GIGAスクールに学校現場はどう向き合うか

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 GIGAスクールで混乱する現場

やっと一人一台の時代が来ました。私は長らく、まあまあ深く、コンピュータ・教育の情報化と付き合ってきたので、感慨深いものがあります。「1クラスが最大40人なので、学校に40台のパソコンを配当」していた時代(大規模校なら1000人に40台とかもありました)が20年程度続いていたことを考えると、日本もやっとICT関連の人材育成のスイッチが入ったかな・・・。
ところが、実質的にGIGAスクール(以下、GIGAに省略)が動き始めた時点(2021年5月末に本記事はアップしました)では、現場は混乱している模様です。各校・各教育委員会のGIGA担当者は、初期設定への理解と初期不具合への対処に明け暮れていると思います。
この25年(Windows95発売とインターネットの一般化が1995年として)、教育のICT化はうまく進みませんでした。社会一般から見れば「学校現場は四半世紀の間、何をやってきたんだ」と思われるかもしれません。そういうご批判は、半分当たっていると思うし、半分言い訳したくもなります。「学校の多忙化が進んだこの30年間、予算も人材も十分に確保されていない状態が続いてきたのに、突如、『遅れているからICT化を進めよ』と言われても…」と、多くの担当者は戸惑っていることでしょう。
この記事はGIGA導入期のみならず、これからの教育のICT化の推進の留意点でもあります。教育の情報化と長く付き合ってきた筆者の経験を元に考え、書き留めておいた記事です。
下記リンク先の豊福氏へのインタビュー記事も秀逸です。ぜひ、併せてお読みください。

【ICT文具論①】学校へのICT導入の障壁とは(豊福晋平氏インタビュー)
【ICT文具論②】ICTを先生の教具から子どもの文具に(豊福晋平氏インタビュー)
【ICT文具論③】学習者中心の教育とデジタルシティズンシップ(豊福晋平氏インタビュー)

豊福氏のアグレッシブなご意見に比べると、下記の私の考えは「やや現場寄り」かもしれません。

 1.情報を共有する①

情報共有ができていないことは長らくICT化推進のネックになってきました。「どうやって使うのか」「何が便利なのか」「何をすればいいのか」ということが、教育界の中でなかなか浸透されてこなかったことは今までのICT化を遅らせてきたし、今回のGIGAでも阻害要因となるでしょう(なっています)。
GIGAが突然始まったことで、通知通達伝達の類やトラブルシューティングの方法やちょっとしたTIPS等々が、たくさんのまとまりのない形で現場に降り注いでいる状況です。文科省~現場教員まで、様々な部署で混乱が生じているように思います。その情報も少しずつ更新されるため、アップデートのお知らせもキャッチしにくいのではないかと思います。知らぬうちに状況が変わっていることもあり、これを「ステルス更新」と呼んでいます。情報不足と情報過多が同居し、ステルス更新や情報埋没が起こる。情報化を進めるための情報がうまく共有できないという皮肉な状況が今後も続くでしょう。
誰でもが簡単に閲覧することが可能な同じ場所にデジタル情報を格納しておくことが大事です。できるだけたくさんの人に情報が伝わり、たくさんの人がアクセスできるように、情報の一元化が必要だと思います。

 2.情報を共有する②

校内の情報係は特に、他校の取り組みについて知っておけるようにする必要があると思います。連日たくさんの情報が降りかかってくるので業務が大変だと思います。自治体内・学校内でSNSを使って連携を図っておけば、困った事や分からない事を互いに共有して解決してゆくことができます。

 3.人を悪く言わない

物事が上手くいかない時、誰かのせいにしたくなるのが人の性です。正直なところ私自身、自分より意識・知識・技術が高い方面の方々には「そんなに上から目線で言われても」と思いますし、自分より意識・知識・技術が低い方面の方々には「少しは自己研鑽したらどうなのだろう」と思ってしまいます。文科省・教育委員会・学校現場・一般社会の4者(の中の各組織)にそれぞれに不満も言い分もあると思います。
誰もが自分を基準にして他者のせいにしたり、他者を悪く思ったりしがちです。そういうマインドはGIGAの進展の阻害要因になってしまいます。残念な状況です。愚痴でも言わないとやっていられないのも事実ですが、GIGAを少しでも成功させるために、「今、自分の立場でできること」を考えてみましょう。

 4.情報を共有する③(成功事例の共有)

GIGA導入当初は混乱が多く、不安や不満の声が噴出すると思います。それは仕方のないことだと思うし、丁寧にそれらを回収して対応する必要があるでしょう。マイナス面もしっかり見つめる必要があります。
ところが、GIGAは今までと違って規模が大きいため、そのうち大量の事例が生まれてくることが予測されます。学級単位・学年単位・学校単位・自治体単位と、様々な階層で失敗例と成功例が上がってくると思います。今までの教育のICT化の事例は、なんだか小難しかったり、特定の条件下(スペシャリストがいる・機器の環境が良い・研究校としての取り組み、等)での成功であったりすることがほとんどを占めていました。ところが今回は、「普通の学級・学年・学校・自治体」で「普通の条件下」での成功した事例が上がってくることでしょう。成功例を「しっかりと共有する→→→事例を真似る→→→改善を図る」ことで、教育界全体が大きく変わっていくことを期待しています。
例えば、下の写真は、「持ち運び時は抱えるように両手で持ってね」「あんまり端に置くと落ちるよ」を示した図です。こういったものを上手に共有してゆくことで、機器の破損と言う残念なトラブルも減っていくことと思います。

情報が共有されてくると、比較が可能になってきます。現場は「同じ条件下で成功している例がたくさんあるのに、なぜあなた(たち)にはできないの?」と問われかねません。言い訳が効かない状況になっていくのかもしれません。

 5.GIGA(ICT)が万能であるとも不能であるとも思わない

GIGAだから薔薇色の未来があると思っていても、裏切られることは多いでしょう。期待しすぎるとがっかりします。逆に、「GIGAなんてスタート前から失敗だわ」と、ネガティブにばかり考えてみても何も進展しません。楽観も悲観もなく、「たかがGIGA、されどGIGA」という態度ぐらいでいいと思います。不味い所を避けて「おいしい所」をどんどん見つけて活かしていけばいいと思います。

 6.トラブルはコミコミであると考える

GIGA導入初期にトラブルが多発することにウンザリして、諦めてしまわないように、トラブルは想定内であると思っておきましょう。子供たちにも、「最初からうまくいくことはないよ」というぐらいに話してから端末を使ってみさせればいいと思います。1年をかけて改善(改善要求)し、トラブルシューティングの方法を覚え、「だんだん良くなってきたなあ」と思えれば十分・・・と思っておくといいでしょう。前述したように「25年間停滞していた教育の情報化」を突如動かし始めるのですから、初期の混乱は覚悟の上で。

 7.知識と経験の蓄積を

一人一台になったからと言って、いきなり何か革命的な教育ができるわけではないです。知識と経験を蓄積するにはそれなりの時間が必要です。ICTにトラブルはつきものです。教員は真面目であるために、一つの方法・方向に拘りがちになる傾向があります。トラブルが起きた時、わからない壁にぶつかった時にはまず、問題の切り分けが必要です。上手くいかなければ、とりあえず、
① 再起動してみる
② 検索して調べてみる
のが人を頼る前に最低限やってみることです。トラブルの原因も、解決策も多様です。全教員が全てを分かる必要はないのです。どうやって問題解決をするのか、ある程度の経験知を積むうちに今そこにある問題が自分に対応可能なのかどうかが分かってきます。いくらかの手を打ってみて、無理なら次は「誰に頼ればいいのか」を考えてみて下さい。

 8.先駆者になるor追随者でいる

どんな分野でもそうですが、先駆者、あるいは矢面に立たされた人は苦労をします。特に発展と変化が激しいICTの分野で先駆的な位置にいるのはたいへんです。なりたくもないのにGIGAの担当をさせられている方、お気の毒です。GIGA成功への道のりは先駆者の死屍累々の上に成り立っていると思っていいでしょう。今後も先駆けてチャレンジする人や、リーダーとして引っ張っていく人は苦労をすると思います。私もほぼ「ICTゾンビ教員」のようになっていますが、それはそれで、いくらかの貢献をしてこられたことには満足感があります(自己満足)。
とは言うものの、あまり苦労を買って出すぎると、犬死にしてしまうかもしれません。燃え尽き症候群になってしまう可能性もあります。疲れた時にはスピードを落として、追随者として動くのもいいと思います。ダメージコントロールは必要です。先駆者の屍を踏み越えて、「おいしい所だけをいただく」ぐらいの構えでいてもいいと思います。
だからと言って、ずっと「たなぼた」を待っているわけにもいきません。一人一台の環境がおぜん立てされているのに、何もしないのは「罪」であると思います。追随者的な動きをしていた人が、場面や立場(例えば異動した職場で後進的な部分を見つけた場合)によってはギアを入れて、先駆者として活躍してくれると、ICT化は加速していくと思います。

 9.得意な教員を上手に活用する

先駆者となるようなICTが得意な教員が職場にいる場合は、その人が活きるように考えて下さい。周囲が先駆者の負担を軽減するように気を遣ってあげないと、事務仕事で先駆者の手が塞がってしまいます。ICTが得意な人には支援の要求が集中しがちです。得意な人や担当者に聞いておけば手っ取り早いですが、それでは先駆者の足を引っ張ることになります。
質問や依頼が得意な教員に集中しないようにしてあげてください。担当者以外の分かっていそうな人に聞いてあげて下さい。
GIGAを含めて情報教育全般を校務分掌上、複数人で分担するようにしましょう。ICTが得意な人はたいてい、ちょっと風変わり所があるので、フリーにして突っ走らせておくと、推進力を発揮してくれることと思います。

 10.「人に聞くケース」なのか「聞かずに頑張るケース」なのか

すぐに人に助けてもらわず、自力で解決するという姿勢は大事です。ICT好きにはそういうタイプが多いですね。自力で解決することが自分を育てます。一方で、一人で頑張ってみても、ただただ無為な時間が過ぎて仕事に支障をきたす場合もあるでしょう。
逆に何でも人に聞いていると人に対して迷惑です。すぐに人に助けてもらおうとする人に対して、「ググレカス」という言葉があるくらいです(←検索してみて下さい)。あまりに依存心が強いと自分で考える力も育ちません。

 11.何に拘り、何を諦めるのか ~戦略を持って

ICTにおいて、拘りポイントはいくらでもあります。前述した通り、何かに拘り自力で解決することは自分を成長させるきっかけになります。例えば、「今年は子供がパワーポイントを使ってプレゼンできるところまで育てる」とか、「動画編集させて全員に「一人で合唱動画」を作らせてみよう」などなど、自分のアイデアを実現させることを通して、教師自身が主体的な学びを得ることは大事だと思います。
一方で、自分(自分の実力・自分の置かれている立場・自分の職場環境)の実情に合った(身の丈に合った)ICT化を心掛ける必要もあると思います。時間は有限ですので、何を諦めるのか、見切りをつけるのかということも考えておかないと挫折をしてしまいます。犬死にはやめましょう。意識的にスルーする分野を決めてスルーするのもよいと思います(私は某ソフトの使用を長年スルーしています(笑))。また、荒れたクラスで無理にICT化を進めようとしても、上手くいかないことも多いでしょう。戦略的に「今年のICT推進プラン(短期)」「ICT推進ライフプラン(長期)」を練って、年々アップデート(下方修正も含む)してゆけばいいでしょう。

 12.足並みを揃えることに拘らない

学校文化の中で、足並みを揃えることは重要視されがちです。他の自治体と、他校と、他のクラスと、足並みを揃えたい・・・それが大事な場面もあるかもしれませんが、GIGAに於いては、足並みを揃えることが先駆者の突破力をそいでしまい、GIGA推進の阻害要因になりかねません。足並みを揃えたいという「心のブレーキ」「ローカルルールの制定」を緩める努力も必要です。

 13.TRY!

とにかくやってみるという姿勢が、科学の分野では必要です。とんでもない失敗は未然に避けたいところですが、トライアル&エラーを繰り返しながら成長することによって、真に芯の強い人が育ちます。子供も、教師も、ある程度の失敗ができるように、許容範囲を広いめに見立てて育てていきましょう。
そして、教師も子供も、一度や二度の失敗でくじけないタフネスを身に着けていきましょう。
例えば、文字入力もろくにできないまま、「文字入力力の必須度が高い授業」をしてしまったら、きっと残念な結果にはなります。でも、めげない、めげない。躓いたことを糧にして、また、やり直せばいいのです。
こうしたICTに対する態度(?)は、子供に関しても同じです。「自力で解決する」「何に拘るか諦めるか」「戦略を持つこと」「TRYすること」について子供にどう考えさせるかを考える必要があります。

 14.子供の失敗に対する予防線をどの程度貼るのか、考えておく

「不注意で端末を机から落とす」という類のとても悲しい事案はおそらく頻発していることと思います。また、校内のSNSでまずい書き込みをする子供も必ず出てくると思います。こうした負の事案に対して、どのように予防線(ローカルルール)をはっておくのかは、難しい所です。細かいルールを作って予防線をはり巡らせるとGIGAの進展を阻害しかねません。逆に自由にしすぎて野放図なムードを広げてしまうと、負の事案の頻発に教師側が負のマインドを抱えてしまいます。これもまた阻害要因となることでしょう。
あまり事細かくなってしまわないように、大枠の、根本的な原則を子供たちに伝え、考えさせることが大事だと思います。
「このコンピュータは子供たちが勉強をするために、みんなでお金を出し合って準備されてきたものです」「普通に教室の中でだめなことは、人に迷惑をかけることです。コンピュータを使って何かをする場合も、人に迷惑をかけることはしてはなりません。」
といった、原則を毎年、最初に端末を開く前に話しておくのもいいですね。
こうした原則から派生した具体例として、「だから、コンピュータをカバンに入れずに持ち歩くときは両手で抱きかかえるようにして持ち歩きましょう」などと、年齢に応じた分かりやすい伝え方を加えるといいかもしれません。予防線をはり過ぎず、放任しすぎず。バランスが難しい所ですが・・・

 15.日常的に触らせる

「物理的に壊れたら」「ソフト的に壊れたら」「足並みを揃えて」「リアルの学習が大事」「まだ年齢が低いから」「トラブルが多いから」「充電とか面倒だから」「管理職(学校の雰囲気)があまりGIGAを推していないから」「忙しいから」・・・端末を子供に触らせる機会を減らす理由はいくらでもあると思います。筆者も、毎時間触らせるような状況をうまく作り出せるのか、不安な気持ちがあります。
あまり高度な、難しい活用を前提に考えると「日常的に使う」という発想が薄れてしまいます。「ドリル的なソフトで使う」「『1日1発表』の記録に使う」など、難しくなく負担感の少ないところから始めるのがよいでしょう。「朝、学校に来たら保管庫から出して、机の横の手提げ袋に入れておく」「朝にドリル学習」「帰りに【今日の1行】の書き込み」程度の実現可能なルールにして、ルーチン化を図ってみるところから始めるのもよいかもしれません。

 16.GIGAスクールⅡを見据えておく

ここまでこれだけ長々と書いておいて、これを言うのもなんですが・・・今回のGIGA(以後、GIGAⅠ)は、それほど成功しないのではないかと筆者は思っています。理由を書き出すとさらに長々となってしまいますので控えますが、教育のICT化に長く関わってきた筆者の経験則からすると、そう思えてしまうのです。今のところ、今回のGIGAⅠに投入したような国からの巨額の予算が、数年後(5~6年後?)、機器が古びたころに再投入されるという話はないようです。GIGAの継続の判断と予算は各自治体が請け負うという事でしょうか?
GIGAスクールⅡがどういった形になるかのか、私には予想がつかないですが、GIGAⅠをどれくらい、どのように推進することができるか否かによって、GIGAⅡの形も決まっていくのだろうと思います。「あなたたち教師のクオリティー(あるいはうちの自治体のクオリティー)が低いせいでGIGAⅡが失われた、損なわれた」と言われないように、かなりの覚悟を持ってGIGAⅠに臨む必要があると思います。GIGAⅠは、「好機でもあり、危機でもある」と捉えておくのが良いと思います。

 苦しい時間帯を乗り越えれば

教員の業務改善とコロナへの対処が大きな課題となっているこの令和3年において、GIGA導入の負担が降りかかってきているのは、「教育界にとってかなり重い荷物」であると感じられている方は多いと思います。現時点でも「ネットが重くてアプリが使えない」「オンライン授業をしても履修と認められない」など、困惑の声があちらこちらで上がっています。しかし、最初のハードルを乗り越えると、案外その先は快適な世界が広がっているかもしれません。「校務支援システム」「教室での固定プロジェクター設置」「教師用デジタル教科書」などが導入されている自治体の教員は、細部に文句を言うことがあっても、「では、あなたはシステムから外します。前時代に戻ってくださいね?」と言われればきっと、「いや、それは・・・」と慌てて前言撤回をするでしょう。2011年頃、スマホが「便利そうだけど高価だし使えない」デバイスだったのを思い出してください。一人一台の状況はガラケーにとってかわったスマホのように、今までにはなかった要素が盛りだくさんなのです。
「16」に書きましたように、GIGAⅠでどれくらいの情報化を進めることになるのかは10年後、20年後の日本の教育にかなりの影響を及ぼすことになるでしょう。それぞれの立場、それぞれの能力があると思いますが、それぞれが「一つ上」を目指すことによって、未来は変わってくるだろうし、業務改善も進むと思います。令和2年度後半~令和3年度は特に苦しい時間帯であるかもしれませんが、「ここをクレバーに凌ぎ、未来へつなげられること」を願ってやみません。

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