていただいたことで、その背景にあるNIEの狙いや重要性をあらためて知ることができました。状況が落ち着いたらまた直接お伺いしたいと思います。校外学習の実施が難しいコロナ禍でも、ニュースパークの発信する学びが全国に届けられることを願っています。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安藝、永井)

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この記事を書いた人

京都の大学3年生。関心分野は市民教育やメディアリテラシー教育。

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