【人間力を育む】演劇教育を知ろう!(GLODEA代表理事・別役慎司さん)〜アクティブラーニングへのヒント〜

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目次

1 はじめに

この記事は、2021年10月13日に行った、日本グローバル演劇教育協会GLODEAの代表理事を務める別役慎司さんへの取材をもとに作成した記事です。
全国の子どもたちへの演劇教育活動や講師育成を行っている別役さんに、演劇教育のあふれる魅力と実践についてお聞きしました。

2 演劇教育について

演劇教育の魅力

演劇教育の魅力はひと言では言えないですが、わかりやすく言えば学校で学んでいる知識や情報とは違う「人間力」を学ぶことができることです。人間力とは表現力、コミュニケーション能力、集中力や想像力などで、人間誰しも持ってはいるけれど教育のなかでそこまで育まれるわけではなく、どのようにして育めばよいのかもわからないものです。そして大人になるにつれ錆び付いていきます。演劇教育は人間的、根源的なところがあるので人間力を育てるのにうってつけだと思います。
また演劇教育はアクティブラーニングでありその要素を他の教科にも応用できるので、アクティブラーニングをどう実践すればよいかわからないという先生方のヒントにもなると思います。

活動を始めたきっかけ

元々演劇をやっていて、20年ほど演技を教えてきました。自分のアクティングスクールで俳優を教えてきましたが、「人前であまり緊張しなくなった」「自信を持てるようになった」などという声が届くようになり、俳優だけではなく子どもやビジネスの人など一般の人にも演劇教育を届けていこうと思いました。

3 授業実践について

演劇教育の手法

GLODEAで行われている演劇教育の手法には、
・シアターゲーム
・TIE(シアター・イン・エデュケーション)
・フォーラムシアター
などがあります。詳しくは、GLODEAのホームページをご覧ください。

初心者が行うのに最も適しているのはシアターゲームです。シアターゲームは長期的にできるものなので、例えば毎週1コマ演劇の時間を作った場合、シアターゲームが中心になります。TIEやフォーラムシアターはイベント型、単発で行うものです。

テーマ設定のポイント

1. 大人でも容易に答えが出せないような深いテーマにする。

TIEやフォーラムシアターで劇団員が演じる場合、大人の出してほしい答えに導くのではなく、子どもたち自身に考えてほしいからです。そのため例えば戦争や、なぜ人と人が殺し合うのかなど、人間の根幹にかかわる深いテーマが望ましいです。

2. 学校のカリキュラムや児童・生徒の状況に合わせる

例えば歴史の授業で取り上げている内容に関連して作るのもよいかもしれません。また、学校の先生がコミュニケーションの苦手な児童生徒が多いと思うならば、コミュニケーションを意識したTIEを作ることもできます。そのため学校と相談しながらできるのが理想的です。

大人しい子どもや人前に出るのが苦手な子どもへのアプローチ

「自分なりに表現してくれればいいよ」ということを伝えます。人前に出るのが怖い人の多くは、正しくありたい人です。正解を出すことに囚われていると、緊張して持ち味が出せず苦々しい経験で終わってしまいます。しかし、そもそも正解はなく、その場の瞬間を楽しむ感覚だと緊張せずにできると思います。そして緊張せずにできた体験があると、自信に繋がりもっと自分を出せるようになっていきます。正解を求めなくてよい、その場を楽しんで出せるものを出してくれればよいというメッセージを頑張って発しています。
また、苦手ながらも、本人なりに少しでもチャレンジしているのであれば、褒めます。グループでやってはいますが、一人一人に対しての声かけを大切にしています。
加えて、例えばシアターゲームではペアかグループか、遊びながらできるものかより演技らしいものかなど、学校やクラスの雰囲気をはじめその時の状況に合わせてどのようなゲームが適しているか考えながら行っています。
実際、姫路女学院中学校で2021年4月より演劇教育の授業を開始しましたが、一番最初に即興でお芝居をした時は一言二言しか話せなかったのが、半年後には一定の時間確実に話せるようになっていました。

子どもたちみんなでお芝居を作るよさ

中学生になるとゲームばかりでなく、子どもたち自身でお芝居を作ることもできます。

  1. 個性が見えてくる

みんなで一からお芝居を作る場合、グループごとに作品を決め、衣装や小道具も全部子どもたちに作ってもらい、私が稽古をつけて、最終的にホールで発表します。子どもたちのなかでも演じるのが得意、工作が得意、衣装のデザインを考えるのが得意など、色々な個性があります。みんなで一つの舞台を作る過程で、それらの個性を発揮できる場がたくさんあるので、一人一人の新たな側面が多く見えてきます。それを褒めてあげながら、苦手なところも鼓舞します。

2. 責任感と絆が生まれる
表現することが苦手であっても、グループで一つの舞台を完成させないといけないと思うと、責任感が生まれて頑張ることができます。少し発表するだけであればその場をやり過ごせばよいと思ってしまう子どもも出てきますが、時間をかけてみんなで一つのものを作るとなると否が応でも力を合わせることになります。また1で述べたようにお互いの個性に気づくことができるため、絆が深まっていきます。

揉めたりぶつかりあったりするのも大切な過程です。ぶつかりあうことがあると、喧嘩をしている間に時間が無くなり自分たちにとってマイナスにしかならない、やはり相手の意見を受け入れて上手くやっていかないと時間内によいものを作ることができないということを体験を通して学びます

大事なのは「リアルに感じること

フォーラムシアターでは、例えばいじめがテーマだったら、いじめのシーンを演じて、どうすれば解決できるのかたくさんアイデアを出してもらい、演じなおしてみます。その過程で彼らが友情が大事だと感じれば、終了後も友だちに優しくするでしょう。しかし大人が友情が大事、いじめはダメ、などのように一方的に言っているだけでは効果はありません。ただ言葉で聞くのではなく、目の前に見て、リアルに感じ、アイデアを出すことで、そのアイデアが現実に影響を与えます。こういう解決策があるのかということを、演じることを通してリアルに感じることがとても大事だと思います。

演劇教育は難しい?

科目を教えることと演劇教育では手法が異なるため、学校の先生が行う場合はきちんと学んでいただく必要があると思います。しかしそこまで難しくはなく、やり方やコツがわかれば実践できます。体験型なので本を読んでもわからないと思います。学校で行う場合、先生が行うという手も、外部から演劇教育家を招くという手もあります。外部から専門家を招いた方がよいと思いますが、今の日本ではそのような専門家も少ないです。だからこそ私も講師養成講座を作っています。

演劇教育に興味を持った方へ

GLODEAの養成講座は3級から1級まであり、3級は演劇教育の理論、2級は一番王道でやりやすいシアターゲーム、1級はTIEやフォーラムシアターなどの高度な演劇教育の手法を扱います。3級から1級までで34時間です。そこで演劇教育やファシリテーションをするうえで重要なことをたくさん知ってもらい、実践で練習していきます。GLODEAの講師養成講座については、こちらをご覧ください。

全国の先生方へメッセージ

既存の教え方で行き詰っているとしたら、やはりそこを壊していかないといけないということなので、勇気をもって新しいことに挑戦してほしいと思います。演劇は子どもたちを自発的・創造的にさせることを非常に得意としているので、その辺りの技を盗みに来てほしいと思います。ぜひ「演劇教育」を調べてほしいです。もしよければ講座を受けに来てください。

4 別役さんのプロフィール

別役慎司(べっちゃく しんじ)さん


日本大学芸術学部演劇学科卒。日本大学大学院舞台芸術専攻修了。ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校に留学後、世界最前線の俳優訓練を日本においても提供し始める。劇作家・演出家・俳優・演技講師として活動し、自身の劇団およびアクティングスクールも持つ。演技講師としてはアメリカでも指導し、国際的なキャリアを築いている。
演技メソッドをビジネストレーニングに応用した先駆者で、研修講師としてビジネスパーソンのコミュニケーション力やプレゼンテーション力を伸ばしている。そのメソッドはあがり症や発達障害の人たちも劇的に改善させている。
日本の教育に表現教育を普及させるべく、一般社団法人日本グローバル演劇教育協会(GLODEA)を創設。世界の演劇教育の手法を伝えて演劇教育家を育成しながら、こども向けの演劇教育を広げるべく力を入れている。
(2021年11月23日時点のものです。)

5 著書紹介

●誰でも人前で台本なしに10分間話せるようになる本
その場でスピーチを依頼されても、いきなりプレゼンする羽目になっても、どんなムチャぶりをされても舞い上がらずにしっかり話せるための、俳優教育のプロが教える画期的コミュニケーション力養成法がわかります。

(こちらからアクセスいただけます)

●働く女子の女優力
ビジネススキルは男性目線で書かれたものが多く、女性にとって重荷になることも。ビジネススキルではなくアクティングスキルを磨き、女優になりきってビジネスを演技で乗り切るためのヒントが得られます。

(こちらからアクセスいただけます)

6 編集後記

別役さんの熱い思いと、演劇教育の魅力が伝わってくるインタビューでした。演劇教育は子どもたちの持っている可能性を最大限に引き出すことのできる教育だと思います。演劇教育の魅力が多くの人に伝わり、実践されることを願っています。(編集・文責 EDUPEDIA編集部 鍋田、川村)

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