小1プロブレムの背景と解消策ー園や学校は何ができるかー

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作成者:並木 未菜 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

昨年度(2020年度)から、幼児教育と小学校教育の円滑な接続を目的としたスタートカリキュラムが全国で導入されました。小1プロブレムの改善と共に、幼児教育から小学校教育へのカリキュラムを円滑に接続することの必要性が、改めて見直されています。このことに関し、2021年6月18日に、國學院大學 人間開発学部 子ども支援学科の吉永安里先生に取材しました。

こんな方におすすめ                        

・幼児教育と小学校教育の違いを知りたい方

・年長児にどのような教育をしようか迷っている幼稚園・保育所等の先生

・スタートカリキュラムの実施に携わる小学校の先生

2 小1プロブレムが起こった背景

小1プロブレムが起こった背景には何があったのですか。

小1プロブレムという言葉は、1990年代に出てきました。その頃小1プロブレムが社会的な問題になってきた背景として、1つは園と学校、幼児教育と小学校教育の方向性が変わってきたこと、もう1つは子どもの育ちが変化したことが考えられます。

1989年に幼稚園教育要領が、1990年に保育所保育指針が改訂され、保育所と幼稚園が足並みをそろえて5領域を指導することになりました。そこで、幼児期の子どもは、生活や遊びの中で環境とかかわることを通して総合的に様々な力が育まれていくことが改めて強調されるようになりました。1989年に新設された生活科によって、幼児期の遊びや直接的な体験を大切にした総合的な学びのあり方が小学校教育にも取り入れられ、幼児教育と小学校教育の繋がりが生まれることが期待されました。しかし、小学校教育の方が変わらないというような実態がずっと続き、また、幼稚園と保育所の互いの理解や協力体制が十分でなく幼児教育において何を行うかが統一されていなかったため、幼保の連携、幼児教育と小学校教育の連携が十分でなかったといえます。

また、公園のような遊び場が減っていることや少子化や核家族化が進んでいることなどにより、子どもたちが人間関係の経験を積める機会が不足するようになりました。このように子どもの育ちが変化したことも小1プロブレムの背景となっていると考えられます。

1990年代は幼稚園と保育所の互いの理解が十分でなかったというお話がありましたが、今現在では幼稚園と保育所で行われる教育には何か違いはあるのでしょうか。

制度としては、幼稚園は学校教育、保育所は児童福祉施設の枠組みであり、この点は異なります。しかし、基本的には3歳以上については幼児教育の対象で、5領域があり、かつ3つの資質・能力を育んでいくという点では幼保とも変わりません。これは認定こども園も同じです。3歳以上の子どもは、親の就労形態に関わらず等しく幼児教育を受ける権利を有するわけです。園の独自性というのは当然認められていますが、基本的に3歳以上の幼児教育では、5領域のねらいと内容を指導することを通して3つの資質・能力を育んでいくことは変わりません。

3 小1プロブレムを解消するために園でできること

今は小1プロブレムを解消するために園での活動の中に読み書きや計算などを取り入れているところもあるようです。そのように、園で小学校での学習の先取りをすることに関して、どうお考えですか。

幼児期の学びでは、心情・意欲・態度を養っていくことが大切にされます。3つの資質・能力の中に、知識・技能の基礎や思考力・判断力・表現力の基礎とありますが、それは何かができるようになるということではなく、関心をもって自分でやってみようとすることを意味しています。幼稚園教育要領や保育所保育指針等では、小学校での学習を前倒しするのではなく幼児期の学びのあり方を大切にして小学校に繋いでいく必要があるのです。それは、遊びや生活の中で総合的に育まれる資質・能力を繋いでいくということであって、小学校での学習を前倒しして読み書きや計算を園で学習するということは全く求められていません。読むことや書くこと、四則演算をすることは、小学校の学習指導要領の指導事項に入っています。だから、それを幼児期に求めるのは、例えば小学校5、6年生で行うべきことを小学校3、4年生で行うのと同じようにおかしなことです。幼児期に大切なのは、数量や図形、文字などに関心をもつということです。

子どもたちが文字などへの関心をもつためには、どのような働きかけをすれば良いのでしょうか。

例えば、生活の中で育んでいくことができます。クラスの中にハサミが10個あったとしたら、数を数えながら片付けることによって、きちんと全て戻っているかを確認することができます。これは数量への関心に繋がりますし、安全面でも大切なことなので幼児の生活の自立にも繋がります。他には、ごっこ遊びのときにも工夫ができます。先生や友達が「おいくらですか?」とお金を持って買い物に来れば、子どもたちが数量感覚をもつきっかけになります。

また、「看板をかきたい」となったときに、あいうえお表があればそれを見ながら文字を拾って自分で書いてみることもできます。この場合は、正しく書けるかどうかは問題ではありません。正しく書けるということは小学校1年生における国語科の指導事項だからです。幼児期には、書いてみたら楽しかった、自分でできたという感覚をもてることが非常に大事です。さらに、段ボールや大型積み木を使ってお店の形を作っていく中で、子どもたちは自然に図形への関心や感覚なども身につけていきます。

子どもたちは、こうしたことを自覚的に学んでいるわけではありません。学んでいることを自覚したり言語化したりというのは小学校で行われることです。幼児期は、子どもたちにとっては気づかぬうちに知識・技能や思考力・判断力・表現力の基礎が育まれていきます。

4 小1プロブレムを解消するために小学校でできること

1990年代から幼児教育と小学校教育の接続というのが問題になっていた中で、昨年度から全国的にスタートカリキュラムが始まりました。タイミングも含めて、これに関してはどのようにお考えですか。

教育が変わっていくのにはそれなりの時間がかかります。生活科を作ろうという議論が出てきたのは昭和の後半です。その頃からやはり教育の問題はあって、あまりにも知識偏重な教育ではダメだといわれるようになりました。そして、新しい学力観が登場し生きる力を育もうといわれるようになりましたが、それもあまり上手くいかず、この時期に学校教育を受けた世代は「ゆとり世代」などともいわれています。知識を重視するのか、生活や総合的なことを重視するのかということの間で、教育方法が振り子のようになっていましたが、今回の改訂はそのバランスがとれています。幼保一元化を目指してもなかなか上手くいかず、一元化まではいかなくても足並みをそろえて小学校につなげていけるような体制を整えることにも時間がかかりました。このような制度は整いつつあるものの、保育者・教師・親の意識は、まだ一世代前から変わっていないようにも思います。子どもたちが生きるこれからの未来の時代のことを考えていく必要があります。

スタートカリキュラムは試行錯誤の上で実施されたということですが、これからはどのようになっていくのでしょうか。

学校段階等間の接続の重要性が指摘されるようになってから、3つの資質・能力を幼小中高で一貫して育てていくということになり、細かい部分での幼小の連携、小中の連携が必要とされるようになりました。ただ単に連携するというだけではなくて、資質・能力を幼小で一貫して育てていくということが大事であるため、スタートカリキュラムが定められました。

幼児教育との繋がりを作るとはいっても、小学校で幼児教育の焼き直しで手遊びなどをして遊んでいれば良いわけではありません。小学校の学びのあり方を大切にしながらも子どもたちが安心して学校生活を始められること、資質・能力がきちんと育まれるような指導が行われること、そして自己発揮しながら主体的に学べることを大事にしなければなりません。例えば、授業時間を15分刻みにしたり、2時間続きにしたりなど、活動に合わせて時間割を柔軟に組み替える弾力的な時間の運用も大切にしたいものです。また、幼児期の学びのあり方と近い合科的・関連的な指導を取り入れながら、各教科の指導事項をきちんと達成するということや、学んだことを言語化することも重要です。

これからは、スタートカリキュラムの本来の目的が達成されるようになっていくことが大切です。本来の目的というのは、合科的で関連的な指導や弾力的な時間割によって、子どもたちの小学校における学びを保証することです。そして、スタートカリキュラムは小学校6年間の教育課程の中に位置づけられるものです。1年生からの積み重ねがあって6年生になるという認識のもと、学校全体でスタートカリキュラムを考えていく方向にいくと良いです。

5 プロフィール

吉永安里(よしながあさと)

東京女子大学 文理学部 心理学科、青山学院大学 文学部 第二部 教育学科卒業。東京学芸大学大学院 修士課程修了。東京都内私立幼稚園、東京都公立小学校、東京学芸大学附属小金井小学校勤務の後、國學院大學 人間開発学部 子ども支援学科准教授。同大學にて学生のお話会サークル「絵本キャラバン」の活動を指導。
専門は、幼小接続、言語発達、国語教育。日本読書学会海外担当幹事。日本語検定研究委員。

著作物
<論文>
「『おおきなかぶ』における幼小の指導の連続性—読みの環境構成と指導内容の観点から—」(読書科学62(3・4),175-195,単著)
「社会的行為としての絵本読み聞かせ」(読書科学 61(2), 64-76, 2019,共著)
「幼小の読みの指導の差異性と共通性:日本,アメリカ,ベルギーの事例検討から」(読書科学 60(3), 138-155, 2018,単著)
「保育表現技術の習得における評価方法の影響 : 絵本の読み聞かせ技術を題材にした聞き手との相互作用への気づき」(國學院大學紀要 53, 159-178, 2015,共著)
<書籍>
『あそびの中の学びが未来を開く 幼児教育から小学校教育への接続』(世界文化社,2020,共編著)


「親子で遊んで双方向コミュニケーション 心と言葉をはぐくむ絵本」(『ぴよちゃんのかくれんぼ』『ぴよちゃんのおともだち』挟み込みリーフレット,学研,2020)

(2021年9月現在)

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7 編集後記

幼稚園や保育園と小学校の双方が、もう一方を意識しつつ、それぞれの段階に相応しい取り組みを行うことが、子どもにとって非常に重要なことであるとわかりました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 並木未菜)

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