社会課題への関心を促す授業づくりのポイント(POTETO Media 野田みどりさん)

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目次

1 はじめに

本記事は、2021年7月28日に株式会社POTETO Mediaの野田みどりさんに行ったインタビューを編集・記事化したものです。

POTETO Mediaは「政治を、わかりやすく」をモットーに、行政や政治家のメッセージを有権者にわかりやすく届ける活動や、中学校や高校での主権者教育を行っている企業です。

本記事では、野田さんが中学や高校で出前授業をする際、意識していることや大切にしていることを教えていただきました。

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2 主権者教育について

主権者教育の捉え方

私は、主権者教育とは「それぞれの社会課題に対して、何を学んで、どう判断し、どう行動するのかを考えること」だと考えます。様々な状況に際して、見えているところでも見えていないところでも困っている人がいます。その問題1つひとつを学んで、その問題について自分がどう判断するか、それに対して国はどういう政策を出しているのか、政策に対して賛成か反対か、状況をよりよくするためにはどうしたらよいのか、自分は何をしたらよいのか、を考えることが主権者教育につながります。

ただ、生徒に対して、学校側が行動を促す必要はないと考えています。投票を例に挙げますと、生徒が投票に行くことがゴールであって、生徒に投票に行くよう促すことは手段に過ぎません。投票へ強制的に行かせるという安直な行動を取るのではなく、投票に行きたくなるようなきっかけを学校側が作ることが大事だと思っています。例として、まずは先生が投票に行って、その体験を生徒に伝えること、投票に行ってよかったと先生自身が感じた経験を話すことなどが挙げられます。

また、周りの大人が、当たり前のように投票に行く環境を作ることが大切です。実際、子どものときに、親に投票所へ連れて行ってもらったことのある人は、投票率が高いという研究結果もあります*。投票の話に限らず、担任の先生が生徒にとって一番触れ合うことが多い大人だと考えると、先生が社会に関心を持っている姿勢を示すことが大切だと思っています。だからこそ、身近にいる大人がニュースや社会に関する話をするなど、当事者意識を持った行動を示すことが大切だと思っています。

*総務省「18歳選挙権に関する意識調査」

生徒が社会課題を考えるきっかけ

もちろん、社会課題について授業の中で触れることも大切ですが、まずは、個人的な課題を言語化する練習が必要だと思います。「自分にとっての問題は何か」を言語化して他の生徒と共有しあうことによって、他の人の問題意識への共感に繋がります。ですから、そのようなことを日常的に話し合える友好関係を築くきっかけを作ってあげることが必要だと思います。

ただ、急に自分の中の考えを深めたり、言語化したりすることは、子どもにとってなかなか難しいところがあります。なにもないところから自分の言葉は生まれてこないので、先生から生徒への働きかけが重要だと考えています。生徒は、自分をオープンに表現している人が周りにいるという外的な要因があることで、自分の中に少しずつ言葉が生まれて、自分を他者の中で相対的に理解し、表現するようになるからです。

そのうえで、その対話への先生からの生徒へのフィードバックも大切だと思っています。見過ごしたり、聞き逃したりするのではなく、生徒の話を聞いて、「そうなんだ、それから? 」と話を聞く姿勢を見せるとよいでしょう。ですから、時間や設備などのハード面を整備するというよりは、先生の反応や姿勢などのソフト面が大切だと思います。

3 授業実践について

授業を行う上で大切にしていること

まず、テーマそのものが身近かどうかはあまり考慮していません。身近ではないものでも、やりようによっては興味を持ってもらえると考えています。私が授業を行っているPOTETO Mediaでは「政治を、わかりやすく」を一番の目標にしています。その中で大切にしていることは、

  • ①テーマの鮮度を大切にすること
  • ②まずは体験をすること
  • ③生徒の立場に立って問いを投げること

の3つです。

実践①「選挙プランナーになろう」

これら3つの視点から行った実践を紹介します。①テーマの鮮度を大切にすることを意識して、衆院選や参院選があった2016年から2017年にかけては「選挙プランナーになろう」というテーマで授業を行いました。そこで、候補者の裏側にいるプランナーとして、若い候補者を勝たせる立場になってもらうことにしました。

生徒にはまず、候補者が主張するテーマを決めてもらいます。その対象は、若者や親世代など様々です。次に、投票につながるような行動を考えてもらいます。限られた予算の中で、新聞、ビラ、選挙カー、SNS、動画などをどのように使い発信していくか組み合わせてもらいます。それぞれの組み合わせや比率によって、選挙で得られる票数はこちらで決めていました。

ゴールは、若い世代が投票に行かないと意味がない仕組みになっているという、シルバーデモクラシー(有権者に占める高齢者の割合が増加し、高齢者の政治への影響力が大きくなること)を理解してもらうことです。若者の政治への関心を政治家に伝えるには、若者が政治への関心があることを示さないといけないと理解してもらうことを意識していました。どうして投票に行かないといけないのかを理解することで、誰に投票するかを考えるようになり、そこから具体的なテーマへの理解を深めていくという流れがあると考えているので、その最初の段階を理解してもらうゲームを作りました。そのため、②まずは体験をすることを意識して、投票に行って欲しい理由を伝えるのではなく、若い世代が投票に行かないと政治家は若い世代に目を向けてくれないということを、ゲームを通して理解してもらいました。

高校生は「投票に行こう」と言われることが非常に多いんですね。③生徒の立場に立って問いを投げることを意識して、「投票に行こう」ではなくて「なぜ『投票に行こう』と言われているのか? 」について生徒自身に考えさせることを大切にしていました。問いを立てる際には、生徒が今考えていることと、現実社会のギャップに焦点をあてることを意識しています。

実践②「育休を、語ろう」

生徒の立場で問いを立てたテーマとしては「育休」もあります。

生徒に事前にアンケートを取ったところ、「就職をしたあとに子どもができたら育休をとりたい」と考えている人が89.9%にも及びました。しかし、実際に2019年度の育児休業取得率は女性で83.0%、男性で7.48%です。「みんなは将来結婚して、男子でも育休をとって子育てしたいと思ってるかもしれないけど、実際に育休を取っている男性は6〜7%しかいないんです。どうしてだと思う? 」というような問いを立てました。

この授業ではその後、育休制度について解説した後、

①育休をとるか迷っている夫ゲンさん

②育休をとってほしい妻ユイさん

③働き続けて欲しい会社の上司

というそれぞれの役に分かれてディベートを行ってもらいました。生徒は結構盛り上がっていました。このように、生徒の立場に立った問いを立てて、体験ベースでテーマを扱うことで、社会の様々な問題を身近に感じてもらえるのではないでしょうか。

先生方のプロフェッショナル性を活かした授業づくり

先生方のプロフェッショナル性は、「教科専門性」と「子どもたちをみる視点」の2つにあると考えています。先生方がこれらの視点をベースに社会課題を見ると、とても面白い授業が作れるのではないでしょうか。先生は、身近なものから「これってどうやったら授業に生かせるかな? 」ということをすごくよく考える視点を持っていると思っています。身の回りにあるものから授業を作るプロフェッショナルなので、教材を作る視点の1つにニュースを取り入れることをぜひやってみて欲しいです。加えて、それらのニュースや社会課題に対して自身の専門教科、社会科だけでなく、数学と絡めたり化学と絡めたりしながら、それぞれの先生が独自性を活かしてネタを提供したり、教材化したりできるといいなと思っています。

外部団体として大切にしていること

外部団体が学校に入ることは「非日常」という点でメリットになりますが、長期的に関われない点はデメリットになります。しかし、単発的な関わりでも生徒に長期的な影響を与えることはできると考えていて、POTETOで授業を行う際は、生徒にモヤモヤしてもらうことを大切にしています。授業の後、スッキリと終わらないことの方が多いのです。先ほど紹介した選挙プランナーの授業後には、生徒に「授業を受けたことで悩みが増えた」と嬉しそうに言われました。その生徒はおばあちゃんっ子で、「自分のおばあちゃんのために投票をしたい」と言っていました。でも同時に、「授業を受けて、自分の世代とそれ以外の世代のギャップが見えるようになった。自分たちは将来歳を重ねていく中で、自分たちの世代だけではなくて様々な世代のことを考えられるようにならないといけないと思った」と言ってくれました。単発的な関わりでも、魚そのものを与えるのではなくて魚の釣り方を教えることはできます。思考の枠組みや手段など、長期的に使えるツールを与えることを大切にしています。

4 全国の先生方へメッセージ

まず大前提として、私は先生方をすごくリスペクトしています。その上で伝えたいことは2つあります。まずは、先生方なりのプロフェッショナル性を活かして、社会課題に関心を持ってもらえるような工夫を探求して欲しいということです。先生方の教科専門性と子どもを見る視点を最大限活かした上で、生徒が社会とつながるきっかけを作って欲しいと考えています。そして、外部団体の我々のことは、先生の代わりになるような立場ではなく「非日常」として活用してほしいと考えています。その学校にいる先生だからこそできる授業があり、外部団体だからこそできる授業があって、それぞれにできることをやっている状況です。外部団体のやることを学校の先生が真似する必要はないと思っています。むしろ先生方には、生徒ファーストで、積極的に外部団体を評価していってほしいと思っています。

5 編集後記

今回は、外部団体として日頃から学校に出向き主権者教育を実践されている野田さんにお話を伺いました。外部団体による授業を非日常として学校にうまく取り入れつつ、その地域のその学校の先生だからこそ作れる主権者教育の授業をつくることが大切なのだと感じました。本記事が、社会課題を扱う授業づくりの一助になれば幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安藝、伊藤)

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