ICT活用度の格差 〜家庭や学校の視点から「今、私にできること」〜【関西教育フォーラム2021特集企画】

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目次

1 はじめに

本記事は、2021年10月3日に行った聖徳学園の品田健先生への取材内容をご紹介するものです。取材では、関西教育フォーラム2021のテーマと関連し、タブレット端末の利用をはじめとしたICT教育によって教育格差が今後どのように変化していくのかについて品田先生の見解をお聞きしました。フォーラムに参加される方もそうでない方もぜひご一読ください。

本記事は2部構成になっております。
学校での積極的なICT活用の鍵~聖徳学園の品田健先生インタビュー~【関西教育フォーラム2021特集企画】こちらの記事では、聖徳学園でのICT教育の導入方法や活用方法をご紹介しています。ぜひご覧ください。

2021年11月21日オンライン開催の関西教育フォーラムはこちらからお申し込みいただけます。
★教育格差ってなんだろう
★将来教育に携わる道を考えている
★教育格差に対して学校、行政、NPOはどんなことができるだろう
★コロナ禍でICT教育を身近に感じるようになった
★ICTを使ってなんらかの社会課題を解決したい
ひとつでも共感したあなた、
フォーラムでお会いできるのを楽しみにしております。

2 経済格差・地域格差がICT教育の普及・活用へ及ぼす影響

生徒のICT教育へのモチベーションの差には、家庭を含めた彼らを取り巻く環境が大きく影響していると思います。例えば、オンライン授業の際には兄弟が同時に端末を使用する家庭ではネットワークの速度が低下してしまいますが、速いインターネット回線を引いている家庭ではサクサク進み、自由に使用できます。また、生徒が端末を使用しているときに、遊んでいると捉えてしまう保護者の方と、学んだり創作したりしていると捉える保護者の方では、生徒を見守る環境が大きく異なってきます。そうした環境の違いが、生徒のモチベーションに良くも悪くも影響しています。

本校は比較的裕福な方が多い、東京の郊外の住宅街にあります。そういった地域ではICT教育に関しての理解や関心が高く、学校での取り組みにも協力してくださるため、非常にやりやすさを感じています。

地域によっては、私立学校に通わせることが大変だったり、通わせられてもタブレット端末の購入に抵抗があったり、ICTを取り入れた学習よりも大学進学に価値をおいていたりと様々な考えがあります。他校でもICT教育の導入に携わったことがあるのですが、実際にICT教育にネガティブな考えを持つ家庭が多いと、展開が難しいことがありました。学校の偏差値的にはほぼ同じであっても、家庭や保護者の考え方や価値観といった環境面に違いがあり、それがICT教育へ非常に大きな影響を与えていると感じます

3 将来へつながるICT教育

受験方法の変化に伴って、ICTの強みが入試に影響するようになっていると思います。10年、20年前であれば、大学入試は大半が一般入試だったため、高校では座学型の進学指導に特化して行っており、前述のような環境の差があまり影響してきませんでした。強いて言えば、塾や予備校に通えるかどうかといったことが影響する程度でした。しかし今では、指定校推薦や公募型の推薦など特殊な入試も増えてきており、一般入試以外の形式が半数を占めています。小論文や志望理由書を書く練習をする際は、多くの資料や、添削の機会、サポートしてくれる人が必要になります。対面での指導に限ってしまうと、生徒はわざわざ学校に行かなければならず、学校でしか資料が使用できなかったり、先生が添削する手段が手書きに制限されたりしますが、オンラインであればいつでもどこでも資料にアクセスでき、多様な手段によって指導することが可能です。このように情報量や指導の効率の観点からも差が生じることがわかります

大学入試だけではなく、その先社会人として生きていくに当たっても、社会人になってから端末の使用を始めるのと、中学・高校の間に端末を使用した活動に慣れておくのとでは大きな差が生じるのではないかと思います。

4 ICT教育と教育格差の是正・助長

残念ながらこのままだと格差が拡大する方向に進んでしまうと考えます。それには大きく2つの理由があります。1つはGIGAスクール構想が前倒しになり、タブレット端末の配付は既に完了していますがうまく展開できていない印象があることです。それを展開するには、ネットワーク整備やサポーターの提供、その他のサービス利用といった経費負担が学校に対して求められます。今後はGIGAスクール構想以上に公的な補助が望めないため、保護者や家庭、地域の負担となることが予想されます。したがって、今後はICT端末を活用できる生徒とあまり活用できない生徒が明確に分断されていってしまうと考えられます

もう1つは先生のなかでも積極的にICT機器を使用しようとする意識のある人は多くないことです。ICT端末に対してネガティブな印象を持っている先生が授業でそれを使用していても、生徒たちが使用するモチベーションが上がらないと考えます。それによってポジティブな効果も感じられなくなってしまいます。したがって、個人の経済的な負担と、先生のICT活用に対する意欲不足から積極的な導入は失速していくと考えられます。

私はこのままではいけないと思っていますし、ICT教育の推進が可能な学校だけ活用できているという状態は望ましくありません。少なくとも、格差をできる限り小さくする、格差が後からでも縮められるようにする工夫はできると考えています。現在、本校では他校の先生方に対して、ICT教育の見学や視察を受け入れたり、資料を提供したり、家庭で行ってもらっている実践を発表したり、といったことを行っています

5 ICT教育成功の鍵

本校には、学校内のネットワークの整備や様々なトラブルに対応するための支援員がいます。最初、支援員は一人でしたが、単独では業務が回らなくなり二人に担当してもらうことになりました。さらにOBでICTに詳しい方をチューターという形で3人雇っています。イベントのある休日や、平日の空いている日に来てもらって、先生や生徒のサポート、アプリの設定をしてもらったり、導入したいことの相談を聞いてもらったりしています。

専任の支援員は絶対に必要だと思っています。そもそも支援員の業務を行える先生が学校内に必ずいるとは限らないうえ、行えたとしてもかなり負担が増えてしまいます。現状だと、学校内で最もリテラシーの高い先生がボランティアで行っている場合が多いと考えられます。業務量の削減等の対応をしてもらっていない方がほとんどですから、いずれ限界を迎えてしまいます

私自身もICT活用法を発表していますが、学校内のネットワークなどを触る仕事は行いません。私たち先生は支援員とアプリやサービスに関する提案等のやりとりを行いますが、基本的には授業などに専念できます。様々なトラブルに即時で対応してもらえるので、支援員は必要不可欠な存在です。他校でもそういった支援員がいなければ、誰かが非常に大変な思いをしていることが想像できます。公立、私立にかかわらず、そういった業務を行ってくださる方を配備しておくことは必要だと思います

6 先生へのメッセージ

今まで学校の先生は自分が教えることに関して、少なくとも生徒よりは知識が豊かであることや理解が深いことが前提でした。例えば数学の先生であれば、基本的に先生の方が生徒より問題が解けると思います。しかし、ICTが導入されるとそういう状況が変わっていきます。知識や解法、考え方も授業中に端末を使って調べることができます。タブレット端末の操作法についても先生より生徒の方が知っていることがあります。だから、そのような状況が許せないという先生にとっては非常に辛い時代だと思います。

しかし現在、先生の役割が嫌でも変わってきています。端末の使い方がわからない先生は、自分がちゃんと使えるようになったら授業で使おうと考える場合がありますが、それは不可能だと思います。先生は多忙でそんな時間はないでしょうし、その必要もないと思います。結局、タブレット端末の操作に詳しい生徒に聞きながら一緒に学んでいくことが効率的だと思います。先生に求められているのはアプリやサービスに関する知識ではなく、それをどう使って生徒が学んでいくかのプロジェクトを作っていくことです。

生徒は、挑戦しようとしない先生を馬鹿にすることはあっても、挑戦して失敗してしまった先生に対しては寛容ですし、優しく励ましてくれさえすると思います。したがって、先生は勇気を持ってICTに対する考え方を変えることが必要だと思います。先生方には、自分が必ずしも全てを教えられなければならない、知っていなければならないといった考えで自分を縛らず、生徒を導きつつ共に学んでいく存在として新たな一歩を踏み出してほしいです

7 プロフィール

品田健先生

東京学芸大学(国語科)卒。
桜丘中学・高等学校で副校長としてiPadの全校導入を推進。2015年Apple Distinguished Educator選出。2017年より聖徳学園中学・高等学校で学校改革本部長・Executive ICT DirectorとしてSTEAM教育の開発を担当。2020年Adobe Education Leader選出。iTeachersAcademy理事として次世代教育に取り組める教員の養成を支援。2021年聖徳学園中学・高等学校がApple Distinguished Schoolに選出。

8 編集後記

タブレット端末を使用した学習が可能になれば、各生徒間で教育の機会や情報、リソースにおける差が縮められます。一方でタブレット使用に対する考え方やネットワーク環境、サポート体制の差によって、各生徒間で活用度合いにおける差を広げてしまうということも十分に考えられます。前者としての強みを全ての生徒が活かしきるために、本記事が将来の教育を担う学生の方々、現在教育を支えてくださっている方々、ICT関係のお仕事をされている方々、教育行政の方々、それぞれの視点から考える際の一助となれば幸いです。

(EDUPEDIA編集部 吉田)

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