科学的思考力を育む自学が目指す力とは(渕上正彦先生 教育技術×EDUPEDIA スペシャル・インタビュー)

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作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われたインタビューを記事化したものです。

2021年7月に小学館より発刊された『親子で学ぶ!科学的思考力を育む自学のススメ』の著者であり、ソニー科学教育研究会(SSTA)会長も務めた渕上正彦校長に、科学で自学する子どもを育て、自然への関心や科学的思考力を育む、大人の関わり方や自学のポイントについて、お話を伺いました。

(2021年6月4日取材)

2 インタビュー

科学的思考力

よりよい未来を「創り出す力」

今、コロナ感染症や豪雨災害、地震や津波、貧困など、大きな課題が山積みです。子どもたちが自らの力で明るく輝く未来を創り出すために必要な力、それが「科学的思考力」です。

科学的思考力とは、単なる記憶力や情報収集力ではありません。学んだ知識や集めた情報を基に、現象の出現を予測したり、身を守る手段を発想したりするなど、主体的によりよい未来を「創り出す力」です。

好奇心をかき立てる大人の関わり

科学的思考力は、子どもの好奇心をかき立て、追究させることによって育まれていきます。好奇心をかき立てるには、そばにいる大人の反応が大事です。

子どもは生き物が大好きです。幼虫やダンゴムシなどがいたらチャンスです。「何だこれ?手の中で丸まったよ」と言いながら、大人が手に取って裏返して見たり、触ったり、匂いを嗅いだり、五感を通して触れ合う姿を見せてください。そして、「冷やっとして気持ちいい!」「小さな目があるよ」など感動を言葉にして表しましょう。子どもの好奇心は大人の興奮と言葉によって形成されるのです。

朝のホームルームで

教室では、朝のホームルームで「こんなタネ見つけたんだ。上に投げるとクルクルと回って落ちるんだよ」と先生が見付けた不思議な現象を紹介して、子どもたちの好奇心をかき立てましょう。また、「ふしぎコーナー」を設置して、図鑑を置き、生き物を展示しましょう。

そうすると、子どもたちは自分が見つけた珍しい草花や虫を教室に持ってきて、互いに自慢をはじめるようになります。そのときの先生の反応は大切です。子どもが「先生、これホトケノザっていう名前だよ」と知らせてきたら、「お、すごいね。仏さまと関係あるのかなぁ」と好奇心をさらに広げましょう。

このように先生が朝からきっかけを創り、好奇心あふれる教室をデザインすることが、科学的思考力を育む上で欠かせない基盤となります。テストの点には現れない本当の学びの姿ではないかと思います。

実際に触ってみる

私は、休み時間、自然の中で子ども触れ合う時間を大切にしています。毎年、校庭のパンジーについたトゲだらけのグロテスクな幼虫(ツマグロヒョウモンの幼虫)を見付けると子どもの手に乗せてあげるんですよ。もちろん、子どもは「キャー!」となりますが、それをきっかけに、生き物と子どもの距離がぐっと近づき、驚きや感動を引き出せます。触りたくない子でも、他の子がキャーキャー言っていると、触りたくなるものです。もちろん無理に触らせるのは厳禁で、安全を確かめてしましょう。

親子の会話

家庭では、子どもと一緒に散歩をしてほしいですね。そして、親子で道端に咲いたきれいな草花や田んぼの生物の見つけあいこをしましょう。さらに「見て!オタマジャクシの足が生えてるよ」と親が子どもに驚きを投げかけると、子どもも一緒になって好奇心が高まるものです。このように親子の会話は子どもの好奇心をかき立てるのに欠かせないものなのです。

自学

発達段階ごとのポイント

科学的思考力を育てる自学のポイントは、学年ごとに違います。

低学年は、本来は抵抗がなく生き物に触ることができる年齢です。ぜひ、一人1水槽でマイ生き物を飼育・観察させましょう。色々な視点から見て、触って、匂いを嗅いで、音を聞いて…など、五感をフルに使って、観察・記録できるようになります。

また、低学年であっても、「比べたり、数えたり、はかったり」することできるようになります。数量の違いに目を向けた一人の子どもを大きく取り上げ、価値付け、広げるようにします。ポイントは、「〇〇しなさい」と言うのではなく、その子に向かって大きな声でつぶやくことです。「枚数数えたんだ!スゴイ!」「長さを比べたんだ!スゴイ!」。こうした先生の声がヒントになり、子どもたちは自ら比べたり、数えたりするようになります。そして、自学でも自然と長さや枚数、重さなど調べるようになるのです。


 (本書より)

中学年では、自分で調べたい課題を見つけたり、どうしてその現象が起こるのか理由を考えたりできるようになります。しかし、実際には、自学で「何を学ぶのか」課題を設定するのが一番難しいところです。はじめは、先生と子どもとで、調べたくなる課題をたくさん出し合うとよいでしょう。「どうしてダンゴムシは葉っぱの下に多くいるの?」「なぜ夕方になると空が赤くなるの?」など出し合った課題を1枚にまとめ、自学ノートの初めのページに貼らせて、取りかかりのヒントにさせるとよいでしょう。

また、自学で調べる前に課題に対して自分の考えを書かせる(予想する)ことも大切です。「ダンゴムシは葉の下に住んでいるからエサは葉っぱかな?」「虹は雨上がりにできるから空気中の水分と関係あるのかな?」など予想をして調べると自学がクイズのようになり、増々楽しくなります。

高学年では、自分で条件を整えてから観察・実験をしたり、観察・実験の結果を整理してきまりを導き出したりすることができるようになります。また、色々な側面から調べ、トータルでまとめる力もつきます。

そこで、何を知りたいのかといった目的や動機、どのように調べるのかといった手順(「①…、②…、③…」)をあらかじめ整理して取りかからせます。また、調べた結果を表やグラフに整理してまとめ、見つけたきまりを一目で分かりやすく表すことができるようにします。

高学年ならではの自学ですが、壊れた電化製品を分解して観察・スケッチさせ、もう一度組み立てさせるというのはおススメです。例えばドライヤーやCDプレーヤには、学校で学習した導線やコイルやモーター、磁石、コンデサー、電子基板、スイッチなどの部品が宝箱のように詰まっています。組立後、知らないうちに壊れた製品が直るなんてこともありますよ。

先生の関わりが欠かせない

自学を続けるには、相当なエネルギーがいります。エネルギーは先生が作るものです。子どもは先生から褒めてもらえるからやり続けることができるのです。はじめは、自学に取り組んだこと自体を褒めて、段々とその子の目の付け所や発想の良さを発見して価値付けてほしいと思います。その上で、科学的思考力を深め、高めるアドバイスをしていきましょう。

例えば、「課題設定の良し悪し」「課題に対する考えの適切さ」「考えの元となる根拠の妥当性」「調べ方や調べたデータの整合性」「データ整理の簡潔さ」「結論の妥当性」「振り返りの有効性」など発達段階や個人の成長の段階に応じて、良いところを褒めながら、改善点をひとつずつアドバイスしていきます。

一人ひとりの感動を見つける

自学ノートを先生が見るとき、誰かと誰かを比べる評価はよくありません。そうではなく、一人ひとりの感動や発見に、先生が寄り添い、気付いて声を掛けるのが重要です。たった1行の中にも、その子なりの感動や気付きのよさを見付けて、褒めるとよいでしょう。

子どもを褒めるとき、「〇〇君の自学はすばらしい」という褒め方はよくありません。大切なのは、先生が良いと思った感動をそのまま言葉にすることです。「スゴイ!こんなことよく思いついたね」「ここまで調べたの?すごいなぁ」これを聞いた周りの子どもたちは、その自学の良さを自ら見付けようと必死になるでしょう。自ら気付かせ、動かすのが先生の役割です。

学校の授業と自学

学校の授業と自学は連関しています。学校の課題では、同じことを全員が一斉に学習し、自学では自分が興味を持ったことを個別に追及しますが、これらは別々に存在するものではありません。

自学によって、学校で学んだことを「もっと調べてみたい」と発展的に追究することだけでなく、授業と関係のある自学を行った子どもの取り組みを授業中に取り上げて、全員の学びとして深めることもできます。このように、学校の授業と自学は切り離すものではなく、相互に学びを深め合う関係です。

家庭の関わり

親子で自学

自学は家庭で行うものです。保護者が自学に関心をもち、子どもに声かけをしたり、一緒に取り組んだりすると子どもの自学力はグッとアップします。本校では、保護者の方に自学に関心をもってもらうために、学校のホームページでタイムリーに、よい自学ノートを紹介しています。

また、本書には、子どもの自学ノートだけでなく、親として自学にどのような関わりを心がけてきたかを保護者へインタビューした記事も紹介しています。

 (本書より)

保護者を励ますコメント

本校では、「生活頑張りカード」を使って、家庭内の生活時間の見直しを行っています。子どもと保護者の会話を増やすのがねらいで、最後に保護者にコメントを書いてもらうようにしています。

最初の頃は「なぜ自分で決めたことができないのか?」「やるべきことをきちんとしてください」など否定的なコメントが多かったのですが、続けるうちに「言われなくても自分から行動しているので感心します」「お手伝いしてくれて助かる」「親子で自学に取り組めて楽しい」など肯定的なコメントが増えてきました。

私は、現在約450人の子どもの保護者の振り返りの全てにコメントを返すようにしています。「こんな風に言われたお子さまは嬉しいでしょうね」「子育てのプロですね」「いつも支えていただきありがとうございます」と保護者に感謝のコメントを書くようにしています。保護者は毎日頑張っているのに誰も褒めてくれませんからね。


北九州市立木屋瀬小学校HPより)

子育てを楽しんでもらいたい

保護者は子育てができて当たり前のように言う人がいますが、私はそれは間違いだと思います。子育てが思うようにできている親なんてどこにもいないですよ。でも保護者はみんな悩みながら頑張っています。私は保護者が子どものために頑張っていることを積極的に見つけ、感謝の気持ちを伝える人になりたいと思っています。

それは、保護者にもっとリラックスして子育てをしてもらいたいという思いがあるからです。親がリラックスできれば子どももリラックスできます。もっと子どもと保護者が生活や学習を一緒に楽しんでもらいたいのです。

私は、親子が自然の中に飛び込んでニコニコ笑顔で会話している姿をいつも夢見ています。野山を歩いて知らない生き物を発見して叫んだり、夜シートを敷いて寝転がって夜空の星を眺めたりする姿です。そして、さらに自然体験を自学にまとめるときのお手伝いができたら、最高だなと思います。

これからの社会で必要な力

科学的思考はあらゆる場面で使える

科学的思考力はどの教科でもあてはまる力です。リコーダーが上手く吹けない子は、なぜ音が鳴らないのかと考えると、穴の押さえが足りないと分かります。すると、他の子の指の様子と自分の違いを見るという対策をとることができます。

また、友達同士のトラブルや喧嘩にも理由があります。たいていは気持ちの行き違いです。だからただ喧嘩はやめなさいではなくてどうしてそんなトラブルが起こったのか、自分の気持ちは正しく相手に伝わっていたのかを考えさせます。それが科学的思考力です。

なぜそうなのかという理由を、日頃から先生が意識的に問いかけ発見させることで、子どもは物事の連関や順序・理由を考えることが習慣になり、その思考法が自学にもつながってくるのです。

思考力と行動すること

コロナ禍や自然災害などの問題に直面したときに、何が正しいのか分からず、どう行動すればよいのか迷ってしまう方は多いと思います。そのような場面において、いろいろな選択肢を考え、自分でこうすべきだと決断して行動することは、自分の命や人の命を守ることにつながります。

これから未来を創る子どもたちに、日常のいろいろな場面において、物事の連関や順序・理由を深く考え、自分で行動できる科学的思考力を、自学を通して育んでもらいたいです。

3 著者プロフィール

渕上 正彦(ふちがみ・まさひこ)


北九州市立木屋瀬小学校校長。
北九州市立小学校長会 副会長・八幡西区会長、ソニー科学教育研究会 理事長。2019年内閣府知財創造教育推進コンソーシアム九州地域委員。北九州市小学校理科研究会 前会長。今後の河川教育を考える委員会委員。
(2021年11月時点)

4 著書紹介

『親子で学ぶ!科学的思考力を育む自学のススメ』北九州市立木屋瀬小学校校長:渕上正彦/著、北九州市立木屋瀬小学校/編

本書は、日常に見られる自然との触れあいから芽生えた科学的な好奇心や感動、追究から一歩踏み込み、観察記録や自学ノート、自由研究まで実行した子どもたちの軌跡を取り上げた1冊です。

子どもたちが好奇心を発揮して、観察記録や自由研究をまとめた魅力いっぱいの自学ノートを紹介しています。自学ノートをまとめた、子ども本人へのインタビューや保護者のコメントも掲載しています。

試し読みはこちらから

5 編集後記

学習は考えるだけでなく、自分で正しく行動するために必要、という視点が印象的でした。たくさん考えて、行動して、失敗して、また考えて。その繰り返しが学習を深めることになると思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 大和信治)

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